TONY SINDEN + ALAN BAKER & THE INSECTS / GENERAL STRIKE
THOMAS LEER / ROBERT RENTAL / DANIEL MILLER
THE NORMAL
FILE UNDER POP
FURIOUS PIG
CASCADES 94
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧 94
Beginning of music in the 80's
何事に関しても情報というのを、水面に浮かび上がる泡のような表層だけをすくって、多くの人々はそれが真実だと思い込まされている。表に顕れているものだけが真実ではないし、世界はそうした身体を覆う皮のようなものだけで成立しているものでもない。音楽情報というのも、音楽産業によって雑誌やメディアで宣伝され広報されたものなど、多くが口当たりのいいように、すでに
TONY SINDEN + ALAN BAKER & THE INSECTS / MAGNIFICENT CACTUS TREE.. ( PIANO RECORDS SING 001 )
薄められた隣の姉ちゃんでも聴けるような、糞のような情報なのだ。いまでは、このニッポンでは発売されたばかりの輸入レコードやCDを購入しているのは、真に音楽好きの人間かDJか輸入レコード店で働いている店員だけで、一般人や音楽業界人や評論家でそうした人間はいない。洋楽と呼
ばれる音楽産業が駄目になるのは当然だろうよ。いたとしても常に後追いで、70−80年代のリイッシュー物を再発するか、リッキー・チック系のnu jazzでも、そうした音楽を聴いていたリスナーにそろそろ飽きがき始めた最近になって業界ゴロが、ディストリビュートに手を出し始めるという程度だ。賢明な洋楽ファンなら日本盤なんて誰が買うかよ! ニッポンの音楽雑誌やFMなどのラジオ・メディアだって広告収入でなんとか維持され、広告収入によってその編集/番組内容が決められているようなもので、ジャーナリストとしての体質は皆無。日本のレコード会社から発売されたレコードをあてにして、すべてが決まるのだ。しかしいまどきラジオで音楽聞いてる3丁目の夕陽のような昭和ノスタルジア世代もいるんだろうね ( このニッポンは特に著作権云々でややこしいが、近いうちに海外でのIRでやっている法を潜る賢いやりかたを考えIR / インターネット・ラジオ局を設立しようと計画しているが、どう? ) 。音楽の真の情報はそんなところにはない。どんな時代でも、リアルな情報は発売されたばかりのレコードやCDにしかないのだ。音楽雑誌を読むぐらいなら輸入レコードショップのウェブ上のレコードをチェックすれば、それで済む。もし時代を刷新する新しい音楽ムーヴメントが始まったとするならば、その最初の " はじまり" の根っこの部分だけを押さえておけば、音楽のほんとの楽しみ方や、その音楽の意味が読み取れ、ブレることなく流れを理解できるようになる。始まりこそがすべてだ。音楽は聴くことだけではなく、その音楽が表出してきた時代背景やコンセプトを読み解くことも、大きな愉しみのひとつなのだから。セックス・ピストルズやザ・ポリス、ザ・ジャムなどのブリティッシュ・パンク・インヴェンションの音楽産業が仕掛けた罠の虚像にみんなが気付き始めた後の白けた空気のなかで、70年代後半にラフトレードやミュート、インダストリアル・レコードなど個人が発信するインディペンデント・レーベルは、ロックやパンクという音楽がすべてメジャーな産業音楽がでっち上げた欺瞞だったと気付き始めた音楽リスナーたちの反動でもあった。新しい音楽は自然に無意識に眠っているコンティジェント・システムによって世界でシンクロニシティして発生してくる不思議なものなのだ。音楽をレコード会社にコントロールされることなくミュージシャンとレコードリスナー自身の手に取り戻そうとする重要な事件だったのだ。80年代以後から今日までのすべての音楽はインディペンデントから表出したミュージシャンや作品が、その時代を先導しているのだ。今回紹介している7インチシングルはすべてミュージシャン自身の手でコントロールされ表出してきたもので、現在のクラブカルチャーの先端で起こっている音楽がすでに展開されているほどに先駆的なものだった。インディペンデントをマイナーだとかアンダーグラウンド、サブカルチャーという形容で括ってくれるな。これこそ音楽のメイン・ストリーム ( 主流 ) なのだ。
TONY SINDEN + ALAN BAKER & THE INSECTS / MAGNIFICENT CACTUS TREE.. ( PIANO RECORDS SING 001 )
A: Magnificent Cactus Trees...
