BRIAN ENO / HAROLD BUDD / JARAAJI

BRIAN ENO
HAROLD BUDD/JARAAJI
AMBIENT
MUSIC FOR FILMS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 70

"AMBIENT アンビエント・ミュージック"
’78年にEGからリリースされたブライアン・イーノのアンビエント・シリーズの1枚目「Music For Airports」のライナーでイーノは、"特に環境におけるバックグラウンド機能として設計された音楽の概念はミューザックincによって開拓され、50年代以来、ミューザックという用語によって一般的に知られるようになっています。そのミューザックの内包した表現をアンビエント・ミュージックに関連づけたもの。聞き覚えのある曲は、独創性のない軽い管弦楽に編曲され、それはエンヴァイロメンタル・ミュージックに注意をうながすために意識したもの。
BRIAN ENO/AMBIENT 1 Music For Airports(EG AMB 001)
過去3年間、環境としての音楽に関心を持ち、こうした方法と領域での自身の実験音楽と使用できる素材を探してきた。私はアンビエント・ミュージックという用語を使い始めよう。アンビエンスとは雰囲気と定義され、または周囲/環境からの影響:色あい、ほのかな色。私の意図は様々なムードと雰囲気に添った環境音楽のオリジナルの断片をプロデュースすることである。従来のバックグラウンド・ミュージックは、音楽から不確実性と疑わしい状態の感覚を剥ぐことによって制作されるが、アンビエント・ミュージックはこれらの特質を保持/保有する。彼らの意図はそれに刺激を加えることによって環境を輝かせることだが、アンビエント・ミュージックは、人工的に静穏と空間を引き起こす。アンビエント・ミュージックは、意識を集中させて傾聴することと同時に、その音楽を無視することが可能だ"とアンビエント・ミュージックを定義していた。アンビエント・ミュージックは往々にしてスピリチュアルなヒーリング・ミュージック、精神世界を意味するニューエイジでカテゴライズされるが、それは間違っている。エリック・サティの印象主義ともいえる"家具音楽(Musique d'ameublement)"に端を発する、テリーライリーのミュジーク・コンクレート、フィリップ・グラスのミニマリズムの流れに加え、イーノ自ら認めているマイルス・デイビスと、彼のアルバム“Bitches Brew” や“In a Silent Way”などのプロデューサーで、つい先日逝去したジャズ・サキソニストのテオ・マセロ(ロックファンにはラウンジ・リザーズのファーストアルバムのプロデュースで知られた)のムード(モード)ジャズの影響下にあるもので、70年代後半にブライアン・イーノが提唱したアンビエントという新たな文脈にある音楽だ。
「Music For Airport」は、空港という場が持つその環境下の機能を考慮し作曲され、この音楽は実際にニューヨークのラガーディア空港で使用されていたことがある。文字通り"空港のための音楽"である。ミニマル・ミュージックの手法による4曲のインストゥルメンタルで、曲名には単に記号としての番号がふられているだけで、"1/1"はピアノとシンセサイザー主体、"1/2"は肉声のみで演奏されるミュジーク・コンクレートを思わせる曲であり、"2/1"は肉声とピアノ、"2/2"はシンセサイザーのみで演奏されている。
以下はイーノ自身による解説だ。●このアルバムは1つの目的の最小公倍数で成り立っている。私はここで面白い音楽を作り出そうとは思わなかった。純粋に、空港で流れるようなものを作りたかったのだ。そして私の音楽によって非行は耐え難い、不愉快なものではなく楽しいことだと思ってもらいたい、というのは私が常に飛行機での旅行を好まないからだ。●アルバムの中の1曲では非常に長いテープループ、50、60、70フィート相当のものをいくつも使用している。その数は全部で22。あるループにはピアノ音だけが入っている。あるいはループには女性の声、10秒ほどの長さのものが入っている。女性の声のループが8本、ピアノ音のループが14本、私はこれだけを使用した。そして構成は意図せずループの動くままにまかせた。結果は最高だった。●この曲はみんなが想像するようにメカニカル、あるいは数学的には実際、聞こえない。一人の男が緊張してピアノを弾いているように聞こえる。空間的広がり、ダイナミックさを感じさせる彼の演奏は非常に組織的だ。●この曲が出来上がり、私が聞き返したとき、ただ1つ、気に入らないピアノ音があった。間違った場所に入り込んだようなその音を私は編集の際に取り除いた。システムは常に正しい。システム・コンポーザーはそれゆえにこのようなことに出会う。システムを変更させることはむやみには出来ない。システムは自分がそう判断する限り正しいものだ。もし何かの理由でシステムが気に入らないとしたら、そのときは自分の直感を信じるべきだ。私はシステムに対し、教義的アプローチは望まない。

