2008年02月 Archive

2008年02月03日

VASHTI BUNYAN / NICK DRAKE

ブリティッシュ・ビートのルーツとはイギリス北部ノーザンソウルのリリシズムとクールで都会的なモッズスタイル
VASHTI BUNYAN / NICK DRAKE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 2

VASHTI BUNYAN/SOME THINGS Just Stick In Your Mind SINGLES and DEMOS 1964 to 1967
(DICRISTINA/SPINNEY STEP11)
37年前に1枚だけアルバムを残し消息不明になった謎に包まれたフォークシンガー、ヴァシュティ・バニアンが1964年から1967年までに録音した「VASHTI BUNYAN/SOME THINGS Just Stick In Your Mind SINGLES and DEMOS 1964 to 1967」が'07年にリリースされていた。この2枚組アルバムには64-67年頃の未発表音源や最近発見されたばかりのデモ、初期の作品、アルバムタイトルにもなっている Rolling Stones のミック・ジャガー、キース・リチャーズによって作曲された 「Some Things Just Stick In Your Mind」などが収録されている。('65年 英DECCAからリリースされた同名の7インチシングルも「I Want To Be Alone」のカップリングでリイシューされている)。アコースティックというスタイルをとってはいるがヴァシュティ・バニヤンの音楽にもブルースロックの影があり、これこそがブリティッシュ・ロック=ブリティッシュ・ビートのルーツであり原点なのだ。(余談だが、下記のYoutubeの映像を見ていてフランスかぶれのモッズガールのようなヴァシュティによく似た若い頃の立花マリというモデルさんのことを思い出した)。なお'04年「Just Another Diamond Day」、'05年に「LOOKAFTERRING」というアルバムをリリースしているが、個人的には新しい彼女の作品には興味はない。ブリティシュ・ロックとはイギリス北部のノーザンソウルのリリシズムとクールで都会的なモッズスタイルを引き継ぐもの。
http://www.youtube.com/watch?v=a0e7nQrmf40&feature=related
http://www.youtube.com/user/visionacida

NICK DRAKE/FAMILY TREE
(sunbeam records SBR2LP5041)
ニック・ドレイク(Nick Drake, 1948-74)は不眠症のために眠り薬の代わりにしていた抗鬱剤の過剰摂取によりこの世を去った悲劇的な生涯を終えたイギリスのシンガー・ソングライターで、当時彼のすべての音楽を聴いていたわけではないが、ボクには72年に発表された3枚目のアルバム「Pink Moon」と「River Man」のメロディだけがなぜかいまも強く印象に残っている。資料によると74年にこの世を去った後も86年に「Time Of No Reply」、2004年に「Made To Love Magic」、生前には69年に「Five Leaves Left」、ノーザンソウルの風のようなサウンドが聴かれる70年リリースのアイランドからのアルバム「Bryter Layter」の制作時、ジョー・ボイドとレコーディングだったヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルがニックの作品を偶然耳にし彼との交流が始まったという逸話もある。ポール・ウィーラーも「Bryter Layter」というアルバムを"シティーLP"と呼ぶほど高く評価していたという。ジョン・ケイルやヴェルヴェット・アンダーグラウンドを死ぬほど聴き狂っていたボクでさえ、この逸話を知ったのはつい最近のことである。この2枚組アルバム「Family Tree」は2007年7月に発表されたもので、ホーム・レコーディング未発表29曲収録されている。アコースティック・ギターとヴォーカルだけのシティーブルースからはすべてのブリティッシュ・ロックの原型が聴こえてくる。このアルバムにはニックのソロだけではなく姉のガブリエル・ドレイクとのデュエット「All My Trials」や母親のモリー・ドレイクが唄う「Poor Mum」と「Do You Ever Remember」も収録されていてフィナーレを飾る「Do You Ever Remember」は圧巻だ。オリジナルの他にバート・ヤンシュの「Strolling Down The Highway」、ボブ・ディランの「Tomorrow Is A Long Time」、デイヴ・ヴァン・ロンクの「If You Leave Me」、ジャクソンCフランクの「Here Come The Blues」等のカバー曲もコンパイルされている。
●●このドキュメンタリーNick Drake Documentary - A Skin Too Few - はPart5まであるので参考に。
http://www.youtube.com/user/sunshineonsnow

2008年02月05日

HATFIELD AND THE NORTH

クラシカルでゴチック的な淡い色彩と
ジャズのフリーフォーム・スタイルによって構築され描かれた
ハットフィールド・アンド・ザ・ノースのカンタベリー系ジャズロック
HATFIELD AND THE NORTH
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 3

ブリティッシュ・ロックへの回顧「Cascades 」は60-80年代のブリティッシュ・ロックを中心に重要なレコードだけを可能な限り最考察して、今後続けられるだけずっと書き留めていこうと思っているのだが、そろそろ本題に入るべくレコード資料室に行き迷わず70年代初期のヴァージン・レーベルやヴァージン・キャロラインで発売されていたアルバム50数枚とボクが初めてポートベロロードにあったヴァージンレコードを訪問した時にリチャード・ブランソンから直接頂いたサンプル盤7インチシングル20数枚だけを抜きだしてきた。このあたりのプログレッシヴ・ロックと呼ばれた音楽こそがボクにとっての始まりを意味する特別なものだから。久しぶりに手にした初期ヴァージンでのレコードは30年という時間が経過しているにも関わらず、まるで新譜レコードを手にしたかのような不思議な感覚にとらわれた。ソフト・マシーン、マッティング・モウル、キャラヴァン、エッグ、ヘンリー・カウなどなど、ロバート・ワイアットという存在を核にしたカンタベリー系を考えるならば、個人的にはやはりハットフィールド・アンド・ザ・ノースには格別な思い入れがある。

HATFIELD AND THE NORTH(VIRGIN V2008)
72年11月から75年6月までのわずか3年弱の活動期間しかなかったハットフィールド・アンド・ザ・ノースは、74年(原盤では73年とクレジットされている)に「Hatfield And The North」と75年に「The Rotter's Club」の2枚のアルバムを発表しただけで解散してしまったのだが、久しぶりにレコードに針を落として驚いたのは、これほどまでにクラシカルでゴチック的な淡い色彩で描かれた音楽だったのかと改めて気付かされたことだ。そういえばファーストでのカンタベリーの空に暗雲が立ちこめるように浮かび上がる地獄絵、ゴチック的絵画、セカンドの裏ジャケットのペガサスに股がり飛翔する少女と空から墜落する悪魔と天使などがコラージュされ暗喩されている。レコードに残された音楽に限定して言えば、ゲイリー・バートン、チャーリー・ミンガス、キース・ジャレットなどのジャズプレイヤーに影響された彼らならではの、ジャズのフリーフォーム・スタイルによって構築され、恐らくレコーディングする際にアイデアに添ったあらかじめ20を超えるセッションによって録音された曲の断片、素材をもとにスタジオで編集、切り貼りして構築されたものじゃないだろうかと思う。

HATFIELD AND THE NORTH/THE ROTTER'S CLUB(VIRGIN V2030)
彼らの2枚のレコードに収録されている楽曲には、まず前奏、序曲があり、それに続く間奏というように、曲間もなく次から次にたたみこむように連続して楽曲が再生される。アルバムに収録されたすべての曲によってひとつのコンセプチュアライズされた世界が完成される。それはまるでバロック時代の組曲の手法に似てデコレイティヴな美しさを持っている。当時多くのミュージシャンたちが「頑なに自己の音楽形態を極めようとするなら、純粋なジャズのアプローチになってしまう」という発言をしていたが、30年ぶりにジャズをイニシエーションした後に、「ジャズ的なる耳」で聴くハットフィールド・アンド・ザ・ノースの音楽からは当時聴こえなかったものが聴こえてくる。音楽って同じレコードを聴いていても、ひとによって聴いているものは違うんだから不思議だ。耳が音楽を聴いているんじゃなく、意識が、頭脳がその音楽をとらえていることがこのことでも立証される。当時63年のワイルド・フラワーズから始まったカンタベリー・ツリーは、キャラバン、ハットフィールド・アンド・ザ・ノース、キャメル、ゴング、エッグ、マッチング・モールなどに波及し、77年にはリチャード・シンクレア以外のハットフィールド・アンド・ザ・ノースの残りのメンバーたちは、NATIONAL HEALTHへと発展していく。

HATFIELD AND THE NORTH( VIRGIN V2008)
side one:The Stubbs Effect(Pip Pyle)Big Jobs "Poo Poo Extract"(R.Sinclair) Going Up To People And Tinkling(D.Stewart) Calyx(P.Miller) Son Og "There's No Place Like Homerton"(D.Stewart) Algrette(P.Miller) Rifferama(R.Sinclair,arr.The North)
side two:Fol De Rol(R.Sinclair) Shaving Is Boring(R.Pyle) Licks For The Ladies(R.Sinclair) Bossa Nochance(R.Sinclair) Big Job No.2 "by Poo And The Wee Wees"(R.Sinclair) Lobsters In Cleavage Probe(D.Stewart) Gigantic Land-crabs In Earth Takeover Bid(D.Stewart) The Other Stubbs Effect(Pip Pyle)
RICHARD SINCLAIR(Bass,Singing) PHIL MILLER(Guitars) PIP PYLE(drums) DAVE STEWART(Organ,Pianos and Tone Generator) THE NORTHETTES(Singing) GEOFF LEIGHT c/o HENRY COW(Saxes and Flte) JEREMY BAINES(Pixiephone) ROBERT WYATT(Singing on "Calyx")
recorded at The Manor Studios in 1973. engineered and produced by Tom Newman and The Hatfields.coverdesign and photography by Laurie Lewis
1973 VIRGIN RECORDS

HATFIELD AND THE NORTH/THE ROTTER'S CLUB(V2030)
side one:1.Share It 2.Lounging There Trying 3.(Big) John Wayne Socks Psychology On The Jaw 4.Chaos At The Geasy Spoon 5.The Yes No Interlude 6.Fitter Stoke Has A Bath 7.Didn't Matter Anyway
side two:1.Underdub 2.Mumps a.Your Majesty Is Like A Cream Donut b.Lumps c.Prenut d.Your Majesty Is Like A Cream Donut
PIP PYLE(drums and percussive things) RICHARD SINCLAIR(bass and vocals/guitar on "Didn't Matter Anyway") DAVE STEWART(organ,electric piano and tone generators)
produced by The Hatfields engineering and production assistance Dave Ruffell recorded and mixed on Saturn,worthing recording studio january and february 1975
1975 VIRGIN RECORDS

youtubeでも当時のライヴ映像をみることができるが、レコードでの音楽とライヴでは格段の違いがある。音楽の第一印象はなによりも大事だから、みるならこの2枚のレコードを聴いてからにしたほうがいいだろう。

2008年02月07日

HENRY COW

カンタベリー・ジャズロックの即興性と室内楽的アンサンブル、現代音楽的構造を持ったポストモダン・ジャズ
HENRY COW
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 4

もはやHENRY COWの音楽をアヴァンギャルドと呼ぶのはよそう。 クラシックやジャズの音楽理論を習得したフレッド・フリスやティム・ホジキンソンを核にしたカンタベリー・ジャズロックの即興性と室内楽的アンサンブル、現代音楽的構造を持ったポストモダン・ジャズでいいだろう。そのことはRay Smithの「靴下」を描いたカヴァー・ペインティングに象徴されている。ライヴでは即興性を重んじるアクトを展開してはいたが、彼らのアルバムでの音楽はフリージャズにある無作為性とはほど遠い明確な構造を持っている。スリリングで予期出来ない楽曲を意識的に創造し、その突然変異的な構造美こそが彼らの音楽にみられる特質だ。'68 年結成されたヘンリーカウはSLAPP HAPPYとの融合/分裂を経て78 年に解散してしまい、 この期間に残された作品は僅か5枚だが、ここには30数年という時間を経たいまでも色褪せることが無い斬新なポストモダン・ジャズが凝縮されている。

HENRY COW/LEG END(RED RECORDS RED 001)
73 年に発表された第一作「Leg end」。ヴァージンからではなくフィラデルフィアのRED RECORDSからリリースされたもの。Aサイド1曲目の「Nirvana For Mice」はスピード感あるリズムのうえを管楽器のフレーズが踊る。まさにハードバップだ。 彼らの音楽はクラシック、スピリチュアル、フリー・ジャズ、ロックなど多様式主義的構造を持つ楽曲のなかに、タイミングよくフレッド・フリスのリリカルなメロディが挿入されることによって、カンタベリー・ジャズの特徴が浮かび上がる。当時コンテンポラリー・ロック(プログレッシヴ・ロック)台頭のなか、ヘンリーカウだけが現在のポストモダンの時代を先駆けていたと言えるだろう。

HENRY COW/UNREST(VIRGIN V2001)
当時ヘンリーカウの音楽とサードイヤーバンドなどのいわゆるチェンバーロックは同等に語られていて暗く陰湿で難解な音楽だととらえられていた。74年に発表されたセカンド「UNREST」は、サックス、フルートのジェフ・ライが脱退し管楽器バスーン、オーボエ奏者のリンゼイ・クーパーが新らしく加入している。 そのことによってこのアルバム全体を包むサウンドスケープはチェンバーロックという形容に相応しくファーストでのスピード感あるジャズ的なるものから、よりアブストラクトでロック的なるものに接近している。こうした音楽をインプロビゼーション、フリーなどと形容するのは間違っている。あらかじめ綿密に計算された構造のなかで、緊張感を生むためにギターなどはそのような手法をとって録音されるだろうが、スコアに起こされた明確な構造のなかで、即興、フリー、サウンドコラージュという遊びを持ったものだ。暴力的、ノイズ、気違いじみたなどの形容ももはや彼らの音楽にはあてはまらない。美しいバロキスム・ミュージックだ。

HENRY COW+SLAPP HAPPY/IN PRAISE OF LEARNING(VIRGIN V2027)
75年に発表されたサードアルバム。SLAPP HAPPYとの74年の共作アルバム「Desperate Straights」で共演した後、SLAPP HAPPY のメンバーが HENRY COW に合流し制作された作品。ジャケット裏の最後のコメントにはイギリスのドキュメンタリー作家を育て自身も記録映画作家だったJohn Griersonの"Art Is Not A Mirror-It Is A Hammer"という言葉が添えられているが、このアルバム録音後、ダグマー・クラウズだけを引き抜きヘンリ−カウはスラップハピーと決別するのだが、芸術や音楽が、すべての既成概念を破壊し新たな世界の扉をあけていたあの時代は様々なイデオロギーが交錯するなかで、特にロックにそのような観念、空論を見いだそうとする若者が多かったのは事実だ。80年代の頭だったか(手元に雑誌「ロックマガジン」がないから正確な年を忘れたが)、ロンドン郊外の一軒家に住むそのクラウゼに一度だけインタヴューしたことがある。「あなたの音楽はネガティヴですね」というボクの質問に突然憮然として怒りだしたことがある。あれもいまやいい笑い話で楽しい思い出だ。スラップハピーの音楽やダグマー・クラウゼのファルセット気味のヴォーカルを聴くとボクはなぜかハッピーエンドで終わる通俗劇に対する痛烈なパロディを描いていたベルトルト・ブレヒトの「三文オペラ」を思い出す。(ヘンリーカウの音楽に歌による物語性はいらないと当時そう思ったが)
アルバム全体を1つの作品として聴くコンセプチュアル・アルバムとしてのこうした音楽に感情移入し、幻想そのものをコンセプチュアライズすることは当時としては当たり前の行為だった。だけどそこからは誰も答えを見つけることが出来なかったことだけ、付け加えておこう。

HENRY COW/LEG END(RED001)
side one:Nirvana For Mice(Frith) Amygdala(Hodgkinson) Teenbeat Introduction(H.Cow) Teen beat(Frith/Greaves)
side two:Extracr From'With The Yellow Half-Moon and Blue Star'(Frith) Teenbeat Reprise(Frith) The Tenth Chaffinch(H.Cow) Nine Funerds Of The Citizen King(Hodgkinson)
Fred Frith guitars, violin, viola, piano, voice
Tim Hodgkinson organ, piano, alto sax, clarinet, voice
John Greaves bass, piano, whitsle, voice
Chris Cutler drums, toys, piano, whitsle, voice
Geoff Leigh saxes, flute, clarinet, recorder, voice
recorded at Manor Studio,May/June '73
sound by Tom 'greasy Patches' Newman and Henry Cow,(First bit of 'Nirvana for Mice' engineered bu Mike Oldfield). for Teenbeat Chorade we were anymented by Sarah Greaves,Maggie Thomas and Cathy Williams.
front cover by Ray Smith
1973 RED RECORDS

HENRY COW/Unrest(VIRGIN V2011)
I:Bittern Storm over Ulm Half asleep;Half awake Ruins
II:Solemn Music Linguaphonic Upon entering the Hotel Adlon Arcades Deluge
Fred Frith stereo guitar, violin, xylophon, piano
Tim Hodgkinson organ, alto sax, clarinet, piano
John Greaves bass, piano, voice
Chris Cutler drums
Lindsay Cooper bassoon, oboe, recorder, voice
recording engineeres:Phil Becque with Andy Morris:parts of Ruins by Mike Oldfield.
Mixing engineers:side I,Phill Becque:side II,Henry Cow. certain vocals and engineering assistance by Charles Fletcher.
cover paintings and inside photograph by Ray Smith.
recorded at the Manor Feb./Mar.1974
produced by Henry Cow and dedicated to Robert Wyatt and Uli Trepte.
1974 VIRGIN RECORDS

HENRY COW+SLAPP HAPPY/IN PRAISE OF LEARNING(VIRGIN V2027)
I.War(Moore/Blegvad) II.Living In The Heart Of The Beast(Hodgkinson) III.Beginning:The Long March(H.Cow/S/Happy) IV.Beautiful As The Monn-Terrible As An Army With Banners(Frith/Cutler) V.Morning Star(H.Cow/S.Happy)
I.War(Moore/Blegvad)
Tim Hodgkinson organ, clarinet, piano on 2
Fred Frith guitar, violin, xylophon, piano on 4
John Greaves bass, piano
Chris Cutler drums, radio
Dagmar Krause voice
Peter Blegvad guitar on 2,3, voice on 1, clarinet on 1
Anthony Moore piano on 1,2, electronics, tapework
Lindsay Cooper bassoon, oboe, recorder, voice
guest:Geoff Leigh soprano sax on 1
Mongezi Feza trumpet on 1
Phil Becque oscillator on 4
produced by H.Cow/S.Happy/P.Becque
recording and mixing engineered by Pjil Bacque.
recorded at Monor February-March 1975
1975 VIRGIN RECORDS

レコードでのヘンリーカウの音楽はライヴでは聴けない念のため。
http://www.youtube.com/watch?v=iDFxcBsDNI0

2008年02月08日

SLAPP HAPPY

オプティミストのスラップ・ハッピーの音楽と
ペシミストのヘンリーカウの音楽との落差
SLAPP HAPPY
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 5

