社会から「忘れられた人たち」や「マイノリティ」を主題とした
その手にカミソリの刃を隠し持つケヴィン・コインの歌
KEVIN COYNE
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 21
ケヴィン・コインの音楽とは直接関係ない話だが、不思議な、世界の至る所で連続して同時発生するシンクロニシティという音楽の運動は、直観的な意識と行動が調和しながら拡大していく。まるで示し合わせたように共時的に集合的無意識から生まれる先端での音楽。たった数年の短い間に表出して来たカンタベリー系ジャズロックだって共時に発生してきたものだ。ボクはこの30年あまり、音楽のシンクロニシティ=同時発生する運動、時代意識の流れに、なによりも魅かれ続けてきた。そうした共時性の流れに乗ってクラブジャズから現在は、nu jazz、Finn Jazzの「ジャズ的なるもの」のフィールドに漂流している。最初、音楽に興味を持っただれもに、レコードやCDを選ぶとき、その入り口があるだろう。多岐に分かれたその入り口は、音楽を聴くひとの意識の違いによって選別される。音楽を聴き分ける行為とはなんだろう。セックスに似た気持ち良さを音楽に直覚的、感覚的に求めるひともあるだろうが、キミの耳が音楽を聴いているのではなく、キミの意識が音楽を聴いているというのを多くのひとは忘れている。レコードショップでレコードを選別する行為、それは他者性を孕んだ、差異化された自己同一性をそこに重ね合わせていることに誰も気付いていない。レコードや音楽のなかに自分自身の姿、自己をみているのだ。単純に好き嫌いで音楽を聴くのも意識の違いの表れたものだ。ソフトマシーンの「4」(彼らの作品のなかでベストなもの)のアルバム発表後の全米ツアーを最後に、ロバート・ワイアット、マイク・ラトリッジ、ヒュー・ホッパー、エルトン・ディーンの4人のソフトマシーンは音楽的違いから分裂することになる。こうしたことも人間の意識の違いから生じる事件で音楽そのものが原因ではない。こんなことって結構多いよね。余談だが、ボクは服装や髪型や持ち物、性格から、そのひとの聴いている音楽を言い当てられる。
KEVIN COYNE+DAGMAR KRAUSE/BABBLE(SONG FOR LONLY LOVERS)
(VIRGIN V2128)
スラップ・ハッピー、ヘンリー・カウ、アート・ベアーズの女性ヴォーカリスト、ダグマー・クラウゼと、イギリスのシンガー・ソングライター、ケヴィン・コインの共演作。ケヴィン・コインはダービーで44年に生まれ、'69年サイレンというフォーク・ロック/ブルース・バンドでデビューした後、グループ解散後72年英Dandelionからファースト・ソロ・アルバム「ケース・ヒストリー」をリリースしている。彼はプロデューサーJOHN PEELに見出されたシンガーとしても有名。そのケヴィン・コインとダグマー・クラウゼの「BABBLE」は'79年にヴァージンから発表された。元々ケヴィン・コインが作家のスヌー・ウィルソンと制作したミージカルのレコード版となってリリースされたもので、恋の迷い子になった恋人が恋の成就に向かって戦うという60年代の恋愛小説。
side 1:Are You Deceiving Me? 2.Come Down Here 3.Dead Dying Gone 4.Stand Up 5.Lonely Man 6.I Really Love You 7.Sun Shines Down On Me
side 2:1.I Confess 2.Sweetheart 3.Shaking Hands With The Sun 4.My Minds Joined Forces 5.It's My Mind 6.Love Together 7.Happy Homes 8.It Really Doesn't Matter 9.We Know Who Are
KEVIN COYNE(Vocals,acoustic Guitar,Piano) DAGMAR KRAUSE(Vocals) ZOOT MONEY(Piano) BOB WARD(Acoustic/Electric Guitar) AL JAMES(Bass) VIC SWEENEY(Drums) PAUL WICKENS(Electric Piano,Congas) JERRY DECADE(Organ)
Engineers-Al and Vic Produced by Bob Ward
recorded at Alvic Studios Wimbledon
VIRGIN RECORDS 1979
KEVIN COYNE/MARJORY RAZOR BLADE
(VIRGIN VD2510)
