SCRITTI POLITTI
MILES DAVIS
ROUGH TRADE
VIRGIN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 68
スクリッティ・ポリッティとマイルス・デイヴィス
ポストパンク・フェーズのアレサ・フランクリンにインヴォルヴドしていた'82年のアルバム「Song To Remember」、'88年のダンスミュージックを脱構築した(とグリーン本人が言っている)マイルス・デイヴィスとのコラボレート「Provision」までのスクリッティ・ポリッティが残した数枚の作品を聴いていると、'88年のそのアルバムを最後にウェールズにリタイアしたグリーンならずとも、"失われた10年"という時代を前にした80年代のあの忌まわしいフラットな時代を思わずにはいられない。
MILES DAVIS/TUTU(WPCR-2743)
1.Tutu 2.Tomaas 3.Poritia 4.Splatch 5.Backyard Ritual 6.Parfect Way 7.Don't Lose Your Mind 8.Full Nelson
Miles Davis(trumpet) Marcus Miller(bass) Jason Miles/Adam Holzman/Marcus Miller(synthesizer programming) Paulinho Da Costa(percussion) Steve Reid(percussion) George Duke(percussion,bass,trumpet) Omar Hakim(drums,percussion) Bernard Wright(synthesizer) Michael Urbanik8electric violin)
produced by Tommy LiPuma and Marcus Miller
recorded 1-3 1986
WARNER BROS. RECORDS 1986
プリンスとの問題でゴタゴタしていた時期のマイルスのワーナー移籍後の1作目。ほとんどの楽曲をマーカス・ミラーが担当したベーシック・トラックのうえをマイルスがオーバーダヴィングして仕上げるロック的手法を使って構築した初めての作品。"Splatch"などの、現在のクラブジャズでも充分そのままDJイング可能なダウンテンポのアブストラクトなグルーヴには、20年前の作品だとは思えないほどの輝きがあり、スクリッティ・ポリッティの曲"Perfect Way"のリメイク・カヴァー抜きにしても早く聴いておけばよかったと思わせた作品だ。
Miles Davis - Tutu Medley
http://www.youtube.com/watch?v=SrK5FxKKteI
Miles Davis tutu partie 1
http://www.youtube.com/watch?v=jidx4uSJLlU&feature=related
SCRITTI PORITTI+MILES DAVIS/OH PATTI(VSX 1006)
Oh Patti(don't feel sorry for ivoryboy)
Oh Patti(instrumental)
vocal:Green Gartside keybords:David Gamon drum programme:Fred Maher trumpet:Miles Davis guitar:Don Huff b.vox:Eric Troyer+Rory Dodd synclavier assistance:John Mahoney+Ray Niznik drum samples recorded by John Potoker
produced by Gartside+Gamson
engineered by Ray Bardani
mixed by Mike Shipley
recorded at Atlantie Studios,N.Y.,Minot Studios,White Plains,N.J., Britannia Row Studios,London.
VIRGIN RECORDS 1988
'88年にスペシャル・エディションで発売されたマイルスとのコラボレーション"OhPatti"の7インチシングル・ボックスケース。箱のなかにはカラーポスターとポストカード3枚、スタンプシートが付録についている。あの独特の黒っぽい声からしても、グリーンのヴォーカリストとしての才能はブライアン・フェリーにも劣らない。"Oh Patti"はあのフェリーの"アバロン"にも似て、そのもの哀しげなメロディーは、いまも当時の恋の思い出とともにボクの心に残っている。そしてマイルスのトランペットの音がメランコリックだ。
SCRITTI POLITTI/ASYLUMS IN JERUSALEM(RT 111T)