BRIAN ENO/AMBIENT 1 Music For Airports(EG AMB 001)
エンジニアのRhett Davisは、イーノの'73年「Taking Tiger Mountain」、'75年「another Green World」、'77年「Before And After Science」からアンビエントまですべてのレコードに関わっていたといっていいほど。このアルバムではコニー・プランクの名前もクレジットされ、エンジニアを最も重要視していたことがうかがえる。
A:1/1(Eno/wyatt/Davies) 2/1 (Eno)
B:1/2 (Eno) 2/2 (Eno)
all compositions by Brian Eno except 1/1 which was co-composed with Robert Wyatt (who also played acoustic piano on this track) and Rhett Davies. the voices on 2/1 and 1/2 are those of Christa Fast. Christine Gomez and Inge Zeininger. engineering was by David Hutchins(2/1,1/2). Conny Plank(2/2),Rhett Davies(1/1) and Brian Eno. concept,design and production by Brian Eno.
EG RECORDS 1978

HAROLD BUDD+BRIAN ENO/AMBIENT 2 The Plateaux Of Mirror(EG EGAMB 002)
ハロルド・バッドの作曲とピアノ演奏をイーノが編曲したコラボレーション。閑静な住宅街のどこかの開け放たれた窓から流れてくるピアノレッスンのような、たおやかでメランコリックで静謐なサウンドスケープである。
A:1.First Light 2.Steal Away(Harold Budd and Eugene Bowen) 3.The Plateaux Of Mirror 4.Abobe Chiangmai 5.An Arc Of Doves
B:1.Not Yet Remembered 2.The Chill Air 3.Among Fields Of Crystal 4.Wind In Lonely Fences 5.Falling Light
all songs Harola Budd and Brian Eno
Harold Budd(acoustic and electric piano) Brian Eno(other instruments and treatments)
special thanks for their help and co-operation to Bob and Danny Lanois at Grant Avenue Studio,Ontario, to Eugene Bowen at the Old Rugged Cross and to Roddy Hui.
produced by Brian Eno.
EG RECORDS 1980

JARAAJI/AMBIENT 3 Day Of Radiance(EG EGAMB 003)
ララージ(Laraaji、本名エドワード・ゴードン)の作曲したものに、ハンマーダルシマー・ツィンバロムとチター演奏をイーノがエレクトロニック処理したアルバム。
A:1.The Dance #1 2.The Dance #2 3.The Dance #3
B:1.Meditation #1 2.Meditation #2
all compositions by Laraaji
special thanks to Roddy Hui.
produced by Brian Eno.
EG RECORDS 1980

