JOY DIVISION - IAN CURTIS

JOY DIVISION
IAN CURTIS
FACTORY RECORDS / PETER SAVILLE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 71

黒い麻生地のような柄が浮き出た触覚紙(tactile paper)の上に地殻変動に似た"white radio waveform, pulsar CP 1919"をプリントしたピーター・サヴェルのデザインによるカヴァー、JOY DIVISION "Unknown Preasures"が発売されたのが'79年だった。内袋には新聞の切り抜きから使用されたドア・
JOY DIVISION/UNKNOWN PLEASURES(FACTORY FACT10)
ハンドルに触れる手の写真が配され、また'80年リリースの「Closer」のカヴァーはイタリア・ジェノヴァのスタリエーノ (Staglieno) 墓地の写真が引用されたジャケットデザインで、それらの思わせぶりなイメージ=神秘的/暗示的アイコン(記号)がジョイ・ディヴィジョンの音楽に与えた影響は大きく、イアン・カーティスの自殺と交配して拡張していく正にサヴェルが語っていた"power of the reductive process"(過程の変形のパワー)そのものであった。ジョイ・デヴィジョンやファクトリー・レコードは、イコール、ピーター・サヴィル(Peter Saville、1955年-)のグラフィック・デザインに支配されていた部分が大きく、ジョイ・ディヴィジョンや、他にはフランス人画家アンリ・ファンタン・ラツールの花の絵を使ったニューオーダーの"Power, Corruption and Lies"などはその象徴的なものだろう。個人的にファクトリー関係のレコードを買っていたのはその音楽よりも彼のジャケット・デザインに惹かれていた部分がかなり大きいのだが、マンチェスター出身のイギリスのグラフィックデザイナー、ピーター・サヴィルは、ファクトリー・レーベルの専属デザイナーとして活動し、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、ハッピー・マンデースなどのファクトリーでの多くのジャケットのデザインを手がけ、 '79年以降はロンドンへと活動の拠点を移し、その後ロキシー・ミュージック、OMDなどのジャケット・デザインを担当、'83年に自分のスタジオ"PSA"(ピーター・サヴィル・アソシエイツ)をブレット・ウィッケンズと設立し、この頃から企業アイデンティティのデザインも引き受けるようになる。ロンドンのホワイトチャペル・アート・ギャラリーを初めとし、後には、当展覧会会場のデザイン・ミュージアムも手掛けている。'93年、レコードからCDへの移行に伴いパルプやスエードでのデジタルイメージ加工したデザインや、ビョーク、ゲイ・ダッドのジャケットのデザインも担当しつつ、90年代には、ファッション・プロモーションにも大きく関わり、2000年以降
は、企業コンサルタントとしてセルフリッジ・デパート、プリングル、EMI、ジバンシー、アドビシステムズ、CNNなどを顧客に実験的な作品を制作している。現代イギリスを代表するデザイナーの一人として成功し活躍している。ファクトリーでの音楽はひとことで言えば(ジョイ・ディヴィジョンですら)、すべてが映画"24アワー・パーティー・ピープル (24HOUR PARTY PEOPLE)"でトニー・ウィルソンが何かにつけ"ポストモダン"だと言い放っていたそれである。それ以外の意味などないのだ。

JOY DIVISION/UNKNOWN PLEASURES のイメージ
http://images.google.co.jp/images?num=20&hl=ja&newwindow=1&q=JOY+DIVISION/UNKNOWN+PLEASURES&lr=&um=1&ie=UTF-8