'82年のマキシシングル「Asylums In Jerusalem」のサイドAAの「Jacques Derrida」ではアルジェリア出身のフランスのユダヤ系哲学者で、ポスト構造主義のエクリチュール(書かれたもの、書法、書く行為)の特質、差異に着目し、脱構築、散種、差延、グラマトロジー等の概念を生み出した"ジャック・デリダ"や、他にもウィトゲンシュタインの論理哲学論考のトラクテイタスという記号を意味もなく曲のタイトルに使っていて、'83年には浅田彰のベストセラー"構造と力"に"クラインの壷からリゾームへ"と題してスクリッティ・ポリティのそのことに触られていてなぜか笑ってしまったが、グリーンにとってはイタリアのマルクス主義のアントニオ・グラムシの政治的書簡での言葉からとられたグループ名のスクリッティ・ポリッティですら、単に情熱をかきたてるもの、別の道を暗示すもの、変化をうながすもの、共同体の絆になりうるものであり、とりたてて深く考えて引用したものではなかった。マイルスもそうだが、ロックはもう既にすべてのものをリゾーム状に横断していたし、ボクがロックマガジンでやったことは、その実践だったのだ。80年代のバブルの都市をディスコ・ミュージックが席巻していた時代にメディアでもてはやしていた、あのニューアカや新人類とはいったいなんだったんだろうか。彼らは所詮は芸大の助教授か大学の非常勤講師の職を得るために"それてき"なフリをしていただけか。ボクはマルクス主義に微塵も興味はないが、グラムシといえばイプセンの"人形の家"などの内向的な芸術を賞賛していたにもかかわらず、一方で前衛芸術運動であった初期の未来派のF.T.マリネッティの行動の理念を共有し"新しさ"を一つの秩序としてみていて、"新しさ"という概念が既存の秩序を破壊するものとしていた彼のその論考は好きだった。まあ現在、新しいものを探すのも困難な時代だが・・。
SCRITTI POLITTI/SONGS TO REMEMBER(ROUGH 20)
スクリッティ・ポリッティは、イギリスのウェールズ出身のグリーン・ガートサイド (Green Strohmeyer-Gartside) が、リーズのアート・スクールの友人Tom Morley (drums)とセックス・ピストルズにインスパイアされ'77年に結成したもので、後にベーシストのNial Jinks 、キーボーディストのMatthew Kayを加え活動を始める。音楽的にはグリーンの'79年の病気での長い療養生活を強いられた時期に目覚めたレゲエやファンク、R&Bなどのブラック・ミュージックに根を持つものだ。その後、'82年にラフ・トレードから「Songs to Remember」でデビューし、その中性的なヴォーカルとファンクテイストのブラック・ミュージック、少しのカンタベリー系サウンドが入り混じったアヴァンポップな音楽を展開していた。'84年にDavid Gamson (keyboards)とFred Maher (drums)を新たにメンバーに加えスクリッティ・ポリッティをシンセ・ポップ・グループとして再編し、'85年に「Cupid & Psyche 85」をヴァージン・レコードからリリースしている。レゲエからソウル、ファンク、R&Bを横断するエレクトリック・ソウルが収録されているが、このなかの"Perfect Way"は、'86年のマイルス・デイヴィスのアルバム「TUTU」でリメイク・カヴァーされている。マイルス・デイヴィスとの関わりは「TUTU」を実質上プロデュースしたMarcus Millerとの関係によって生まれたのだが、80年代以降のマイルスは、長いブランクの後の、アメリカのベーシスト、音楽プロデューサー、作曲家・編曲家であるマーカス・ミラーのサポートによって活動していたが、バンドを従えずあらかじめ出来上がったトラックの上にトランペットをかぶせるスタジオミュージシャンのような制作スタイルを取り入れていて、スクリッティ・ポリッティの'88年の「Provision」の"Oh Patti"でもマイルス・デイヴィスはトランペットでセッションしている。
SCRITTI POLITTI/PROVISION(V2515)
デジタル・シンセサイザー(YAMAHA DX7)やゲート・リバーブを多用した80年代サウンド=シンセポップ/テクノポップ/ディスコ・ミュージックはなんとまあ没意味でフラットな"おバカ"音楽だろうかと、いまさらながら呆れてしまう。80年代とは"ブランド" 、"おいしい生活"、"六本木のWAVEに象徴される西武セゾン系の大手流通業文化"などなど、当然のことながら"別冊宝島"が特集を組んでいた"80年代はスカ(はずれ、空っぽ)"の時代だったのだ。まるで脳天気なあの時代のBGMに相応しいのがスクリッティ・ポリッティの最高傑作(笑)「Cupid & Psyche 85」や、「Provision」でのテクノポップ/ディスコ・サウンドである。その後、スクリッティ・ポリッティは自然消滅していく。近年では、クラブミュージックに接近した音楽を展開している99年「Anomie & Bonhomie」、2006年「White Bread Black Beer」を発表し、再び精力的に活動しているらしい。いまとなっては初期のラフトレードからの作品と、マイルス・デイヴィスのトランペットが聴ける"Oh Patti"、マイルスがリメイクしている"Perfect Way"以外は、彼らの音楽に興味はない。それは80年代中期から後期のあの忌まわしいフラットな時代を振り返ることさえもボクは意識的に拒否しているからだ。酷い最低の時代だったぜ!
SCRITTI POLITTI/ASYLUMS IN JERUSALEM(RT 111T)
A:Asylums In Jerusalem
AA:Jacques Derrida
Green(vocals,guitar) Joe Cang(bass) Mike McEvoy(keyboards) Tom Morley(linndrums) Robert Wyatt(keyboard) etc.
