SANNA PAANANEN + FIVE CORNERS QUINTET "Hot Corner "
SANNA PAANANEN + FIVE CORNERS QUINTET "Hot Corner "
今年もファイヴ・コーナーズ・クインテットからはじめるのかと思うと、少々やる気をなくすが、昨年の音楽シーンもまたいかに閉塞された不作の時代が続いていたかが、分かるだろう。色々新譜も買ってはいるのだが、ここで取りあげるに値する作品はごく少ない。
THE FIVE CORNERS QUINTET featuring Mark Murphy / HOT CORNER (RTCD09)
ファイヴ・コーナーズ・クインテットの波及効果で60年代のヨーロッパでの復刻盤などもニッポンで再発されてはいるが、すべてノスタルジック過ぎて現在のFinn Jazzでのグルーヴに適応するものではなく、ただコレクターズ・アイテムとして機能するだけで、失望させられた作品が多かった。" rocking"と " swinging " のコンセプトを持つFCQの " Hot Corner " は、ジャズの新しい領域に発展したものだと宣伝されているが、作品としては確
かにそれなりにclub jazzファンをターゲットにした刺激的なグルーヴを持ち、センスいいものだが、そろそろファイヴ・コーナーズ・クインテットというユニットの成り立ちを直視したほうがいいだろう。彼らは言ってみればプロデューサー、トーマス・カリオのプロダクションのもとでコントロールされたセッションバンドで、その実体はないものと考えるべきだろう。アルバムを発売するだけを目的として、特に
ニッポンの音楽市場に向けて作品がリリースされる。その後、まあ言ってみれば集金ツアーとも言えるジャパン・ツアーが行われ、それで活動は完結する。これがトーマス・カリオ=ファイヴ・コーナーズ・クインテットの戦略の実体だ。だから我々もレコード音楽だけを楽しめばいいのだ。アナログレコードがいまだリリースされないのも、日本盤CDを発売しているT.A.C.S.との関係からなのだろう。この世界は色々裏があるからね。しかし初期の頃からFCQを支持しているクラウドたちには日本盤なんて関係ないよ。アナログ発売まで根気よく待てばいい話。それにしても、前回のブルーノートでのFCQのライヴは最低だった。恐らく今回もそれほど期待は出来ないだろう。アルバム" Hot Corner "で唯一の収穫は、Sanna Paananen / Pekka Finlandのカヴァーアートだ。ボクの好きなロシア構成主義、バウハウス時代のデザインを彷彿とさせ素晴らしい。このペッカイラストは、ヘルシンキのデザインウィークなどで活動している数10人のイラストレーターによって結成されているデザイン集団だが、そのなかでもSanna Paananenのイラストは、北欧デザイン特有のスタイルを持ち、女性ならではの可愛いらしさと植物的なフォルムをカラフルなペン、写真複写機、塗装刷毛、ハサミ、フォトショップなどを駆使して構築している。フィンランドの女性デザイナーSanna Paananen、そろそろニッポンのクライアントが挙 (こぞ) って飛びつくだろう。FCQのことは忘れても彼女の名前だけは覚えておこう。
Sanna Paananen / PEKKA
http://www.pekkafinland.fi/work.php?artist=Paananen%20Sanna
THE FIVE CORNERS QUINTET featuring Mark Murphy / HOT CORNER (RTCD09)
1.Hot Rod 2.Kerouac Days in Montana (ft. Mark Murphy) 3.Skinny Dipping 4.Rich in Time (ft. Okou) 5.Midnight in Trieste 6.Come and Get Me (ft. Mark Murphy) 7.Interlope II 8.Waltz Up
9.Easy Diggin' 10.Shake It 11.Habib's Habit
Mark Marphy - vocals Okou - vocals
Timo Lassy - flute, tenor & baritone sax
Jukka Eskola - trumpet, flugelhorn
Mikael Jakobsson - piano
Antti Lotjonen - bass
Teppo Makynen - drums & percussions
Tuomas Kallio - production
recorded, mixed & arranged by Tuomas Kallio of Nuspirit Helsinki, Soho Recording
studio London & soundtrack recording studios Helsinki, strings arrangements by Tomi Malm & Tuomas Kallio....
cover art by Sanna Paananen / Pekka Finland
RICKY TICK Records 2008
FCQ - ricky-tick
http://www.sahkopostilista.com/ricky-tick
**もはや帰省する家もないボクのいつもの正月といえば、ドッサリ買ったレコードや本を部屋で聴いたり読んだりして過ごすのだが、今年の正月は暮れに買ったレコードといえば数枚で、読みたい本もなく、いつもの正月とはちょっと趣きの違った時間を過ごしていた。とは言ってもつけっぱなしにしていたテレヴィから流れるパレスチナ自治区のまるで強制収容所に閉じ込められたガザ地区での住民を飢えと困窮に追い込んだハマスの責任とイスラエルと米国の非人道的行為や、終わりのない紛争からは、" 盲目のガザ " ( '80年代初頭、イギリスのチェリーレッド・レーベルからCaught in Fluxなど数枚のアルバムをリリースしていたMartyn BatesとPeter Beckerによるアイレス・イン・ガザというモダンポップ/ネオアコ・ユニット ) のことを思い出したり、派遣契約打ち切りで仕事や住居を失った日比谷公園での派遣村に集まったひとたちのことなどを憂いながら、色々考えていただけのことだが・・・。深夜、ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンの著「ある都市の死」を下敷きにした実話にもとづくロマン・ポランスキー監督の" The Pianist "という映画が放映されていたが、破壊され瓦礫の山になった都市の風景のなかで響くショパンの " バラード第1番ト短調作品23"や、" 夜想曲第20番嬰ハ短調「遺作」"の調べは、この世で最も美しいものは音楽だと再認識させられた (少々くさい表現だが) 。いまの我々の心象は、あのワルシャワの荒廃した都市の風景にとてもよく似ているように思えるのだが。
The Pianist - Chopin Ballade No. 1
http://www.youtube.com/watch?v=ChtL5yUuSVY&feature=related