スラップ・ハッピーとはドラッグハイやボクサーが殴られた瞬間にフッと気持ちよくなるパンチ・ドランカー状態の気分をさす言葉で、楽観主義的ケセラセラ、なるようになるさという意味を持つ。スラップ・ハッピーは1960年代の終わりにイギリスに移住したピーター・ブレグヴァドがアンソニー・ムーア とロンドンで出会い、その後ドイツでの実験的映画のための音楽を担当し(スラップ・ハッピーの72年の事実上のファースト「Sort Of」にみられるアンソニー・ムーアとファウストとの関係はこの時期に形成されていたのだろう)、その時にドイツのバンドでヴォーカルをつとめていたダグマー・クラウゼと巡り会い1971年にこの3人でスラップ・ハッピーを設立することになる。当時、スラップ・ハッピーのオプティミスト的態度とヘンリーカウのペシミスト的態度の、この2つのバンドの落差に矛盾をみていたボクは、なぜこの2つの異質なバンドが吸収合併しながら活動を続けたのかいまも判らない。その疑問がいまにして思えばきっとダグマーにインタヴューした際にでてきたあの意地悪い質問だったのだろうと思う。ヘンリー・カウのもつ共産主義的思想とスラップ・ハッピーのメンバーのもつボヘミアン的で享楽的な生き方が融合するはずなどない。スラップ・ハッピーはポップバンドだ。

SLAPP HAPPY/CASABLANCA MOON(VIRGIN V2014)
当時このアルバムにもシリアスに反応し感情移入していた自分のバカらしさに笑えてくる。74年発表の「Casablanca Moon」は前衛でも、ペダントリーな音楽でもなく、シンプルなポップミュージックだ。それはアンソニー・ムーアの音楽性によるものだろうが、もし今彼女たちがJポップ系のバンドとして表出してきたなら、ジャズからラテンテイストのポップミュージックもあるこのフレキシビリティな融通自在の音楽はなんの抵抗感もなく大衆に受け入れられるだろう。時間というのは、誤解だらけの、当時見えなかったものまで見せてくれることもある。

SLAPP HAPPY+HENNRY COW/DESPERATE STRAIGHTS(VIRGIN V2024)
75年発表のアルバム「Desperate Straights」。 バックを編成しているヘンリーカウの音楽性、音楽スキルはダグマー・クラウゼの歌やスラップ・ハッピーの楽観主義的音楽をも、まるでひとつのノスタルジックな物語性ある歌劇のように変容/変質させ音楽的に高めてしまう。ヘンリー・カウという存在があったればこそ「Desperate Straights」はスラップ・ハッピーの最高作となりえた作品だ。吸収/合併しながら昇華していった彼女たちは、このアルバムとヨーロッパ・ツアーライヴが収録されたヴァージン・キャロラインから76年に発表されたダブルアルバム「HENRY COW CONCERTS」のなかで頂点を迎え分裂してしまう。このアルバムは75年2月にスラップ・ハッピーの主導のもとに制作されたアルバムらしい。なお98年には新作「CA VA」を発表し、2000年にはニッポンでライヴを行ったという。(そんなバカな。当時リアルタイムに彼女たちの音楽をどれだけの人が聞いていたか、それはボクと去年亡くなった北村昌士だけが知っている)

ANTHONY MOORE/OUT(VIRGIN V2057)
これはボクが個人的に直接ヴァージンからもらったもので、76年にソロとしてヴァージンと契約したものの発売が中止になったアンソニー・ムーアのアルバム「OUT」のオリジナル・ジャケットとカセットテープ。初公開だ。しかしいつだったかこの作品がオフィシャルに無断で海賊盤でCD化されているというのを聞いて愕然としたものだ。この作品以前の70年代初頭のアンソニー・ムーアはケージのプリペアド・ピアノのような手法を使った現代音楽や、ミニマルなどの実験音楽に着手していて2枚の作品をポリドールから発表している。未発表アルバム「OUT」はPeter Jennerがプロデュースしたもので、収録されている曲は「Catch a Falling Star」、「The Pilgrim」など全12曲。ポップでモダンな出来映えだ。アルバムデザインを手掛けたHIPGNOSISのクレジットも懐かしい。このジャケットには喧嘩して殴られた右目に青い痣をつけたムーアの写真が使われている。(注、このジャケット写真だけは無断に使用しないで下さい)

HENRY COW/CONCERTS(VIRGIN/CAROLINE CAD 3002)
ヘンリー・カウは1968年ケンブリッジ大学でフレッド・フリスとティム・ホジキンソンのふたりを中心に結成された。最近知った話だが彼らはピンク・フロイドとのジョイント・コンサートでデビューしたというから驚きだ。その後69年にジョン・グリーブス、71年にクリス・カトラー、72年にジェフ・リーが加わり73年8月ファースト・アルバムを発表するに至る。ヘンリーカウは78年のクーパーを加えたヨーロッパ・ツアーを最後に解散してしまうが、このアルバムはロバート・ワイアットと共演した75年ロンドンのLondon Theatreを皮切りに、イタリアのUdine、オスロのHovikoden Arts Centere、フランスのFresnes、オランダのVeraでのヨーロッパ・ツアーライヴが収録された2枚組アルバム。ヘンリー・カウの解散後は、フレッド・フリス、クリス・カトラー、ダグマー・クラウゼの3人が新しいユニット「アート・ベアーズ」を結成し78年~81年までに3枚のアルバムを発表している。最終的にヘンリーカウの流れはNEWS FROM BABEL、MASSACRE、SKELETON CREW などに発展していく。

side one:1.Beautiful As The Moon;terrible As An Army With Banners(Frith/Cutler) 2.Nirvana For Mice(Frith) 3.Ottawa Song(frith/Cutler) 4.Glpria Gloom(Wyatt/MacCormik) 5.Beautiful As The Moon Repruse(frith/cutler)
side two:6.Bad Alchemy(Greaves/Blegvad) 7.Little Red Riding Hits The Road(Wyatt) 8.Ruins(Frith)
side three:9.Oslo(Henry Cow)
side four:10.Groningen(Hodgkinson/Hennry Cow) 11.Udine(Henry Cow) 12.Groningen Again(Henry Cow)
LINDSAY COOPER(bassoon/flute/oboe) CHRIS CUTLER(drums) DAGMAR(voice) FRED FRITH(guitar/piano) JOHN GREAVES(bass/voice/celesta) TIM HODGKINSON(organ/clarinet/alto sax) +with ROBERT WYATT
5・8・75. recorded & mixed by Bob Conduct & Tony Wilson
released by arrangement with BBC records and tapes
1976 VIRGIN/CAROLINE RECORDS

ROBERT WYATT

ジャズを好きになると世界中の人と繋がった気がする
(ロバート・ワイアット)
カンタベリーの風景 +言葉の調べ(韻律)+ジャズ
ROBERT WYATT
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 6

ロバート・ワイアット(Robert Wyatt, 1945.1.28生)の音楽ルーツはジャズ、ラテン、ボサノヴァなどで、シンプルな音楽ではあるのだが奥深い、言葉の調べ(韻律)と「季語」と「切れ」によって、短い詩でありながら心のなかの場景(心象)を大きくひろげることができる特徴を持っている「俳句」のような世界がワイアットの歌や音楽の本質、根源だろうと思っている。彼がもっとも敬愛するアーティストはマイルス・デイヴィスで「ジャズを好きになると世界中の人と繋がった気がする」という最近の発言や、ヴァージンからの75年のアルバム「RUSH IS STRANGER THAN RICHARD」では、叙情的な楽曲に政治的なテーマを扱い人間に対する深い愛に根ざしているといわれたジャズ・ベース奏者チャーリー・ヘイデンの「Liberation Music Orchestra」('69)から“Song For Che”、82年のラフトレイドからのアルバム「NOTHING CAN STOP US」では、ビリー・ホリデイの“Strange Fruit”などをカヴァーしていることから、ロバート・ワイアットの音楽をカンタベリー一言では片付けられないジャズのもっと奥深いところから湧き出る音楽として最解釈する必要がある。1960年代にソフト・マシーンの中心メンバーだった彼が、バンド脱退後のパーティの席上で酔ったまま5階から転落してしまい下半身不随という重傷を負いドラマーとしての生命は絶たれることになったが、その後も様々なミュージシャンとの交流を重ねながら、現在まで10数枚のソロアルバムを発表し、ソフトマシーン、カンタベリー系などで彼が関わったレコードは50数枚を超えている。

ROBERT WYATT/RUTH IS STRANGER THAN RICHARD
(VIRGIN V2034)
ワイアットのソロアルバムのなかで最も好きだった作品が75年に発表された3枚目だ。このアルバムでは、ゲストに「クリス・マクレガー」のメンバーだったテナーサックス・プレイヤーのゲイリー・ウィンド、「バタード・オーナメンツ」のメンバーだったテナーサックス・プレイヤーのジョージ・カーン、「デリヴァリー」のメンバーだったドラムスのローリー・アランなど3人の英国ジャズ・ミュージシャンたちが参加していることが何よりも重要なことで、当時は多くのリスナーが、ビル・マコーミックやブライアン・イーノ、フレッド・フリスなど、カンタベリー系のミュージシャンが参加していることの方に視点がいってしまいがちだったが、アルバム全体を支配しているのは、バリトンサックス、テナー、ソプラノサックス、トランペット、ベースクラリネットによる管楽器によって生まれるハードバビッシュなジャズグルーヴだ。ジャズをイニシエーションした耳で聴いても、このアルバムは充分過ぎるほど現在の「ジャズ的なるもの」の時代に通用する。若かったあの頃はなにも分からず、ただ感覚だけで音楽に接していたけれど、いい時代の最高の音楽を聴いていたんだなと、このブリティッシュ・ロックへの回顧「CASACADES」のために再び自分の手許に引き寄せて最考察してたら、そう再認識し確信したよ。

ROBERT WYATT/RUTH IS STRANGER THAN RICHARD
SIDE RICHARD:♪"Maddy Mouse(a)(Frith/Wyatt)" 00.50
Fred Frith(piano) Robert Wyatt(mouth)
♪"Solar Flares(Wyatt) "5.35
Bill MacCormik(bass) Gary Windo(bass clarinet) Robert Wyatt(mouth,drums,key)
♪"Moddy Mouse(b)(frith/wyatt)" 00.50
Fred Frith(piano) Robert Wyatt(mouth)
♪"5 Black Notes and I White Note(Offenbach/wyatt)" 4.58
Laurie Allan(drums) Brian Eno(guitar,synthesiser) Nisar Ahmad Khan(tenor sax) Bill McCormik(bass) Gary Windo(tenor sax,alto sax) Robert Wyatt(imitation electric piano)
♪"Muddy Mouse(c) which i turn leads to Muddy Mouth(Frith/Wyatt)" 6.11
Fred Frith(piano) Robert Wyatt(mouth)
SIDE RUTH:♪"Soup Song(Hopper/wyatt)" 5.00
Laurie Allan(drums) Nisar Ahmad Khan(baritone sax) Bill MacCormick(bass)
♪"Sonia(Feza)" 4.12
Mongezi Feza(trumpet) John Greaves(bass) Gary Windo(bass clarinet,alto sax) Robert Wyatt(drums,piano)
♪"Team Spirit(MacCormik/Wyatt/Manzanera)"8.26
Laurie Allan(drums) Brian Eno(direct inject anti-jazz ray gun) Nisar Ahmad 'george' Khan(tenor sax) Bill MacCormik(bass) Gary Windo(tenor sax) Robert Wyatt(mouth,piano)
♪"Song For Cha(Heden) "3.36
Laurie Allan(drums) Nisar Ahmad Khan(tenor sax,soprano sax) Robert Wyatt(piano)
cover by Alfreda Benge
1975 VIRGIN RECORDS

ROBERT WYATT/ROCK BOTTOM
(VIRGIN V2017)
74年ヴァージンから発表。カンタベリー・ミュージックを代表するヒュー・ホッパー(ソフト・マシーン)、リチャード・シンクレア(キャラヴァン)、ローリー・アラン(ゴング)、第2期マッチング・モールに参加予定だったギャリー・ウインド、そしてマイク・オールドフィールド、それに加えワイアットがファンだったというアフロジャズのアサガイのトランペッター、モンゲジ・フェザなどによるドメスティックでアットホームな手作り感あるスタジオ・セッッションによるトラディショナルで叙情的なアルバム。ワイアットのスキャットも聴けるヴォーカルやキーボードを中心に構成されたこのアルバムでの、全体を通して聴こえる不安定さがより彼の暖かいヒューマニティを表現していて◎。このアルバムのプロデューサーはニック・メイソン(ピンク・フロイド)が手掛けている。

ROBERT WYATT/ROCK BOTTOM
A:Sea Song- Richard Sinclair(bass) Robert Wyatt(voice,key,james's drum)
A Last Straw - Laurie Allan(drums) Hugh Hopper(bass) Robert Wyatt(voice,key,guitar,delfina's wineglass)
Little Red Riding Hood Hit the Road- Ivor Cutler(voice) Mongezi Feza(trumpet) Richard Sinclair(bass) Robert Wyatt(voice,key,james's drum,delifina's tray and a small battery)
B:Alifib- Hugh Hopper(bass) Robert Wyatt(voice,key)
Alifie- Alfred Hopper(bass) High Hopper(bass) Gary Windo(bass clarinet,tenor) Robert Wyatt(voice,key,james' drum)
Little Red Robin Hood Hit the Road-Laurie Allan(drums) Ivor Cutler(voice,baritone concertina) Fred Frith(viola) Mike Oldfield(guitar) Robert Wyatt(voice,key)
Produced by Nick Mason
Drones and songs by Robert Wyatt
engineered by Steve Cox at the Manor and on Delifina's farm with the Manor Mobile and by Dick Palmer,assisted by Toby Bird at CBS studios London
cover by Alfreda Benge
1974 VIRGIN RECORDS

2008年02月10日

MICHAEL MANTLER

不気味でキモかわいい そしてナンセンスなエドワード・ゴーリーの絵本世界の音楽化とロンドンの劇作家ハロルド・ピンターが書き下ろしたシアトリカルなポストモダン・オペラ
MICHAEL MANTLER
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 7

MICHAEL MANTLER+EDWARD GOREY/THE HAPLESS CHILD
(WATT/4)
ロバート・ワイアット関係で注目すべき2作品がある。その1枚は76年にニューヨークのWATT WORKSからリリースされた物語性を重視したポストモダン・オペラとしての様式を持つ「The Hapless Child and other incrutable stories」で、大人のための絵本作家として世界的なカルト・アーティストであるエドワード・ゴーリーの散文詩が使われたもの。ゴーリーといえば11歳の時から2000年に亡くなるまで猫とだけ暮らしていたという逸話を持つひとで、単行本「The Unstrung Harp」、1972年「Amphigorey」などの著作、 他に1977年にはブロードウェイの舞台「Dracula」のセットと衣裳デザインによりトニー賞を受賞、 後に自身の作品をベースにしたミュージカル「Gorey Stories」の上演、PBS( Public Broadcasting System)の番組「Mystery!」のオープニング・アニメーションを作成など多岐にわたり活動していた。彼の「Amphigorey」、「The Doubtful Guest」などの絵本にみられる不気味でかわいいい独特な線画のナンセンスなゴーリー世界がマイケル・マントラーの音楽とワイアットのヴォーカル、カーラ・ブレイのピアノ、クラヴィネット、ストリング・シンセサイザーなどのオーディオ・インスタレーションによって再生され動きだす。そしてこのアルバムの主役マイケル・マントラーは、1943年ウィーン生まれのトランペット奏者・作曲家で、JCOAやWATTレーベルの創設者だが、それ以上にECMレコードの創始者として有名。彼はその後1987年にサミュエル・ベケットやエルンスト・マイスター、フィリップ・スーポーの詩を基にしたアルバム「メニー・ハヴ・ノー・スピーチ」を発表、2001年3月にロルフ・ハイムの企画による劇場版「ハイド・アンド・シーク」なども発表している。彼のジャズ、クラシック、ロックのミュージシャンを起用した前衛文学をテキストに使った数多くの作品が制作されているが、タイミングよくアンソロジー・アルバムがECMから発表されている。
http://www.edwardgoreyhouse.org/
http://www.mantlermusic.com/

A:The Sinking Spell/The Object-Lesson/The Insect God
B:The Doubtful Guest/The Remembered Visit/The Hapless Child
ROBERT WYATT-vocals/CARLA BLEY-piano,clavinet,string synthesizer/STEVE SWALLOW-bass guitar/JACK DEJOHNETTE-drums,percussion/TERJE RYPDEL-guitar/ALFREDA BENGE-speaker/ALBERT CAULDER,NICK MASON,-additional speakers
recorded july 1975 through january 1976 at Grog Kill Studio on Willow,New York,with the Manor Mobile at Robert Wyatt7s house and Delfina's farm in England,and at Britannia Row in London
engineers:Michael Mantler,Dennis Weinreich,Alan Perkins,Nick Mason/mixed January 1976 at Britannia Row by Nick Mason
produced by CARLA BLEY
1975 WATT WORKS INC.

