MATCHING MOLE

ロバート・ワイアット世界の最大の魅力とは
彼の歌う「O Caroline」に集約されている
MATCHING MOLE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 26

音楽のなかの「歌」の果たす役割は大きい。ひとは音楽と歌を混同してとらえているが、音楽とは違った別次元の「言葉」や「歌詞」の世界は、なによりも"歌い継がれる" 、"歌は世につれ世は歌につれ"という言葉や諺があるほどの強みを持っていて、歌が人々に与えるインパクトはそのサウンド以上に強い。ロバート・ワイアットの歌う「O Caroline」などを聴くと、それこそ忘れ去ったはずの、深層にインプットされた当時の思い出がメランコリックな情感とともに溢れ出して来る。語るべきものがあるミュージシャンは幸せかも、音楽に歌詞や詩を乗せることにより聴く者とのコミュニケーションが容易に図れるのだから。でもそれは言っておくけれど、音楽本来の機能ではないのだけれど。さて、ソフト・マシーンの「Third」、「Fouth」を聴けば顕著だが、彼らがもう一段昇華して本格的なジャズ、フリージャズへと向かおうとした時、ロバー・ワイアットのジャズドラマーとしてのスキルは、それに対処できるだけのものではなかった。というと語弊があるから言い直せばソフト・マシーンに彼の歌がもはや邪魔になった、というほうがいいのかも。そのことが4th発表以後のラトリッジ、ホッパー、ディーンの3人との溝が深くなる、彼がソフト・マシーンを離れざるをえなかった大きな要因だろう。Robert Wyatt の本領とは、やはり初期のソフト・マシーンにみられるカンタベリー・テイストのポップ感覚を持つジャズロック、「歌」の世界だろう。

MATCHING MOLE/MATCHING MOLE
(CBS 64850)
SOFT MACHINEを脱退した後、彼は新たにマッチング・モールを結成し、名曲としていまも歌い継がれるデイヴ・シンクレア作曲の"O Caroline"で始まる「Matching Mole」を'72年に発表する。メンバーは CARAVAN を脱退したデイヴ・シンクレア、HATFIELD AND THE NORTH 加入前のフィル・ミラー、後のQUIET SUNのベースのビル・マコーミック。 ユーモラスでアバンギャルドなポップ・ミュージックと言われているが、このアルバムには、インストゥルメンタルなサイケデリック・ジャズロックもあり、特徴はワイアットのヴォーカル、 スキャットがメインのインプロヴィゼーションによる曲構成と、スタジオでのテープ逆回転、電子音の反響とノイズ、ざわめく効果音などによる録音テクニックによってエディトリアルされていることだ。

side one:1.O Caroline 2.Instant Pussy 3.Signed Curtain 4.Part of the Dance
side two:1.Instant Kitten 2.Dedicaded to Hugh, But You Weren't Listening 3.Beer as in Braindeer 4.Immediate Curtain
Robert Wyatt(Mellotoron, Piano, Drums, Voice) David Sinclair(Piano, Organ) Phil Miller(Guitar) Bill MacCormick(Bass Guitar) Dave McRae(Electoric Piano)
Recorded at CBS Studios,London, Dec.1971 / Jan.1972 and mixed at Nova Studios,London February 1972
Produced by MATCHING MOLE
cover illustration Alan Cracknell
CBS 1972

MATCHING MOLE/LITTLE RED RECORD
(CBS 65260)
'72年発表されたセカンド。 デイヴ・シンクレアの名前はもはやここにはなく、ファーストでもクレジットされていたデイヴ・マクレエのエレクトリック・ピアノ、ブライアン・イーノのシンセサイザーをフィーチャーした当時では実験的な、今で言う音響系、ミュージック・コンクレートの手法を使った即興演奏がメインのアルバム作りがなされている。唯一、ラストの「Smoke Signal」は、ソフトマシーンを意識したのだろうか(いまにして思えばロバート・フリップは、イアン・カーの「Belladonna」、ニュークリアスの「Elastic Rock」などの当時ブリティッシュ・ジャズ・シーンで起こっていた先駆性を感知し影響されていたのじゃないかとボクは勘ぐっている)、金属質のエレクトリック・ピアノのフレーズやビル・マコーミックのベース、ロバート・ワイアットのドラムが絶妙に絡むフリーフォームなジャズグルーヴを聴かせて圧巻だが、アルバム全体としては、プロデューサーのロバート・フリップは、ロバート・ワイアットの魅力を充分に引き出せたとは言えない。当時アンチジャズを公言していたブライアン・イーノのVCS 3シンセサイザーだって、いまにして思えば作為的に脱構築を図る稚拙なノイズとして使われているに過ぎない。(イーノとは70-90年代にかけて、ロンドンとニューヨーク、東京で3度インタヴューする機会があって思い入れはあるが、彼はやはりひとりのミュージシャンというよりも時代を先取りするプロデューサーやコンセプトメーカーとしての才能のほうが秀でていた)。マッチング・モールは、このアルバム発表後解散することになるのだが、ワイアットはあの悲惨な事故に遭いドラマーとしての生命を絶たれてしまう。 フリップ & イーノの'73年の「No Pussyfooting 」などにみられたコラボレーションは、このアルバム制作時での出会いから始まった。

side one:1.Starting In The Middle of The Day We Can Drink Our Politics Away 2.Marchides 3.Nan True's Hole 4.Righteous Rhumba 5.Brandy As Benj
side two:1.Gloria Gloom 2.God Song 3.Flora Fidgit 4.Smoke Signal
Recorded at CBS Studios, London, Aug.31, 1972
Robert Wyatt(Drums, Voice) David McRae(Piano, Electoric Piano, Organ, Synthesizer) Phil Miller(Guitar) Bill MacCormick(Bass Guitar) Eno(VCS 3-on "Gloria Gloom" ) Dave Gale(Vocal) Julie Christie(Vocal) Alfreda Benge(Vocal)
Produced by Robert Fripp
CBS 1972

Comment ( 1 )

anzai :

-ノイズとはいえ-
こんにちは
山田ノブオさんというイラストレーターをご存知でしょうか?
彼がひそやかにリリースしている金属音源を聞くと、スキゾな身体を持つ若い世代のためのエッセンスを放つ圧倒的音源と思われるのです
元来、金属音は魔払いのため古代の日本のシーャマニズムの系譜から使用されておりますが nobuo yamada -TNBを聞くと、我々のスキゾに変容した肉体を保つための、(アルトーのいう糞、都市霊等)---からの開放-を示してるように思われるのです  また、そのような肉体の過剰状態に対してオルガヌムの近作-vacant lightは、欠損した肉体にダイレクトな効果を催します(風邪の際など聞くと抜群の効果があります(DJ-クラッシュの寂-はこの辺りからインスパイヤされたのでは)  私は最近、この辺りの音と「せんねん灸」でバランスを取っております  ニールヒルからの送りもの
烙印を押された悲しみ-脱却   阿木さんにはバカバカしいでしょうか?

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

« CARAVAN | メイン | SOFT MACHINE - 1 »