デヴィッド・アレンとギリ・スミスの
「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」
ゴングの神話世界(コスモス)と
ニューゴングのインストゥルメンタルなジャズロック
GONG
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 19
初期ゴングはオーストラリア生まれのデヴィッド・アレンとスペース・ウィスパーと呼ばれるファンタスティックな歌唱でゴング・サウンドを彩ったギリ・スミスのユニットと考えたほうがいいだろう。初期のメンバーをみてもディディエ・マレエレブ、ピエール・モエルランなどフランス人が多く、フランスで結成されたフレンチ・スペース・ロックととらえたほうがいいだろう。3部作から構成されたコズミックでブラックユーモアあるおとぎの国、「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」は、'73年「フライング・ティーポット」、'73年「エンジェルス・エッグ」、'74年「ユウ」で完成されるのだが、ヒッピーやボヘミアンたちのロック・フリークス集団「ゴング」の理想郷ユートピア(コミューン)を思う。アルバム「ユウ」のジャケット裏に大きくクレジットされた"GONG IS ONE AND ONE IS YOU"というのが、この物語りの結論なのだが、この3部作「ラジオ・ノーム・インヴィシブル」の物語りのあらすじをゴングから送られたリーフレットをもとに、当時のライナーノーツでなかむらよういち氏が記録されていたので抜粋/訂正して転載しておこう。「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」はドラッグ体験のトリップによってもたらされる人間の意識変容のプロセスを表しているのは明らかだ。
PART1:GONG「FLYING TEAPOT」
(VIRGIN V2002)
ある星が地球のチベットへ緑の尖った頭をした生物をフライング・ティーポット(UFO)に乗せて送り込んだ。チベットにはラジオ・ノーム・インヴシブルという一種のテレパシーでその不思議な生物の来訪を予知していた3人の地球人が待機していた。それはノルウェイから来た毛深い家畜業者のミスターT・ビーイング、肩に傷のあるアンティークなティーラベルのコレクター、フレッド・ザ・フイッシュ、それにヨギのバナナ・アナンダである。3人はこの生物をパリへ連れて行った。そこのはゴング星の導師オクターヴ・ドクターからあらかじめ洗礼を受けていたロックンバンド、ゴングのメンバー達がいた。ゴングのメンバーはその生物からラジオ・ノームのヴァイブレーションによって愛と知を授かり、そのため2030年に予定されているゴング星人の地球来訪のための布教活動がやりやすくなったのである。つまりゴング・バンドは、ラジオ・ノーム・インヴィシブルからのヴァイブレーションを、音楽を通して世界の人々に伝えているのである。ここで突然、英雄ゼロが登場する。彼はその緑の尖り頭の妖精を、彼自身のヒーローに祭り上げようとしていた。魔女ヨニは、そんなゼロが冷静になるように呪文をかけ、その熱を冷ました。
PART2:GONG「ANGELS EGG」
(VIRGIN V2007)
魔女ヨニはゼロが呪文のためにシニカルになってしまったことに気付き、クッパ茶に魔法の液を一滴たらした。それを飲んだゼロはウォーターベッドに寝転びながら、どこか遠くに自分の声を聞いていた。その時、頭が突然ぐんぐんと自分の身体を見下ろすほど高くなり、心は下弦の月に向かってシューっと飛んで行った。黄色の舷窓から空にモナリザのような美しい処女の顔が現れ、彼に向かってウィンクした。これは早漏ぎみのファックに関する、また巨人のようなオマンコに関する最後の叙述になるのである。さて、彼の頭は宇宙船のようになり、彼女のオマンコそのものになってしまう。