MICHAEL MANTLER/SILENCE an adaptation of the play by HAROLD PINTER(WATT/5)
先のアルバムの直後にヴァージン/WATTから発表されたもの。このアルバムでの歌詞(台詞?シナリオ?)は英ロンドン劇作家ハロルド・ピンターが書いたもので、彼の作品は「劇中で日常の対話の中に隠されている危機をあらわにし、抑圧の閉ざされた空間への通路を押し開いた」と批評されるイギリスの演劇界では高く評価されている人物で、ノーベル文学賞を受賞してもいる。現代社会の現実に対して理想や夢を捨て去ることはできないが、我々はそうした深い苦悩がよりリアルに反映されたデスコミュニケーションの時代を生きているが、彼の書くシナリオはそうした社会を辛辣に風刺、批判したものが多い。この「SILENCE」ではケヴィン・コイン演じるRUMSEYと、カーラ・ブレイ演じるELLEN、ロバート・ワイアット演じるBETESの3人の主人公を設定し、その歌はまるでセリフのように歌われ、シアトリカルなポストモダン・オペラ仕立てのコンセプトアルバムとして構成されている。このアルバムをプロデュースしているカーラ・ブレイのアイデアを主軸としたWATTレーベルは、もともとは夫のマイケルとの共作の発表の場として考えて設立されたものだろう。現在マイケル・マントラーとカーラ・ブレイは離婚しているが、最近の彼女の活動が知りたくてググって調べるとイキなウェブを見つけた。そこには、現在活動をともにしている Steve Swallow (bass)、娘の Karen Mantlerが離れ小島に造られた刑務所に収容されているという架空の設定で作られた、ブラックユーモアあふれる楽しいウェブサイトである。彼女たちのオリジナル曲の試聴可能。
http://www.wattxtrawatt.com/

side one:1.IWalk With My Girl 2.I Watch The Clouds 3.It Is Curiously Hot 4.When I Run
side two:1.Sometimes I See People 2.Around Me Sits The Night 3.She Was Looking Down 4.For Instance 5.A Long Way 6.After My Work Each Day 7.On Good Evenings
all tracks:Michael Mantler words by Harold Pinter
CARLA BLEY-voice,piano,organ/ROBERT WYATT-voice,percussion/KEVIN COYNE-voice/CHIRIS SPEDDING-guitar/RON McCLURE-bass guitar,acoustic guitar/CLARE MATHER-cello
Carla Bley and Ron McClure recorded during january 1976 at Grog Kill Studio,Willow,New York,engineer:Michael Mantler/Robert Wyatt and Chris Spedding recorded during February with the Manor Mobile at Delfina's farm,Little Bedwin,Wiltshire,England engineer:Alan Perkins/Kevin Coyne recorded during April with the Virgin Mobile at the Gong farm,Whitney,Oxfordshire,England,engineer:Steve Cox/additional strings recorded during June and mixed during November at Grog Kill Studio,engineer:Michael Mantler
1976WATT WORKS,INC/VERGIN RECORDS

2008年02月11日

FRED FRIT / DEREK BAILEY

フレッド・フリスのただ在るものとしてのノンセンス・ミュージックと
デレク・ベイリーのnon-idiomatic improvisation「非慣用的な即興」
FRED FRITH+DEREK BAILEY
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 8

ティム・ホジキンソンと共にHENRY COWの創設メンバーであったフレッド・フリスはHENRY COWの終焉とともにART BEARSを始動させ、同時にソロ活動を活発に行う。ヘンリー・カウが解散した78年に単身アメリカへと渡り、ノー・ニューヨーク/ノー・ウェイヴ全盛のNYでマテリアルと合流し、リーダーのビル・ラズウェルと当時16歳のフレッド・メイヤー(ドラムス、後にスクリッティ・ポリッティに参加)と共にMASSACREを結成。(81年にセルロイドからリリースされたこのあたりの原盤は機会があれば紹介します)。'85年にフリスはSKELETON CREWで、CURLEWのチェリスト、トム・コラ、NEWS FROM BABELのハーピスト兼キーボード奏者のジーナ・パーキンスなどとパフォーマンスを展開するが、翌'86年には解散する。その後フリスは事実上音楽活動を休止した状態が続き、'88年に「The Technology Of Tears」、'89年にはサントラ「The Top Of His Head」をリリースし、FRENCH FRITH KAISER THOMPSONやジョン・ゾーンのNAKED CITYなどにベーシストして参加する。この頃にはルネ・リュシエとKEEP THE DOG、THE GUITER QUARTETなども組み活動(KEEP THE DOGのほうは'92年頃には解散)。そんな中'90年にはニコラス・フンベルトとヴェルナー・ペンシェルの監督により旅する人フリスを描いた映画「Step Across The Border」が作られ同名のアルバムもリリース。その後もヨーロッパ等での活動を活発に行いながらも映画やダンスの為の作曲も続け'96年には「Middle Of The Moment」や「Allies」等を発表。'97年はTHE GUITER QUARTETのアルバム「Ayaya Moses」をリリースし今も活動を続けている。
http://fredfrith.com/

FRED FRITH/GUITAR SOLOS
(Caroline Records C1508) 
' 74年キャロライン/ヴァージンから発表のファースト・ソロ・アルバム。アブストラクトではあるが、彼の音楽を、暴力的アヴァンギャルド・サウンドだとか、インダストリアル・ゴシック・ミュージックだとか言われ続けているが間違いだ。ギターというツールボックスによるオーディオ・インスタレーション/オーディオヴィシュアル・インスタレーション(視聴覚の、聴の装置)としてのクールで醒めた構造が強く感じられる。ギター1本による即興演奏によるこのアルバムも、「Glass c/w Steel」ではピックの変わりになる鏡に持ち替えて弦を擦ったり、「Ghosts」ではヴォリューム・ペダルを操作することによってワウァワウァ鳴る音を発てたり、「Out Of Their Heads」ではファズを使うことによってピアノの弦を叩いているかような音を合成し、現代音楽のプリペアド・ピアノを真似たものだしなどなど、楽器ではなく、音の出るギターというツールを使ったフリスのシンプルなアイデアによって構成されたアルバムである。こうしたギター・インプロビゼーションには意味などない。子供が玩具を手に取って自由に音楽遊びしているのに似た「お遊び」だ。こうしたエクスペリメンタルと言われる音楽が機能するのは、天井の高いコンクリート打ちっぱなしのアートスペースなどの、西洋近代建築のなかだけだ。 もう一度言っておこう、こうした音楽は、意味を思い問うものではなく、ただ在るものとしての音楽。人工的に創りだす空間のなかの空気感。気配。

side one:1.Hello Music 2.Glass c/w Steel 3.Ghosts 4.Out Of Their Heads (On Locoweed)
side two:5.Not Forgotten 6. Hollow Music 7.Heat c/w Moment 8.No Birds
all compositions by FRED FRITH
engineering:David Vorhaus
cryptic comments:Jack Balchin
sleeve photos and design:Ray Smith
1974 CAROLINE/VARGIN RECORDS


VA/GUITAR SOLOS 2
(CAROLINE C 1518)
当時イギリス、ヨーロッパのフリーミュージック・シーンで活動していたフレッド・フリス、デレク・ベイリーなど4人のミュージシャンによるコンパイルアルバム。DEREK BAILEYは1932年にイギリスのヨークシャーで生まれ11才の頃より正式なギター教育を受け、'60年代からフリー・インプロビゼーションの世界に傾倒していき、'66年ロンドンでJohn Stevens、Evan Parker、Kenny Wheeler、Dave Hollandらと「The Spontaneous Music Ensemble」を結成。'70年にはEvan Parker、Tony Oxleyと共にINCUSレコードを設立。彼が注目されだしたのは、Brian EnoのObscureレーベルのGavin Bryars「Sinking Of The Titanic」でのギタープレイだろう。調性もリズムもストーリー性(起承転結)もなにもない彼の音楽は、non-idiomatic improvisation'(非慣用的な即興)と呼ばれ、音楽のどの文脈にも属さないものと定義付けされている。まるで東洋の禅のような音楽だな。残念なことに2005年12月24日ロンドンの自宅で逝去している。G.F.FITZGERALDといえばアシッッド、サイケフォークのギタリストで、ボクが彼の名前を知ったのはこのアルバムが最初で、次にロル・コックスヒルのヴァージンからのアルバム「Fleas In Custard」にクレジットされていた。このアルバム以前に70年に眼鏡猫で有名なアルバム「Mouseproof」がUK のUNIレーベルからリリースされていた。HANS REICHELは当時ドイツ、ベルリンのFMPから「Wichlinghauser Blues」などのアルバムを発表していたが、自作楽器ダクソフォンを操る即興演奏ギタリストとして知られている。この4人のなかで独自の非イディオマティック・インプロヴィゼーション、言葉どおりのフリーミュージックを確立したのはやはりデレク・ベイリーただひとりだった。といってもやはりこうした音楽はポストモダンな、あるいはモダンな西洋近代建築の空間だけで機能するもの。

side one:FRED FRITH 1.Water/Struggle/The North 2.Only Reflect
G.F.FITZGERALD 3.Brixton Winter 1976
side two:HANS REICHEL 4.Avantlore 5.Vain Yookts 6.Donnerkuhle DEREK BALLEY 7.Virginal 8.Praxis 9.The Lost Chord
all the piaces were recorded in Dec.75 or Jan.76,and are heard as played. 1 and 2 were recorded at at Tom Newman's barge(Argonaut Studio). 1 uses two guiters simultaneously-an Ormston-Burns black Bison,and a Gibson 345.Both are fitted with an extra pick-up mounted above the first fret,which,together with a contact microphone,an ambience microphone and slow echo repeat,make s a tatal or 9 separate tracks at once.
2 was played on the Gibson. on 3 the guitar,a Burns TR2,was treated with crocodile clips,crome pipe and a loudspeaker from the output of the main amp on the strings.The instrument was tuned BEAGBE,and the main loudspeaker was facing a piano frame.The recording was done on a Revox and cleaned up at Tom Newman's Studio.
5,5 and 6 were played on a home-made guiter (one neck of it pointing to the left,one to the right).the guitar on 2,8 and 9 was an Epiphone Blackstone Acoustic.
1976 CAROLINE RECORDS

関西には特にこうした音楽に幻想のようなものを抱いて支持している人間が多いという。はっきり言っておくが、そうした聴き方は間違っている。松岡正剛の「千夜千冊」でのデレク・ベイリー論もボクには?だ。こうした音楽は野呂芳雄が「ユリイカ」(1981年, 5月号, 青土社)の「夢・ノンセンス・宗教」で書いておられた"ノンセンスは何よりも「言棄のゲームで」あり、遊ぴである。遊びである以上は、こちらを支配するようないかなる情緒も認めないし、避けなければならない。私たちから情緒的反応を引き起こして、私たちを情緒の波に乗せて運んで行ってしまうような、美、性、愛などはノンセンスにとってタプーである”というノンセンスの効用でもある「シンボルに支配されずにシンボルを支配する」という音楽だ。空気のように気配だけを感じるノンセンスな音楽をシリアスに聴いているなんてアリスが笑うよ。キミたちはいま流行りのKYか? さて、キミに禅問答だが、フリー・インプロヴィゼーションはジャズかロックか現代音楽か? ・・・。

2008年02月12日

FAUST

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどにもみられる
1960年代後半のカウンターカルチャーに影響された
自然主義者のドラッギーなバロキスム(Baroque-ism)・ポップ
FAUST
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 9


1971年に発表された美しいスケルトンのレコードと、透明のヴィニール・ジャケットに印刷されたレントゲン撮影された拳のファーストアルバム「Faust」を聴いてからもう37年もの時が流れている。ストーンズの「サティスファクション」、ビートルズの「愛こそすべて」がコラージュされたWhy Don't You Eat Carrotsから始まるあのアルバムでの印象は、パレードや稲妻などのエフェクトやサウンドコラージュが散りばめられ、装飾的で形のいびつなグロテスク趣味のバロック(Baroque-ism)世界が描かれていた。(このあたりの当時ドイツから発表された作品群はいつかジャーマン・プログレッシヴ、ジャーマン・エクスペリメンタルを最考察するときに詳しく取り上げます。)

FAUST/IV(VIRGIN V2004)
そしてこの73年にヴァージンから発表された4th 「FAUST IV」。FAUSTと言えば北ドイツの片田舎ヴェンメで廃校を改造したスタジオでのコミュニティが音楽活動の始まりの契機になったもので、彼らの音楽には、1960年代後半に主にアメリカの若者の間で生まれた自然と愛と平和と芸術と自由を愛するヒッピームーブメントの影響が少なからず残っている。カウンターカルチャー、ナチュラリズム、エコロジー、オルタナティブ、ニューエイジ、ドラック、神秘主義、瞑想、ヨーガ、トランスパーソナル心理学、サイケデリック、ビート・ジェネレーションなどすべての発祥源が当時のヒッピームーブメントだった。FAUSTの音楽にはこうした60年代ヒッピーカルチャーの記号が至る所から聴こえてくる。最近のFAUSTの音楽を聴いていないので現在どういう音楽変容をみせているのか、まるで無知だが、多くのクラウトロック・ファンが、初期FAUSTの音楽を"フリージャズ、フォークなどの要素を含みながらテープコラージュやエフェクト処理を用いたアヴァンギャルドな世界"と思っているが、それもちょっと違う。72年のFAUSTのアルバム「ソー・ファー」のなかの"イッツ・ア・レイニー・デイ、サンシャイン・ガール”に象徴的な、'67年にアンディ・ウォーホルがプロデュースした「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ」 や、'68年に発表されたセカンド・アルバム「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」でのヴェルヴェット・アンダーグラウンド、それと同じくVUに影響されたカンの73年発表の「FUTURE DAYS」と共通した"自然主義者のドラッギーでバロックなポップ世界”で、彼らの音楽は大変ヒューマニスティックで、人々がイメージするほど過激なバンドではない。ニッポンで言えば70年代の裸のラリーズのサウンドか。こうした音楽のことを、アルバム「FAUST IV」の1曲目「KRAUTROCK」から採用され現在ではクラウトロックと形容されているが、これは植物的な彼らの世界をストレートに表わしていて正解だ。なお'71年当時のオリジナル・メンバーはリヒャルト・ザッピ・ ヴェルナー・ディーアマイアー(ドラムス)、ハンス・ヨアヒム・イルムラー(キーボード)、ジャン・エルベ・プロン(ベース)、ルドルフ・ゾスナ(ギター) ギュンター・ヴュストホフ(サックス、キーボード)、アルノルフ・マイフェルト(ドラムス)。
http://www.faust-pages.com/

side one:1.KRAUTROCK 2.THE SAD SKINHEAD 3.JENNIFER
side two:4.JUST A SECOND 5.PICNIC ON A FROZEN RIVER,DEUXIEME TABLEAU 6.GIGGY SMILE 7.LAUFT...HEISST DAS ES LAUFT ODER ES KOMMT BALD...LAUFT 8.IT'S A BIT OF PAIN
all titles written & performed by FAUST
special equipment & sound engineering by KURT GRAUPNER
recorded at The Monor,Oxfordshire,ENGLAND,June 73
cover by UWE NETTELBECK & GUNTHER WOSTHOFF
published by Golden Records Music/Virgin Music
It's A Bit Of Pain Published by Intersong
produced by UWE NETTELBECK
1973 VERGIN RECORDS

2008年02月13日

CAN

ドラッグカルチャーに影響を受けたサイケデリックな共同体幻想を夢見る
呪術的ロウテック・ダブ
CAN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 10

カンのレコードを初めて手にしたのはアモンデュール・セカンド、サードイヤーバンドなどと一緒にリリースされていた当時東芝音楽工業の宣伝担当ディレクターの石坂敬一氏が仕掛けたプログレッシヴ・ロック・シリーズでだった。明確な年代は覚えていないが、ちょうどボクが東芝レコードの歌手を辞め、万国博が開かれていたり、三島由紀夫が割腹自殺した激動の時代だったから、70年代初期から中頃にかけてだっただろう。当時は輸入レコードショップなんて存在していなかったから日本盤でリリースされていた。イギリスではそのアルバム「TAGO MAGO」が1971年に、「EGE BAMYAGI」が1972年に発売されているから間違いないだろう。一般的にはE.L.P、ピンク フロイド、ジェネシス、キングクリムゾン、YESなどをプログレッシヴ・ロックと呼んでいるが(正確には彼らの音楽をプログレとは言わないけれど)、リアルタイムにプログレを聴いていた者にとっては、邦盤でリリースされていた10枚にも満たないこのシリーズでの音楽がプログレの始まりだった。さて、CANの名前の由来が「Communism」(共産主義)、「Anarchism」(無政府主義)、「Nihilism」(虚無 主義)の頭文字を並べ"可能"を意味する助動詞「CAN」からきたものと言うから、ベルリンの壁が存在した東西緊張の時代を生きた彼らなりのシビアなジョークだったのだろう。CANの音楽もまたサイケデリックな共同体幻想を夢見た当時のドラッグカルチャーが反映されたものだ。それにプラスしてユーモアと皮肉のテイストが調味されている。(80年代初頭、ボクはドイツのケルンでホルガー・シュカイに会ってインタヴューしているがその時のことや、ヴァージン以外で発表されていた'69年「Monster Movie」、'70年「Soundtracks」、 '71年 「Tago Mago 」、'72年「Ege Bamyasi 」、 '73年「Future Days」などのアルバムはいずれ近いうちに最考察します)

CAN/LANDED(VIRGIN V2041)
ドイツ人ミュージシャンも特徴を大げさに強調して描いた戯画や風刺的な表現をするカリカチュア(caricature)が好きだ。西洋社会では宗教や政治へのカリカチュアは文化として生活の中の一部にもなっているのだろうが、こうした一種のユーモア、ジョーク、ギャグなどの諧謔の精神もカンの音楽の特徴だし、それは80年代ジャーマン・ニューウェイヴでのアタタック・レーベルのダー・プランなどの音楽に継承されている。CANのロウテックなB級センス音楽には、ギター・ロックではとてもイギリスやアメリカを越えられないフェイクな複製としての開き直りの魅力も充分あるのだ。'75年にヴァージンから発表されたこのアルバムにもヴェルヴェット・アンダーグラウンドやシド・バレットの影がみえかくれするが、Bサイド1曲目の「Red Hot Indians」では、有名な「ハーメルンの笛吹き男」を想起させる集団で踊るうちにトランス状態となり何時間も移動しながら踊り狂いやがて疲労困憊して倒れ死に至るという舞踏病のような初期CANを象徴するグルーヴも聴かれる。アルバムのラストでは、ドイツならではのアンビエントでエレクトリックなエクスペリメンタル・ミュージックも展開しているが・・・。

MICHAEL KAROLI(guitar,violin,vocals) IRMIN SCHMIDT(key,alpha 77,vocals) JAKI LIEBEZEIT(percussion) HOLGER CZUKAY(bass,vocals)
tenor sax on Red Hot Indians by Olaf Kuber
side A:Full Moon on The Highway /Half Past One/Hunters And Collectors/Vernal Exquinox
side B:Red Hot Indians/Unfinished
recorded at Inner Space Studio.
1975 VIRGIN RECORDS

CAN/FLOWMOTION(VIRGIN V2071)
76年にヴァージンから発表されたアルバム。ドイツならではの独自のカンのロウテックな音楽を確立しその頂点を迎える作品として、また同時にCANの終焉を意味した作品として、この「フローモーション」を忘れることができない。未来のクラブカルチャーの時代を予言したかのようなディスコ・ヒット曲「I Want More」ではVCSシンセサイザーのリズムによるクラフトワークを想起させるエレクトリックなネオン・サウンドが聴け、「Laugh Till You Cry」ではドイツの重鎮だったエンジニア、コニー・プランク伝統のダブが聴こえるし、「・・AND MORE」ではマイルス・デイヴィスのワウワウ・トランペットのようなミヒャエル・カローリのワウワウギターが聴け、「Smoke」ではシャーマニックなアフログルーヴが延々と続き、「Flowmotion」ではレゲエ+ダブ・グルーヴがアーシーでドラッギーな90年代のアシッドハウスやダンスミュージックを先取りしていて、このアルバムでの完成度は高く、カンのベストアルバムだ。このアルバムでの音楽は現在のクラブシーンでも充分そのまま適応しDJイング可能。

side 1:I Want more 2.Cascade Waltz 3.Laugh till you cry-live till you die(O.R.N.) 4....and more
side 2:Babylonian pearl 2.Smoke(E.F.S.Nr.59) 3.Flow Motion
MICHAEL KAROKI(gu,vo,e.violin,baglama) IRMIN SCHMIDT(key,synt.strings,alpha 77,voc) HOLGER CZUKAY(bass,voc) JAKI LIEBEZEIT(perc,voc) RENE TINNER(voc) PETER GILMOUR(vo)
composed,written and produced by CAN. Cascade Waltz:produced by CAN and Simon Puxley recorded at Inner Space Studio.
recording:Holger Czukay,Rene Tinner
sound engineer:Manfred Schunke
1976 VIRGIN RECORDS

CAN BIOGRAPHY
ウィキペディア フリー百科事典を参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/カン_%28バンド%29

http://www.spoonrecords.com/

LADY JUNE

「言葉の腐敗」
詩人レディー・ジューンの幻覚とリアリティ
"ゲームのように気楽に生きてごらん"
LADY JUNE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 11

