2008年12月 アーカイブ

2008年12月06日

Toshinori KONDO - "いのちは即興だ" 近藤等則

近藤等則のトランペットから放たれたグッド・バイブレーションを身体に残したまま、昨夜、彼から頂いた地湧社から発刊された"近藤等則 いのちは即興だ"という本のページを捲っている。近藤等則のエレクトリック・トランペットを聴くたびに、同時代を個人主義に徹して生きた人間同士のシンパシーをまじえたリアリティーある彼の存在感と、魂の根源から湧き出る息が直結するその音に感動してしまう。彼と会うといつも、なにも喋らなくともボクはその存在と共振しているのを感じる。彼もきっとそう思ってくれているだろう。「本当に"個"で自由を求めてるやつを、社会のほとんどの人間は見たくないんだと思いますよ。無視したいし、そいつがもっと苦労してつぶれたら、ジェラシーの裏返しで"さまあみろ"というのが、人間社会の恐ろしいメンタリティーじゃないかと思いますね」。この本のなかに書かれている彼の言葉は、そのま
まボクが60年ここまで生かされている痛みと重なる。世界の近藤等則がマネージャーもつけないで、トランペットとマルチエフェクタ、ディレイ、ワウペダル、ピンマイクなどの器材を抱えながら地球をまたにかけて演奏活動している姿勢には、尊敬の念を抱かずにはいられない。いつのまにかロックマガジン時代のエネルギーも生命力も失いかけているボクを再び奮い立たせてくれるかのように、彼の音楽と言葉はエネルギーを与えてくれるのだ。それにしても世界と存在と音楽のリアリティーをここまでストレートに暴露した凄い本を出版したものだ。「ミュージシャンを選んだということは、もちろん快楽主義者だからで、どこまで言っても僕は気持ちいいことを求める。・・・いのちというのは、どんないのちでも、気持ちいいほうを求めていると思いますよ」。むかしから何度も言ってきたが音楽を聴くというのは、能書きや難しい理論などで聴くものではなく、ただ気持ちよくなりたいからだ。だからノイズや多くのロックミュージックにみられる病んだミュージシャンの演奏するバイブレーション/音楽を聴く行為は病いに冒されることを意味する。そのことに気付いていないひとのなんと多いことか。そして、この本の帯には、「横にいたテレビのカメラマンに、"今からオレがラッパを吹く、そうしたら、あの何十万羽のフラミンゴとペリカンが驚いて飛びたつから、その飛びたつところを撮影したらいい。絶対きれいだから"と言って、ズブッと膝のあたりまで水に入って吹き始めたんです。ところが、フラミンゴもペリカンも飛び立つどころか、踊り出したんですよ。」という彼の音楽の本質をついたコピーが添えられている。キミが音楽ファンなら近藤等則のこの"いのちは即興だ"だけは読んで欲しい。そうするとキミは明日から世界と、それを見る自分自身も変容していることに気付くだろう。そして音楽のその真の意味がわかるだろう。


近藤等則live @nu things 04 December'08 pm19:30-pm22:30

近藤等則 「いのちは即興だ」
地湧社 刊
ISBN978-4-88503-197-7
C0095 定価1700円

ATOMIC "Retrograde"

