RIP RIG + PANIC

RIP RIG + PANIC
uh huh!
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 64

ディック・オディールがYレコードではなくリップ・リグ・パニックのためのレーベル"uh huh!"を設立し、ヴァージン・レコードの配給を使って1stアルバム「GOD」をリリースしたのが'81年の夏、丁度ボクはその時取材旅行のためにロンドンに滞在していて、タイミング良く年に一度8月最後のバンクホリデーの週末に行われるノッティングヒル・カーニバルに遭遇し、街全体がサウンドシステムから流れるダブやレゲエの重厚なベース音と、スティールドラムの軽やかで涼し気なジャマイカ、トリニダード風のカリビアンな音で溢れていて、トロピカルな南国の風情を醸していた。そのポートベロー・ロードの一角
にセッティングされた野外ステージでリップ・リグ・パニックがライヴをやるというので、スタンディング席の最前列に陣取って彼らの生の音にじかに触れたのだが、フリージャズとジャズファンク、パンクとスウィングの混合したダンサブルな音楽を展開していた。ハチャメチャ激走ナンバーの、ローランド・カークのアルバム"Roland Kirk / Rip Rig & Panic"から引用されたバンド名を持つリップ・リグ・パニックは、ポップグループを離れた後のギャレス・セイガー(ギター、サックス)とブルース・スミス(ドラムス)が、ポップグループのライブにピアノ、キーボードとして参加していたマーク・スプリンガー、黒人ベーシストのショーン・オリバーを加え、ネネ・チェリー(Neneh Cherry)をヴォーカルにフィーチャーしてリップ・リグ+パニック(Rip Rig + Panic)を結成した。彼らもまた80年代を象徴する短命なバンドだった。
RIP RIG + PANIC/GOD(uh hoh! V2213)
ヴァージンから3枚のアルバムと数枚の12インチシングルを発表した後、Float Up CPというバンド名に変えてアルバムを発表しているが、リップ・リグスのような反響は得られなかった。ギャレス・セイガーは一時トンプソン・ツインズのメンバーでもあった。現在はPregnantとというバンドで活動しているらしい。ブルース・スミスはスリッツやNew Age Steppersなどに関わりながら、解散後はNeneh Cherry やビョーク、PIL、THE THEなどで幅広く活躍していた。1stアルバムのパンキッシュなジャズファンクも棄てたものじゃないが、彼らの残した作品のなかではやはりネネの義父でもあるドン・チェリーのトランペットをフィーチャーした2ndの「i AM COLD」は現在のクラブジャズ・ファンにもマストアイテムのひとつに推薦したいほどの"ジャズ的なる"音楽が収録されている。ドン・チェリー(1936-1995)はアメリカのオクラホマ州出身のジャズ・ミュージシャン、トランペット奏者で、オーネット・コールマンやジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、アルバート・アイラーとも共演し既成のジャズ概念を大きく変え新しい自由な即興空間を作ってきたが、 その後ヨーロッパに拠点を移し、ガトー・バルビエリ(sax)を迎えた自己のグループを率いて代表作の一つとされる「シンフォニー・フォー・インプロバイザーズ」などを発表したり、ナナ・ヴァスコンセロス(per)らとともに結成した"コドナ"など、亡くなるまで正統派のバップを屈折させたようなジャズからアジア、アフリカの民族音楽、ワールド・ミュージックの要素を反映させたスピリチュアルでオーガニック、アヴァンギャルドなグルーヴを持つジャズを演奏する特異な存在でもあった。多過ぎるほどある80年を境に発表されたこの時代の作品では、リップ・リグスのものが今のボクには最もベストなものかも知れない。

RIP RIG + PANIC/GOD(uh hoh! V2213)
「LIFE」誌に掲載されたジョン・ドミニスの、豹に襲われ殺される寸前の恐怖に引き攣りパニくるヒヒの写真がジャケット使われた45回転2枚組1st。45回転2枚組というDJ用の仕様も当時のダンサブルな音楽シーンが反映されたものである。当時彼らは全員医者やアーティスト、軍人の家庭で育った20-21歳の若いミュージシャンだったが、育ちの良い知的さがやはり音楽にもあらわれている。リップ・リグスの音楽の要はなによりもショーン・オリーバーのベースとブルース・スミスのリズムセクションの肉体的な安定したグルーヴにある。サン・ラやジェームス・ブラウンなどの音楽にみられるスピリチュアルと、ファンキーなブラスが交錯するパンキッシュなジャズである。ヴォーカルにネネ・チェリー、スリッツのアリ・アップがフィーチャーされている。
RED SIDE:1.Constant Drudgery Is Harmful To Soul, Spirit & Health 2.Wilhelm Show Me The Diagram (Function Of The Orgasm) 3 .Through Nomad Eyeballs 4.Change Your Life
YELLOW SIDE:1.Knee Deep In Shit 2.Totally Naked (Without Lock Or Key) 3.Try Box Out Of This Box 4.Need (De School You)
GREEN SIDE:1.Howl! Caged Bird 2.Those Eskimo Women Speak Frankly 3.The Blue Blue Third
BLUE SIDE:1.Shadows Only There Because Of The Sun 2.Beware (Our Leaders Love The Smell Of Napalm) 3.Miss Pib 4.It Don't Mean A Thing If It Ain't Got That Brrod
RIP RIG + PANIC:Gareth Sager,Sean Oliver,Mark Springer,Bruce Smith+Neneh,Ari,Flash
uh huh!/VIRGIN 1981

