PHILIP GLASS

"music with repetitive structures" (反復構造を伴う音楽)のヒプノティック(催眠的)効果
PHILIP GLASS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 17

フィリップ・グラス (Philip Glass, 1937年1月31日生まれ)が76年にキャロライン/ヴァージンから発表した「Music In Twelve Parts Parts 1 & 2」と、ボックスケースに入った4枚組のニューヨークのトマトレーベルから発表していた’76年の「Einstein on The Beach」(この周辺の情報は資料室にかなり充実して保存してあるので詳細は別の機会に)の、重複するフレーズの一方を微妙にピッチや音程を下げたり、フレーズを逆向きにして組み合わせたりする軽やかな催眠的律動を初めて聴いたときのショックは言葉にならないほどだった。フィリップ・グラスは自身の音楽をミニマル・ミュージックと呼ばれることに抵抗を感じていて"music with repetitive structures" (反復構造を伴う音楽)という言葉を好んで使っているが、当時ボクがこうした音楽に魅かれたのは、サビやドラマティックな展開もなく、ただ淡々と反復するシンプルな音響そのものが、空間、時間軸(プロセス)のなかで、様々な色彩を伴って微妙に変化していくことだった。この非物語と非意味的な音楽は、当時クラフトワークなどのジャーマン・エクスペリメンタル・ミュージックの、"建築的で美術におけるポップアート"としてのフィールドで捉えていたし、それはいまでも正解だったと思う。重要なのは(いまではミニマルなんて誰もが知ってる音楽だけれど現代音楽シーンにいる人々より)誰よりも早く認知し支持したのはロックシーンに於いてである。その後、ミニマルはミニマルテクノとして、'90年代のブリープハウスやアシッドハウス、デトロイトテクノなどのクラブミュージック/ダンスミュージック発生のルーツとなった音楽で、連続する音響パターンは反復を繰り返すうちにモアレ効果のようなズレを生み、一種のドラッギーなヒプノティック(催眠的)効果、トリップ(トランス)感覚を派生させる。フィリップ・グラスのクラブシーンでの動きでは、97年に「Heroes" Symphony」でのエイフェックス・ツインと共同でボウイの「Heroes」、96年にフィリップ・グラス・オーケストレーションでエイフェックス・ツインの曲「アイクト・ヘッドラル」リミックスなどを手掛けている。

PHILIP GLASS/MUSIC IN TWELVE PARTS- PARTS 1&2
(VIRGIN/CAROLINE CA2010)
このレコードジャケット裏にフィリップ・グラス自身が音楽解説しているライナーノーツが掲載されているが"「12のパートからなる音楽」は、'71年5月に手掛け始め'74年4月に完成された。全体は3度のパフォーマンスで展開された音楽を拡張したもので、それは私の音楽に現出するテクニックのボキャブラリーについて説明するのが意図で、個々のパートは一つないしいくつかの共通音楽言語の特色を持っている。それをあまり普通でない方法で提供し発展させ、異なった音符、旋律、プロファイルで特徴づけている。パート1、3、4と7は分岐と新合成的音楽パターンを形作っている重複形を結びつけている。パート1では一様のF#、C#がポジションの移行するリズム、メロディラインの背後に消える。パート3とパート4の初めは個々のメロディ形式は強く、振動リズムに置き換えられる・・・”云々というような理屈臭いものなので省略するが、要約すれば「12のパートからなる音楽」は、安定したハーモニー、反復構造、明確な8音程のビート、付加的なプロセスという主題が一貫して流れている。アンプを使用する楽器(キーボード、ウィンド、声)は、現在のアンサンブルが'68年に結成されて以来の音楽媒体であり、Dickie Landy、Jon Gibson、Steve Reich、Arthur Murphy、James Tenneyはオリジナル・メンバーで、'71年にRichard Peck、Kurt Munkacsiが、'74年にJoan Labarbara、Michael Riesmanが加入したということだ。83年以後は「Koyaanisqatsi(コヤニスカッツィ」などの映画音楽や「Orphe(オルフェ)」などのオペラでの活動が主だが、それはマイケル・ナイマンなどの音楽にも言えることだがミニマル・ミュージックの持つ同じパターンが連続する無意味性、ヒプノティックな空間音楽の宿命だろう。
http://www.philipglass.com/

side one:Music In 12 Parts-Part 1
side two:Music In 12 Parts-Part 2
composed by Philip Glass
PHILIP GLASS(Electric Organ) JON GIBSON(Soprano Saxophone,Flute) DOCKIE LANDRY(Soprano Saxophone,Flute) RICHARD PECK(Alto and Tenor Saxophone) JOAN LABARBARA(Voice,Electric Organ) MICHAEL RIESMAN(Electric Organ)
Produced by Philip Glass and Kurt Munkacsi
Recording Engineers Kurt Munkacsi and Wieslaw Woszczyk
Remix-Kurt Munkacsi,Michael Riesman and Philp Glass Tape Editor Michael Riesman
Recorded at the Big Apple Recording Studio,New York City
Cover Design Sol Lewitt Artwork Cooke Key Associates
1974 VIRGIN /CAROLINE RECORDS

※フィリップ・グラスのバイオグラフィーは☞
http://ja.wikipedia.org/wiki/フィリップ・グラス

Comment ( 2 )

東山 聡 :

今から30年ほど前、月曜の夜にラジオから毎回不思議な音楽が流れていました。同じフレーズが永遠と繰り返される、その音楽にその当時初めて触れ、衝撃を受けたのを覚えています。番組を担当されてたのが、阿木さんだった事を知ったのは、それから随分経ってからの事でしたが…
でもその経験が、こう言った音楽を聴くキッカケでした。

阿木 譲 :

懐かしい話だね。京都のKBS「ファズボックス イン」は、当時としては珍しくアルバム1枚まるごとかけたりして、制作ディレクターの奥田靖彦氏が好きにやれせてくれた確か4、5年続いたラジオ音楽番組だけれど、あのリスナーたちによって雑誌「ロックマガジン」を発刊する契機になった。その後のボクの人生を左右した忘れられない番組で・・そうかあの番組を東山クンは聴いてくれていたんだ!

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