90年代後半のノルウェイのジャズランド・レーベルでのブッゲ・ヴェッセルトフトのnew conceptions of jazzと、フィンランドのNuspirit Helsinkiが現在の"ジャズ的なるもの"の始まりだったのを覚えている人はどれほどいるのだろう。日頃からクラブジャズだnu jazzだスカンジナヴィアン・ジャズだと言ってるのに、昨夜のnu thingsのフロアにはそれらしいクラウドの顔はみられなかった。Finn Jazzやニコラ・コンテなどの音楽と同じようにボクにとってはアトミックの音楽もまた新しい概念作用を持つ21世紀のジャズに違いないのだ。しかし寒波の平日で、入場料5000yenだというのにアトミックのヨーロピ
アン・インプロヴィゼーション・ミュージックを聴きにきていたフリージャズ・ファンで会場は満席だったし、ライヴが終わった後、彼らも最高に乗ったいい演奏ができたステージだったと言ってくれていた。アトミックの音楽を聴いているとフリージャズにも絶えずその時代その時代に対応した高度なスタイルの変化がみられ、70年代に聴いていたいわゆるロックの文脈にあったものとはまるで異質なものであるのがわかる。彼らの5作目にあたる " Retrograde " (ret・ro・grade /rtrgrd/1 後退する,逆戻りの. 2 退歩の,退化する.→ 3 (順序が)逆の. 1 後退する,逆行する. 2 退歩[退化]する.)は、60年代のAmerican Fire Musicと、ヨーロッパの即興演奏が結合されたものらしいが、個人的にはDisc2の1曲目の " InvisibleCities II " が最も気に入っている。イタリアの小説家、SF作家、幻想文学作家、児童文学作家、評論家ジャーナリストItalo Calvinoの'72年の小説に同名の"Invisible Cities"があるが、その小説はマルコ・ポーロを語り手に架空の都市を描いてゆくもので、時に空想的でもある実験的な手法も取り入れた作品と言われていて、この曲は現在のアトミックの音楽世界を最も象徴したものといえるかも知れない。メンバーのマグヌス・ブルーとフレデリク・ユンクヴィストがスウェーデンのストックフォルム、ホーヴァル・ヴィークがベルリン、インゲブリクト・フラーテンがシカゴ、ポール・ニルセン・ラヴがオスロ在住というそれぞれが違った4つの都市に住み音楽活動できるのもジャズミュージシャンだからこそ可能なことである。13曲で構成された"Retrograde"を通して聴いていると、スカンジナヴィアン独特の物語り性ある幻想世界に彷徨するかのような心地よさを感じる。それはフリーといえば単にミュージシャンのテクニック垂れ流しのプレーと言った作品が多い中で、アトミックの音楽が1曲1曲明確なコンセプトと構造を持っているからではないだろうか。"自分たちの演奏は常に変わっていくだろうし、変わっていくべきだと思う"というインゲブリクトの発言を裏付ける(なんと2枚目の作品"boom boom"ではRadioheadの"pyramid song"のカヴァーも演奏している)、リアルな時代意識やスピリットも吸収し時代の変化とともに変わる続けることのできるスキルの高さと広さの感じるアトミックの演奏だった。

ATOMIC
http://www.atomicjazz.com/


Fredrik Ljungkvist (reeds) Magnus Broo (tp) Havard Wiik (p)
Ingebrigt Haker Flaten (b) Paal Nilssen-Love (ds,perc)
アトミック忘年会2008 at Jaz' room nu things 05 December '08
pm19:30-pm22:30

Jazzland
http://www.jazzlandrec.com/

ATOMIC / Retrograde (Jazzland Rec. 06025 176 8843 8)
Disc 1
1.Db Gestalt 2.Retrograde 3.Invisible Cities 4.Painbody 5.Correspondence 6.Sweet Ebony 7.King Kolax
Disc 2
1.Invisible Cities 2 2.Papa 3.Don Don 4.Folkton 5.Hola Calamares 6.Swedish Oklahoma - In the Desert of Love 7.Koloniestrabe
Bonus Disc -Live in Seattle-
1.Crux 2.Db Gestalt 3.Painbody 4.Swedish Oklahoma... 5.King kolax 6.ABC 101b

2008年12月25日

Merry Christmas!