Peter Saville
http://www.btinternet.com/~comme6/saville/

'80年のイアン・カーティスの自殺から28年後の現在、2002年には、レーベルの創設者であるトニー・ウィルソンの視点からファクトリーの盛衰を描いた映画"24アワー・パーティー・ピープル (24HOUR PARTY PEOPLE)"が制作されたり、2007年には、第60回カンヌ国際映画祭でカメラドール/スペシャル・メンション賞を受賞したサム・ライリー主演の、写真家として有名なアントン・コービン監督によるイアン・カーティスの妻デボラの著書"タッチング・フロム・ア・ディスタンス"をもとに、イアン・カーティスの半生を描いた映画"コントロール (Control)"が公開されたり、2008年にはグラント・ジー 監督によるドキュメンタリー作品"ジョイ・ディヴィジョン(JOY DIVISION)"が公開予定だというし、イアン・カーティスの死が、またまた神話のように語られようとしている。ちょっと待てよ。シュルレアリスティックなモンタージュ、想像上の映画のための詩を書いているその目的は、聴くものにメッセージを伝えるためではなく不思議な感情を喚起するためだといっていたイアン・カーティスの、絶望や孤独を歌う歌詞や、憂鬱質なその歌唱、まるで癲癇の発作のように痙攣して唄う彼のステージングマナーや、イギリスの長い不況の暗い時代、前述したジャケットでの"power of the reductive process"(過程の変形のパワー)などなどが相乗効果して、ジョイ・ディヴィジョンは、その始まりから死のイメージだけが強く刻印されていた。アメリカツアーを直前に控えた'80年5月18日に、イアン・カーティスは自宅で首吊り自殺したが、その最大の理由はクレプスキュールの女性オーナーとの恋愛の破綻が原因だった。日頃から持病の癲癇に苦しんでいた上、鬱病、さらに妻デボラとの不仲など女性関係のもつれを抱えていたといわれているが、実はさしたる重大な理由でもなく、日常的なつまらない恋愛破綻のひとつの結末だった。"24 Hour Party People"のなかで、首つり自殺したイアンの足下のアップからフォト・フレームのなかの恋人の写真にパンするだけの、トニー・ウィルソンが描いていたイアンの自殺、まるで笑い話のような意味のない一日が暮れたかのような出来事がその真相だろう。80年代のロック・ミュージックはもはやそこまで堕落し冗談めいていたのだ。スティフ・キトゥンズ(Stiff Kittens)、ワルシャワ(Warsaw)の変遷を経て、'78年1月にイアン・カーティス (Ian Curtis/ボーカル)、バーナード・アルブレクト (Bernard Albrecht)/ギター、キーボード)、ピーター・フック (Peter Hook)/ベース)、スティーヴン・モリス (Stephen Morris)/ドラム)によって始められたジョイ・ディヴィジョンは、その由来は第二次大戦中のユダヤ人女性の日記を元に書かれた小説"The House of Dolls"に登場するフレーズ"Joy Division"(ナチス・ドイツ時代の将校用の慰安所)から引用された。事実上2枚のアルバム「Unknown Pleasures 」、「Closer」だけを残して消滅してしまうのだが、残されたメンバーたちで、その後ギター、バーナード・サムナーをヴォーカルにニュー・オーダーと名前を変え活動を継続することになる。それだけのことだ。ひとはなぜロックミュージシャンの死をそれほどまでに大きく意味を持つものとしてとらえてきたのだろうか。それはロックが活きていた時代にはロックミュージシャンこそが神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すとされる"トリックスター"そのものを意味する存在でもあったし、なによりも60年代のウッドストック・ネーションから引き継がれてきたロックにあった揺るぎないコミュニティが存在していると信じていたからだった。同じ世界観/価値観を共有するロック・コミュニティは、マレー・ラーナー監督のドキュメンタリー映画"ワイト島1970ー輝かしきロックの残像"で示唆されていたロックの危機で完全に終結してしまったのだが、企業のものになる以前の我々の共通言語としてのロックを、ロックファンは80年代までは愚直に信じていたのかも知れない。ボクはいま冷淡に、イアン・カーティスの死をただそれだけのことと書いている。だけど本音を言うと'84年の単行本「イコノスタシス」も雑誌「EGO」も、彼の自殺を真摯に捉え、ロックにおけるコミュニティの夢におとしまえを付け総括する意味と、ロックに関わり、少なからず影響を与えてきた自分自身の社会的/道義的責任を果たすために編集したものだったとだけ付け加えておきたい。

グラント・ジョー監督作品「JOY DIVISION」
http://joydivision-mv.com/trailer.html

JOY DIVISION/UNKNOWN PLEASURES(FACTORY FACT10)
outside:Disorder/Day Of The Lords/Candidate/Insight/New Dawn Fades
inside:She's Lost Control/Shadowplay/Wilderness/Interzone/I Remember Nothing
words and music by Joy Division
produced by Martin Hannett
engineered by Chris Nagle
recorded at Strawberry Studios,Stockport
sleeve designed by Joy Division and Peter Saville
FACTORY 1979

