古典主義から生まれる音楽の多彩な楽器が奏でるルネサンス様式のジャズ
EGG
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 13
70年代のイギリスのヴァージン・レーベルを拠点にした多くの名盤を生んだカンタベリーのジャズとはなんだったんだろう。イギリス南東部ケント州の東にある地方都市カンタベリーは、ローマ・カトリック教会が紀元597年に宣教師、聖オーガスティンを送り、当時のイギリス人(アングロ・サクソン人)をキリスト教に改宗しようとして、その拠点としてカンタベリー大聖堂を建設し、16世紀の宗教改革を経てイギリス国教会に変わった後も現在に至るまで、イギリスの宗教的中心地となったところだ。いまでも中世の美しい町並みや遺跡などを擁し英国南東部随一の観光地だという。彼らのサウンドスケープにある植物的な、バロキスム、ゴシックの香りは、その大聖堂を取り巻く、なだらかな緑の丘や牧歌的な田園が広がるカンタベリーの風景/土壌だからこそ生まれたものに違いない。そしてこのEGGでは、バンドの主軸であるピアニスト、モント・キャンベルの厳密な古典主義から生まれる音楽の多彩な楽器が奏でる美しい和音は、人体比例と音楽調和を宇宙の基本原理としたルネサンス様式の建築物をみるかのようだ。イギリスの中世といえばイングランド中部の街ノッティンガムのシャーウッドの森に住む悪を打ち弱者を助けるという伝説のヒーロー、ロビン・フッドを思いだすのだが、鮮緑色(リンカン・グリーン)の服に身を包む弓の名手ロビン・フッド伝説の名前の由来には、魔術や森の妖精エルフなど幾つかの説が存在して、カンタベリー系のジャズだけではなく、イギリスの音楽には、そんな伝説の森から湧き出る泉のような鮮緑の色彩に似たオブスキュアな美しい物語り、サウンドスケープが聴こえてくる。
EGG/"CIVIL SURFACE"
(VIRGIN/CAROLINE C1510)
エッグの前身だったユリエル(URIEL)結成時のメンバーは、デイブ・スチュワート、スティーブ・ヒレッジ、モント・キャンベル、クライブ・ブルックスの4人だったが、'69年にバンド名をエッグと改名し、'70年に1st「Egg」、2nd「The Polite Force」を発表した後、'72年にレコード会社との契約上のトラブルとモント・キャンベルの脱退によりバンドは解散し、スチュワートはカーンからハットフィールド・アンド・ザ・ノースへ移籍する。この'74 年発表の第3作「The Civil Surface」直前には、すでにグループは解散していたが、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースのメンバーとして活躍していたデイヴ・スチュアートが、ヴァージンからソロアルバムのオファーを受けたことをきっかけにグループを再結成し、制作されたもの。まるでストラビンスキーの曲のように、不協和音や変拍子を多用した効果音的要素と、ジャズの和音、アンビエントミュージックなどが統合されたジャズだ。ダイナミックなドラムの変拍子のうえを織りなす、オルガンのサウンドとフレンチホーン、バスーン、オーボエ、フルート、クラリネットなどの管楽器がよりゴシック的世界を鮮やかに浮かび上がらせている。エッグの音楽は、3大要素とするジャズ、クラシック(+現代音楽)、ロックを自由にポストモダンに横断することだったのだろう。
SIDE ONE:1.Germ Patrol 2.Wind Quartet 1 3.Eneagram
SIDE TWO:1.Prelude 2.Wring Out The Ground( Loosely Now) 3.Nearch 4.Wind Quartet 2
Dave Stewart( organ, bass, piano, keyboards) Clive Brooks(drums) Mont Campbell(bass, piano, French horn, vocals)
with Steve Hillage(guitar) Lindsay Cooper(bassoon, oboe, wind) Jeremy Baines(flute) Maurice Cambridge( clarinet) Barbara Gaskin(vocals) Tim Hodgkinson(clarinet) Christopher Palmer( bassoon) Amanda Parsons(vocals) Ann Rosenthal(vocals) Stephen Solloway(flute)
all music and words by Egg
produced by EGG
1974 VIRGIN/CAROLINE RECORDS
CANTERBURY MUSIC WEBSITE
http://calyx.club.fr/index.html