written by Tony Sinden
B: ...Cast Shadows
written by Tony Sinden
produced by David Cunningham
*Piano Records 32 Alexander Street London W2
PIANO RECORDS 1979
Cascades58で採り上げたアルバムTony Sinden " Functional Action Parts2 & 3 ( Piano 002 ) 以前に'7シングルで '79年にデヴィッド・カニンガムのピアノ・レーベルから発表されたもの。アルバムでは'79年のロンドンの"The Hayward Gallery"におけるフィルム・インスタレーションからの、Tony Sinden とGilbert Patrickによるギターのシンプルなリフによるミニマル・ミュージックが収録されていたが、この''7インチシングルでの2曲も、現代音楽のミニマルと、クラブミュージックの先取りともいえるエレクトロニック・ヌーヴォーと言われたミクスチャー・ロックが融合したアヴァンギャルドな実験音楽を展開している。'79年、既に。
GENERAL STRIKE / MY BODY ( CANAL 01 )
Part One: My Body
Part Two: ( Part Of ) My Body
written by General Strike
produced by David Cunningham
ⓒ 1979 Quartz Publicationsa David Cunnigham Production
contact: Playback Records 3 Back Street, London NW1
CANAL RECORDS 1979
デヴィッド・トゥープ、スティーブ・ベレスフォード、デヴィッド・カニンガムによる実験的ミクスチャー・ロック・ユニット" General Strike " 。 80年にTouchからリリースされていたカセットが'95年に " Danger In Paradise " というタイトルでCDで再発されていたが ( このCDにはサン・ラをカヴァーした2曲が収録されていた) 、この7’シングルでの音楽もDub処理されたダウンなグルーヴとサウンドは、そのまま現在のクラブフロアでも通用する先駆的な作品。
General Strike 'My Other Body'
http://www.youtube.com/watch?v=rG-tzVCYw7g
THOMAS LEER / PRIVATE PLANE ( OBCO 001 )
A: Private Plane
AA: International
written by Thomas Leer
Thomas Leer - instruments / vocals
mastered by Porky
produced by Thomas Leer
kept on course by Liz Farrow
A COMPANY / OBLIQUE RECORDS 1978
曲やヴォーカルすべてを独力で自分のア
パートでテープレコーダーに録音し制作したトーマス・リアの最初の7'シングル " 自家用飛行期" 。いまでは作りたくとも作れない輝ける原始的で実験的なアヴァンポップ。'53年スコットランドのポートグラスゴー生まれの彼はソロでチェリーレッドやアリスタ、元プロパガンダのヴォーカリストClaudia Brückenとのデュオで数枚の作品を発表していたが、当時の作品ではこのシングルをこえる作品はなかったように記憶している。最近では2007年にジャズテイストのあるクラブジャズともいえるアルバム " From Sci-Fi To Barfly " をリリースしているが、そのなかの " Blood of a poet " という曲は、まさにnu jazzで、アルバムを通して " ジャズ的なるもの " のグルーヴが一貫してながれている素晴らしいもの。彼の音楽変遷を取り上げるまでもなく、すべて時代は " ジャズ的なるもの" へと流れていることがここでも証明できる。
Thomas Leer - Private Plane
http://www.youtube.com/watch?v=MzbLkIvWJjg
Thomas Leer
http://www.thomasleer.co.uk/
myspace
http://www.myspace.com/futurehistoric
ROBERT RENTAL / PARALYSIS ・ACC ( RECO 002 )
A: Paralysis
B: A.C.C.