'79年のデビューアルバム。同年10月にシングル"Transmission"、その後12インチシングル"Atmosphere/She's Lost Control"、それに伴ってライブ活動も精力的に行い'80年にシングル"Love Will Tear Us Apart"を立て続けにリリースする。パンク・ロックにシンセサイザーなどのデジタル機器を取り入れ、ア・サーティン・レシオに対峙するものとして プロデューサーのマーティン・ハネットによってある意味でっち上げられて作られたユニットがジョイ・ディヴィジョンだ。他のYレコードなどにみられたニューウェイヴ・ダンスに共通するダンスビートを取り入れたポストパンクやニュー・ウェーヴ・スタイルの先駆けとなったサウンド。先日春の陽気に誘われて堀江の小さなブティックの前を通り過ぎたときに店頭に飾られていた"white radio waveform, pulsar CP 1919"がプリントされたTシャツ。記号化されたそれこそが現在のジョイ・ディヴィジョンのリアルな姿なのだ。もはやこれもファッションだ。イアン・カーティスの声と詩すらも時代とともに遠のき色褪せていく。それが正解だ。いまだに感情移入している奴こそ可笑しいのだ。

JOY DIVISION/ATMOSPHERE/SHE'S LOST CONTROL(FACUS 2)
A:Atmosphere
B:She's Lost Control
produced by Martin Hannett
photograph,Chrles Meecham
typographics,Peter Saville
published by Fractured Music
FACTORY 1980
2/9/80


JOY DIVISION/LOVE WILL TEAR US APART(FAC 23)
A:Love Will Tear Us Apart
B:These Days
produced by Martin Hannett
FACTORY 1980

JOY DIVISION/LOVE WILL TEAR US APART(FAC 23-12)
A:Love Will Tear Us Apart
B:These Days/Love Will Tear Us Apart
produced by Martin Hannett
FACTORY 1980

JOY DIVISION/CLOSER(FACT XXV 25)
side A:1.Atrocuty exhibition 2.isolation 3.Passover 4.Colony 5.A Means To An End
side B:1.heart And Soul 2.Twenty Four Hours 3.The eternal 4.Decades
produced by Martin Hannett at Brittania Row
engineered by Martin Hannett and John Caffery
assisted by Michael Johnson
photograph by Bernard Pierre Wolff
designed by Peter Saville/Martyn Atkins
printed by Garrod And Lofthouse Limited
FACTORY 1980

映画「バスキア」、「夜になる前に」、「潜水服は蝶の夢を見る」の、あるいはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのジャケットデザインなどで有名なブルックリンの新表現主義の画家、映画監督のジュリアン・シュナベールは"絶望"だけがリアルだと感じ、"皿の上の絵画"という作品で彼は働いていたレストランのごみ捨て場に捨てられた皿を画面に張り付け、すでに命脈の尽きた絵画と彼の日々の"絶望"を象徴する事物と結びつける。シュナベールの戦略は、言わば絵画の終わった状況に対する開き直りだという。その彼の作品にイアン・カーティスのための絵画"絶望/Despair(1980)"という作品があるらしいが、ジョイ・ディヴィジョンのこのセカンドの美しいジャケットをモチーフにした作品だという。"人生の深淵を見つめること。目覚める機会。これは死や病と対峠する我々全ての物語だ。注意深く見れば、そこに意味や美がある"という彼に相応しい着眼だ。イアン・カーティスの死後、'80年の7月に2nd「Closer」が発表され、バックのニューウェイヴ・ディスコ・ダンス/テクノ風のサウンドに溶け込まない音痴ぎみの底無しに絶望的な弱々しいイアン・カーティスの声に、当時はイアンの死にはある種の必然性を感じて聴いていた。この頃からイアンは恋愛の清算として自身へ送る葬送曲を書いていたのだろう。それにしてもゴチックの、イタリア・ジェノヴァのスタリエーノ (Staglieno) 墓地の写真が引用されたジャケットデザインは不吉で美しい。

イタリア・ジェノヴァのスタリエーノ (Staglieno) 墓地
http://www.cimiterodistaglieno.it/

JOY DIVISION/TRANSMISSION(FAC 13×12)
A:Transmission
B:Novelty
produced by Martin Hannett
FACTORY 1980

JOY DIVISION/STILL(FACT.40)
side 1:Exercise One/Ice Age/The Sound Of Music/Glass/The Only Mistake
side 2:Walked In Line/The Kill/Something Must Break/Dead Souls/Sister Ray
side 3:Ceremony/Shadowplay/Means To An Endo/Passover/New Dawn Fades
side 4:Transmission/Disorder/Isolation/Decades/Digital
produced by Martin Hannet
engineered by Chris Nagle
side 3 and 4 recorded at Birmingham University 2/5/80
sister ray*-recorded at The Moonlight Club,London 3/4/80
all songs written by Joy Division
published by Fractured Music
sister ray*-written by Reed/Tucker/Morrison/Cale
arranged by Joy Division
published by Sunbury Music Ltd.
FACTORY 1981