イエスが生まれたとされるクリスマス・イヴ。毎年この夜は常にメランコリックで不思議な感情に支配され孤独で、好きな人と一緒にいるなんてことはなかったな。いまは信者じゃないけれど、これはきっと小学生の頃にバプテスト
教会で全身を水に沈める(全浸礼)洗礼を受けた体験によるものかも知れない。"初めに、神は天地を創造された。 地は混沌であって、闇が深淵の面にあり, 神の霊が水の面を動いていた。 神は言われた。「光あれ」こうして光があった。 神は光を見て、良しとされた。 神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。 夕べがあ
り、朝があった。第一の日である" (創世記 1:1--5.) 旧約聖書創世記の冒頭にあるこの文章を日曜礼拝でなんど声にだして読んだことだろう。ひとつの物語りとして旧約聖書を読んでいると、とてもこころが和んだ子供の頃が懐かしい。
昨夜のnu thingsでのクリスマス・セレブレーション"Christmas Time is Here" は
MikuruのヴァイオリンとMioのピアノのデュオでは、賛美歌のメロディーとエストレリータ、 カッチーニのアベマリアなど。そしてジャズヴォーカリストShuの普段ではめったに聴けないショパンの遺作のノクターンなどを披露したが、女性客の多いとてもロマンティックで幻想的なクリスマス・イヴならではの夜だった。年の暮れにはこうした時間を持つことも大切なような気がする。来年のクリスマスには、ポストモダン・クラシックのオーケストレーション編成のもっと盛大なクリスマス・パーティでもオーガナイズしてみようか。

24 wed pm20:00-pm23:00
at Jaz' room nu things
CHRISTMAS TIME IS HERE
Live: Mio (p) Mikuru (Vn) Shu (Vo)

Merry Christmas! and Happy Nu Year!

2008年12月29日

Happy Nu Year!

Happy New Year and Thanks to "Native"!

昨夜のNATIVEのステージで今年ボクがオーガナイズしているnu thingsでの仕事はすべて終わり、解放されたなかで年の瀬の気分を初めて味わいながらブログを綴っている。帰り道の御堂筋には、いつもは夜通し点いているはずのショーウィンドウの灯りも消え、心斎橋筋のアーケードにはブロッグごとに日
の丸が飾られ、早々と正月気分が感じられた。個人的に振り返れば今年はNativeで始まりNativeで終わった1年だったように思う。昨夜の彼らのステージは一昨日のイヴェントでのストレスを振り払ってくれるかのように、楽しい空気が満ちあふれていて、終わりよければ総て良しといった感の今年を締めくくるに相応しいギグだった。
Jaz' room nu thingsとNativeの音楽は、まるで申し合わせたかのように共振しあうコンセプトとベクトルを持っていて不思議な巡り会い、同時代を生きる共通した価値観/世界観、時代意識を感じる。昨夜と一昨日のイヴェントには、ボクの動向に20数年来付き合ってくれている30-40代の人たちが数人顔を見せてくれていて (3月に
発売される音楽雑誌 "Doll" の取材インタヴューも受けたので、お楽しみに) 、彼らとお互いの近況を話しているうちに、みんながみんな、その背中に彼らの世代特有の、生きていることで誰にも付きまとう暗い重荷を背負っていることも知らされた。家庭のこと、子供のこと、年取った親のこと、そしてそのなかでnu thingsやボクに
会いに来てくれることを、ひとつの非日常的な世界を自分に引き戻すことだと話してくれていた。考えればなにひとつそうしたしがらみのないボクは、ほんとに大きな力がずっと守ってくれているかのように、いつも自由で、あらゆる苦難や重荷から免れて来た ( 勿論それは陰で支えてくれるひとたちに恵まれているからだろうが )。その幸せを少しでも彼らやみんなにプレゼント出来れば本望かも知れないね。とりあえず今年1年jaz' room nu thingsに関わってくれたミュージシャンをはじめDJ、お客さん、そしてみなさん、ありがとうございました。来年もどうぞよろしく。そして、いいお年を。

12/ 28 sun pm19:30-pm23:00
at jaz' room nu things
IT'S TIME
native
中村智由(sax&flute) 杉丸太一(p)
大久保健一(b) 山下佳孝(ds)

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