written by Robert Rental
Robert Rental: instruments / vocals
produced by Thomas Leer / R Rental
Company Records: Fort Barnes Rookery Lane Lincoln LN6 7HQ
A COMPANY REGULAR RECORDS 1978
スコットランドのエレクトロニック・エク
スペリメンター、ロバート・レンタルが同胞トーマス・レアと共同制作した'7シングル。当時 イギリスの音楽ファンや業界人の間では " エレクトロニック・ミュージックが本当のパンクであり、そのパンクが実はただのパブ・ロックであった " という考えが、広がり蔓延していたのを知っているだろうか。その正当な評価と考えにボクも同感だった。70年代後半の閉塞した時代に風穴を開けたのは、パンクではなく、なによりもエレクトロニック・ミュージックだった。キャバレー・ヴォルテール、23スキドー、そしてジェネシス・P・オーリッジのインダストリアル・レコードでの作品群、スロッビング・グリッスル、そしてBC ギルバートやG ルイス、ニューウェイヴでのエレクトロニック・イディオム、そしてロバート・レンタルとダニエル・ミラーとの " Live " に聴こえるエレクトロニック・ミュージックこそが、イギリスに於けるパンクと呼ぶに相応しい古い概念をぶち壊したものだったのだ。特にレンタルの " Paralysis " や "ACC " という曲からは、薬物依存で亡くなったアレクサンダー・スキップ・スペンス ( ジェファーソン・エアープレインのメンバーでモビーグレイプのリーダー ) とシド・バレットへのオマジューとも言える物憂げでサイケでアシッド、パンキッシュなサウンドが聴こえる。
Robert Rental - Paralysis
http://www.youtube.com/watch?v=nqO_C-xNu94
Robert Rental Mental Detentions 1979 #3 Demo DIY Thomas Leer
http://www.youtube.com/watch?v=2oxQFUw6VFA
THOMAS LEER & ROBERT RENTAL / THE BRIDGE ( IR 0007 )
A: 1. Attack Decay
2. Monochrome Days
3. Day Breaks, Night Heals
4. Connotations
5. Fade Away
B: 1. Interferon
2. Six A.M.
3. The Hard Way In & The Easy Way Out
4. Perpetual
Leer - vocals, synth, synth percussion, gtr, perc,
Rental - vocals, gtr, white noise gtr, synth, bass
recording info: this album was recorded at home on 8 track equipment, provided for us by Industrial Records
it was produced in the two weeks dating 18th June to 2nd July
all blips clicks & unseemly noises were generated by refrigerators & other domestic appliances
& are intrinsic to the music
special thanks to Throbbing Gristle for their help & encouragement throughout
all tracks by Leer & Rental ( Leer: synths, tapes, voice / Rental: synths, loops, voice )
INDUSTRIAL RECORDS 1979
トーマス・レアとロバート・レンタルのコラボレーションはジェネシス・P・オーリッジの設立したインダストリアル・レコードのアルバムでの7枚目にあたる作品で、'79年に発表された。A面がボーカル、B面がインストゥルメンタルから構成された9曲すべて、これもすべて宅録されたもの。インダストリアル・ノイズでチープな作りではあるが、久しぶりに聴いてみると、ここにもパンクの衝動が微かに感じられ、70年代の終末 " グレーゾーン" 時代を象徴するかのようにこうした系統の音楽のジャケットはすべてが白か黒か灰色だった。'79年の夏2週間にわたって録音されたもの。
Thomas Leer & Robert Rental - Attack Decay
http://www.youtube.com/watch?v=p0SgemEPZpA
Madame Sadowsky - Thomas Leer & Robert Rental - Monochrome Days (rough mix)
http://www.youtube.com/watch?v=RNvSY48OsdU
DANIEL MILLER & ROBERT RENTAL / LIVE ( ROUGH 17 )
A: Untitled
*live at West Runton, 6-3-79
made in Germany
record partner hamburg
MARAT RECORDS / ROUGH TRADE RECORDS 1980
ダニエル・ミラーとロバート・レンタルが'79年の春、ノーフォークの海岸の街に於けるライヴでの録音。当時彼らが使っていたシンセサイザーは、どれもが安物の器械( レンタルが使っていたのもWASP ) で 、そのチープさがよりインダストリアルで鉛色のサウンドスケープを構築させていた。
Robert Rental & The Normal Live 1979
http://www.youtube.com/watch?v=h5hcTUeeaG0
The Normal and Robert Rental - LIVE 6/3/79 Part 3/3
http://www.youtube.com/watch?v=-Ils8r66jcQ
THE NORMAL / T.V.O.D. + WARM LEATHERETTE ( MUTE 001 / SRE 1044 )
A: T.V.O.D.
B: Warm Leatherette
written and produced by Daniel Miller
MUTE RECORDS / SIRE RECORDS 1978
THE NORMAL / T.V.O.D. + WARM LEATHERETTE ( INT 126 919 )
A: T.V.O.D.