BRIAN ENO/AMBIENT 4 On Land(EG EGED 20)
アンビエント・シリーズでのイーノのソロ2作目。"Shadow"でのジョン・ハッセルのトランペット・ヴォーカルとイーノのシンセサイザーの絡みは先にジョン・ハッセルとの共作として発表されたFourth Worldとは違いどこまでも緩やかなうねりが延々と続く。加速して変化していく当時の時代の速度を制御するかのようなスローモーション・サウンドは、このアルバム全体を通してのイーノの意図でもある。いまでは大画面TVの普及で珍しくもないが、アンビエント・スピーカー・システムとして、3台のスピーカーに囲まれたサラウンド・システムで聴くことを促している。
A:1.Lizard Point(Eno/Beinhorn/Gods/Laswell) 2.The Lost Day 3.Tal Coat 4.Shadow
B:1.Lantern Marsh 2.Unfamiliar Wind(Leeks Hills) 3.A Clearing 4.Dunwich Beach,Autumn.
all compotitions by Brian Eno
musicians:Michael Beinhorn(synthesizer) Axel Gros(guitar) Bill Laswell(bass) JOn Hassell(trumpet) Michael Brook(guitar) Dan Lanois(live equalization)
the frogs on 'Leelas Hills' were recorded in Choloma,Honduras by Felipe Orrego
engineers and studios:Danny Lanois:Grant Avenue Studio,Ontario,Canada/Jon Potoker:Sigma Sound,New York/Julie Last/Charyl Smith:Celestial Sound,New York Neal Teeman:RPM Studio,New York Andy Lydon/Bari Sage:Basing Street,London,England Martin Bisi:OAO Studio,Brooklyn
mastering:Greg Calbi at Sterling Sound,New York
recorded between September 1978 and January 1982
produced by Brian Eno.
EG RECORDS 1982

Brian Eno AMBIENT
http://www.youtube.com/results?search_query=ENO+AMBIENT&search_type=

イーノも言い切っているが、言語学や記号学は理屈っぽく難解過ぎて、そのシステムの教義的なものにボクも興味はないが、言葉、画像、音、匂い、味、動作などは、本来意味を有しているものではなく、それらに意味をまとわせるとき記号となるとソシュールは言っているが、概念と音のパターンの関係である言語的な記号というものから、当時のイーノは距離をとろうとしていたのだとボクは考えている。音楽に言葉の意味など不要なのだ。言葉がはいるとそこには情動的/感情的な物語的風景が生まれる。音響は振動/波形という物理的なものであって、聴き手にとっては感覚の形跡として残るもので、音響の心理的印象により聴き手に与えられる直感/感覚的ものだ。だから音響はそもそも意味を持った言葉ではなくより純粋な記号に近いものだとボクは思っている。アンビエントやミュージック・フォー・フィルムスでイーノがやりたかったことは、なによりもロックや言葉の意味からの逃走だったと思っている。

"MUSIC FOR FILMS"
BRIAN ENO/MUSIC FOR FILMS
(POLYDOR SUPER 2310 623)
75年から78年までに書き上げた18曲の小作品を集大成したかのようなこの作品には、イーノのロック・イディオムへの未練と決別のアンビヴァレンツな感情が聴こえてきて、微かなロックのメランコリックな香りが残されている。彼の音楽の過渡期を意味する最も重要な作品で、メンバーの顔も凄いアーティストがクレジットされていて、個人的には大事にしていたアルバムだ。
side one:1.M386 2.Aragon 3.From The Same Hill 4.Inland Sea 5.Two Rapid Formations 6.Slow Water 7.Sparrowfall(1) 8.Sparrowfall(2) 9.Sparrowfall(3)
side two:1.Quartz 2.Events In Dense Fog 3.'There Is Nobody' 4.A Measured Room 5.Patrolling Wire Borders 6.Task Force 7.Alternative 3 8.Strange Light 9.Final Sunset
all compositions by Brian Eno
track 4 side 2 arr. Jones/Eno. track 8 side 2 arr Frith/Eno
Percy Jones(bass) Phil Colins(percussion) Paul Rudolph(guitar) Bill MacCormic(bass) Dave Mattacks(percussion) Fred Frith(electric guitar) Robert Fripp(electric guitar) John Cale(viola) Rod Melvin(electric piano) Rhett Davis(trumpet)
produced by Brian Eno . assistant producer Rhett Davies
EG RECORDS 1978

