CD-10 SAB – Crystallization(1978 年)VANITY 0002
personnel:
Sab – Sh-3A strings , SQ-10 ms-20, acoustic piano, e guitar,
echo machine, equlizer, flaging machine, phase shifter, frying pan,
distortion, comptesar, noise
gate, line river
Meg – strings ( Al ) with frying pan, SQ-10 MS-10
( B4 again) , echo machine, frying pan, equilizer
Ravi – sitar ( B4 ) , some flute (B4 )
recorded at Studio Sounds Creation
Osaka July, 1978
engineered by Oku
cover illustration and aret :Marino Lounie
produced by AGI Yuzuru
VANITY RECORDS 1978
当時19歳のマルチ・インストルメンタル奏者、SABが各種シンセサイザー、エレクトロニクス、ギターを多重録音して作り上げた作品。一部ゲスト・ミュージシャンによるシタール、フルートもあり。タイトルとおり鉱物が結晶化してゆくような硬質で透明感のある水晶振動音楽が聞ける。サイケデリックとプログレッシヴ・ロックの残り香を漂わせながらメディテイショナルなニューエイジ音楽へと向かう直前の微妙な時代の気配が流れる本作は、昨今のニューエイジ・リヴァイヴァルや海外からの日本のアンビエント音楽再発見の動向と見事にリンクする。ジャケットは稲垣足穂の本などで幻想的なパステル画を描く、まりの・るうにい(工作舎、松岡正剛の夫人)。
ヴァニティではあがた森魚『乗物図鑑』の主アレンジャーとして活躍したが、バグワン・シュリ・ラジニーシに傾倒し渡米。
その後の活動は不明。
Ⅱ 嘉ノ海幹彦
アルバムジャケットは、フランスの思想家ロジェ・カイヨワの『石が書く』に掲載された瑪瑙と、まりのるうにいによる工作舎のシンボルマークである土星のパステル画をデザインしたものだ。
土星の輪と瑪瑙の輪が弱い相互作用で存在している。惑星と地球との関係の中に”SAB”の音楽が響く。『Crystallization/SAB』はどこまでも内的でスペキュレーティブな作品だ。
物質が結晶化するにはほんの少しの不純物が必要だが、”SAB”の不純な響きがフランスの詩人シャルル・ボードレールの『コレスポンダンス(霊的交感)』のように「芳香と色彩と音響とが呼応しあい」結晶化する時の音楽を奏でている。
カイヨワは「石の中に宇宙の謎が文書として記録されている」という。まさに結晶化とは凝固する瞬間に受苦を伴いその魂を受肉させる。宇宙からのエーテル体の地上への働きかけに凝縮力があるからだ。
SABは、この作品を発表した後、ライフスタイルも変えインドの神秘思想家バグワン・シュリ・ラジニーシに師事し徐々に音楽活動から遠ざかっていった。
『Crystallization/SAB』は、彼のその後の精神活動を予感させる作品だ。
Ⅲ Y.Hirayama
短期間ながらヴァニティお抱えのエンジニア的役割を担っていたサブによるニューエイジ調のエレクトロニクス絵巻。そのサウンドスケープと方向性にはクラウス・シュルツェといった所謂コズミックと称されるシンセサイザー・ミュージックの影響が顕著で、ヴァニティにとってジャーマン・ロックはイーノと並ぶインスピレーション元であったことを決定付ける。和製ニューエイジの先駆的存在である喜多郎(かつて所属していたファー・イースト・ファミリー・バンドのアルバムはシュルツェのプロデュース)や、東洋をテーマに作ったダダの『浄』と異なり、エキゾチズムや土着性をも排した感覚は、脈々と流れ続けて今日何度目かの隆盛を見せるニューエイジ・ムーヴメントに発見される時を待っているかのようである。