CD-9 AUNT SALLY – Aunt Sally(1979 年)VANITY 0003
all words by Phew
personel
Phew – vocals
Bikke – guitar, vocals
Mayu – keyboards
Y. Nakaoka – bass
T. Maruyama – drums
recorded & mixed at Studio Sounds Creation Osaka February – March 1979
engineered by Naoki Oku
assistant engineered by Toshiteru Mimura
cover art & photo by Masayoshi Sukita
produced by AGI Yuzuru
VANITY RECORDS 1979
INU、ウルトラビデ、SSと並び、関西パンク・シーンを代表した伝説的グループ。1978年6月結成、1979年10月解散。
録音時のメンバーはPhew(vo)、Bikke(g、vo)、Mayu(key)、中岡義雄(b)、丸山孝(ds)。Phew の文学的歌詞と魅惑的な歌唱、荒削りながら的確な演奏が織り成す独創的世界。わずか1年ほどしか活動しなかったティーンエイジ・バンドの輝きを奇跡的に記録した名盤である。ジャケットはマーク・ボラン、デヴィッド・ボウイ、YMOなどの撮影で知られ、当時のRM表紙写真を担当した鋤田正義。
Ⅱ 嘉ノ海幹彦
パンクミュージックは時代への直接的キリスト衝動の発露としての音楽だ。それはその時代を生きた人だけが体験できる特権かもしれない。その後は心象風景となり、常に遠ざかっていく。
ただ状況を言語化しその歴史を探索し、その表象を発掘するのが歴史哲学としての役割だ。散歩した街路のショウウインドウの中に、ふらっと入った喫茶店の紅茶の香りに、さっき見かけた黒い犬に、古い雑誌の一枚の写真に、見逃せない痕跡を蜘蛛の糸のように絡めとる。ヒューのボーカルとビッケの引っかくようなギターが時代(いまここ)を逆なでする。
そして”アーント・サリー”は「文学」という鎧を纏い、武装し※ 無謀ではなく賢く果敢に戦場から撤退しながら、蝸牛の足跡のように時代へ痕跡を残した。そんなバンド、”アーント・サリー”の作品は、時代の恩寵としての音楽だ。
僕は通勤の護送列車の中でウォークマンに録音したアーント・サリーを繰り返し聴き時代からの逃走を計画していた。ハーメルンの笛に導かれるように。
”アーント・サリー”は、”INU”、”ウルトラ・ビデ”などと共にライブハウス心斎橋「バハマ」でよく聴いた。心斎橋「バハマ」という名は歴史に記憶されるべきだ。
※「文学的武装」とは、ウジェーヌ・イヨネスコの『禿の女歌手』やブレーズ・サンドラールの『世界の果てまで連れてって 』などを表象のファッションを纏うこと。
Ⅲ Y.Hirayama
とにかくパンクによるパンク殺しがアーント・サリーである。直接的なメッセージが省かれていたヴァニティのリリースの中でも数少ない歌と詩によるアルバムで、10代のニヒリズムに彩られる詩世界とその繊細さは、「強くあれ」と説き続ける旧態の音楽およびカルチャー、その最たるものの一つであるロックンロールを引きずるパンクをも拒絶している。既に音が悪くて当たり前というマナーが出来上がっていたパンク・ロックのクリシェに対して、しっかりとスタジオで録音している点も見逃せない。