VANITY INTERVIEW
①SALARIED MAN CLUB

VANITY INTERVIEW ①SALARIED MAN CLUB
インタビュアー 嘉ノ海 幹彦



『新・都市生活者のパタフィジック音楽についての考察』

Vanity Rcordsからリリースされたミュージシャンが当時何を考えていて、そして今の時代の中で何を考えどのように読み取っているのか。
『ロック・マガジン』に想いをもってカセットテープを送り、同じ時代を生きた同志のようなミュージシャン達だが、今回の企画に参加したのは、これからの時代にどのように展開しようとしているのかを聞いてみたいと思ったからだ。

SALARIED MAN CLUBの「GRAY CROSS」は1981年5月に発売された「ノイズ・ボックス」セットの第1作目に位置づけされリリースされた。
同時に『ロック・マガジン』誌に3ページに亘って『SALARIED MAN MANIFEST』が掲載された。



その宣言の中でウイルスの顕微鏡写真のヴイジュアルと共に都市生活の中で社会組織と自らとの二重構造を戦略的に生きのびる手段を記載している。
タイトルの「GRAY」は常にニュートラルであり、どんな色にも変化し、どんな色からも戻ることが出来る。つまり「GRAY」は全ての色彩を包含しているということである。
またこの変容する工業神秘主義音楽は進化の過程で欠かせない要素、否戦略の一部であり、この現代にも今なおリアリティを感じさせるのである。
またウイリアム・バロウズの「言語は宇宙からのウィルスだ」やアントナン・アルトーの「我が内なるペスト」といったことも想起させる。
ウィルスは生物ではない。細胞を持っていないからだ。しかしRNA遺伝子を持ち増殖する。ウィルスの本質は変異である。

さて、前置きはここまでにして「noise box」の中で生き残っていたサラリーマンクラブにいくつかの質問を送ってみた。

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1.vanityからリリースされた経緯は?

京都の美術系大学でビジュアル・デザインを専攻していたMとKとSが出会い、それぞれがhigh-techでアバンギャルドなグラフィック・イメージを創造する中で、一つの有機的な共通の価値観を持ち、それを音で実現するために、3人のユニットを結成した。
メンバーが出入りしていたカフェBで、後にRNA organismをプロデュースし、vanityからアルバムをリリースする佐藤薫に出会い、我々のデモテープ「GRAY CROSS」を、佐藤薫氏と「rock magazine」阿木譲氏に渡す。
これがその後vanityの「noise box」のテープ「1」に収録される事となった。

2.salaried man clubの由来は?名前に対する想いなどあれば教えてください。

アメリカの社会学者C・ライト・ミルズが自著「ホワイトカラー」で書いた欧米諸国のビジネスマンを日本に置き換え、早くからコンピュータを取り入れて独自のヒエラルキー社会を築いてきた日本のサラリーマン社会を「スティールカラー」と読み解き、未来のビジネス社会のBGMを奏でるユニットとして名をsalariedman clubとした。

(支障がなければ)メンバーを紹介してください。

メンバーは、Murai、Kozima、Sugieの3名。

3.ロックマガジンで好きだった(気に入っていた)号は何号でしょうか?

MUSICAVIVA、サイケデリック、アルタナティヴ・ミュージック。デザインは、第4期〜第5期、fash‘unの3冊。

4.当時聴いていた音楽は?叉影響を受けたアーティストやレーベルは?<

クラフトワーク、ヴォルフガング・ライヒマン、コンラッド・シュニッツラー、オーケストラ・マヌーバス・イン・ザ・ダーク、ブライアン・イーノ、マティマテックス・モダーン、ディー・クルップス。レーベルは、4AD、ZE。

5.現在関心があるアーティストは?

特になし。

6.質問の関連ですが、2020年の音楽をどのように読み取っていますか?(ヴェイパーウェイブなどの動きも含めて)

1980年代からのいわゆるバブル経済の中で大量に垂れ流された軽薄意味不明な音楽や流行、アートに、アカデミックな意味づけされた音楽もアートらしきものも、今振り返ると空虚に感じる。
その後のテクノロジーの進歩でウルトラテクノロジスト達が生み出すプロジェクション・マッピングや、デジタル・ミュージアムなど、ICTの無駄遣いとしか思えない。
また音楽もバブル時代をなぞった様なヴェイパーウェイヴの人工的な揺らぎ(80~90年代のポップスや商業用音楽をサンプリングし、エフェクトを重ねた音楽ジャンル。日本のシティポップの再評価に合わせて海外インターネットを中心にカルト的な人気を博してきた。)などには嫌悪感を感じる。
むしろこう言った表面的にネットで拡散されたものより、60年代から脈々とアンダーグラウンドに継続されてきた確かで重厚なものに期待する。

7.現在の後期資本主義的社会をどのように感じていますか?特に人と社会との関係性においてまたnet社会や次世代5gなどの環境にどのように対峙しようとしていますか?