詩人レディー・ジューンの「LINGUISTIC LEPROSY」は直訳すると「言葉の腐敗」という意味で、このアルバムのなかの彼女の詩の多くが物語性のあるメタファーなものだが、メタファーとは元々ギリシャ語のmeta-(~を越えて) -phor(運ぶ)に由来しているものだから、具体的なイメージを喚起してくれたり、簡潔な言葉で類推させてくれなきゃ詩とは言えない。その点でも彼女の詩はリアリティあるメタファーなものだ。わけわかんない抽象詩は詩じゃないしメタファーでもない。このアルバムのなかでは「エヴリティングスナッシング」が最も好きなものだ。"それは表裏 それとも裏表? なぜって裏が表で 表が裏だから そう 結局は すべては同じこと/すべてのものは無で そして あなたが意味を聞くけれど それなら 私は言う 意味なんて何もないのよ ただ理解するだけ そう 結局 すべては同じこと/生き残ったあなたたちに 私が何を言ったって 皆 理解の仕方が違うのだから すべて意味なんてないのよ/理解されるということは 裏が表になるということ でも 誤解されるということは 表が裏になるということ だから よく聞いて あなたが私を理解しないのなら 私も決してあなたを理解しようとはしない なぜって すべてはみんな同じこと"(訳KEI & NORI)。このニッポンにはレディー・ジューンのような粋に風流に地獄の深淵をみてきた哲学的詩人は皆無だ。嘘っぽい人生生きてるわりには、額に皺よせてシリアスぶる文学ディレッタントは多いけれどね。80年代初頭、ニッポン・ビクターから「ヴァージン・オリジナル・シリーズ」としてスラップ・ハッピーやヘンリーカウ、コウマス、エッグなど60-70年代のヴァージンの作品がリイシューされたことがある。その際にボクがレディー・ジューンのライナーノーツを書いたものが資料室から出て来たので、今回はそれを少々手直し削除したものを転載しておきます(堕落詩人というタイトルはレコード会社が付けたものです)。
http://calyx.club.fr/mus/june_lady.html

LADY JUNE/LADY JUNE'S LINGUISTIC LEPROSY(VIRGIN V4017/VIP-4074)
「堕落詩人と題されたこのアルバムは、神秘の詩人、レディー・ジューンの言霊である」。レディー・ジューンと言う謎の詩人に会ったのは、'76年のロンドンでブライアン・イーノを初めケヴィン・エアーズ、デヴィッド・アレンに会見した2、3日後の暑い夏の午後だった。レディー・ジューンの住むメイダベルにあるフラットの一部屋を借りている知人の音楽関係者の部屋をたずねた時に、その知人が僕に彼女を紹介してくれたのだった。印度更紗の、ちょっと光沢のある長い寝間着のような民族衣装に身を包み、「どうぞ、ごゆっくり」という会釈をかわしただけの短い時間だったけれど、眠りからまだ醒めやらない起きぬけのけだるい表情の中にも、知的な人間特有の眼光の鋭い青い瞳と、落ち着きのある静かな口調は、まさにサイケデリックな裂け目をのぞいだ人のものだった。40歳をちょっと過ぎたばかりだとも、30歳前後だとも言われていた彼女は、思ったより若く見え、少女の香りすら漂わせていた。当時のブリティッシュ・アンダーグラウンド・ミュージック・シーンで活躍する多くのアーティストの相談役や陰の存在として、誰もが彼女のそのフラットをたずねて夜明けまで音楽について熱い会話がかわされていたと、その知人は話していた。このアルバムを作ったミュージシャンのギリ・スミスや、デヴィッド・アレン、ロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ、ブライアン・イーノ、スティーヴ・ヒレッジ、ティム・ブレイク、ロル・コックスヒル、デイヴ・スチュアート、デヴィッド・ベッドフォードの名前をあげるだけでも、彼女の存在が当時のブリティッシュ・ロック・シーンにおいて、どれだけ重い比重を占めていたか察せられるだろう。'74年にヴァージン・レコード傘下にある実験的な音楽だけを追求するレーベルで有名だったキャロライン・レーベルから、この「堕落詩人/レディー・ジューン」が発表されたのだが、当時の本格派プログレッシヴ・ロック・ファンの間では、この余りにも濃度の高い作品と、神秘のベールに包まれた謎の詩人の存在は、神話さえ生まれたほどだった。
'74年といえば、他にもロック史上に残る名盤として今も語り継がれているケヴィン・エアーズ、ジョン・ケール、イーノ,ニコの「JUNE I 1974」があるが、この年はブリティッシュ・ロック・シーンの最盛期とも言えるほどに重要な年でもあったようだ。当時設立されたばかりのヴァージン・レーベルからは、マイク・オールドフィールドを筆頭とした多くのアーティストが名乗りをあげ、カンタベリー・ファミリーと呼ばれるソフト・マシーンを中心とした人々の動きもまた、最も活発な時期だったと言える。このアルバムで大きな活躍を見せているブライアン・イーノ、ケヴィン・エアーズの2人は、特に当時のブリティッシュ・ロックの中軸にあった。'73年にロキシー・ミュージックを脱退したイーノは、キング・クリムゾンを率いていたロバート・フリップと共にアルバム「ノー・プシーフッティング」を制作し、また初のソロ・アルバム「ヒア・カム・ザ・ウオーム・ジェット」、セカンド・アルバム「テイキング・タイガー・マウンテン」をたて続けに発表している。その2枚のアルバムに参加している人々の顔ぶれにも、ロバート・フリップを初め、ロキシー・ミュージック、ホークウィンドのメンバーなど多くのアーティストの名前が見受けられるが、当時はこのレディー・ジューンのアルバムにも見られるのと同じように、おそらくアーティスト同志の交流が盛んに行われ、お互いに影響を受け合っていたのだろう。・・・・・このアルバムのプロデュースはケヴィン・エアーズだが、'68年にソフト・マシーンを脱退した彼は'69年にソロ・アルバム「おもちゃの歓び」を制作し、'70年には現代音楽の作曲家デヴィッド・ベッドフォードのホール・ワールドに加入し、アルバム「月に撃つ」を発表した。・・・・・このアルバムのミキシング、エンジニアリングを担当し、自分のスタジオを提供しているデヴィッド・ヴォーハウスはアイランドから「ホワイトノイズ」と、ヴァージンから「ホワイトノイズ2」(バルトークの「コンサート・フォー・オーケストラ」を基に制作された作品)を発表していて、エレクトロニクスを多用したアルバムによって話題を呼んだ人物だ。・・・・・このアルバムの音楽にある神秘的な呪術世界は、詩人レディ・ジューンの言霊である。それはスロッビング・グリッスル、PIL、オルターネイティヴ・ティヴィ、ポップ・グループ、キャブス、ディスヒート、メタボリストの音楽に受け継がれている。

SIDE ONCE UPON A TIMING
1.Some Day Silly Twenty Three 2.Reflections 3.Am I 4.Everythingsnothing 5.Tunion 6.The Tourist
SIDE TIME UPON A SECOND
1.Bars 2.The Letter 3.The Mangel/Wurzel 4.To Whom It May Not Concern 5.Optimism 6.Touch-Downer
produced by Kevin Ayers mixed by Kevin Ayers except 'Tunion' mixed by Eno & Kevin 'Touch-Downer' mixed by David Vorhaus
cover by Lady June photograph by Trever Key
1974 VIRGIN/CAROLINE/victor

※悔やまれることだが、彼女は99年に死去する直前まで、作曲家、音楽監督としてのMark Hewins(カンタベリーシーンのジャズ・ギタリスト)と共にカンタベリーシーンのミーティングポイントとしての新しい「Rebela」というプロジェクトに取り組んでいる最中だったという。これはレディー・ジューンのものではないが、Mark HewinsがオルガンプレイしLoad Buckleyがジャズ・スピーク・ポエムしている映像だが、参考に。
http://www.youtube.com/watch?v=OojvRWYM7Ow

2008年02月14日

LOL COXHILL AND STEPHEN MILLER

ロル・コックスヒルのスピリチュアル・ジャズと
スティーヴ・ミラーのオブスキュア・ジャズ
LOL COXHILL AND STEPHEN MILLER
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 12

STEPHEN MILLER/THE STORY SO FAR.....+LOL COXHILL/.....OH REALLY?
(CAROLINE C1507)
ロル・コックスヒルといえばハットフィールド・アンド・ノースの前身である'68年にスティーヴ・ミラー、フィル・ミラー、ピップ・パイル、ジャック・モンクと結成したデリヴァリーというイギリスのプログレッシヴ・バンドのメンバーの1人だったソプラノ・サックス奏者だが、ボクが彼の音楽を聴いていたのは、せいぜい'77年に発表されたOGUNからの「DIVERSE」までで、ジャズにルーツを持ち、フリーミュージック、シャンソン、エセ・フォーク、パンク/ニューウェイヴなど多岐にわたり様々な音楽ジャンルを横断するソプラノ・サックス奏者としてのイメージが強く、それ以後の活動にはまったく興味がなかった。今回最考察するためにググったらその後も結構の枚数の作品を発表しているのに驚いた。スコットランドのコンテンポラリージャズ・シーンをリードするThe George Burt & Raymond Macdonald Quintetとのコラボレーション「Hotel Dilettante Textile 」や、イギリスのフリー・ジャズ・レーベルLEO RECORDSでリリースされている”CONSPIRACY OF EQUALS"に参加しているギターリストでもありアルトサックス奏者のAARON STANDON(DEREK BAILEYとの共演歴もある)と、ベースのPETER BRANDT、ドラムのSTEVE HARRISと共に制作したAARON STANDON/PETE BRANDT/STEVE HARRISの「RED DISPERSION」などでもサックスを吹いているし、ソロ活動として最近ではEMEMENから「Freedom Of The City 2001(small groups)」「Freedom Of The City 2001(large groups)」、「Alone and Together」、「Worms Organising Archdukes」、FMPから「Three Blokes」などの作品を発表している。ボクが彼の音楽に縁遠くなってからも、この周辺は知らないうちにずいぶん奥深いシーンが形成されていたのかな。
このアルバムは74年にキャロラインから発表されたもので、Bサイドがロル・コックスヒル、Aサイドがスティーヴ・ミラー(Stephen Miller)のカプリングでコンパイルされたもの。このアルバムも、デリヴァリーの'72年未発表ライヴ音源3曲他ボーナス・トラック8曲が追加され、日本で去年の6月にCDでリイシューされている。しかしニッポンの音楽業界の商魂の逞しさと、レコードマニアの強い物欲は恐るべしだな(でも、だからこそ若い世代がこうした良質の音楽に触れることも出来るのだから良しとするか)。セールス・コピーの"カンタベリーサウンドをベースにさらにJazz/Avantgarde色を加えた個性的な内容"とあるけれど、アヴァンギャルドという言葉が、近代化の中で過去の伝統を否定し芸術の革命を目指し未来派、構成主義、ダダイズム、シュルレアリスム等、20世紀のはじめに急速に広がったもので、「自分を取り巻く社会の先を行き、先取りする事。未知を目指して進み、新しい認識、すなわち新しい現実を手に入れ築き上げる事」であるという定義に添って考えるなら、もはやこのアルバムの音楽のどこがアヴァンギャルドなのだろう。それならnu jazzやFinn Jazzのほうがよほどアヴァンギャルドだよ。それに個性的ってなんだ? このアルバムでロル・コックスヒルは「Reprise For Those Who Prefer It Slower」から「Soprano Derivativo」や「In Memoriam...」では、Archie Leggett(bass)、Laurie Allan(drums)、Steve Miller(piano)、Robert Wyatt(perc,vocals)、Kevin Ayers(guitar)などのプレイヤーとスピリチュアル・ジャズを、「Oh, Do I Like...」ではインプロヴィゼーション・ジャズを、スティーヴ・ミラーは全編クラシカル・テイストを持つオブスキュア・ジャズを展開している。アヴァンギャルドや個性的という言葉は、何につけ曲者だから決して惑わされないように。このアルバムでのジャズはFinn Jazz好きなひとには、充分楽しめるもの。

side one:STEPHEN MILLER/"THE STORY SO FAR..."
1.G Song 2.F Bit 3.Songs Of March 4.More G Song 6.Does This 6.Or This 7.The Greates Off-Shore Race In The World
written by Stephen Miller
side two:LOL COXHILL/"OH REALLY?"
1.Reprise For Those Who Prefer It Slower 2.Tubercular Balls 3.Soprano Derivativo/Apricot Jam 4.Oh Do I Like To Be Beside The Seaside? 5.In Memoriam,Meister Eckhart 6.A Fabulous Comedian
written by Lol Coxhill
1974 VIRGIN /CAROLINE RECORDS

2008年02月15日

EGG

古典主義から生まれる音楽の多彩な楽器が奏でるルネサンス様式のジャズ
EGG
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 13

70年代のイギリスのヴァージン・レーベルを拠点にした多くの名盤を生んだカンタベリーのジャズとはなんだったんだろう。イギリス南東部ケント州の東にある地方都市カンタベリーは、ローマ・カトリック教会が紀元597年に宣教師、聖オーガスティンを送り、当時のイギリス人(アングロ・サクソン人)をキリスト教に改宗しようとして、その拠点としてカンタベリー大聖堂を建設し、16世紀の宗教改革を経てイギリス国教会に変わった後も現在に至るまで、イギリスの宗教的中心地となったところだ。いまでも中世の美しい町並みや遺跡などを擁し英国南東部随一の観光地だという。彼らのサウンドスケープにある植物的な、バロキスム、ゴシックの香りは、その大聖堂を取り巻く、なだらかな緑の丘や牧歌的な田園が広がるカンタベリーの風景/土壌だからこそ生まれたものに違いない。そしてこのEGGでは、バンドの主軸であるピアニスト、モント・キャンベルの厳密な古典主義から生まれる音楽の多彩な楽器が奏でる美しい和音は、人体比例と音楽調和を宇宙の基本原理としたルネサンス様式の建築物をみるかのようだ。イギリスの中世といえばイングランド中部の街ノッティンガムのシャーウッドの森に住む悪を打ち弱者を助けるという伝説のヒーロー、ロビン・フッドを思いだすのだが、鮮緑色(リンカン・グリーン)の服に身を包む弓の名手ロビン・フッド伝説の名前の由来には、魔術や森の妖精エルフなど幾つかの説が存在して、カンタベリー系のジャズだけではなく、イギリスの音楽には、そんな伝説の森から湧き出る泉のような鮮緑の色彩に似たオブスキュアな美しい物語り、サウンドスケープが聴こえてくる。


EGG/"CIVIL SURFACE"
(VIRGIN/CAROLINE C1510)
エッグの前身だったユリエル(URIEL)結成時のメンバーは、デイブ・スチュワート、スティーブ・ヒレッジ、モント・キャンベル、クライブ・ブルックスの4人だったが、'69年にバンド名をエッグと改名し、'70年に1st「Egg」、2nd「The Polite Force」を発表した後、'72年にレコード会社との契約上のトラブルとモント・キャンベルの脱退によりバンドは解散し、スチュワートはカーンからハットフィールド・アンド・ザ・ノースへ移籍する。この'74 年発表の第3作「The Civil Surface」直前には、すでにグループは解散していたが、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースのメンバーとして活躍していたデイヴ・スチュアートが、ヴァージンからソロアルバムのオファーを受けたことをきっかけにグループを再結成し、制作されたもの。まるでストラビンスキーの曲のように、不協和音や変拍子を多用した効果音的要素と、ジャズの和音、アンビエントミュージックなどが統合されたジャズだ。ダイナミックなドラムの変拍子のうえを織りなす、オルガンのサウンドとフレンチホーン、バスーン、オーボエ、フルート、クラリネットなどの管楽器がよりゴシック的世界を鮮やかに浮かび上がらせている。エッグの音楽は、3大要素とするジャズ、クラシック(+現代音楽)、ロックを自由にポストモダンに横断することだったのだろう。

SIDE ONE:1.Germ Patrol 2.Wind Quartet 1 3.Eneagram
SIDE TWO:1.Prelude 2.Wring Out The Ground( Loosely Now) 3.Nearch 4.Wind Quartet 2
Dave Stewart( organ, bass, piano, keyboards) Clive Brooks(drums) Mont Campbell(bass, piano, French horn, vocals)
with Steve Hillage(guitar) Lindsay Cooper(bassoon, oboe, wind) Jeremy Baines(flute) Maurice Cambridge( clarinet) Barbara Gaskin(vocals) Tim Hodgkinson(clarinet) Christopher Palmer( bassoon) Amanda Parsons(vocals) Ann Rosenthal(vocals) Stephen Solloway(flute)
all music and words by Egg
produced by EGG
1974 VIRGIN/CAROLINE RECORDS

CANTERBURY MUSIC WEBSITE
http://calyx.club.fr/index.html

JOHN GREAVES / PETER BLEGVAD /LISA HERMAN

ヘンリーカウの新しい顔「KEW.RHONE.」は、カンタベリージャズとハードバビッシュなジャズとの融合
JOHN GREAVES/PETER BLEGVAD/LISA HERMAN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 14

ジャズの持つ自由な表現形式、文脈のなかに、カンタベリー系のアーティストたちは当時のプログレッシヴ・ロックや現代音楽、伝統的なクラシックを統合させてひとつのカンタベリーと形容される新しいジャンルを確立させたと言っていいだろう。このアルバム「KEW.RHONE.」のジャケットに1800年代後半に発行された古書C.W.pealeの「Exhuming the First American Mastodon」の挿絵が引用されピーター・ブレグヴァドによってコラージュされているが、当時このカビ臭い暗いイメージに惑わされて彼らの音楽を聴き感情移入していた自分を笑ってしまうよね。英語に堪能ではない我々は、いい意味で直感的/感覚的にその音楽をとらえることもあるのだが、時にはジャケットのデザインに支配されて、そこに収められたレコードでの音楽のイメージをも決定づけてしまう危険性もはらんでいる。それにミスティな歌詞とジャケット裏の魔法のような謎解きのイラストだからね。音楽に文学的コンセプトを持ってくるとその本質を見誤ってしまう(否定はしないが、このことが音楽にとって最も大きな難題だ。音楽を文学的に聴くのか否か!、ボクはごめんだけどね)。いまならボクはこのアルバムに、ヘンリーカウの新しい顔「KEW.RHONE.」は、カンタベリージャズとハードバビッシュなジャズとの融合というコピーをつけるかも。

