CD-2 TOLERANCE – Divin(1981 年)VANITY 0012
recorded 30/ 12 /80
2,5,6/1 / 81
mixed 8,9,12/ 1
mixer: Cimei-Bushman 19Ylam
luminal: j-Tange
input: M-Yoshikawa
, Hypersp+
cover concepts: Fusifix, Gekko-U4
produced by AGI Yuzuru
VANITY RECORDS 1981
丹下順子、吉川マサミ:トレーランスのセカンド・アルバム。タイトルはフランス語で『神』の意味。前作で聞けたギターは後退、ドラムマシーンの躍動感とエレクトロニクスの律動が強調され、無機的で曇った空間にほのかな色彩感が加わり不思議な音響が創出される。T-5では角谷美知夫(腐っていくテレパシーズ)の『ぼくはズルいロボット』の詩を流用。ミックスはイーレムの大森智明(Bushman-19)が担当。
ファーストとセカンドの間にはRM付録でアルバム未収録曲『Today’s Thrill』の片面ソノシートも制作。今聞き返しても古びた部分はなく時代的な耐久性が高い。残念ながら、この後の活動は途絶えてしまっている。
Ⅱ 嘉ノ海幹彦
『DIVIN/TOLERANCE』はVanity Recordsを代表する実験的で新しい時代に対する新たなヴィジョンを感じさせる電子音楽(エレクトロニクス・ミュージック)で、丹下順子による新「工業神秘主義」音楽だ。
フランスのベル・エポック時代にロシアの作曲家ニコライ・オブーホフは十二音技法を開拓した後「クロワ・ソノール」という十字架を模した電子楽器を開発した。時代への強い衝動は微分音階から無限音階を通り越し響きそのもののエーテル化を企てた。
この地下鉱脈のように引き継がれたかすかな電子音は、フランス語で「神」を意味する”DIVIN”という名を冠した作品の中で聴くことができる。
地上界と天上界の間で凝縮と溶解を螺旋状に繰り返すエレクトリックな音響音楽。
『DIVIN/TOLERANCE』はVanity Records最後のLP作品としてふさわしい。
しかし、果たしてわれわれは、響きと音階の構造に初めて気がついた古代ギリシャの哲学者ピタゴラス以降、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが惑星の軌道の中に夢み、ドイツの司祭アタナシウス・キルヒャーが試みた宇宙の神秘と真理の音楽、天界のメロディーを聴くことが出来るだろうか。
Ⅲ Y.Hirayama
『アノニム』よりもリズミックかつエレクトロニックになったアルバム。リズムマシンとシンセサイザーがギターにとって代わっていたヨーロッパ・ポストパンクの動向を反映した編成となっている。最小限の音を反復させるファウストやカン的なジャーマン・ロック的手法と、テープ加工とエレクトロニクスというスロッビング・グリッスル経由のインダストリアル・ミュージックの影響がより強く出ている。「Misa (Gig’s Tapes In “C”)」で確認できるテープの逆回しとパンニングによるサイケデリックな音響を筆頭に、演奏してる図がイメージできない非人間性は前作よりも更に高くなった。イーレムが同年に出した国産バンドによるコンピレーション『沫』に通じる荒涼としたサウンドは間違いなく「時代の音」だが、2010年代のシンセウェイヴに象徴されるノスタルジーを伴った消費から離れていることで、本作およびヴァニティの神秘的とも言える存在感は増すばかりである。