DAEVID ALLEN

デイヴィッド・アレンのユートピア
60年代のヒッピーカルチャーを象徴する音楽
DAEVID ALLEN
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 18

デイヴィッド・アレンのボヘミアンとしての生き方を思うとき、それはヒッピー・カルチャーなくしては語れない。ソフトマシーン結成の経緯だってオーストラリア生まれの世界を放浪するデイヴィッド・アレンが、パリに渡った際にビートニクスのウィリアム・バロウズや、ロバート・ワイアットと出会うことで生まれたバンドだというし、まるで建築家バックミンスター・フラーの「宇宙船地球号」や、'68年に出版されたアメリカのヒッピーたちの間でベストセラーになったホールアース(全地球)カタログのなかに、野外生活の手ほどきから自然科学の知識、カスタネダや禅といった精神世界のガイドと並んで紹介されていてもおかしくないほどの、長髪に髭、ジーンズ、自然主義、サイケデリックな色彩感覚、ロックミュージックなど、独自の価値観を持ち定職を待たず自由に生きることを目指す60年代のカウンターカルチャーを体現する音楽人生を歩んでいる。 '74年ロンドンでケヴィン・エアーズとデイヴィッド・
アレンにインタヴューした際、彼が言った「科学やテクノロジーを信じていない」という言葉がいまでも心に残っている。ヒッピー文化は「independence (自立)」と個人主義の精神で、民族、国家、法律、道徳といった既成の価値観からの脱却を意味する「解放」がカウンター・カルチャー(対抗文化)の本質なのだが、ボク自身も少なからず当時のこうした文化に影響されて、歌謡界に造反し歌手を辞め、ニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」さながらのヘイト・アシュベリーを訪ねたり、モーニングスターというヒッピーコミューンに憧れ埼玉の入間の米軍ハウスを借りて住んだり、ジョージ・オオサワのマクロバイオティック・フードを実践したりしていた。そして現在までの"なにものにも属さないで、すべてに属している"という生き方を実践してきたのかも知れない。あれから30数年、パソコンを生み出したアップルのスティーブ・ジョブズもやはりヒッピーだった。「ヒッピーはすべてのテクノロジーに反対だったのではなく、みんなの自立に役立つテクノロジーは採り入れようとした。パソコンは、政府や大企業の巨大コンピュータによる支配に対抗する自立のための道具として使えると考えた人たちがいたわけです。」というジョブスの言葉にいまならデイヴィッド・アレンはどう受け答えするのだろうか。

DAEVID ALLEN/GOOD MORNING
(VIRGIN V2054)
ゴングのラジオ・ノーム3部作制作後、スペインのマジョリカ島へ妻のギリ・スミスと渡り現地のバンド「エウテルペ」と録音した76年にヴァージンから発表されたソロアルバム。このアルバムで理想的な社会「ユートピア」を描くことで現実の様々な人間関係の軋轢への批判をおこなったのだろうか。アルバムに針を落とすと、早朝起きぬけに窓を開けると入ってくるひんやりした大気のような澄んだ音楽とヴォーカルが聴こえてくる。ジャケット裏にはマジョリカからロンドンのSimon Draper宛に送った絵葉書が使われ、そこにはゴングを離脱したばかりの彼の微妙なこころのうちを覗くような一抹の寂しさが感じられるメモと、"霧深い島の甘美な夢と、あなたにとって幸せな朝食のなかに”というメッセージが書かれている。シンプルなサイケフォーク・ロック、オブスキュアなこのアルバムは、GONGよりも思い出深い作品で、デイヴィッド・アレン関係のなかではMy Favorite Things、ベストアルバムの1枚だ。

side one:1 Children of the New World 2 Good Morning 3 Spirit 4 Song of Satisfaction 5 Have You Seen My Friend?
side two:1 French Garden 7 Wise Man in Your Heart 8 She Doesn't She...
recorded & mixed on 4 track Teac & 2 revox's at Home in Majorca
cover by Fred Frontispiece & photo by Belle Roachclip
all titles written by Daevid Allen & arranged by Combined instration with EUTERPE which(a part from being the name of a Greek God of Music) is a group of Spanish Musicians based in Majorca
PEPE MILAN(mandolina charango accoustic gtrs glockenspiel)
ANA CAMPS(vocals)
TONI PASCUAL(moog strings keyboard & gtr)
TONI ARES(contrabass)
TONI TREE FERNANDEZ(guitars)
GILLI S'MYTH(space whisper & licks)
DAEVID ALLEN(vocals & glissando & solo guitar)
1976 VIRGIN RECORDS

Comment ( 3 )

平野隼也 :

アップルのスティーブ・ジョブズ氏もヒッピーとは知らず驚きました。「ヒッピーはすべてのテクノロジーに反対だったのではなく、みんなの自立に役立つテクノロジーは採り入れようとした。パソコンは、政府や大企業の巨大コンピュータによる支配に対抗する自立のための道具として使えると考えた人たちがいたわけです」という氏の言葉が有効であった当時から大きく時代が変わった現在、氏がどう考えているのか興味深いです。

氏に興味を持ったのでウィキで調べたのですが、破天荒ながらも天才肌の人間ですね。

70年代に、サイバネティックスという言葉があったんですよ。昔は講談社の現代新書にもなってたんですが、絶版となってしまい、今となってはサイバネティクスとは何か、を調べるのが非常に困難です。が、そうした発想というのが当時に世界に影響を与えたのは間違いないのですが、ジョブズ氏もそういうことは知っていたのではないかと思います。音楽からトピずれしててすみません。

阿木 譲 :

平野クン、辰巳クンへ
コンピュータやインターネットの時代を象徴するサイバネティックスという形容詞をボクが初めて耳にしたのは、70年代にブライアン・イーノにインタヴューした時、彼の口からでてきた言葉で、サイバーやサイバネティックスに関しては、ブライアン・イーノや、90年代初頭のクラブミュージックで表出してきたテクノハウスでのサイバーパンクなどについて回顧するときに話すよ。でもこれももう死語かも。

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