JOHN GREAVES,PETER BLEGVAD,LISA HERMAN/KEW.RHONE
(VIRGIN V2082)
'75年ヘンリー・カウを脱退したピーター・ブレグヴァドとジョン・グリーヴスが'76年にニューヨークで再会し、リサ・ハーマン(Vo)を加え、ニューヨークで活躍するカーラ・ブレイと夫マイケル・マントラーの協力のもとに制作され'77年にヴァージンから発表されたアルバム。CASCADES 7で紹介したWATTからの2枚とは違って、バップチューンの「Good Evening」から始まるこのアルバムは、Mike Mantkerのトランペット、Vito Rendaceのアルト、テナーサックスがここでの音楽を支配していて、まさにハードバビッシュなグルーヴのうえにリサ、ジョン、カーラ、ピーターのヴォーカルがサックスやトロンボーンのジャズ・フレーズの上を斉唱するかのようにドラマチックに歌われている。このアルバム発表後ジョン・グリーヴスはマイケル・マントラーのバンドやナショナル・ヘルスでベーシストとして活動拠点を移した後、'83年「Accident」、'84年「Parrot Fashions」をリリース、85年ゴールデン・パロミノス、88年ザ・ロッジなどとも関わり後、90年に3rd「Little Bottle of Laundry」を91年にはデヴィッド・カニンガムとのコラボレーション・アルバム「Greaves,Cunningham」、95年にピーターとのデュオ「Unearthed」、96年には過去の作品のカバー集「songs」を発表し、現在はフランスを拠点に活動を続けている。ヘンリーカウのメンバーだったフレッド・フリスやクリス・カトラーらがフリーインプロヴィゼイションの道を歩んだのに対し、ジョン・グリーヴスは対称的にあくまでアヴァンポップへの道を進んでいる。一方ピーター・ブレグヴァドは'83年にXTCのアンディ・パートリッジの協力のもと1stソロ・アルバム「The Naked Shake-speare」、'85年2nd「Knights Like This」89年に3rd「Downtime」を発表し、90年に4th「King Strut & Other Stories」、95年にはジョンそして同じくヘンリー・カウのクリス・カトラーと3人で5th「Just Woke Up」、98年には「HANGMAN'S HILL」などの作品を発表している。

side one:1.Good Evening 2.Twenty-Two Proverbs 3.Seven Scenes from the Painting "Exhuming the First American Mastodon" by C.W.Peale 4.Kew.Rhone. 5.Pipeline 6.Catalogue of Fiften Objects and Their Titles
side two:1.One Footnote(to Kew.Rhone.) 2.There Tenses Onanism 3.Nine Mineral Emblems 4.Apricot 5.genenstand
LISA HERMAN(vocals) JOHN GREAVES(piano,organ,bass,vocals,percussion) PETER BLEGVAD(vocals,guitars,tenor sax) ANDREW CYRILLE(drums,percussion) MIKE MANTLER(trumpet,trombone) CARLA BLEY(vocals,tenor sax) MICHAEL LEVINE(violin,viola,vocals) VITO RENDACE(alto & tenor saxes,flute) APRIL LANG(vocals) DANA JOHNSON(vocals) BORIS KINBERG(clave)
engineered by Mike Mantler at Grog Kill Studio,Woodstock,New York,Oct.'76
arranged bu John Greaves
music by John Greaves
lyricks by Petr Blegvad
1997 VIRGIN RECORDS

http://www.youtube.com/watch?v=pHhqiVEEXTo

※追伸 最近このブログは本題のクラブジャズの情報から遠くなっているけど、お許しを。一昨日チェコのビッグバンド・マイスター、Karael Krautgartner Orchestraのスプラフォンで発表されていた65年の2枚組アルバム「JAZZ KOLEM KARLA KRAUTGARTNERA」を買ったけれど、このハードバビッシュ・グルーヴは最高だね。MPSなどでの録音で有名なカレル・ヴェルブニーを含む11人編成のグループで、ケニー・クラーク=フランシー・ボランドも真っ青なハード・バップだ。それ以外にはスピリチュアル・ジャズのNIMBUSからのHORACE TAPSCOTTの「The Call」など、それと今夜のnu thingsのイヴェント「NOSTALGIA 77」の12インチ「QUIET DAWN」などがお薦めです。今夜のロンドンから招聘したノスタルジア77のイヴェントは今年初の力の入ったnu thingsのクラブイヴェントですので、是非顔をみせて楽しんで下さい。

2008年02月18日

GILGAMESH

ジャズが8ビートのロックに取り込まれた
ジャズ・フュージョンの結晶としての先駆けとなる重要な作品
GILGAMESH
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 15


当時はキャロラインやヴァージンから発表されていたデヴィッド・ベッドフォードの「The Odyssey」などのアルバムやユーロジャズなどに、ギリシアの叙事詩「オデュッセイア」や、古代メソポタミア、シュメール文明の古代都市ウルクの伝説的な英雄「ギルガメシュ」などの神話の英雄を題材にした作品が多くみられた。バンド名として使っているこのギルガメッシュは、聡明で美貌で戦いにも長けおよそ不得手とするモノがなかった若き王が、唯一死を恐れ不死の身を望み「不死の秘術」(薬草)を求める旅が描かれた叙事詩だが、人は人としての分をわきまえて与えられた人生を全うして死ぬ宿命なのだという教訓が諭されている。神話的起源や英雄叙事詩は、民族の発生の真実の歴史性を隠蔽し、それを偽りの永遠の相のもとに顕彰する目的で援用されている物語にすぎないとする説もあるが、いまでもイギリスやヨーロッパ、北欧などに伝承されている賢者の石、錬金術などの幻想世界、神話は、すべての道がローマに通じるヨーロッパならではの、その源のギリシャなくしては始まらないことの表れなのだろうか。

GILGAMESH/GILGAMESH
(CAROLINE/VIRGIN CA 2007)
アサガイ、サンシップ、ナショナル・ヘルス、ソフト・ヒープ、ソフト・ヘッド等々、数多くのバンドに参加していたジャズ畑のキーボード奏者アラン・ゴウエンを主軸としたギルガメッシュの'75年キャロライン/ヴァージンから発表された作品。当時ここでのクロスオーヴァー・ジャズ(フュージョン)は、ロックファンにはあまり評価のいいものではなかった。それはロックファンにはとても馴染みの薄い、ジャズとロックが融合した未知の音楽だったからだ。このアルバムではカンタベリーのサウンドスケープも聴けるのだが。しかし冷静に批評すれば、当時としては先駆的な、ジャズが8ビートのロックに取り込まれたジャズ・フュージョンの結晶としての重要な作品として再評価されるべきだろう。フュージョンと呼ばれる音楽は、1960年代後半に表出した新しい音楽スタイルで、電気楽器やロック風な奏法を取り入れたジャズ・ロックで、その後、クラシックや現代音楽の要素も取り入れられアメリカでは'70年代の終りに、日本でも同時期から'80年代に定着した。'90年代に入るとよりポップ性を持ち大衆に受け入れやすくなったフュージョンは、スムーズジャズと呼ばれるようになる。このアルバムはナショナル・ヘルスがハットフィールド・アンド・ザ・ノースとギルガメッシュ合体という動きをとる直前でのメンバーが入り乱れゴタゴタした時期で、いまから思えば「ギルガメッシュ」はヴァージン・レコードが急遽セッション・ユニットとして作ったプロダクションだったように思う。メンバーはアラン・ゴウエン(p)、フィル・リー(g)、ジェフ・クライン(b)、マイク・トラヴィス(ds)で、プロデュースはデイヴ・スチュワート。(なお1981年5月17日、アランは白血病により他界している)。結局、ギルガメッシュはこの1枚で解散するが・・・。(79年にソフト・マシーンのヒュー・ホッパー(b)を加え一時的に再結成し、よりジャズに接近した音楽を展開している。それに2000年に米Cuniformよりファーストのアウトテイクを中心とした「Arriving Twice」もリリースされているらしい)。

PHIL LEE(electric,acoustic 12 string and classical,guitars) ALAN GOWEN(piano,electric piano,clavinet,synthesiser,mellotron) JEFF CLYNE(double bass and bass guitar) MICHAEL TRAVIS(drums and percussion) AMANDA PARSONS(voice)
side 1:a)One end More b)Phil's little dance-for phil millers trousers c)worlds of Zin 2.Lady and friend 3.Notwithstanding
side 2:1.Arriving twice 2.a)Island of Rhodes b)Paper boat-for Doris c)As if your eyes were open 3.For abstent friends 4.a)We are all b)Someone else7s food c)Jam and other boating disasters-from the holiday of the same name 5.Just C
recorded and mixed at Manor-May 1975
engineer-Steve Cox
produced by Gilgamesh and Dave Stewart
1975 VIRGIN/CAROLINE RECORDS


16日のNostalgia77 JAPAN TOUR IN OSAKAにはnu thingsいっぱいの、予想以上の多くのクラウドたちが顔を見せて下さり、大成功に終わりました。ほんとにありがとうございました。当日の模様はInfomapの平野隼也クンのブログに後日掲載しますのでチェックして下さい。

2008年02月19日

DAVID BEDFORD

英国ロマン主義文学、コールリッジの「The Rime of the Ancient Mariner(老水夫行)」をテーマにしたベッドフォードの交響曲
DAVID BEDFORD
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 16

英国のロマン主義文学の始まりといわれているサミュエル・テイラー・コールリッジのThe Rime of the Ancient Mariner『老水夫行』は、最初、1798年のワーズワース、コールリッジの共著『抒情歌謡集』(Lyrical Ballards)の巻頭に発表されたもので、1817年に他の詩集に収録された際、大幅に改訂された。
"サミュエル・テイラー・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge, 1772年10月21日 - 1834年7月25日)は、イギリスのロマン派詩人であり、批評家、哲学者でもある。コールリッジは幻想的な作風で知られ、無意識からわき起こって来るイメージを、言葉に直したような、神秘的で怪奇な詩作品がある。「クーブラカーン(Kubla Khan)」、「老水夫行(The Rime of the Ancient Mariner)」、「クリスタベル姫(Christabel)」等の詩で知られる。とりわけ、「クーブラカーン」においては、作者自身が、この作品は麻薬の吸引によって生じた陶酔状態のなかで見た幻覚を、目覚めてから急いで文章にしたものであるが、途中で用事で席を立った後、続きを書こうとして、内容をもはや思い出せなかったと述べている。しかし、『クーブラカーン』を精密に分析すると、これは幻覚的イメージの単なるメモではなく、首尾一貫した構成と構想を備えており、最終行に至って、詩は完成しているので、コールリッジが敢えて虚言を弄しているか、または彼自身も詩作の過程について、錯覚を抱いたのかも知れない"(ウィキペディア フリー百科事典より抜粋/引用)。

DAVID BEDFORD/THE RIME OF THE ANCIENT MARINER
(VIRGIN V2038)
このアルバムでは、「老水夫行(The Rime of the Ancient Mariner)」の7編からなるストーリーをロバート・パウエルのナレーションによって物語られる。
「 ある老水夫が、結婚式に向かう客のひとりを眼光鋭く呼び止めて語った、古い航海のお話。老水夫の乗った船がある時南極近くに流されて、吹雪吹き荒れる氷の中で漂流してしまう。そこに現れた 1 羽の海鳥。水夫たちはその海鳥が幸運を運んできてくれた、と大いに歓迎する。海鳥もよく懐き船は助かると思ったところで、この海鳥を若き日の老水夫が殺してしまう。なんの理由もなく」。
「その海鳥の死によって船は呪いを受け、北へ北へ赤道近くに流され、そこからパタリと身動きが取れなくなってしまう。灼熱の中風が全く吹かないのだ。海鳥の屍は老水夫の首に。罪の証である。とそこへ 1 艘の幽霊船が現れ、一緒に乗っていた水夫たちはみな渇きから死に絶え、死神に連れて行かれてしまった」。
「ひとり呪われた船で漂流を続ける老水夫。その 「 死中の生 」 の中で、あるとき水蛇のあまりの美しさに、初めて人間以外の生き物に愛情を見出すのである。すると首にかけられた海鳥の屍は海に消え落ちていった。ようやく呪いから解き放たれのだ」。
「しかし老水夫は、一生かけて生き物を慈しむことを説いて回り償い続けなければならない。ずっーと、ずっーと...。」(http://en.wikipedia.org/wiki/The_Rime_of_the_Ancient_Mariner の翻訳版から抜粋/引用)
物語りの大筋はこういったもので、アホウドリに代表されるいわゆる海鳥というのは、水死した船乗りの魂であると信じられ吉凶を左右するもの、それを殺せば必ず祟りにあうことになるという考えが核になった、老水夫を通して人間が正しい宗教的道徳に目覚めるプロセスがストーリー展開されている。「ダ・ヴィンチ・コード」の大ブーム以来、歴史的イエス・キリストの実像をめぐる議論が沸騰しているが、このアルバムもまた真のイエス像を追い求めたものかも知れない。デヴィッド・ベッドフォードの’75年ヴァージン/キャロラインから発表されたアルバム「 The Rime of the Ancient Mariner」での音楽は、ナレーションにロベート・パウエル、シンガーにロンドンのクイーンズ・カレッジの2人、そしてマイク・オールドフィールドがエレキギターで参加しているだけで、すべてのクラシカルで 叙情的な作曲や、多重録音で行われたサウンド構築はデヴィッド・ベッドフォードひとりで行っている。オープニングとエンディングでの婚礼描写の曲はティールマン・スセイトーの1561年の「ラ・ムーリスク」、Bサイドのクイーンズ・カレッジの学生達による歌は民謡の「リオ・グランテ」が使われアレンジされている。

DAVID BEDFORD(Grand Piano,Lowrie Organ,Challenger Gem Organ,Church Organ,Piano Strings,Descant and Treble Recorders,Chime Bars,Windebottlephone,Glorgindel Sound Machine,Swanee Flute,Violin,Cymbals,Gong.)
MIKE OLDFIELD(Guitar.)
ROBERT POWELL(Narrator.)
Singers:Classes 2 and 3 from Queen's College London,Soloists:Diana Coulson,Lucy Blackbum.
engineered by Michael Glossop
produced by David Bedford
cover:Gustav Dore
1975 VIRGIN RECORDS

ヴァージンから発表されているデヴィッド・ベッドフォードの他の作品「The Odyssey」、「Instructions For Angels」ではシンセサイザーなどのエレクトロニックも使われるようになり、ここでも壮大なシンフォニー・ドラマが描かれているが、ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック時代にテリー・ライリーなどのミニマル、フリーミュージックの洗礼も受け、イタリアでルイジ・ノノに師事し作曲や音楽理論を学んだ彼ならではの、古典派からローマン派を横断し、かつ実験的な交響曲が聴こえてくる。

DAVID BEDFORD/THE ODYSSEY
(VIRGIN V2070)
side one:1 Penelope's Shroud(i) 2 King Aeolus 3 Penelope's Shroud (ii) 4 The Phaecian Games 5 Penelope's Shroud (iii) 6 The Sirens
side two:1 Scylla And Charybdis 2 Penelope's Shroud (iv) 3 Circe's Island
4 Penelope's Shroud Completed 5 The Battle In The Hall
David Bedford(ARP2600 synthesiser,string sinthesiser,febder rhodes,electric piano,clavinet,vibraphone,hammond organ etc) 、 Queens College Of London Choir (vocals)、Andy Summers, Mike Oldfield (guitar)
1976 VIRGIN RECORDS

DAVID BEDFORD/INSTRUCTIONS FOR ANGELS
(VIRGIN 2090)
side one:1.Theme 2.Variation 1 "Wanderes of the Pale Wood.Part 1" Variation 2"Wanderers of the Pale Wood.Part 2" 3.Variatin 3 "The Dazzling Burden" Variation 4 "Be Music,Night"
side two:1.Variation 5 "First Came the Lion-Rider" 2 .Variation 6 "Instructions for Angels" 3.Finale "The Valley-sleeper,the Children,the Snakes and the Giant"
DAVID BEDFORD(keyboards & percussion) MIKE OLDFIELD(guitar) MIKE RATLEDGE(synthesiser) The Leicestershire Schools Symphony Orchestra
produced by David Bedford cover-Cooke Key
1977 VIRGIN RECORDS

2008年02月20日

PHILIP GLASS

"music with repetitive structures" (反復構造を伴う音楽)のヒプノティック(催眠的)効果
PHILIP GLASS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 17

フィリップ・グラス (Philip Glass, 1937年1月31日生まれ)が76年にキャロライン/ヴァージンから発表した「Music In Twelve Parts Parts 1 & 2」と、ボックスケースに入った4枚組のニューヨークのトマトレーベルから発表していた’76年の「Einstein on The Beach」(この周辺の情報は資料室にかなり充実して保存してあるので詳細は別の機会に)の、重複するフレーズの一方を微妙にピッチや音程を下げたり、フレーズを逆向きにして組み合わせたりする軽やかな催眠的律動を初めて聴いたときのショックは言葉にならないほどだった。フィリップ・グラスは自身の音楽をミニマル・ミュージックと呼ばれることに抵抗を感じていて"music with repetitive structures" (反復構造を伴う音楽)という言葉を好んで使っているが、当時ボクがこうした音楽に魅かれたのは、サビやドラマティックな展開もなく、ただ淡々と反復するシンプルな音響そのものが、空間、時間軸(プロセス)のなかで、様々な色彩を伴って微妙に変化していくことだった。この非物語と非意味的な音楽は、当時クラフトワークなどのジャーマン・エクスペリメンタル・ミュージックの、"建築的で美術におけるポップアート"としてのフィールドで捉えていたし、それはいまでも正解だったと思う。重要なのは(いまではミニマルなんて誰もが知ってる音楽だけれど現代音楽シーンにいる人々より)誰よりも早く認知し支持したのはロックシーンに於いてである。その後、ミニマルはミニマルテクノとして、'90年代のブリープハウスやアシッドハウス、デトロイトテクノなどのクラブミュージック/ダンスミュージック発生のルーツとなった音楽で、連続する音響パターンは反復を繰り返すうちにモアレ効果のようなズレを生み、一種のドラッギーなヒプノティック(催眠的)効果、トリップ(トランス)感覚を派生させる。フィリップ・グラスのクラブシーンでの動きでは、97年に「Heroes" Symphony」でのエイフェックス・ツインと共同でボウイの「Heroes」、96年にフィリップ・グラス・オーケストレーションでエイフェックス・ツインの曲「アイクト・ヘッドラル」リミックスなどを手掛けている。