原稿にも書きましたが、SALARIED MAN MANIFESTでの文章は今の世界を予感しているようにも思えます。

高速データ処理とグローバル化の中で人間は世界の隅々までネットワーク化したビジネスコミュニケーションと物流網を極限まで拡げ高速化を続けてきたが、
2020年、予測もしなかったコロナウイルスによるパンデミックで、それらは急速に収縮し今、個々の人間に立ち返り、室内に篭りネットを通じて世界を見る社会になってしまった。
巨大化し過ぎてコントロール不能になった超高度経済社会のバベルの塔は、コロナウイルスの世界での感染拡大と言う意外なアクシデントで内部から崩壊し、コロナ収束後の世界を想定して再構築するしか仕方なくなった。
今はその世界に向けて残っていくものが選ばれ淘汰されていく過程の時代と思う。
音楽もアートも何ができるか、必要とされるかを模索している。

8.今後の活動のプランを教えてください

まさにそんな時代に向けて、近未来のvisionのsound trackとしての音楽を構想中。
「GRAY CROSS」から「???」に。

9.これからの音楽芸術はどのようになっていること思いますか?音楽を作成するに当たりどのようなことを考えていますか?またあなたにとって音楽とは?

7での回答に語った通りとする。

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以上がサラリーマンクラブからの回答である。

彼らの音楽は都市生活者の近未来の「機械」に対する憧憬である、まさしくロックマガジンの編集に関わった時期と合致する。

サラリーマン=会社企業に勤める給与所得者は、時代に対峙し、自らの時代性を霊化する方法としての音楽を奏でる。聴くのは耳ではない。
都市構造の中でリゾーム化する音楽システム。リゾームは中心も始まりも終わりもなく、多方向に侵食する地下茎、根茎であり、絶対的なものから展開していくのではない。

芸術行為は、カール・マルクスの史的唯物論によると物質的な生産関係や経済活動としての下部構造に対する上部構造に属する活動であるが、ジョルジュ・バタイユの普遍経済学的欲望としての過剰さにより音楽は常に変容する。
この近代の二重構造が苦悩する魂を生んだのだろう。欲望に対峙するために、また希求するために「機械」を有効に活用させること、有用性のあるものとして取り扱うことがサラリーマンクラブにとっての手段になったような気がする。
彼らの音楽は形而上学を超えてパタフィジックともいえるのではないか。
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彼らは音楽において「機械」という道具を手にした。
第一に美学において機械を表現する。
第二に表現媒体において機械を表現する。
「機械楽器の出現は能力よりもアイデアの方が勝っている人間にとっては大きな助けだった。」とはオーケルトラル・マヌーヴァース・イン・ザ・ダーク。
第三にコンセプトにおいて機械を表現する。
そして新しい「機械音楽」は神秘主義となる。
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パンデミック以降の新都市生活者の音楽。未来派の機械音楽は戦争と共にとうの昔に葬り去られた。今残っているのは残骸であり、変質した眼の記憶だけである。
亡霊の求めるものは常に肉体であり続ける。欲望の源泉だろう。
「肉体は所有できない」この自明の論理に永遠に引き裂かれた肉体は、パンは肉、ワインは血液、このキリスト教の秘儀の生々しく薄暗いカソリック教会の内部(それは胎内)で響く。
肉体は自分のものではない。幽閉された肉体は、クンダヴァッファーという幻覚装置を経由し96の法則に支配された天体である月へエネルギーを供給し続ける。
そんなからくりを開示せずともうすうす感じていた。サラリーマンクラブの音楽はそんな都市生活者に捧げられた永遠に眠り続ける挽歌なのかも知れない。

彼らがこの21世紀と5分の一を経過したパンデミックの時代にどんな変容を見せてくれるのか。
音楽が「いまここ」と歴史を関係付けて少し先の未来を提示する芸術ならばどのような響きの中にあるのだろう。
さて、21世紀のサラリーマンクラブの音楽とは?

最後に快くインタビューを引き受けてくれたMに感謝する。
「M]って、今気が付いたが1931年製作のフリッツ・ラングのドイツ映画『M』の主人公の名前だ!