B: Warm Leatherette
INTERCORD TONTRAGER GmbH 1982
音楽プロデューサーで、Muteレコードの創設者でもあるダニエル・ミラーが'78年に第一弾として制作した7'シングル。Korg 700sアナログシンセとテープマシンRevox B-77を駆使したダイエルのリヴィング・ルームで録音されたもの。" Warm Leatherette " の詩は、イギリスの小説家、SF作家J.G.バラードの'73年の " Crash " から引用したもので、この曲は後にBlok 57、Pankow、Grace Jones、Die Tödliche Dorisなどがカヴァーしていた。2005年にはラジオショウでナイン・インチ・ネイルのトレント・レズナー ( Trent Reznor ) とジョーディ・ホワイト( Jeordie White ) が元バウハウスのヴォーカリスト、ピーター・マーフィー ( Peter Murphy ) とセッションしていて、今でも歌い継がれているテクノ・クラシック曲だ。ノーマルのエレクトロニック・ニューウェイヴはその後、デペッシュ・モード、ヤズー、イレジャー、ワイヤー、DAFなどに継承されることになる。
T.V.O.D.
http://www.youtube.com/watch?v=j815VgDrRX8
Warm Leatherette - Trent Reznor, Jeordie White, Peter Murphy
http://www.youtube.com/watch?v=zo7ONZlN5Zg
あのゴチックロマンスのバウハウスのピーター・マーフィーや、ナイン・インチ・ネイルのトレント・レズナーたちがギター・ミュージック ( ギターを使っていてもロバート・フリップのようなノイズ・サウンドだが ) を捨てエレクトロニック・ミュージック・セッションしている映像を見て、ロックがいかに前時代的音楽であるかに、まだキミは気付かないのか?!
Die Tödliche Doris Warm Leatherette(The Normal)
http://www.youtube.com/watch?v=Yk_-qfvMDBs
FILE UNDER POP / CORRUGATE + HEATHROW ( RT 0011 )
Black: Heathrow
Grey: 1. Corrugate
2. Heathrow SLB
al tracks except corrugate
produced by Simon Leonard
recorded live at Heathrow Airport
address: 14 Castle Road, London NW1 8PP
ROUGH TRADE RECORDS 1979
'80年代中期にはI Start Countingのメンバーとして活動する以前のSimon Leonardの'79年にラフトレードから発表された7'シングル。ポップとはロリポップキャンディーの包み紙のようなキラキラしたものだけではなく、ネオダダのように、生活には無用なものだがガラクタとしての魅力もあるジャンクアートでもある。ファイル・アンダー・ポップもヒースロウ空港のノイズ音とヴォーカルをブリコラージュした切り貼りサウンドで、インダストリアル・ポップでジャンク・モダンな格好良さを併せ持っていた。
FURIOUS PIG / FURIOUS PIG ( RT 064 )
A: 1. I Don't Like Your Face
2. Jonnys So Long
B: The King Mother
written by Ferious Pig
*Any Speed
engineered by Eric
ROUGH TRADE RECORDS 1981
FURIOUS PIG / 3 JUNE 1981 THE VENUE LONDON ( VANITY 8105 )
A: Untitled
members: Cass Davis, Dominic Weeks, Stephen Kent
*flexi-disc, Single Sided, Promo
promotional supplement to the "Rock Magazine" mag , editor Yuzuru AGI
VANITY RECORDS 1981
イギリス南部デボン/トトネスの町の高校生ユニットFurious Pigのアカペラ・スタ
イルのヴォイス・パフォーマンスは、ステファン・ケント ( Stephen Kent )、マーチン・ケント ( Martin Kent ) 、キャス・デイヴィース ( Cass Davies ) 、ドミニク・ウィークス ( Dominic Weeks ) の4人を核に展開されていた。当時のThis HeatやThe Raincoats、Pere Ubu、The Slits、The Fall、Television Personalitiesなどと共通したニューウェイヴ世界も垣間見える。'81年に編集していたロック・マガジンの付録に彼らが提供してくれた音源をフレクシー・ディスクにしてつけたほどに、ボクには忘れられない音楽でもあった。
http://www.ubu.com/sound/furious_pig.html
**70年代後半から80年代初頭にかけて、ポストパンクとして表出したエレクトロニック、オルターナティヴ、アヴァンポップ、ダブ、テクノポップ、ニューウェイヴ、インダストリアルなどの新しい時代は、すでにこうした7'シングルのなかで始まっていた。パブロックが化けたロンドン・パンクという欺瞞音楽よりも、エレクトロニックやインダストリアル・ミュージックの衝撃度はパンク以上だった。