PHILIP GLASS/MUSIC IN TWELVE PARTS- PARTS 1&2
(VIRGIN/CAROLINE CA2010)
このレコードジャケット裏にフィリップ・グラス自身が音楽解説しているライナーノーツが掲載されているが"「12のパートからなる音楽」は、'71年5月に手掛け始め'74年4月に完成された。全体は3度のパフォーマンスで展開された音楽を拡張したもので、それは私の音楽に現出するテクニックのボキャブラリーについて説明するのが意図で、個々のパートは一つないしいくつかの共通音楽言語の特色を持っている。それをあまり普通でない方法で提供し発展させ、異なった音符、旋律、プロファイルで特徴づけている。パート1、3、4と7は分岐と新合成的音楽パターンを形作っている重複形を結びつけている。パート1では一様のF#、C#がポジションの移行するリズム、メロディラインの背後に消える。パート3とパート4の初めは個々のメロディ形式は強く、振動リズムに置き換えられる・・・”云々というような理屈臭いものなので省略するが、要約すれば「12のパートからなる音楽」は、安定したハーモニー、反復構造、明確な8音程のビート、付加的なプロセスという主題が一貫して流れている。アンプを使用する楽器(キーボード、ウィンド、声)は、現在のアンサンブルが'68年に結成されて以来の音楽媒体であり、Dickie Landy、Jon Gibson、Steve Reich、Arthur Murphy、James Tenneyはオリジナル・メンバーで、'71年にRichard Peck、Kurt Munkacsiが、'74年にJoan Labarbara、Michael Riesmanが加入したということだ。83年以後は「Koyaanisqatsi(コヤニスカッツィ」などの映画音楽や「Orphe(オルフェ)」などのオペラでの活動が主だが、それはマイケル・ナイマンなどの音楽にも言えることだがミニマル・ミュージックの持つ同じパターンが連続する無意味性、ヒプノティックな空間音楽の宿命だろう。
http://www.philipglass.com/

side one:Music In 12 Parts-Part 1
side two:Music In 12 Parts-Part 2
composed by Philip Glass
PHILIP GLASS(Electric Organ) JON GIBSON(Soprano Saxophone,Flute) DOCKIE LANDRY(Soprano Saxophone,Flute) RICHARD PECK(Alto and Tenor Saxophone) JOAN LABARBARA(Voice,Electric Organ) MICHAEL RIESMAN(Electric Organ)
Produced by Philip Glass and Kurt Munkacsi
Recording Engineers Kurt Munkacsi and Wieslaw Woszczyk
Remix-Kurt Munkacsi,Michael Riesman and Philp Glass Tape Editor Michael Riesman
Recorded at the Big Apple Recording Studio,New York City
Cover Design Sol Lewitt Artwork Cooke Key Associates
1974 VIRGIN /CAROLINE RECORDS

※フィリップ・グラスのバイオグラフィーは☞
http://ja.wikipedia.org/wiki/フィリップ・グラス

2008年02月21日

DAEVID ALLEN

デイヴィッド・アレンのユートピア
60年代のヒッピーカルチャーを象徴する音楽
DAEVID ALLEN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 18

デイヴィッド・アレンのボヘミアンとしての生き方を思うとき、それはヒッピー・カルチャーなくしては語れない。ソフトマシーン結成の経緯だってオーストラリア生まれの世界を放浪するデイヴィッド・アレンが、パリに渡った際にビートニクスのウィリアム・バロウズや、ロバート・ワイアットと出会うことで生まれたバンドだというし、まるで建築家バックミンスター・フラーの「宇宙船地球号」や、'68年に出版されたアメリカのヒッピーたちの間でベストセラーになったホールアース(全地球)カタログのなかに、野外生活の手ほどきから自然科学の知識、カスタネダや禅といった精神世界のガイドと並んで紹介されていてもおかしくないほどの、長髪に髭、ジーンズ、自然主義、サイケデリックな色彩感覚、ロックミュージックなど、独自の価値観を持ち定職を待たず自由に生きることを目指す60年代のカウンターカルチャーを体現する音楽人生を歩んでいる。 '74年ロンドンでケヴィン・エアーズとデイヴィッド・
アレンにインタヴューした際、彼が言った「科学やテクノロジーを信じていない」という言葉がいまでも心に残っている。ヒッピー文化は「independence (自立)」と個人主義の精神で、民族、国家、法律、道徳といった既成の価値観からの脱却を意味する「解放」がカウンター・カルチャー(対抗文化)の本質なのだが、ボク自身も少なからず当時のこうした文化に影響されて、歌謡界に造反し歌手を辞め、ニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」さながらのヘイト・アシュベリーを訪ねたり、モーニングスターというヒッピーコミューンに憧れ埼玉の入間の米軍ハウスを借りて住んだり、ジョージ・オオサワのマクロバイオティック・フードを実践したりしていた。そして現在までの"なにものにも属さないで、すべてに属している"という生き方を実践してきたのかも知れない。あれから30数年、パソコンを生み出したアップルのスティーブ・ジョブズもやはりヒッピーだった。「ヒッピーはすべてのテクノロジーに反対だったのではなく、みんなの自立に役立つテクノロジーは採り入れようとした。パソコンは、政府や大企業の巨大コンピュータによる支配に対抗する自立のための道具として使えると考えた人たちがいたわけです。」というジョブスの言葉にいまならデイヴィッド・アレンはどう受け答えするのだろうか。

DAEVID ALLEN/GOOD MORNING
(VIRGIN V2054)
ゴングのラジオ・ノーム3部作制作後、スペインのマジョリカ島へ妻のギリ・スミスと渡り現地のバンド「エウテルペ」と録音した76年にヴァージンから発表されたソロアルバム。このアルバムで理想的な社会「ユートピア」を描くことで現実の様々な人間関係の軋轢への批判をおこなったのだろうか。アルバムに針を落とすと、早朝起きぬけに窓を開けると入ってくるひんやりした大気のような澄んだ音楽とヴォーカルが聴こえてくる。ジャケット裏にはマジョリカからロンドンのSimon Draper宛に送った絵葉書が使われ、そこにはゴングを離脱したばかりの彼の微妙なこころのうちを覗くような一抹の寂しさが感じられるメモと、"霧深い島の甘美な夢と、あなたにとって幸せな朝食のなかに”というメッセージが書かれている。シンプルなサイケフォーク・ロック、オブスキュアなこのアルバムは、GONGよりも思い出深い作品で、デイヴィッド・アレン関係のなかではMy Favorite Things、ベストアルバムの1枚だ。

side one:1 Children of the New World 2 Good Morning 3 Spirit 4 Song of Satisfaction 5 Have You Seen My Friend?
side two:1 French Garden 7 Wise Man in Your Heart 8 She Doesn't She...
recorded & mixed on 4 track Teac & 2 revox's at Home in Majorca
cover by Fred Frontispiece & photo by Belle Roachclip
all titles written by Daevid Allen & arranged by Combined instration with EUTERPE which(a part from being the name of a Greek God of Music) is a group of Spanish Musicians based in Majorca
PEPE MILAN(mandolina charango accoustic gtrs glockenspiel)
ANA CAMPS(vocals)
TONI PASCUAL(moog strings keyboard & gtr)
TONI ARES(contrabass)
TONI TREE FERNANDEZ(guitars)
GILLI S'MYTH(space whisper & licks)
DAEVID ALLEN(vocals & glissando & solo guitar)
1976 VIRGIN RECORDS

2008年02月22日

GONG

デヴィッド・アレンとギリ・スミスの
「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」
ゴングの神話世界(コスモス)と
ニューゴングのインストゥルメンタルなジャズロック
GONG
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 19

初期ゴングはオーストラリア生まれのデヴィッド・アレンとスペース・ウィスパーと呼ばれるファンタスティックな歌唱でゴング・サウンドを彩ったギリ・スミスのユニットと考えたほうがいいだろう。初期のメンバーをみてもディディエ・マレエレブ、ピエール・モエルランなどフランス人が多く、フランスで結成されたフレンチ・スペース・ロックととらえたほうがいいだろう。3部作から構成されたコズミックでブラックユーモアあるおとぎの国、「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」は、'73年「フライング・ティーポット」、'73年「エンジェルス・エッグ」、'74年「ユウ」で完成されるのだが、ヒッピーやボヘミアンたちのロック・フリークス集団「ゴング」の理想郷ユートピア(コミューン)を思う。アルバム「ユウ」のジャケット裏に大きくクレジットされた"GONG IS ONE AND ONE IS YOU"というのが、この物語りの結論なのだが、この3部作「ラジオ・ノーム・インヴィシブル」の物語りのあらすじをゴングから送られたリーフレットをもとに、当時のライナーノーツでなかむらよういち氏が記録されていたので抜粋/訂正して転載しておこう。「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」はドラッグ体験のトリップによってもたらされる人間の意識変容のプロセスを表しているのは明らかだ。

PART1:GONG「FLYING TEAPOT」
(VIRGIN V2002)
ある星が地球のチベットへ緑の尖った頭をした生物をフライング・ティーポット(UFO)に乗せて送り込んだ。チベットにはラジオ・ノーム・インヴシブルという一種のテレパシーでその不思議な生物の来訪を予知していた3人の地球人が待機していた。それはノルウェイから来た毛深い家畜業者のミスターT・ビーイング、肩に傷のあるアンティークなティーラベルのコレクター、フレッド・ザ・フイッシュ、それにヨギのバナナ・アナンダである。3人はこの生物をパリへ連れて行った。そこのはゴング星の導師オクターヴ・ドクターからあらかじめ洗礼を受けていたロックンバンド、ゴングのメンバー達がいた。ゴングのメンバーはその生物からラジオ・ノームのヴァイブレーションによって愛と知を授かり、そのため2030年に予定されているゴング星人の地球来訪のための布教活動がやりやすくなったのである。つまりゴング・バンドは、ラジオ・ノーム・インヴィシブルからのヴァイブレーションを、音楽を通して世界の人々に伝えているのである。ここで突然、英雄ゼロが登場する。彼はその緑の尖り頭の妖精を、彼自身のヒーローに祭り上げようとしていた。魔女ヨニは、そんなゼロが冷静になるように呪文をかけ、その熱を冷ました。

PART2:GONG「ANGELS EGG」
(VIRGIN V2007)
魔女ヨニはゼロが呪文のためにシニカルになってしまったことに気付き、クッパ茶に魔法の液を一滴たらした。それを飲んだゼロはウォーターベッドに寝転びながら、どこか遠くに自分の声を聞いていた。その時、頭が突然ぐんぐんと自分の身体を見下ろすほど高くなり、心は下弦の月に向かってシューっと飛んで行った。黄色の舷窓から空にモナリザのような美しい処女の顔が現れ、彼に向かってウィンクした。これは早漏ぎみのファックに関する、また巨人のようなオマンコに関する最後の叙述になるのである。さて、彼の頭は宇宙船のようになり、彼女のオマンコそのものになってしまう。彼が近付くにつれ、それはさらに大海原に続く洞窟のある紫の崖の上にある縮れた森にまで変わってしまう。ゼロは自分が死ぬことを確信した。彼のこれまでの人生が、走馬灯のように彼の頭を過っていった。彼はいつしか自分が喋っている独り言に耳を傾けていた。"多くの世界を通過し 永遠の輪廻のなかを巡り 止まることのない自我が潮のように いつまでも目の前を通り過ぎて行く” 彼は海に飛び込んだ。死ぬ、と思ったときに彼はもう一つの側の海に出た。それは第7天国と言われる至福の世界だった。総てのものが永遠の興奮状態であった。尖り頭の妖精達にも涅槃として知られる場所であった。"わたしのまのあたりに 経験した総ての生命が輝く" 無限の火花の輪のように、数億の星、星座、宇宙は倒れたままのゼロに、そう歌った。・・・ゼロは聖なる名の永遠の歌い手たちに耳を傾けた。総てが音楽だった。彼はどこからともなく流れてくる・・・・。

PART 3:GONG「YOU」
(VIRGIN V2019)
ゼロはさらにトリップを続け、どこからかスペース・ウィスパーが囁きかける。”お前は誰だ。お前は誰なのだ”と、"リラックスしてハイな状態になれ、きみの感覚はセックスを、想像力は知恵を、融合は愛を生む。それこそが今のキミに必要だ。" ゼロは惑星ゴングこそユートピアだと信じ、その状態をあるがままに地球へ持ち込もうとし、惑星ゴングの神イラムにそれを打ち明けた。"独自の創造力を駆使すれば、目に見えぬ神殿を築くことができる" それがユートピアであるというのがイラムの答えだった。"エヴリウェア島こそユートピアーだ"という声が聞こえる。しかし再び別の声が警告する。"ユートピアなどという俗っぽさのなかで、お前はダメになってしまう"と。尖り頭の妖精とゼロは会話を交わす。"お前の理念とはそんなものか? くだらない幻影がお前をダメにしている。" " "お前が成功してもしなくても、そんなことはどうでもいいのさ。だってお前は精一杯の努力をしたんだからね。”
※サウンドは個性的なスペースサウンドでアトモスフィアでファンタジックなものだが、ストーリーは悪く言えば子供騙しのお伽噺のようなものだ。アレンとギルが築き上げたゴングの神話世界、コスモスはやはりこの「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」3作で完結され終わったと言えるだろう。

GONG/SHAMAL
(VIRGIN V2046)
その後、ゴングはドラム、ヴィブラフォーン、パーカッションのピエール・モーランを中心に再編成され'75年「Shamal」(当時の邦題 「砂の迷宮」)をピンク・フロイドのニック・メイソンのプロデュースのもとに発表する。その新ユニットは1990年代までジャズ・ロック・バンドとして活動を続けていた。「エンジェル・エッグ」以来のメンバーであったマイク・ハウレット、「マジック・ブラザー」以来の最も古いメンバー、ディディエ・マレルブ、「フライング・ティーポット」以来のメンバー、ミレイユ・バウア、そして新加入のパトリア・ルモワーヌの4人のフランス人と1人のイギリス人による彼らの音楽は、ジャズ、ファンク、フォークローレ、ガムランからアフロ・アメリカンを横断する多彩なインストゥルメンタル・ジャズロック(フュージョン)である。当時はオリジナル・ゴングと比較すると、その評価は著しく悪かったが、クラブジャズを通過した現在の「ジャズ的なるもの」の耳には新生ゴングのほうがよりマッチして抵抗感なく聴ける。

ヴァージン/キャロラインでのカンタベリー系から当時のブリティッシュ・ロック回顧を連載しているが、こうした流れは50年代後半のアメリカでの黒人ニュージャズの影響を受けた英国でのマイルス・デイヴィスとも言われたイアン・カーや、後にソフト・マシーンを牛耳ることになる鬼才カール・ジェンキンスたちの「ニュークリアス」、他には「マイク・ウェストブルック・コンサートバンド」、「マイケル・ギブス」、「ブロッサム・ディアリー」などのブリティッシュ・ニュー・ジャズから派生したものだというのを忘れないうちに明記しておきたい。

2008年02月23日

STEVE HILLAGE

華やかなブリティッシュ・インヴェイジョン時代の
最もイギリスらしいブリティッシュ・サウンドも聴こえてくる
「FISH RISING(邦題 魚の出てくる日)」
STEVE HILLAGE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 20

ロンドン生まれのスティーヴ・ヒレッジはハイスクール時代にミッド・シックスティーズのブリティッシュ・ブルース・ブームを経験し、’67年の終わりにデイヴ・スチュワートのオルガンと自身のギターをフィーチャーしたURIEL(エッグの前身)を結成したことがミュージシャンとしての出発点。カンタベリーのケント大学に入学し歴史と哲学を専攻する頃は、新左翼思想にかぶれた学生だったという。その後、キャラバン、ピロジィアなどのバンドとのセッションに時々参加し、'71年にカーン(KHAN)というバンドを結成、’72年にそのバンドを解散し、ヘンリーカウやエッグのメンバーたちも参加していた16人編成のザ・オッタワ・カンパニーのコンサート・シリーズで演奏した後、'73年にゴングに加入、'75年にゴングを離れソロ・アルバム「FISH RISING」を発表、というのが当時のスティーヴ・ヒレッジの大まかなバイオグラフィーである。

STEVE HILLAGE/FISH RISING
(VIRGIN V2031)
スティーヴ・ヒレッジもまた"コズミック・ジプシー"と呼ばれ、'70年代の最も重要なギタリストの一人として評されていた。いま再び聴き直すと、彼の音楽の底に流れているのは、Fleetwood Mac、Savoy Brown、Chicken Shackなどのブリティッシュ3大ブルースや、アレクシス・コーナーなどのR&Bに影響を受けた音楽じゃないかなと思える。それに加えてファーストアルバムの「FISH RISING」からは、カンタベリー・サウンドに混じって、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に似た、華やかなブリティッシュ・インヴェイジョン時代の最もイギリスらしいブリティッシュ・サウンドが聴こえてくる。このファーストは別格にして、その後'75年に発表したサード・アルバム「L」ではドンチェリーのトランペット、スティーヴィー・ワンダーやアイズリー・ブラザースのアルバムに関わっていたマルコム・セシルの全面的バックアップ、黒人ミュージシャンによるセッションでのファンキーな音楽、そして'77年のアルバム「MOTIVATION RADIO」で聴けるコズミック・ファンキーなグルーヴといったように、彼の音楽のファースト以外の作品をも、カンタベリー系のジャズロックとしてカテゴライズするのは間違っているだろう。現在の「ジャズ的なるもの」の耳は、カンタベリー系などの一部の音楽を除いて、ビブラートのかかったアーム・アップ、アーム・ダウンなどの奏法でのエレキギターを主にした音楽を当時のように聴けなくなってしまっている。ジャズ以外では、逆に伝統的なブルースやファンクやソウル色の強いシンプルなものは聴けるのだが、不思議だな。エレキギターのサウンドがもはや21世紀の時代に適応してない時代錯誤的な古さも感じるが、なによりもロックミュージックが白人のもので、エレキギターという楽器の持つ特性が西洋音楽(クラシック)の発展したものとしての領域から逸脱できないジレンマ、限界のようなものを感じるからだろう。ジャズにエレキギターを起用したロック的な音楽では、マイルス・デイヴィスの'68年の8ビートのリズムとエレクトリック楽器を導入した「マイルス・イン・ザ・スカイ」や、その後ジョー・ザヴィヌルの協力を得た実験的とも言える'69年の「イン・ア・サイレント・ウェイ」、「ビッチェズ・ブリュー」あたりの'70年代以降のフュージョンブームの方向性を示したあたりのもの、それかファンク色の強い、よりリズムを強調したハードなスタイルへと進展した'73年の「オン・ザ・コーナー」あたりがロック的なものに対する現在のボクの限界かな。

The Electrick Gypsy Service And C.O.I.T. Present:
side 1:inglid/involution
1.Solar Musick Suite a.SunSong(I love It's Holy Mystery). b.Canterbury Sunrise. c.Hiram Afterglid meets the Dervish d.SunSong8reprise)
2.Fish 3.Meditation of the Snake.
side 2:outglid/evolution
1.The Salmon Song. a.Salmon Pool. b.Solomon's Atlantis Salmon. c.Swimming with the Salmon. d.King of the Fishes.
2.Aftaglid. a.SunMoon Surfing. b.The Big Wave and the Boat of Hermes. c.The Silver Ladder. d.Astral Meadows. e.The Lafta Yoga Song. f.Glidding. g.The Golden Vibe/Outglid.
Electrick Musick and Fish rock composed and arranged by Steve Hillage. Additional arrangements for Fish by Dave Stewart. Lyrics and record concept by Steve Hillage and Miquette Giraudy.
Recorded at The Manor September '74 and in the Manor Mobile January '75. Engineer and twiddlefish Simon Heyworth.
produced by Steve Hillage and Simon Heyworth.
STEVE HILLFISH(Gitfish,Fishy hymms) PIERRE MOERLIN(Batterfish,Drum Marimba Darbuka) DAVE STEWART(Orgone Pianofish) MIKE HOWLETT(Bassfish) LINDSAY COOPER(Basoonafish) MOONWEED(Synfish,Moog Bubblefish Tambura) BLOOMDIDO GILD DE BREEZE(Saxofish Indian Floot) BAMBALONI YONI(Fish Tales Fish Scales Fish Bells)
1975 VIRGIN RECORDS

