今週の新譜
ヒトは同じモノを見ていても意識の違いから同じモノを見ているとは言えない イコール 同じ音楽を聴いていても 同じ世界を聴いているとは言えない
「ジャズ的なるもの」とは、音楽を聴く者の意識、感受性から発生するものであり、決して音楽ジャンルをさすものじゃない。ロックやクラシックのなかにもジャズ的なるものはある。だからブルーノート系のジャズすらロック的に聴いている人間もいるということだ。そうした聴く側の耳であるジャズ的な意識というのは、90年代から現在までのクラブミュージックをイニシエーションしてこそ、こうした記号論としてのジャズ的なる音楽が聴こえてくるんだ。キミの耳から文学性、情念、表現性などをはやく払拭してくれ。そうすると、アブストラクト・アートのようなジャズ的なるフォルムや見えない音がおのずと視えてくるものなんだ。ヒトは、同じモノを見ていても意識の違いから、同じモノを見ているとは言えない。イコール、同じ音楽を聴いていても、同じ世界を聴いているとは言えない。
BEN MI DUCK/Stepping Back(TREBLEO CAT NO.0003)
DOMUの新レーベルTREBLE-Oの第3弾BEN MI DUCKの7インチ。エリック・サティからシネマティック・オーケストラ、クリス・ボーデンの世界を彷彿とさせるオブスキュアなジャズ。Aサイドは女性ヴォーカルを配したモーダルなジャズで、Bサイドは正に初期のクリス・ボーデンのクラシックとジャズの融合といった感。近いうちにアルバム「Patterns」も発売される。こうしたオブスキュア・ジャズはThe Heritage Orchestra(http://www.myspace.com/theheritageorchestra)やNostalgia 77などが表出してきているが、源がカンタベリージャズの流れともいえるイギリスならではの「ジャズ的なるもの」への回答といえるだろう。今後英国ではこうしたオブスキュア・ジャズが主流となるかも知れない。
http://www.myspace.com/trebleo
http://www.trebleo.co.uk/
CHRISTIAN PROMMER'S DRUMLESSON/ Beau Mot Plage(Sonar Kollektiv SK163)
最近のドイツのソナー・コレクティヴからの新譜はどれもポップなものでパッとしなかったが、Turby Trio, Fauna Flashとして活躍していたChristian PrommerによるこのDrumlessonは買い!だ。Aサイドの「Beau Mot Plage」はリッキーチック、スケマなどのnu jazzのメインストリーム、ジャズサンバ。Bサイドの「Rex Drum」はタイトル通りのパーカッシブな懐かしやブリープハウスといった感。アルバム「Drumlesson vol.1」もクラブジャズのメインストリームを狙った直球のようで愉しみだ。
http://www.myspace.com/christianprommer
PERCEE P/PRESEVERANCE(STONE THROW STH2120)
ジャケット全体を支配している部屋の壁紙の模様にみられるように、彼らの音楽はある意味でバロキシズムと言える。それも歪んだ真珠に象徴されるバロックの、サイケデリックな、音楽でもある。様々な音響と声がヒップホップ・ビートのうえにコラージュされストーンスルーしたスリリングでキラーなロック的なるものとも言える。単にラップやヒップホップとカテゴライズしては間違いを犯すことになるだろう。アブストラクト・ヒップホップは21世紀のロックなのだ。こうした音楽に惹かれる奴らはロックが好きなんだ。だけど、Stone ThrowのMADLIBが手掛けた作品だけはボクにとっては特別扱いしている音楽だが、例えばマッドリブのフィルターを通して強引にジャズ的な音楽だと解釈して聴くと、また違った世界が聴こえてくるから不思議なものだ。
ROLF KUHN QUINTETT/SOLARIUS(LYCY-6247)
「1929年ケルン生れ。ヨーロッパトップのジャズクラリネット奏者。50年代初期アメリカに渡りベニー・グッドマン楽団に在籍、61年本国ドイツに戻りコルトレーンスタイルの革新的な奏法を目指し、64年のリーダーアルバム゛Solarius゛でクラリネットに於けるモード奏法を確立、高い評価を得た」といわれ復刻されたロルフ・キューンのCDがこれだ。当時のヨーロジャズを調べるためのひとつの資料として購入したのだが、ヨーロッパ・ジャズの多くにある硬くクールで静謐なリリシズムはハードバップを聴いたあとの感性には、ちょっと物足りなく、やはりまだこうしたジャズには行きたくないなと思う。"ジャズ批評「ヨーロッパのジャズ・ディスク1800」で紹介以来、マニア垂涎であったヨーロッパ・ジャズ金字塔の一枚"というコピーにどれだけの新世代のジャズファンが惑わされることだろう。唯一6曲目「Soldat Tadeusz」は素晴らしい。
IDEA6/STEPPIN OUT(djv2000033)
Dejavuからの前に発表された「Metropoli」にはそれほど感動しなかったので、あまり期待せずに、Exciting6(バッソ=ヴァルダンブリーニ・セクステット)に収録の曲ジャンニ・バッソ の"Mr. G.B."、バッソ=ヴァルダンブリーニ スタイルのタイトルトラック"Steppin Out"にひかれてこの「IDEA6/STEPPIN OUT」2枚組を買ったのだが、現在のnu jazzの洗礼を受けた感性に響く60年代イタリアンジャズが収録されている作品だった。nu jazz好きのひとは安心して購入OK。
GRANT GREEN/SOLID(BLUE NOTE LT-990)
キングから国内盤でリリースされていた未発表シリーズのひとつ64年録音の『SOLID』がUS盤ブルーノートで復刻された。ジャズギターはホーンに比べあまり興味のない楽器だが、このアルバムではグリーンのリーダーアルバム、ギターは前面という感じではなく、全編を通じてドライヴ感あるハードバップで新しい。マッコイ・タイナー(piano)、エルヴィン・ジョーンズ(drums)、ボブ・クランショー(bass)のリズム・セクション3人、そして、ジョー・ヘンダーソン(tenor sax)、ジェームス・スポールディング(alto sax)が参加。
おまけ:YVES SAINT LAURENT 「LIVE JAZZ」
ある女性からお土産にもらったYVES SAINT LAURENT (イヴサンローラン)の香水で、「JAZZ」の弟版。レモンとかグレープフルーツ、ミントの柑橘系でかなり爽やかな後からバニラの香りもしてくる。普段あまりこうしたオーデコロンはつけないけれど、こうしたところにも「LIVE JAZZ 」なんて名前が付けられるジャズ的なる時代がやってきているんだな。