BRIAN ENO/MUSIC FOR FILMS VOLUME 2(EGSP 2)
メランコリックでノスタルジアな音楽だ。それほど当時、我々は病んでいたのだろう。ノスタルジアという病について"ロシア人がソ連国内を旅行した時には感じないが、ひとたび外国に旅行すると必ず強く襲いかかる感情で、死に至る病いに近いとさえ言える独特のものだ"とタルコフスキーは言ってたな。80年代中期からの、あの存在の痛みと孤独感が癒えるまでにボクは10年ほどの時間を要した。
side one:1.The Dove 2.Roman Twilight 3.Matta 4.Dawn,Marshland 5.Climate Study 6.The Secret Place 7.An Ending
side two:1.Always Returning I 2.Signals 3.Under Stars 4.Drift Study 5.Approaching Taidu 6.Always Returning II
compotitions:Brian Eno/Daniel Lanois/Roger Eno
produced by Brian Eno and Daniel Lanois
recorded at Grant Avenue Studios,Ontario.
EG RECORDS 1983

"ATOMOSPHERES & SOUNDTRACKS"
BRIAN ENO with Daniel Lanois & Roger Eno/APOLLO
(EGLP 53)
ギタリスト、ダニエル・ラノワとロジャー・イーノとのコラボによるNASAのアポロ計画ドキュメンタリー番組のサントラ。美しい。21世紀のグレゴリオ聖歌だ。
side one:1.Under Stars 2.The Secret Place 3.Matta 4.Signals 5.An Ending(Ascent) 6.Under Stars II 7.Drift
side two:1.Silver Morning 2.Deep Blueday 3.Weightless 4.Always Returning 5.Stars
compotitions Brian Eno/Daniel Lanois/Roger Eno
recorded at Bob & Dan Lanois Studio
poduced by Brian Eno & Dan Lanois
mastered by Greg Calbi at Sterling Sound
EG RECORDS 1983

BRIAN ENO
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※'80年と言えばロックミュージックは完全にその力を失っていた。'80年1月のメロディ・メーカー紙でイーノも"かってはロックミュージックこそが、世界中に共通する力を持つ音楽だと信じていたが、今やもう自分にとってはそうではない"と発言していたし、'79年に1ヶ月のニューヨーク取材(イーノとの2度目のインタヴューなどの)から帰国したぼくのなかでも、すでにロックの幻想は消えつつあり、'79年のロックマガジンの特集「MUSICA VIVA」で40年代ドイツでの実験音楽であったマーラーからシュトックハウゼン、クセナキスの潮流をノイやクラフトワークのジャーマン・エレクトロニック・ミュージックに接合させたり、’80年にはエリック・サティ特集を組んだり、工作舎から松岡正剛氏のエディトリアルによる単行本”ロックエンド"を発刊して早々とロックへの決別宣言をしていて、千駄ヶ谷にあった一軒家の編集室も畳みロックを総括する態度を固めていた時期でもあった。いまから振り返れば、もはや少年のまま夢を見続けることの出来ない80年代という時代がすぐそこに差し迫っていたのだ。

Comment ( 2 )

平野隼也 :

「ロックや言葉の意味からの逃走だったと思っている」とありますが、国内ではニューエイジ、ヒーリングというものとして捉えられていましたが、海外の音楽評論家はどういう捉え方をしていたのか気になります。

89年のFOOL'S MATEで、イーノのインタビューが掲載されていました。その中で「ロックについてどう思うか」と問われ、「どうしょうもないほどつまらなくなってきている。〜中略〜今はむしろ産業側の方が、まだアヴァンギャルドで、アーチストのやっている事よりもレコード会社の方が先に進んでいたりする」と答えています。
そして「常に変化を受け入れる態勢でいるということをアートは人に教えることが出来ると思う」と言っていたのが印象的でした。

東山 聡 :

僕自身、80年代の中頃くらいになると、この手の音楽はあまり聴かなくなっていました。これと言った好きなものが無かったのもありますが、正直こう言った音楽をちゃんと消化できる能力が無かったんだと思います。

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