2008年02月24日

KEVIN COYNE

社会から「忘れられた人たち」や「マイノリティ」を主題とした
その手にカミソリの刃を隠し持つケヴィン・コインの歌
KEVIN COYNE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 21

ケヴィン・コインの音楽とは直接関係ない話だが、不思議な、世界の至る所で連続して同時発生するシンクロニシティという音楽の運動は、直観的な意識と行動が調和しながら拡大していく。まるで示し合わせたように共時的に集合的無意識から生まれる先端での音楽。たった数年の短い間に表出して来たカンタベリー系ジャズロックだって共時に発生してきたものだ。ボクはこの30年あまり、音楽のシンクロニシティ=同時発生する運動、時代意識の流れに、なによりも魅かれ続けてきた。そうした共時性の流れに乗ってクラブジャズから現在は、nu jazz、Finn Jazzの「ジャズ的なるもの」のフィールドに漂流している。最初、音楽に興味を持っただれもに、レコードやCDを選ぶとき、その入り口があるだろう。多岐に分かれたその入り口は、音楽を聴くひとの意識の違いによって選別される。音楽を聴き分ける行為とはなんだろう。セックスに似た気持ち良さを音楽に直覚的、感覚的に求めるひともあるだろうが、キミの耳が音楽を聴いているのではなく、キミの意識が音楽を聴いているというのを多くのひとは忘れている。レコードショップでレコードを選別する行為、それは他者性を孕んだ、差異化された自己同一性をそこに重ね合わせていることに誰も気付いていない。レコードや音楽のなかに自分自身の姿、自己をみているのだ。単純に好き嫌いで音楽を聴くのも意識の違いの表れたものだ。ソフトマシーンの「4」(彼らの作品のなかでベストなもの)のアルバム発表後の全米ツアーを最後に、ロバート・ワイアット、マイク・ラトリッジ、ヒュー・ホッパー、エルトン・ディーンの4人のソフトマシーンは音楽的違いから分裂することになる。こうしたことも人間の意識の違いから生じる事件で音楽そのものが原因ではない。こんなことって結構多いよね。余談だが、ボクは服装や髪型や持ち物、性格から、そのひとの聴いている音楽を言い当てられる。

KEVIN COYNE+DAGMAR KRAUSE/BABBLE(SONG FOR LONLY LOVERS)
(VIRGIN V2128)
スラップ・ハッピー、ヘンリー・カウ、アート・ベアーズの女性ヴォーカリスト、ダグマー・クラウゼと、イギリスのシンガー・ソングライター、ケヴィン・コインの共演作。ケヴィン・コインはダービーで44年に生まれ、'69年サイレンというフォーク・ロック/ブルース・バンドでデビューした後、グループ解散後72年英Dandelionからファースト・ソロ・アルバム「ケース・ヒストリー」をリリースしている。彼はプロデューサーJOHN PEELに見出されたシンガーとしても有名。そのケヴィン・コインとダグマー・クラウゼの「BABBLE」は'79年にヴァージンから発表された。元々ケヴィン・コインが作家のスヌー・ウィルソンと制作したミージカルのレコード版となってリリースされたもので、恋の迷い子になった恋人が恋の成就に向かって戦うという60年代の恋愛小説。

side 1:Are You Deceiving Me? 2.Come Down Here 3.Dead Dying Gone 4.Stand Up 5.Lonely Man 6.I Really Love You 7.Sun Shines Down On Me
side 2:1.I Confess 2.Sweetheart 3.Shaking Hands With The Sun 4.My Minds Joined Forces 5.It's My Mind 6.Love Together 7.Happy Homes 8.It Really Doesn't Matter 9.We Know Who Are
KEVIN COYNE(Vocals,acoustic Guitar,Piano) DAGMAR KRAUSE(Vocals) ZOOT MONEY(Piano) BOB WARD(Acoustic/Electric Guitar) AL JAMES(Bass) VIC SWEENEY(Drums) PAUL WICKENS(Electric Piano,Congas) JERRY DECADE(Organ)
Engineers-Al and Vic Produced by Bob Ward
recorded at Alvic Studios Wimbledon
VIRGIN RECORDS 1979

KEVIN COYNE/MARJORY RAZOR BLADE
(VIRGIN VD2510)
ニッポンでは全く無名といってもいいが、ケヴィン・コインは'04年に亡くなるまでポップ、ロックンロール、ブルーズ、バラッド、レゲエ、パンクなど様々な分野で活躍し、多くのアーティストに多大な影響を及ぼしている。語呂遊びのナンセスな歌詞や、狂気や剥奪や忘れられた人たちを主題とした歌詞はユニークでありシニカルで、それをソウルフルでファンキーなルーズ・サウンドに乗せて豪快に歌う様は、まるでワーキング・クラス・ヒーローのようだ。'73年に2枚組でリリースされた「Marjory Razor Blade」は、全編ブルース・ベースの音楽で、このアルバム・タイトルに使われている"カミソリの刃"は、'76年の2枚組アルバム「IN LIVING BLACK AND WHITE」のジャケット写真でも、背中にまわした右手に"カミソリの刃"をRazor blade smileよろしく隠し持ち使われていて、いまでは、ジョニー・デップの映画「スウィニー・トッド」のゴシックな舞台の猟奇殺人のコミカルさも思わせるが、この"カミソリの刃"は、彼の亡くなるまで持ち続けた反骨精神や部外者としての立ち位置、反社会的な態度が象徴されている。

side one:!.marjory Razorblade 2.Marlene 3.Talking to No One 4.Eastbourne Ladies 5.Old Soldier
side two:1.I Want my Crown 2.Nasty 3.Lonesome Valley 4.House on The Hill 5.Cheat Me
side three:1.Jackie And Edna 2.Everybody Says 3.Mummy 4.Heaven In My View 5.Karate King
side four:1.Dog Latin 2.This Is Spain 3.Chairmans Ball 4.Good Boy 5.Chicken Wing
KEVIN COYNE(Vocals,Guitar9 GORDON SMITH(Acoustic,Slide,12 string and electric guitar,Mandolin) Jean Roussel(Piano,Organ,Fender Rhodes) Tony Cousins(Bass,Bass Tuba) Chili Charles(Drums,Congas) Steve Verroca(Acoustic Case,Piano) produced for Virgin Records by Steve Verroca
VIRGIN RECORDS 1973

KEVIN COYNE/IN LIVING BLACK AND WHITE
(VIRGIN VD2505)
'76年ヴァージンから発表された2枚組アルバム。ケヴィン・コインのホームページでみられる絵画は、'57-'61にジョゼフライトスクールオブアート、'61-'65にDerby大学でグラフィックスと絵の教育を受けた成果で、晩年は絵画にも創造の場を求めた彼の優しくシニカルな人間性があらわれていて、彼の音楽を理解するうえでも興味ぶかい。ケヴィン・コインが影響された音楽は、リトル・リチャードとファッツ・ドミノと、チャック・ベリー、マディー・ウォーター、ジョンリー・フッカー、ジミー・リードだというから、なるほどと頷ける。'68年後半にロンドンに移り住んだ彼の最初の仕事がWhittingham病院(ランカシャー('65-'68))の社会的なセラピストで、'69年にソーホープロジェクトのために麻薬常用者のためのカウンセラーとして就業し、この仕事に就いたことで、その後の社会から"忘れられた人たち"、マイノリティを主題とした彼の音楽、歌の世界を決定づけたといっていいだろう。

side one:1.Case History No.2 2.Fat Girl 3.Talking To No-one 4.My Mother7s Eyes 5.Ol7 Man River 6.Eastbourne Ladies
side two:1.Sunday Morning Sunrise 2.One Fine Day 3.Marjory Razorblade
side three:1.Coconut Island 2.Turpentine 3.House On The Hill 4.Knocking On Heaven's Door
side four:1.Saviour 2.Mummy 3.Big White Bird 4.America
ZOOT MONEY(Electric Piano,Vocals) ANDY SUMMERS(Guitars,Vocals) STEVE THOMPSON(Bass) PETER WOOLF(Drums)
produced by Robert John Lange & Steve Lewis
VIRGIN RECORDS 1976

http://www.kevincoyne.de/

2008年02月25日

IVOR CUTLER

私の詩を作るやり方はジャズのコンサートに行って
ひとつの意味よりむしろ単語の雑音を聞いているように
音楽をただ素通りさせてその時思い浮かんだナンセンス詩を書く方法でした
(アイヴァー・カトラー)
IVOR CUTLER
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 22

ペダル駆動のハルモニウムに乗せてユーモアに歌うスコットランド人の芸術家、風刺漫画家、ミュージシャン、詩人、作詞作曲家のIVOR CUTLERは、ロンドンのスラム地区のサマーヒル学校で30年間教師を勤め、詩や歌を書き始めたのは'50年代後半で、’59年から'63年の間に放送されたBBCの月曜日の番組ナイト・アット・ホームで38の物語りの、ハルモニウムで伴奏して歌うそのシリーズはとても人気があり、イギリスのラジオの名物男になったそうだ。'67年のビートルズの映画マジカル・ミステリー・ツアーや、ニール・インネスのテレビ番組にも出演していたことも有名な話だが、そのラジオ番組を聴いていたポール・マッカートニーがビートルズの映画マジカル・ミステリー・ツアーへの出演依頼をし、そこでマッカートニー作曲の「 I'm Going In A Field / I lie beside the grass」が歌われている。その後、ビートルズのジョージ・マーチンがプロデュースしたIvor Cutler Trioの「Ludo(1967)」を発表。その音楽は、ジャズトリオをバックにしたトラッドジャズからのインスピレーションを得たブギウギの伝統的な音楽が聴かれる。

IVOR CUTLER/DANDRUFF
(VIRGIN V2021)
'70年代には、ロバート・ワイアットがアルバム「ROCK BOTTOM('74)」のなかでアイヴァーのハルモニウムをフィーチャーしたことが縁で、ヴァージンから3枚のアルバム、「DANDRUFF ('74)」,「 VELVET DONKEY('75) 」、「JAMMY SMEARS ('76)」を発表することになる。また'80年代にはラフ・トレード・レコードから「PRIVILEGE('83)」、「PRINCE IVOR ('86)」、「GRUTS ('86)」の3枚のアルバムもリリースしている。、前後になるが、名前からしてユーモアな「刃物屋」という名字を持つアイヴァー・カトラーは、'23年1月15日にユダヤ人の中産階級の家族のもとグラスゴーで生まれ、 祖父は帽子の行商人、父は家具と刃物の職人だった。厳格な幼年期を過ごした彼はそのことを幸せに感じていて、幼いときから大袈裟なスコットランドの物語を語るのが好きだったという。当時を振り返った水にまつわるエピソードなどは、そのまま彼の音楽で歌われている。15歳の頃、すでに自分は将来作曲家になるだろうと予感し Droveやシューベルトのような簡単で、しかも力強いメロディーを作ることを決心している。

side one:1.solo on Mbira 2.Dad's Lapse 3.I worn my elbows 4.Hair Grips 5.I believe in bugs 6.Fremsley 7.Goozeberries and bilberries 8.Time 9.The railway sleepers 11.Life in a Scotch sittingroom Vol.2,ep.I 12.Three sisters 13.Baby suts 14.Not big enough 15.A barrel of nails
side two:1.Men 2.Trouble trouble 3.I love you 4.Vein girl 5.Five wise saws 6.Life in a Scotch sittingroom Vol2 ep.I 7.The oainful league 8.Piano tuner song A.D. 2000 9.Self knpwledge 10.An old oak tree 11.The aimless dawnrunner 12.Face like a lemon 13.A bird 14.A hole in my toe 15.Mu mother has two red lips 16.i like sitting 17.The forgetful fowl 18.If everybody 19.For sixpence 20.I used to lie in bed 21.If all the cornflakes 22.My sock 23.When I entered 24.Two balls 25.Miss Velvetlips 26.Lean 27.Fur coats 28.The darkness 29.A beautiful woman 30.Making tidy
produced by IVOR CUTLER
VIRGIN RECORDS 1974

IVOR CUTLER/JAMMY SMEARS
(VARGIN V2065)
幼少の頃の思い出話には、ユダヤ教からユニテリアン派、そして無神論者、人道主義のベジタリアンになっていくプロセス、戦争体験、などの面白い逸話が一杯あって、その経験が日常的な素材を取り上げながら独特のユーモラスでナンセンスな詩と音楽に反影されている。その経験のなかで、最も音楽の創造の源になっているのは、教師でもあった彼の子供達への愛で満ちている「教室」である。ひとのために歌い演奏していると同時に「自分を治療していました」と語っているように、彼のお伽噺のような世界を聴いているうちに、いつの間にか自然と癒されている自分に気付く。そんな彼の詩を創作する方法はとてもユニークで、ジャズのコンサートに行って、ひとつの意味よりむしろ単語の雑音を聞いているように、音楽をただ素通りさせてその時思い浮かんだナンセンス詩を書くのだという。現在、彼の書いたすべての詩が、フェーバーのダグラス・ダンによって編集されたスコットランド詩に収集され保存されている。また今年の1月に亡くなる寸前まで騒音反対運動のNoise Abatement SocietyとVoluntary Euthanasia Societyのメンバーのひとりだった。彼の音楽からは少なからず「ジャズ的なるもの」も聴こえてくるが、詩を語り歌う声の母音、子音から聴こえるコックニーやスコットランド訛り独特のサウンドは、ケルティック・フォークにまで遡り、古代のスコットランドやウエールズの文化をも呼び起こし強いケルト魂も感じる。

side one:1.Bicarbonate of Chicken 2.Filcombe Cottage,Dorset 3.Squeeze Bees 4.The Turn 5.Life in a Scotch sitting room,Vol.2 EP.11 6.A Linnet 7.Jumping and Pecking 8.The Other Half 9.Beautiful Cosmos 10.The Path 11.Barabadabada 12.Big Jim 13.In the Chestnut Tree 14.Dust 15.Rubber Toy 16.Fistyman
side two:1.Unexpected Join 2.A Wooden Tree 3.When I stand on an Open Cart 4.High is the Wind 5.The Surly Buddy 6.Pearly-Winged Fly 7.Garden path at Filcombe 8.Peddington Town 9.Cage of Small Birds 10.Life in a Scotch sitting room Vol.2 Ep.6 11.Irk 12.Lemon Flower 13.Red Admiral 14.Everybody Got 15.the Wasted Call
recorded by David Vorhaus at Kaleidophon
VIRGIN RECORDS 1976

http://www.ivorcutler.org/

2008年02月26日

ROY ST.JOHN / GLOBAL VILLAGE TRUCKING COMPANY

イギリス人のコミュニケーションの場所として
生活に根付いている歴史をもつパブや居酒屋で演奏される
パブ・ロックのルーツ・ミュージック
ROY ST.JOHN
GLOBAL VILLAGE TRUCKING COMPANY
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ.ロックへの回顧
CASCADES 23


ヴァージン・レコードとリチャード・ブライソンのイングリッシュ・ドリーム
ヴァージン・レコードが設立されたのは、'72年というから36年の歳月が経っている。当時17歳のリチャード・ブライソンは雑誌「ステューデント」誌の出版を振り出しに、レコードの通信販売、小売店経営、独仏の実験的音楽作品の輸入販売、レコーディング・スタジオ経営を成功させると、'72年にレコード会社ヴァージン・レコードを設立し、'73年5月23日に最初の新譜としてマイク・オールドフィールド「チューブラ・ベルズ」、ゴング「フライング・ティーポット」、スティーヴ・ヨーク「マナー・ライヴ」、ファウスト「ファウストⅣ」の4タイトルをリリース。'84年には「ヴァージン アトランティック航空」を設立、その後、インターネットや携帯電話事業といったIT分野への進出、ヴァージン・コーラなどの飲料水事業、「ヴァージン・シネマズ」、イギリス国内の鉄道の経営、金融事業などへ次々と参入。現在グループ全体で22カ国、25,000人の従業員を擁する規模にまで成長。 '04年にはヴァージン・ギャラクティックを立ち上げ、宇宙旅行事業にも参入を開始。'07~'08年には経営危機に陥った英ノーザン・ロック銀行の買収に名乗りを上げて話題を呼ぶ。熱気球による世界初の大西洋および、太平洋横断を成功し冒険家としても知られている。 今や年間40億ポンドの総売上高を誇るヴァージン・グループの創始者である彼は、2000年に英国エリザベス女王より”ナイト”の称号を授かり、サー・リチャード・ブランソンとなる。正にアメリカンならぬイングリッシュ・ドリームそのものである。

ROY ST.JOHN/IMMIGRATION DECLARETION
(VIRGIN/CAROLINE CA2008)
パブ・ロックの始まりは、タリー・ホーという名前のパブ(イギリス人のコミュニケーションの場所として生活に根付く歴史をもつ)から生まれた。そこで演奏される音楽はトラッドやカントリー・テイストを持つロックで、それを証明するかのようなアルバムが75年に発表されたキャロライン・レーベルからの2枚だ。ジェームス・ブラウンの"Papa's got A Brand New Bag"などにも影響されたRoy St.Johnのアルバムは、カントリー・ブルースの香りのするパブ・ロックだ。このアルバムには、ブリンズリー・シュウォーツのオルガン奏者Bob Andrewsや、ヘルプ・ユアセルフのMalcolm Morleyなどが参加している。パブ・ロックの始まりのイギリスでのカントリーブルースと言えばディープなデルタブルースの世界に心酔したイギリスのカントリーブルースシンガー、ギタリストのGRAHAM HINEのアルバム「BOTTLENECK BLUES」などを思い浮かべるが、この世界もとても奥深い。パブ・ロックのルーツやギターミュージックの始まりは、やはりエリック・クラプトン、キース・リチャーズら多くのミュージシャンに影響を与えたと言われているミシシッピ州出身のミュージシャン、ロバート・リロイ・ジョンソン(Robert Leroy Johnson)だろうか。

side one:1.Immigration Declaration 2.Slow Me Down 3.The Facts Of Life 4.Cool and Lazy 5.Californis Migrant 6.She Got The River
side two:1.Take a Chance on Loving Me Tonight 2.Maid of Orleans 3.Out in The Backyard 4.Gaudelia 5.Aztec Stomp 6.Waiting for The Lights to Change
produced by CHARLES SINCLAIR
ROY ST.JOHN(vocals) LES MORGAN(drums) CHARLES SINCLAIR(bass) MICHAEL PAICE(saxophone,harmonica) ROGER BROWN(accoustic guitar,harmonies and 'hey junior' ) ADRIAN PIETRYGA(electric guitar) BARRY FARMER(engineering and mixing)
ROGER RETTING(pedal steel guitar) MALCOM MORLEY(piano) BOB ANDREWS(organ) LINDSAY SCOTT(mandolin,violin)
engineered & mixed at Pathway Studio
1975 VIRGIN/CAROLINE RECORDS