このアルバムで印象的だったのは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのセカンドアルバム「White Light/White Heat」のなかの、フリー・インプロヴィゼイションの限界に挑んだと言われていた17分にも及ぶ大作"Sister Ray"のカヴァーだった。そしてアルバムのサイド3と4のイアンの自殺の2週間前の'80年5月2日のバーミンガム大学で録音されたライヴの、サイド4."Passover"ではスティーヴン・モリスのドラムミング・ミスがそのまま収録されていてイアンのボーカルが2小節中断したり、サイド4の"Decades"ではバーナード・アルブレクトの調子外れのキーのキーボードのサウンドなど、バンドとしても素人の域を脱しきれていなかった彼らの音楽スキルと、当時のメンバー間のギクシャクした関係が明らかにされているようで興味深かった。このアルバムを聴いた限りでも、イアンの自殺がなくとも恐らくジョイ・ディヴィジョンは早々に消滅していただろうし、解散していただろう。

JOY DIVISION/SUBSTANCE 1977-1980(FACT 250)
A:1.Warsaw 2.Leaders Of Men 3.Digital 4.Autosuggestion 5.Transmission
B:1.She's Lost Control 2.Incubation 3.Dead Souls 4.Atmospher 5.Love Will Tar Us Apart
written by Joy Division
produced by Joy Division & Martin Hannett
FACTORY 1980

ファーストアルバム以前に発表していたシングルと、ファクトリーのオムニバスに発表した作品など、オリジナルアルバムに未収録の作品をコンパイルしたアルバム。ここからはポストパンクとしての80年代音楽が聴こえてくる。

JOY DIVISION/ATMOSPHERE 1979(FAC213)
A:Atmosphere
B:The Only Mistake/Sound Of Music
written by Joy Division
produced by Joy Division/Martin Hannett
FACTORY 1988

SHORT CIRCUIT LIVE AT THE ELECTRIC CIRCUS(VIRGIN VCL 5003)
side one:1.THE FALL-Stepping Out 2.JOHN COOPER CLARKE-Daily Express 3.JOY DIVISION-At The Later Date 4.THE DRONES-Persecution Complex
side two:1.STEEL PULSE-Makka Splaff 2.JOHN COOPER CLARK-I Married a Monster from Outer Space 3.THE FALL-Last Orders 4.BUZZCOCKS-Time's Up
VIRGIN 1978

'78年にヴァージンからリリースされた10インチ・コンピレーション。ジョイ・ディヴィジョンのワルシャワ時代のパンキッシュなコンセプトを引き継ぐ音楽が1曲収録されている。イアン・カーティスのヴォーカルもエネルギッシュなパンクスのものだ。エレクトリック・サーカスは70年代のマンチェスターでは重要なライヴハウスだった。それが後の80-90年代後期までのマッドチェスター・ムーヴメントのハシエンダに繋がってゆく。


WARSAW/AT A LATER DATE(FACTORY)
this side:At A Later Date/The Kill
other side:Gutz
all titles:Rubble,Hookey,Dale
published by Lost Culture Inc.

J.D./WARSAW(RZM PRODUCTIONS LTD.)
side A:1.All Of This For You 2.Leaders Of Men 3.They Walked in Line 4.Failures 5.Novelty 6.No Love Lost
side B:1.Transmission 2.Living In The Ice Age 3.Interzone 4.Warsaw 5.Shadow Play


WARSAW/THE IDEAL BEGINNING(LP663/AEP1)
side 1:Gutz
side 2:1.At A Later Date 2.The Kill
recorded on July 18th 1977
Ian Cartis(lead Vocals) Berney Rubble(guitars) Pete Hookey(bass) Steve Dale(drums)
*Joy Division's First Recordings Limited Edition Collecters Item

JOY DIVISION/GRUFTGESAENGE"15 July 1956-IAN CURTIS-18 May 1980"(DEMOCRAZY DR 003-4)
Tagseite:Passover/Wilderness/Digital/Day Of The Lords/Insight/New Dawn Fades/Disorder
Natchtseite:Transmission/Love Will Tear Us Apart/These Days/A Means To An End/25 Hours/Shadowplay
Lichtseite:She's Lost Kontrol/Atrocity Exhibition(rec.live Amsterdam Paradieso 11.1.80) /Atomosphere/Dead Souls/Komakino
Blindseite:Incubation pt.1/Incubation pt.2/Digital/Glass(demo outtakes 1978)/Komakino/Incubation 1 & 28(Factory Flexi Didc 1980)

