STEVE HILLAGE

華やかなブリティッシュ・インヴェイジョン時代の
最もイギリスらしいブリティッシュ・サウンドも聴こえてくる
「FISH RISING(邦題 魚の出てくる日)」
STEVE HILLAGE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 20

ロンドン生まれのスティーヴ・ヒレッジはハイスクール時代にミッド・シックスティーズのブリティッシュ・ブルース・ブームを経験し、’67年の終わりにデイヴ・スチュワートのオルガンと自身のギターをフィーチャーしたURIEL(エッグの前身)を結成したことがミュージシャンとしての出発点。カンタベリーのケント大学に入学し歴史と哲学を専攻する頃は、新左翼思想にかぶれた学生だったという。その後、キャラバン、ピロジィアなどのバンドとのセッションに時々参加し、'71年にカーン(KHAN)というバンドを結成、’72年にそのバンドを解散し、ヘンリーカウやエッグのメンバーたちも参加していた16人編成のザ・オッタワ・カンパニーのコンサート・シリーズで演奏した後、'73年にゴングに加入、'75年にゴングを離れソロ・アルバム「FISH RISING」を発表、というのが当時のスティーヴ・ヒレッジの大まかなバイオグラフィーである。

STEVE HILLAGE/FISH RISING
(VIRGIN V2031)
スティーヴ・ヒレッジもまた"コズミック・ジプシー"と呼ばれ、'70年代の最も重要なギタリストの一人として評されていた。いま再び聴き直すと、彼の音楽の底に流れているのは、Fleetwood Mac、Savoy Brown、Chicken Shackなどのブリティッシュ3大ブルースや、アレクシス・コーナーなどのR&Bに影響を受けた音楽じゃないかなと思える。それに加えてファーストアルバムの「FISH RISING」からは、カンタベリー・サウンドに混じって、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に似た、華やかなブリティッシュ・インヴェイジョン時代の最もイギリスらしいブリティッシュ・サウンドが聴こえてくる。このファーストは別格にして、その後'75年に発表したサード・アルバム「L」ではドンチェリーのトランペット、スティーヴィー・ワンダーやアイズリー・ブラザースのアルバムに関わっていたマルコム・セシルの全面的バックアップ、黒人ミュージシャンによるセッションでのファンキーな音楽、そして'77年のアルバム「MOTIVATION RADIO」で聴けるコズミック・ファンキーなグルーヴといったように、彼の音楽のファースト以外の作品をも、カンタベリー系のジャズロックとしてカテゴライズするのは間違っているだろう。現在の「ジャズ的なるもの」の耳は、カンタベリー系などの一部の音楽を除いて、ビブラートのかかったアーム・アップ、アーム・ダウンなどの奏法でのエレキギターを主にした音楽を当時のように聴けなくなってしまっている。ジャズ以外では、逆に伝統的なブルースやファンクやソウル色の強いシンプルなものは聴けるのだが、不思議だな。エレキギターのサウンドがもはや21世紀の時代に適応してない時代錯誤的な古さも感じるが、なによりもロックミュージックが白人のもので、エレキギターという楽器の持つ特性が西洋音楽(クラシック)の発展したものとしての領域から逸脱できないジレンマ、限界のようなものを感じるからだろう。ジャズにエレキギターを起用したロック的な音楽では、マイルス・デイヴィスの'68年の8ビートのリズムとエレクトリック楽器を導入した「マイルス・イン・ザ・スカイ」や、その後ジョー・ザヴィヌルの協力を得た実験的とも言える'69年の「イン・ア・サイレント・ウェイ」、「ビッチェズ・ブリュー」あたりの'70年代以降のフュージョンブームの方向性を示したあたりのもの、それかファンク色の強い、よりリズムを強調したハードなスタイルへと進展した'73年の「オン・ザ・コーナー」あたりがロック的なものに対する現在のボクの限界かな。

The Electrick Gypsy Service And C.O.I.T. Present:
side 1:inglid/involution
1.Solar Musick Suite a.SunSong(I love It's Holy Mystery). b.Canterbury Sunrise. c.Hiram Afterglid meets the Dervish d.SunSong8reprise)
2.Fish 3.Meditation of the Snake.
side 2:outglid/evolution
1.The Salmon Song. a.Salmon Pool. b.Solomon's Atlantis Salmon. c.Swimming with the Salmon. d.King of the Fishes.
2.Aftaglid. a.SunMoon Surfing. b.The Big Wave and the Boat of Hermes. c.The Silver Ladder. d.Astral Meadows. e.The Lafta Yoga Song. f.Glidding. g.The Golden Vibe/Outglid.
Electrick Musick and Fish rock composed and arranged by Steve Hillage. Additional arrangements for Fish by Dave Stewart. Lyrics and record concept by Steve Hillage and Miquette Giraudy.
Recorded at The Manor September '74 and in the Manor Mobile January '75. Engineer and twiddlefish Simon Heyworth.
produced by Steve Hillage and Simon Heyworth.
STEVE HILLFISH(Gitfish,Fishy hymms) PIERRE MOERLIN(Batterfish,Drum Marimba Darbuka) DAVE STEWART(Orgone Pianofish) MIKE HOWLETT(Bassfish) LINDSAY COOPER(Basoonafish) MOONWEED(Synfish,Moog Bubblefish Tambura) BLOOMDIDO GILD DE BREEZE(Saxofish Indian Floot) BAMBALONI YONI(Fish Tales Fish Scales Fish Bells)
1975 VIRGIN RECORDS

Comment ( 2 )

東山 聡 :

CASCADESも回を重ねるごとに核心部分に迫ってきて目が離せなくなってきました。
以前紹介された、GILGAMESHやIAN CARR WITH NUCLEUSのSolar Plexusを聴いて、プログレッシヴロックって何?ジャズとロックの関係性って?と漠然といだいていた疑問が少しづつ解けていってるように思います。

阿木 譲 :

東山クンは、はやくソフトマシーンやイアン・カー周辺にいって欲しいのだろうけれど、'70年代前半のヴァージンにはまだまだ大事な作品があるので、本題に入るのは、もうすこし待って下さい。

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