ドラッグカルチャーに影響を受けたサイケデリックな共同体幻想を夢見る
呪術的ロウテック・ダブ
CAN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 10
カンのレコードを初めて手にしたのはアモンデュール・セカンド、サードイヤーバンドなどと一緒にリリースされていた当時東芝音楽工業の宣伝担当ディレクターの石坂敬一氏が仕掛けたプログレッシヴ・ロック・シリーズでだった。明確な年代は覚えていないが、ちょうどボクが東芝レコードの歌手を辞め、万国博が開かれていたり、三島由紀夫が割腹自殺した激動の時代だったから、70年代初期から中頃にかけてだっただろう。当時は輸入レコードショップなんて存在していなかったから日本盤でリリースされていた。イギリスではそのアルバム「TAGO MAGO」が1971年に、「EGE BAMYAGI」が1972年に発売されているから間違いないだろう。一般的にはE.L.P、ピンク フロイド、ジェネシス、キングクリムゾン、YESなどをプログレッシヴ・ロックと呼んでいるが(正確には彼らの音楽をプログレとは言わないけれど)、リアルタイムにプログレを聴いていた者にとっては、邦盤でリリースされていた10枚にも満たないこのシリーズでの音楽がプログレの始まりだった。さて、CANの名前の由来が「Communism」(共産主義)、「Anarchism」(無政府主義)、「Nihilism」(虚無 主義)の頭文字を並べ"可能"を意味する助動詞「CAN」からきたものと言うから、ベルリンの壁が存在した東西緊張の時代を生きた彼らなりのシビアなジョークだったのだろう。CANの音楽もまたサイケデリックな共同体幻想を夢見た当時のドラッグカルチャーが反映されたものだ。それにプラスしてユーモアと皮肉のテイストが調味されている。(80年代初頭、ボクはドイツのケルンでホルガー・シュカイに会ってインタヴューしているがその時のことや、ヴァージン以外で発表されていた'69年「Monster Movie」、'70年「Soundtracks」、 '71年 「Tago Mago 」、'72年「Ege Bamyasi 」、 '73年「Future Days」などのアルバムはいずれ近いうちに最考察します)
CAN/LANDED(VIRGIN V2041)
ドイツ人ミュージシャンも特徴を大げさに強調して描いた戯画や風刺的な表現をするカリカチュア(caricature)が好きだ。西洋社会では宗教や政治へのカリカチュアは文化として生活の中の一部にもなっているのだろうが、こうした一種のユーモア、ジョーク、ギャグなどの諧謔の精神もカンの音楽の特徴だし、それは80年代ジャーマン・ニューウェイヴでのアタタック・レーベルのダー・プランなどの音楽に継承されている。CANのロウテックなB級センス音楽には、ギター・ロックではとてもイギリスやアメリカを越えられないフェイクな複製としての開き直りの魅力も充分あるのだ。'75年にヴァージンから発表されたこのアルバムにもヴェルヴェット・アンダーグラウンドやシド・バレットの影がみえかくれするが、Bサイド1曲目の「Red Hot Indians」では、有名な「ハーメルンの笛吹き男」を想起させる集団で踊るうちにトランス状態となり何時間も移動しながら踊り狂いやがて疲労困憊して倒れ死に至るという舞踏病のような初期CANを象徴するグルーヴも聴かれる。アルバムのラストでは、ドイツならではのアンビエントでエレクトリックなエクスペリメンタル・ミュージックも展開しているが・・・。
MICHAEL KAROLI(guitar,violin,vocals) IRMIN SCHMIDT(key,alpha 77,vocals) JAKI LIEBEZEIT(percussion) HOLGER CZUKAY(bass,vocals)
tenor sax on Red Hot Indians by Olaf Kuber
side A:Full Moon on The Highway /Half Past One/Hunters And Collectors/Vernal Exquinox
side B:Red Hot Indians/Unfinished
recorded at Inner Space Studio.
1975 VIRGIN RECORDS
CAN/FLOWMOTION(VIRGIN V2071)
76年にヴァージンから発表されたアルバム。ドイツならではの独自のカンのロウテックな音楽を確立しその頂点を迎える作品として、また同時にCANの終焉を意味した作品として、この「フローモーション」を忘れることができない。未来のクラブカルチャーの時代を予言したかのようなディスコ・ヒット曲「I Want More」ではVCSシンセサイザーのリズムによるクラフトワークを想起させるエレクトリックなネオン・サウンドが聴け、「Laugh Till You Cry」ではドイツの重鎮だったエンジニア、コニー・プランク伝統のダブが聴こえるし、「・・AND MORE」ではマイルス・デイヴィスのワウワウ・トランペットのようなミヒャエル・カローリのワウワウギターが聴け、「Smoke」ではシャーマニックなアフログルーヴが延々と続き、「Flowmotion」ではレゲエ+ダブ・グルーヴがアーシーでドラッギーな90年代のアシッドハウスやダンスミュージックを先取りしていて、このアルバムでの完成度は高く、カンのベストアルバムだ。このアルバムでの音楽は現在のクラブシーンでも充分そのまま適応しDJイング可能。
side 1:I Want more 2.Cascade Waltz 3.Laugh till you cry-live till you die(O.R.N.) 4....and more
side 2:Babylonian pearl 2.Smoke(E.F.S.Nr.59) 3.Flow Motion
MICHAEL KAROKI(gu,vo,e.violin,baglama) IRMIN SCHMIDT(key,synt.strings,alpha 77,voc) HOLGER CZUKAY(bass,voc) JAKI LIEBEZEIT(perc,voc) RENE TINNER(voc) PETER GILMOUR(vo)
composed,written and produced by CAN. Cascade Waltz:produced by CAN and Simon Puxley recorded at Inner Space Studio.
recording:Holger Czukay,Rene Tinner
sound engineer:Manfred Schunke
1976 VIRGIN RECORDS
CAN BIOGRAPHY
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