ROUGH TRADE 1982
SCRITTI POLITTI/SONGS TO REMEMBER(ROUGH 20)
side one:1.Asylums In Jerusalem 2.A Slow Soul 3.Jacques Derrida 4.Lions After Slumber 5.Faithless
side two:1.Sex 2.Rock-A-Boy Blue 3.Gettin' Haven' & Holdin' 4.The Sweetest Girl
all songs written by Green
Green(vocals & guitar) Hial,Joe(bass) Robert,Mike(keyboards) Tom(drums) Jamie(saxophone) Mgotse8double bass) Lorenza,Mae,Jackie(backing vocals)
produced by Adam Kidron and Green
recorded at Barry St.Studios London/Island Studio
ROUGH TRADE 1982
SCRITTI POLITTI/PROVISION(V2515)
Boom! There She Was/Overnite/First Boy In This Town (Lovesick)/All That We Are/Best Thing Ever/Oh Patti (Don't Feel Sorry For Loverboy)/Bam Salute/Sugar And Spice/Philosophy Now
Green Gartside(vocals) David Gamson(key and drum programming) Fred Maher(drums and drum programming) Marcus Miller(bass) Dan Huff(guitar) Fonzi Thornton,B.J.Nelson,Tawatha Agee,Eric Troyer,Rory Dodd,Green Gartside(backing vocals9 Bashiri Johnson(percussion) Roger Troutman(voice box) Miles Davis(trumpet)
VIRGIN 1988
SCRITTI POLITTI/4 A-Sides (ROUGH TRADE RT 027)
A:1.Bibbly-O-Tek 2.Double Beat
B:1.Confidence 2.P.A.s
ROUGH TRADE 1979
SCRITTI POLITTI/THE SWEETEST GIRL(ROUGH TRADE TRADE2/12)
A:The Sweetest Girl
with Robert Wyatt
engineer:Adam Kidron
B:Lions after Slumber
with Mike Macavoy
engineer:Adam Kidron
ROUGH TRADE 1981
SCRITTI POLITTI/FAITHLESS-TRIPLE-HEP N'BLUE-(RT 101)
A:Faithless
B:Faithless Part II
Green(vocals,guitar) Mike MacEvoy(synthesizers,vocoder) Joe Cang(bass) Tom(drum machine) Lorenza,Mae,Jackie(backing vocals) Jamie Talbot(saxophone) Steve Sidwell(trumpet)
written and arranged-Green
produced-Green and Adam Kidron
engineeres-Nigel Mills,Stuart Henderson,Dave Jacob
organisation-Matthew
recorded at Island Studios Basing Street December-January 1981-82
ROUGH TRADE 1982
SCRITTI POLITTI/WOOD BEEZ(VS 657-12)
A:Wood Beez(pray like Aretha Franklin)
B:Wood Beez(version)
vocal;Green synthesizers:Robbie Buchanan/David Frank/David Gamson guitar:Paul Jackson jnr. drums:Steve Ferrone backing vacals:Fonzi Thornton/Tawatha Agee/B.J.Nelson
produced + edited by Arif Mardin
recorded + mixed at Power Station + Atlantic Studios New York
VIRGIN 1984
SCRITTI POLITTI/ABSOLUTE(VS 680-12)
A:Absolute
B:Absolute Version
vocal;Green synthesizers:Robbie Buchanan/David Frank/David Gamson guitar:Paul Jackson jnr. bass:Will Lee drums:steve Ferrone backing vacals:Fonzi Thornton/Tawatha Agee/B.J.Nelson
recorded + mixed at Power Station + Atlantic Studios New York
VIRGIN 1984
SCRITTI POLITTI/HYPNOTIZE(VS 725)
A:Hypnotize
B:Hypnotize (version)
made by Gartside,Gamson+Maher with Nick Moroch & B.J.Nelson
engineered by Ray Bardarni(new york) mixed-Gary Langan(london)
VIRGIN 1984
SCRITTI POLITTI/CUPID & PSYCHE 85(VIRGIN V-2350)
The Word Girl /Small Talk/Absolute/A Little Knowledge/Don't Work That Hard/Perfect Way/Lover To Fall/Wood Beez (Pray Like Aretha Franklin) /Hypnotize
VIRGIN 1985
スクリッティ・ポリッティの音楽にとってプロデューサー、アリフ・マーディンの存在は大きかっただろう。彼はチャカ・カーン、ジョージ・ベンソン、カーリー・サイモンを手掛けたプロデューサーとしても有名だが、スクリッティ・ポリッティの音楽にみられるアメリカナイズされたディスコ・サウンドは、勿論グリーンのモータウンサウンドへの傾倒がそうさせたのだろうが、それが結局マイナス要因だったような、そんな気がする。
Scritti Politti
http://www.youtube.com/results?search_query=Scritti+Politti+&search_type=