RIP RIG + PANIC/i AM COLD(uh hoh! V2228[12"×2])
ピカソのリトグラフ、ロートレアモンの肖像画の素描がジャケットに使われた45回転2枚組2nd。ドン・チェリーのトランペット、フラッシュのサックス、ジェズ・パーフィットのバリトン・サックスなど6管以上の管楽器と、マーク・スプリンガーのフリーフォームなピアノ、ヴィオラ、チェロなどの弦楽器の導入、サウンド・コラージュ、ダブなどのレコーディング・テクニックなどによって贅沢過ぎるほどに演出されたこのアルバムでの音楽は、ファーストのようにフリーフォームではあるが、よりブラックジャズの文脈に添った構造のなかで、ミニマルやエリック・サティの語法や印象主義的な音の断片すらも感じられ、彼らの最高作であり普遍的な名盤の1枚としていつまでも語り継がれるだろう。これこそが"ジャズ的なるもの"という音楽なのだ。
North Side:1.Hunger (The Ocean Roars It Bites) 2.Epi Epi Arp Woosh! 3.Another Tampon Up The Arse Of Humanity 4.Misbu Luba (Lone Wolf)
East Side:1.Storm The Reality Asylum 2.Here Gathers Nameless Energy (Volcanoes Covered By Snow) 3 .A Dog's Secret 4.Liars Shape Up Or Ship Out
South Side:1.Warm To If In Life 2.Nurse Increase The Sedatives (The Torment's No Better) 3.Take A Don Key To Mystery
West Side:1.Tax Sex 2.Subversive Wisdom 3.Fire Eyes Joyful Silent Tears
RIP RIG + PANIC・Composers + Producers;Gerath Sager,Mark Springer,Bruce Oliver *Don Cherry(trumpet) Neneh Cherry(vocals) Jez Parfitt(baritone saxophone) Flash(saxophone) David De Fries(trumpet) Andrea Oliver(vocals) Giles Leaman(percussion) Steve Noble(drums) Sarah Sarahandi(viola) Debbie(cello) Alph Wait(trombone)
cover lithograph:Picasso
VIRGIN 1982

※「God」、「i Am Cold」、「You're My Kind Of Climate」の3枚のジャケット・デザインはロンドンのJill Mumfordのチームによるもので、XTC「drums & Wires」、PIL「Flowers Of Romance」のジャケットも手掛け、当時ニューウェイヴの売れっ子のグラフィック・デザイナーだった。

RIP RIG + PANIC/ATTITUDE(V 2268)
side 1:1.Keep The Sharks From Your Heart 2.Sunken Love 3.Rip Open,But Oh So Long Thy Wounds Takes To Heal 4.Do The Tightrope 5.Intimacy,Just Gently Shimmer 6.How That Spark Sets Me Aglow
side 2:1.Alchemy In This Cemetery 2.Beat The Beast 3.The Birth Pangs Of Spring 4.Eros,What Brings Colour Up The Stem 5.Push Your Tiny Body As High As Your Desire Can Take You 6.Viva X Dreams
all tracks written by Rip Rig and Panic
produced by Gareth Sager & Adam Kidron
RIP RIG + PANIC:M.P.Z. Springer,Hoog Oliver,Lurid Sager,Biffeda Smith,Banana Cherry,Flush,s.Sarahandi,Stove Noble,D.D.Defries,Woo Honeymoon,Andrea Hoogess.
VIRGIN 1983
ネネ・チェリーのヴォーカルとブラスのテーマ・ユニゾンにジャズファンク/ダンスミュージックとしての要素が強く押し出されパンキシュにスウィングする3rdアルバム。効果的に挿入される自由奔放にプレイするスプリンガーのピアノと、それに絡むストリングスがアルバム全体のロマンティックでエキゾシティズム、アブストラクトな気配を作り上げている。

RIP RIG + PANIC/BOB HOPE TAKES RISKS(VS 468-12)
A side:Bob Hope Takes Risks
B side:Hey! Mr.E a Gren with a Shake of Smile
engineered by Tim Hunt
painting by Mike Springer
produced & composed by R.R.A.P.
VIRGIN 1982
ジャケット裏には「アンダルシアの犬」の有名な眼球切断のシーンが使われている。


RIP RIG + PANIC/YOU'RE MY KIND OF CLIMATE(VS507-12)
side one:You're My Kind Of Climate
side two:She Gets So Hungry at Night/She Eats Her Jewellery
special thanks to Swinging Derek(weazel) Hanham
picture credit:Jean Cocteau
composed and produced by R.R.A.P.
VIRGIN 1982
ジャン・コクトーが監督した映画「詩人の血」(1930)のワンシーンがジャケットに使われている。

RIP RIG + PANIC/STORM THE REALITY ASYLUM(VS 533-12)
side 1:Storm the Reality Asylum8Extended Version)
side 2:1.Leave Your Spittle In The Pot 2.It's Always Tit For Tac You Foolish Brats
composed + produced by Rip Rig + Panic
VIRGIN 1982


RIP RIG + PANIC/BEAT THE BEAST(VS 577--12)
side 1:Beat The Beast(sob Sob I'm Gonna Jail This Hell Hole Itch)
side 2:1.1619,A Dutch Vessel Docked 2.In The USA With 20 Humans For Sale
produced by G.Sager and A.Kidron
VIRGIN 1983

RIP RIG + PANIC/DO THE TIGHTROPE(VS 582-12)
side 1:Do The Tightrope
side 2:1.Blip This Jig It's Shamanic 2.Do The Tightrope(Instrumental)
produced by G.Sager & A.Kidron
VIRGIN 1983

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