彼が近付くにつれ、それはさらに大海原に続く洞窟のある紫の崖の上にある縮れた森にまで変わってしまう。ゼロは自分が死ぬことを確信した。彼のこれまでの人生が、走馬灯のように彼の頭を過っていった。彼はいつしか自分が喋っている独り言に耳を傾けていた。"多くの世界を通過し 永遠の輪廻のなかを巡り 止まることのない自我が潮のように いつまでも目の前を通り過ぎて行く” 彼は海に飛び込んだ。死ぬ、と思ったときに彼はもう一つの側の海に出た。それは第7天国と言われる至福の世界だった。総てのものが永遠の興奮状態であった。尖り頭の妖精達にも涅槃として知られる場所であった。"わたしのまのあたりに 経験した総ての生命が輝く" 無限の火花の輪のように、数億の星、星座、宇宙は倒れたままのゼロに、そう歌った。・・・ゼロは聖なる名の永遠の歌い手たちに耳を傾けた。総てが音楽だった。彼はどこからともなく流れてくる・・・・。
PART 3:GONG「YOU」
(VIRGIN V2019)
ゼロはさらにトリップを続け、どこからかスペース・ウィスパーが囁きかける。”お前は誰だ。お前は誰なのだ”と、"リラックスしてハイな状態になれ、きみの感覚はセックスを、想像力は知恵を、融合は愛を生む。それこそが今のキミに必要だ。" ゼロは惑星ゴングこそユートピアだと信じ、その状態をあるがままに地球へ持ち込もうとし、惑星ゴングの神イラムにそれを打ち明けた。"独自の創造力を駆使すれば、目に見えぬ神殿を築くことができる" それがユートピアであるというのがイラムの答えだった。"エヴリウェア島こそユートピアーだ"という声が聞こえる。しかし再び別の声が警告する。"ユートピアなどという俗っぽさのなかで、お前はダメになってしまう"と。尖り頭の妖精とゼロは会話を交わす。"お前の理念とはそんなものか? くだらない幻影がお前をダメにしている。" " "お前が成功してもしなくても、そんなことはどうでもいいのさ。だってお前は精一杯の努力をしたんだからね。”
※サウンドは個性的なスペースサウンドでアトモスフィアでファンタジックなものだが、ストーリーは悪く言えば子供騙しのお伽噺のようなものだ。アレンとギルが築き上げたゴングの神話世界、コスモスはやはりこの「ラジオ・グノーム・インヴィシブル(見えない電波の妖精)」3作で完結され終わったと言えるだろう。
GONG/SHAMAL
(VIRGIN V2046)
その後、ゴングはドラム、ヴィブラフォーン、パーカッションのピエール・モーランを中心に再編成され'75年「Shamal」(当時の邦題 「砂の迷宮」)をピンク・フロイドのニック・メイソンのプロデュースのもとに発表する。その新ユニットは1990年代までジャズ・ロック・バンドとして活動を続けていた。「エンジェル・エッグ」以来のメンバーであったマイク・ハウレット、「マジック・ブラザー」以来の最も古いメンバー、ディディエ・マレルブ、「フライング・ティーポット」以来のメンバー、ミレイユ・バウア、そして新加入のパトリア・ルモワーヌの4人のフランス人と1人のイギリス人による彼らの音楽は、ジャズ、ファンク、フォークローレ、ガムランからアフロ・アメリカンを横断する多彩なインストゥルメンタル・ジャズロック(フュージョン)である。当時はオリジナル・ゴングと比較すると、その評価は著しく悪かったが、クラブジャズを通過した現在の「ジャズ的なるもの」の耳には新生ゴングのほうがよりマッチして抵抗感なく聴ける。
ヴァージン/キャロラインでのカンタベリー系から当時のブリティッシュ・ロック回顧を連載しているが、こうした流れは50年代後半のアメリカでの黒人ニュージャズの影響を受けた英国でのマイルス・デイヴィスとも言われたイアン・カーや、後にソフト・マシーンを牛耳ることになる鬼才カール・ジェンキンスたちの「ニュークリアス」、他には「マイク・ウェストブルック・コンサートバンド」、「マイケル・ギブス」、「ブロッサム・ディアリー」などのブリティッシュ・ニュー・ジャズから派生したものだというのを忘れないうちに明記しておきたい。