イアン・カーティスの死後、続々発売された海賊盤。ここにこそ彼らの本当のリアルな姿、音楽が収録されていると言っていいだろう。

JOY DIVISION
http://www.youtube.com/results?search_query=JOY+DIVISION&search_type=

追記 松岡正剛氏は、'80年代のボクのエディトリアル/音楽評論活動を支えてくれ、また彼から多くのものを学んだ恩人のような存在でもある人だが、21世紀の人間関係について千夜千冊 遊蕩篇の"ジグムント/コミュニティ"のなかで、『"放っておいてほしいんだ"、"どこにも属したくないんだ"と言いたい連中が急激に広まっているということがある。これを社会学では「脱領域性」(exterritoriality)というのだが、自分の周辺以外は無関心でいたい、所属領域から分離されていたっていい、面倒なら引き下がればいいんでしょうというような心情が、企業にも近隣にも官僚社会にも学校にも蔓延しつつあるわけなのだ。それが最近の日本では、"親であることもやめたっていいんだ"、"子供であることも、兄弟であることも縁を切ったっていいんだ"というふうになっていて、やたらに家族間の殺人事件につながっている。また、もうひとつ柔らかそうな現象でいうのなら、第2には、このような脱領域的感覚が、一方では"クール"だともてはやされてしまったことがある。これは例のディック・バウンテンとデヴィッド・ロビンズの「クール・ルールズ」(研究社)がふりまいた社会ウィルスで、"本気で親密な関係をもつことに対する拒否"から生じた感覚をいう。つまりは、気まぐれに結婚し、適当に仕事をし、飽きたらクールに離婚し、とくに相手を占有しなくったって好きにセックスができ、いつだって自分の所属する社会からの撤退や逃走ができるというその感覚を、うっかり"クール"と名付けてしまったのだった。これがいつしか日本の"かわいい"現象と結びつき、ときに“ジャパン・クール”とか“クール・ジャパン”などともてはやされて、それにぬけぬけと乗っている連中がアーティストや評論家たちにもぶちぶち多くなっていることは、ぼくが指摘するまでもないだろう』と書かれている。ボクにも彼のこの痛烈な批判に思い当たる節は多々あるが、80年代中期を境にして彼の言説通りの人間模様がボクにも蔓延し始めて、それがロックの完璧な終焉と合致し、意識的に80年代後半から90年代中期まで一切の評論と人間関係を断ち頑なに沈黙を守り寡黙な姿勢を固持してきた。さて、4年前にjaz' room nu thingsという場を立ち上げたが、クラブミュージックの核になっているクール・ルールズな姿勢に端からコミュニティなどは生まれ得ないし期待してもいない。DJやクラウドと比較するとそれならまだ、いまもロック系のミュージシャンや若いロックファンのほうが少なからず人間的魅力を持っているのだ。それはなぜだろう。



阿木 譲著「イコノスタシス/ICONOSTESIS」(発行impetus)
84年9月にインピタスから発刊された352ページからなるボクの単行本「ICONOSTESIS」。イアン・カーティスの死や、音楽を聴くことによって生まれるイメージは同時代全体の象徴的意味を持っていた、そのイコノグラフィックな像を考察したもの。イコノロジーはいまもイベント会場や製造工場などでのRFID(ICタグ)、タイポグラフィックとして、またコンピュータのなかでも生き続けているが、80年代のジョイ・ディヴィジョンの音楽の本当の意味や、ロックがなにを意味していたのかを知りたいひとは、是非読んでもらいたい。先日、オークションで1万円の高値が付けられているのを偶然見て微妙な気持ちだったけれど、当時は取次ぎや書店からの返本の山を前にして哀しくなったものである。悪い癖で返本されてきた書籍は単行本であっても雑誌「ロックマガジン」であってもすぐに廃棄処分にしてしまったから、古本屋でみつけるのも困難でしょうけれど。振り返ればこの単行本「イコノスタシス」と同じようにジョイ・ディヴィジョンのレコードだってリアルタイムにどれだけのロックファンが聴いていたのか疑わしい。映画「コントロール」に寄せられた各界からの声として、業界人がさもイアンの死をリアルに捉えていたかのような白々しいコメントを寄せているけれど、チャンチャラおかしいぜ。

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Comment ( 1 )

東山 聡 :

JOY DIVISIONは好きなバンドでした。
イアン カーティスの死により、伝説となり神格化されるくらいなら、彼には格好悪くても這いつくばってでも、生き続けるべきだったし、生きていてほしかったです。

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