GLOBAL VILLAGE TRUCKING COMPANY
(VIRGIN/CAROLINE C1516)
パブ・ロックの原石のようなフリーフォーム・ジャム・スタイルのGROBAL VILLAGE TRUCKING COMPANYは、後にケヴィン・エアーズ、10CC、ブリンズレー・シュウォーツを生む。パブ・ロックは'70年代~'80年代にかけてイギリスでパンク・ロックと同時期に表面化した音楽で、シンプルな曲の構成や労働者階級を意識した詞などにアメリカ南部をルーツとするブルース、カントリー、スワンプロックに触発された音楽がみてとれる。ロック・ミュージックがマスビジネスに移行する時代に、キャパシティの小さなホールやクラブで少人数に対してライブを行う姿勢を持つバンドの音楽をパブ・ロックとも言った。パブ・ロックでは'69年に結成されたブリンズリー・シュウォーツ(Brinsley Schwarz)が最も有名だが、その後、こうした流れはニック・ロウ、グラハム・パーカー・アンド・ザ・ルーモア、イアン・デューリー、エルヴィス・コステロなどに継承されていく。GLOBAL VILLAGE TRUCKING COMPANYは、このアルバム以外では'73年10月8日のライヴの模様を収録した2枚組アルバム「GREASY TRUCKERS:LIVE AT DINGWALLS DANCEHALL」のなかでCAMEL、HENRY COW、GONGとともにコンパイルされている。

side one:1.On the judgement day 2.Lasga's farm 3.Love your neighbour 4.Short change/tall story 5.Smiling revolution
side two:1.Love will find a way 2.If you don't mind(me saying) 3.The inevitable fate of Ms Danya Sox 4.Watch out there's mind about
JON OWEN(vocals,guitar) JAMES LASCELLES(organ,electric piano,vocals) JOHN McKENZIE(bass,vocals) SIMON STEWART(drums) MICHAEL MEDORA(lead guitars) CAROMAY DIXON(vocals) PETE KIRTLEY(guitar,vocals)
produced by Fritz Fryer
VIRGIN/CAROLINE RECORDS 1975

2008年02月27日

KEITH CROSS AND PETER ROSS

サンディ・デニーとトレヴァー・ルーカスの「フォザリンゲイ」などに影響を受けたモダンなアシッド・フォークロック
KEITH CROSS AND PETER ROSS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 24

'60年代後半のロンドンといえば、フォークとロックの融合という動きがあった。ペンタングル、フェアポート・コンベンション(Fairport Convention
)、スティーライ・スパン(Steeleye Span)などによってフォークロックはイギリス各地に波及していくのだが、トラディショナル・ブリティッシュ・フォークのミュージシャンに、エレクトリックギターやアンプなどの電気機器を駆使しロックの要素を取り入れることが当時流行していた。ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディランといったアメリカのフォークに影響を受けた彼らのなかで、忘れてならないのが、フェアポート・コンベンションだろう。音楽を紡ぐ人と言われたリチャード・トンプソンとサンディ・デニーの存在も当時のブリティッシュ・ロックに多くの影響を与えている。アーリージャズの影響さえみられるフェアポート・コンベンションの'69年の作品「Unhalfbricking 」や、特にサンディ・デニーの’71年の作品「The North Star Grassman and the Ravens 」を、歌手を辞めた直後の、すべてを捨てて文無しで東京から転がり込んだ神戸の葺合区熊内の高台にある彼女のアパートの窓から見える、神戸の港の海を見下ろしながら、脚のついたミッドセンチュリー・モダンの古いハイファイ・ステレオで、よく聴いていた。こうしたイギリスのフォークロックにおける様々な試みは、インクレディブル・ストリング・バンド(The Incredible String Band)などの流れを経て、やがてカンタベリー系ジャズロックやプログレッシブ・ロックへと変遷していく。

KEITH CROSS AND PETER ROSS/BORED CIVILIANS
(DECCA SKL5129)
'72年に英DECCAから発表されていたT2のギタリストのKeith Crossとブラック・キャット・ボーンズに在籍したPeter Rossによるコラボレーション・アルバム「Bored Civilians」には、この後、キャラバン、ナショナル・ヘルスのメンバーになるJimmy Hastings、ブリンズリー・シュウォーツのNick Loweなどそうそうたるメンバーが参加している。このアルバムのなかに、フェアポート・コンベンションを脱退したサンディ・デニーが自分の理想のバンドを作ろうとしてトレヴァー・ルーカスと結成した「フォザリンゲイ」の'70年のアルバム「Same」から"Peace in the End"のカヴァーも収録されていて、シンフォニックなアシッドフォークやジャズロックの香りも漂う。願わくばこうした音楽は、いま若いギャルのあいだで流行りのボヘミアン・スタイルのフォルクローレ、プチ・ヒッピー、レトロモダンでお洒落なファッションと同じように着こなしてほしいものである。

side 1:The Last Ocean Rider 2.Bored Civilians 3.Peace In The End 4.Story To A Friend
side two:1.Loving You Takes So Long 2.Pastels 4.The Dead Salute 4.Bo Radley 5.Fly Home
musicians:Keith Cross (Bulldog Breed, T2) / Peter Ross (Richard Thompson, Hookfoot) / Peter Arnesen (If, Ian Hunter, Rubettes, Daddy Longlegs, Hollies)/B.J. Cole ?? (credited as Brian Cole) /Jimmy Hastings (Caravan, Soft Machine, Hatfield & The North, National Health)/ Nick Lowe (Brinsley Shwarz, Elvis Costello, Dave Edmunds, solo) / Dee Murray (Elton John Band) / Chris Stewart (Spooky Tooth, Frankie Miller, Joe Cocker) / Tony Carr /Steve Chapman /Sid Gardner/ Jenny Mason/ Lea Nicholson/ Billy Rankin/ Tony Sharp/ Andy Sneddon
Produced by Peter Sames arranged & Conducted by Tony Sharp Engineer:David Grinsted/Kevin Fuller
DECCA RECORDS 1972

※70年代初期、中期ヴァージン/キャロライン・レーベルでの作品はまだあるのだが、そこからそろそろ離れて、今回からは他のレーベル、シーンでの動きを最考察/回顧していこうと思っています。ところでボクからのお願いですが、この世界には詳しくマニアックな音楽ファンが多いので、このCASCADESで、間違ったことも書いているかも知れないので、気になった人はコメント欄に自由に訂正、補足、注釈を加えて下されば嬉しく思います。(その場合、匿名やハンドル・ネイムは迷惑メールとしてセキュリティで削除されますので、本名や連絡先が分かる名前でお願いします。)

2008年02月28日

CARAVAN

ワイルドフラワーズから2分された片割れ初期キャラバン
ヴィクトリア朝時代からの伝統「ロマン主義世界」
CARAVAN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 25

英国趣味というのがある。ファッションではいまならPAUL SMITH(http://www.paulsmith.co.uk/)のモダン・メンズウェアがそれを象徴するものだが、伝統的なファッションでは、Nick Ashleyの関係しているDunhillや、トラディショナルなCordings、フォーマルなイヴニング・スーツのGIEVES & HAWKES、英国を代表するロンドンのデパートHARRODS(http://www.harrods.com/HarrodsStore/)、サビル・ロウのKILGOUR FRENCH STAMBURY、伝統的な洋服生地ではFOX BROTHERS & CO(http://www.foxflannel.freeserve.co.uk/products.htm#top)などなど数多くある。他には、骨董市、英国式ティーパーテーや、車種ではローバーミニ、ガーデニング(庭園)、サッカーなどなど星の数ほどあるが、植民地時代の大英帝国は7つの海を支配し5つの大陸をおさめてきたというプライドからくるのか、イギリス人(アングロ・サクソン)はすべてのものが世界一だと自負している。紳士の国イギリスは礼儀ただしいというが、特に老人や年配者と話すと、それが顕著だ。しかし5年前に久しぶりにロンドンを訪ねて驚いたのは、斜陽老大国を象徴する英国病、経済不振に陥ってるのは歴然としていた。グローバル化の波がロンドンにも押し寄せモダン・イングリッシュへの変化も多くみられたけれど、端正に手入れされた田園風景やその美しい自然を維持し、古いものを大切にして使えるものは朽ちるまで使うという昔日の栄光の面影やプライドだけはいまも健在だった。彼ら大英帝国の匂いがプンプンする伝統的なアイデンティティーも、惜しむかな音楽の世界では'70年代のカンタベリー系のジャズロックを最後に消滅してしまったかも知れない。

CARAVAN/IN THE LAND OF GREY AND PINK
(DERAM SDL R1)
ロバート・ワイアットとケヴィン・エアーズ、ヒュー・ホッパーなども在籍していたこともあるワイルドフラワーズは'67年に解散し、ソフト・マシーン、キャラバンの2つのバンドに派生していくのだが、その片割れのキャラバンのオリジナルメンバーはパイ・ヘイスティングス(Gtr,Vo)、デイヴ・シンクレア(Key)、リチャード・シンクレア(Bass,Vo)、リチャード・コフラン(Drs)の4人で、活動の場をカンタベリーからロンドンに移し積極的なギグを行ったことでヴァーヴ・レコードと契約を交わすまでに至り、ファーストアルバム「CARAVAN」が発売される。'70年デッカ・レーベルからセカンドアルバム「if i could do it all over again, i'd do it all over you」をリリース。このなかの「For Richard」はシングルカットされ、初のチャート・インを果たした。'71年にこのサード「In the Land of Grey and Pink」を発表。イントロは牧歌的なメロディーのトロンボーンのフワフワした暖かいサウンドから始まり、サイドB全面に収録された22分の組曲「Nine feet underground」はディヴィッド・シンクレアのキーボードを前面に押し出したジャズロック。このアルバムで使われているAnne Marie Andersonのイラストのピンク色の東洋的な桃源郷は、音楽以前にこの作品のすべてを支配するほど強烈だった。デイヴ・シンクレアはこのアルバムを最後にキャラヴァンを脱退しマッチング・モウルに参加する。その後を元キャロル・グライムス・デリヴァリーのスティーヴ・ミラーが埋め、4枚目のアルバム「Waterloo Lily」を発表。

side one:1.Golf girl 2.Winter wine 3.Love to love you (And tonight pigs will fly) 4.In the land of grey and pink
side two:1.Nine feet underground -Nigel blows a tune - Love's a friend-Make it 76-Dance of the seven paper hankies-Hold grandad by the nose- Honest I did!-Disassociation-100% proof 
RICHARD SINCLAIR(bass,acoustic guitar,vocals) PYE HASTINGS(electric guitars,acoustic guitar,vocals) DAVID SINCLAIR(organ,piano,mellotron,harmony vocals) RICHARD COUGHLAN(drums and percussion) JIMMY HASTINGS(flute,tenor sax,piccolo) DAVID GRINSTED(cannon,bell and wind)
recorded at Decca Studios
produced by DAVID HITCHCOCK
DECCA/DERAM 1971

CARAVAN/WATERLOO LILY
(DERAM SDL R8)
結成直後はリチャード・シンクレアのベースと繊細な美しい声がキャラヴァンでの音楽を特徴づける大きな顔だったが、このアルバムを最後に今度はリチャード・シンクレアが脱退する。暖かみが感じられる牧歌的なメロディとファンタジックな歌詞が、デイヴ・シンクレアを核にしたキャラヴァンの音楽の特徴とされているが、それは'71年の「In The land of grey and Pink」までのことで、’72年の「Waterloo Lily」はジャズやブルースの色合いが濃くなっていて、全体的には荒い音作りだが個人的には彼らの過去の作品を含めてのベストだと思っている。ホーン・セクションやストリングスを導入するなど当時としては、かなり実験的なアルバムだったのだが、それはキャラヴァンの音楽の重心がリチャ−ド・シンクレアからパイ・ヘイスティングスとスティーヴ・ミラーに移動したことによるところが大きいからだと思う。2曲目の「Nothing At All」ではロル・コックスヒルとフィル・ミラーがゲストでセッションしているしね。初期キャラヴァンの音楽の特徴と言えば、ボクにはヴィクトリア朝時代からの伝統、イギリス人ならではのロマン主義世界が聴こえてくるが・・・。その後、'73年「Plump in the night」」、'74年「For Girls Who Grow Plump In Night」、'75年「Cunning Stuns」、「BLIND DOG AT ST.DUNSTANS」、'77年「BETTER BY FAR」などのアルバムを発表している。彼らの音楽を聴いていたのは'77年の「BETTER BY FAR」までだったけれど、その後も続々アルバムはリリースされていたんだな。

side one:1.Waterloo lily 2.Nothing at all It's coming soon - Nothing at all (reprise)- 3.Songs & signs
side two:1.Aristocracy 2.The love in your eye- To catch me a brother- Subsultus-Debouchement- Tilbury kecks 3.The world is yours
RICHARD DOUGHLAN(drums,percussion) PYE HASTINGS(lead vocals,electric and acoustic guitars) STEVE MILLER(piano,electric piano,electric harpsichord,organ) RICHARD SINCLAIR(lead vocals,bass guitar)
produced by David Hitchcock for Gruggy Woof
engineered by David Grinsted
recorded and mixed at Tolling Park Studios
DECCA/DERAM 1972

●'80年「The album」/'80年「The best of Caravan “Live”」/'82年「Back to front」/'86年「The Canterbury Collection」/'91年「Radio 1 live in concert」/'93年「Live」/'94年「Cool Water」/'95年「The battle of Hastings」/'96年「All Over You」/'97年「 ‘Live’Canterbury comes to London」/'98年「Back on the tracks」/'98年「Songs for oblivion fishermen」/'98年「Ether Way」/'99年「Surprise supplies」/'99年「All over you ...too」/2000年「Where but for Caravan would I」/2003年「Unauthorised Breakfast Item」

2008年02月29日

MATCHING MOLE

ロバート・ワイアット世界の最大の魅力とは
彼の歌う「O Caroline」に集約されている
MATCHING MOLE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 26

音楽のなかの「歌」の果たす役割は大きい。ひとは音楽と歌を混同してとらえているが、音楽とは違った別次元の「言葉」や「歌詞」の世界は、なによりも"歌い継がれる" 、"歌は世につれ世は歌につれ"という言葉や諺があるほどの強みを持っていて、歌が人々に与えるインパクトはそのサウンド以上に強い。ロバート・ワイアットの歌う「O Caroline」などを聴くと、それこそ忘れ去ったはずの、深層にインプットされた当時の思い出がメランコリックな情感とともに溢れ出して来る。語るべきものがあるミュージシャンは幸せかも、音楽に歌詞や詩を乗せることにより聴く者とのコミュニケーションが容易に図れるのだから。でもそれは言っておくけれど、音楽本来の機能ではないのだけれど。さて、ソフト・マシーンの「Third」、「Fouth」を聴けば顕著だが、彼らがもう一段昇華して本格的なジャズ、フリージャズへと向かおうとした時、ロバー・ワイアットのジャズドラマーとしてのスキルは、それに対処できるだけのものではなかった。というと語弊があるから言い直せばソフト・マシーンに彼の歌がもはや邪魔になった、というほうがいいのかも。そのことが4th発表以後のラトリッジ、ホッパー、ディーンの3人との溝が深くなる、彼がソフト・マシーンを離れざるをえなかった大きな要因だろう。Robert Wyatt の本領とは、やはり初期のソフト・マシーンにみられるカンタベリー・テイストのポップ感覚を持つジャズロック、「歌」の世界だろう。

MATCHING MOLE/MATCHING MOLE
(CBS 64850)
SOFT MACHINEを脱退した後、彼は新たにマッチング・モールを結成し、名曲としていまも歌い継がれるデイヴ・シンクレア作曲の"O Caroline"で始まる「Matching Mole」を'72年に発表する。メンバーは CARAVAN を脱退したデイヴ・シンクレア、HATFIELD AND THE NORTH 加入前のフィル・ミラー、後のQUIET SUNのベースのビル・マコーミック。 ユーモラスでアバンギャルドなポップ・ミュージックと言われているが、このアルバムには、インストゥルメンタルなサイケデリック・ジャズロックもあり、特徴はワイアットのヴォーカル、 スキャットがメインのインプロヴィゼーションによる曲構成と、スタジオでのテープ逆回転、電子音の反響とノイズ、ざわめく効果音などによる録音テクニックによってエディトリアルされていることだ。

side one:1.O Caroline 2.Instant Pussy 3.Signed Curtain 4.Part of the Dance
side two:1.Instant Kitten 2.Dedicaded to Hugh, But You Weren't Listening 3.Beer as in Braindeer 4.Immediate Curtain
Robert Wyatt(Mellotoron, Piano, Drums, Voice) David Sinclair(Piano, Organ) Phil Miller(Guitar) Bill MacCormick(Bass Guitar) Dave McRae(Electoric Piano)
Recorded at CBS Studios,London, Dec.1971 / Jan.1972 and mixed at Nova Studios,London February 1972
Produced by MATCHING MOLE
cover illustration Alan Cracknell
CBS 1972

MATCHING MOLE/LITTLE RED RECORD
(CBS 65260)
'72年発表されたセカンド。 デイヴ・シンクレアの名前はもはやここにはなく、ファーストでもクレジットされていたデイヴ・マクレエのエレクトリック・ピアノ、ブライアン・イーノのシンセサイザーをフィーチャーした当時では実験的な、今で言う音響系、ミュージック・コンクレートの手法を使った即興演奏がメインのアルバム作りがなされている。唯一、ラストの「Smoke Signal」は、ソフトマシーンを意識したのだろうか(いまにして思えばロバート・フリップは、イアン・カーの「Belladonna」、ニュークリアスの「Elastic Rock」などの当時ブリティッシュ・ジャズ・シーンで起こっていた先駆性を感知し影響されていたのじゃないかとボクは勘ぐっている)、金属質のエレクトリック・ピアノのフレーズやビル・マコーミックのベース、ロバート・ワイアットのドラムが絶妙に絡むフリーフォームなジャズグルーヴを聴かせて圧巻だが、アルバム全体としては、プロデューサーのロバート・フリップは、ロバート・ワイアットの魅力を充分に引き出せたとは言えない。当時アンチジャズを公言していたブライアン・イーノのVCS 3シンセサイザーだって、いまにして思えば作為的に脱構築を図る稚拙なノイズとして使われているに過ぎない。(イーノとは70-90年代にかけて、ロンドンとニューヨーク、東京で3度インタヴューする機会があって思い入れはあるが、彼はやはりひとりのミュージシャンというよりも時代を先取りするプロデューサーやコンセプトメーカーとしての才能のほうが秀でていた)。マッチング・モールは、このアルバム発表後解散することになるのだが、ワイアットはあの悲惨な事故に遭いドラマーとしての生命を絶たれてしまう。 フリップ & イーノの'73年の「No Pussyfooting 」などにみられたコラボレーションは、このアルバム制作時での出会いから始まった。

side one:1.Starting In The Middle of The Day We Can Drink Our Politics Away 2.Marchides 3.Nan True's Hole 4.Righteous Rhumba 5.Brandy As Benj
side two:1.Gloria Gloom 2.God Song 3.Flora Fidgit 4.Smoke Signal
Recorded at CBS Studios, London, Aug.31, 1972
Robert Wyatt(Drums, Voice) David McRae(Piano, Electoric Piano, Organ, Synthesizer) Phil Miller(Guitar) Bill MacCormick(Bass Guitar) Eno(VCS 3-on "Gloria Gloom" ) Dave Gale(Vocal) Julie Christie(Vocal) Alfreda Benge(Vocal)
Produced by Robert Fripp
CBS 1972

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