ニッポンでは全く無名といってもいいが、ケヴィン・コインは'04年に亡くなるまでポップ、ロックンロール、ブルーズ、バラッド、レゲエ、パンクなど様々な分野で活躍し、多くのアーティストに多大な影響を及ぼしている。語呂遊びのナンセスな歌詞や、狂気や剥奪や忘れられた人たちを主題とした歌詞はユニークでありシニカルで、それをソウルフルでファンキーなルーズ・サウンドに乗せて豪快に歌う様は、まるでワーキング・クラス・ヒーローのようだ。'73年に2枚組でリリースされた「Marjory Razor Blade」は、全編ブルース・ベースの音楽で、このアルバム・タイトルに使われている"カミソリの刃"は、'76年の2枚組アルバム「IN LIVING BLACK AND WHITE」のジャケット写真でも、背中にまわした右手に"カミソリの刃"をRazor blade smileよろしく隠し持ち使われていて、いまでは、ジョニー・デップの映画「スウィニー・トッド」のゴシックな舞台の猟奇殺人のコミカルさも思わせるが、この"カミソリの刃"は、彼の亡くなるまで持ち続けた反骨精神や部外者としての立ち位置、反社会的な態度が象徴されている。
side one:!.marjory Razorblade 2.Marlene 3.Talking to No One 4.Eastbourne Ladies 5.Old Soldier
side two:1.I Want my Crown 2.Nasty 3.Lonesome Valley 4.House on The Hill 5.Cheat Me
side three:1.Jackie And Edna 2.Everybody Says 3.Mummy 4.Heaven In My View 5.Karate King
side four:1.Dog Latin 2.This Is Spain 3.Chairmans Ball 4.Good Boy 5.Chicken Wing
KEVIN COYNE(Vocals,Guitar9 GORDON SMITH(Acoustic,Slide,12 string and electric guitar,Mandolin) Jean Roussel(Piano,Organ,Fender Rhodes) Tony Cousins(Bass,Bass Tuba) Chili Charles(Drums,Congas) Steve Verroca(Acoustic Case,Piano) produced for Virgin Records by Steve Verroca
VIRGIN RECORDS 1973
KEVIN COYNE/IN LIVING BLACK AND WHITE
(VIRGIN VD2505)
'76年ヴァージンから発表された2枚組アルバム。ケヴィン・コインのホームページでみられる絵画は、'57-'61にジョゼフライトスクールオブアート、'61-'65にDerby大学でグラフィックスと絵の教育を受けた成果で、晩年は絵画にも創造の場を求めた彼の優しくシニカルな人間性があらわれていて、彼の音楽を理解するうえでも興味ぶかい。ケヴィン・コインが影響された音楽は、リトル・リチャードとファッツ・ドミノと、チャック・ベリー、マディー・ウォーター、ジョンリー・フッカー、ジミー・リードだというから、なるほどと頷ける。'68年後半にロンドンに移り住んだ彼の最初の仕事がWhittingham病院(ランカシャー('65-'68))の社会的なセラピストで、'69年にソーホープロジェクトのために麻薬常用者のためのカウンセラーとして就業し、この仕事に就いたことで、その後の社会から"忘れられた人たち"、マイノリティを主題とした彼の音楽、歌の世界を決定づけたといっていいだろう。
side one:1.Case History No.2 2.Fat Girl 3.Talking To No-one 4.My Mother7s Eyes 5.Ol7 Man River 6.Eastbourne Ladies
side two:1.Sunday Morning Sunrise 2.One Fine Day 3.Marjory Razorblade
side three:1.Coconut Island 2.Turpentine 3.House On The Hill 4.Knocking On Heaven's Door
side four:1.Saviour 2.Mummy 3.Big White Bird 4.America
ZOOT MONEY(Electric Piano,Vocals) ANDY SUMMERS(Guitars,Vocals) STEVE THOMPSON(Bass) PETER WOOLF(Drums)
produced by Robert John Lange & Steve Lewis
VIRGIN RECORDS 1976
Comment ( 1 )
急かすようなコメント書いてしまい申し訳ありません。
ケヴィンコイン、まずこの日本には絶対いないタイプのミュージシャン(アーティスト)だと思います。僕も願わくば、彼のような、心の暖かい人の痛みがわかる人になりたい…そう思いました。
まだまだ、知らない事がいっぱいあります。焦らずじっくりと読ませていただきます!
投稿者: 東山 聡 | 2008年02月24日 15:50
日時: 2008年02月24日 15:50