HATFIELD AND THE NORTH

クラシカルでゴチック的な淡い色彩と
ジャズのフリーフォーム・スタイルによって構築され描かれた
ハットフィールド・アンド・ザ・ノースのカンタベリー系ジャズロック
HATFIELD AND THE NORTH
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 3

ブリティッシュ・ロックへの回顧「Cascades 」は60-80年代のブリティッシュ・ロックを中心に重要なレコードだけを可能な限り最考察して、今後続けられるだけずっと書き留めていこうと思っているのだが、そろそろ本題に入るべくレコード資料室に行き迷わず70年代初期のヴァージン・レーベルやヴァージン・キャロラインで発売されていたアルバム50数枚とボクが初めてポートベロロードにあったヴァージンレコードを訪問した時にリチャード・ブランソンから直接頂いたサンプル盤7インチシングル20数枚だけを抜きだしてきた。このあたりのプログレッシヴ・ロックと呼ばれた音楽こそがボクにとっての始まりを意味する特別なものだから。久しぶりに手にした初期ヴァージンでのレコードは30年という時間が経過しているにも関わらず、まるで新譜レコードを手にしたかのような不思議な感覚にとらわれた。ソフト・マシーン、マッティング・モウル、キャラヴァン、エッグ、ヘンリー・カウなどなど、ロバート・ワイアットという存在を核にしたカンタベリー系を考えるならば、個人的にはやはりハットフィールド・アンド・ザ・ノースには格別な思い入れがある。

HATFIELD AND THE NORTH(VIRGIN V2008)
72年11月から75年6月までのわずか3年弱の活動期間しかなかったハットフィールド・アンド・ザ・ノースは、74年(原盤では73年とクレジットされている)に「Hatfield And The North」と75年に「The Rotter's Club」の2枚のアルバムを発表しただけで解散してしまったのだが、久しぶりにレコードに針を落として驚いたのは、これほどまでにクラシカルでゴチック的な淡い色彩で描かれた音楽だったのかと改めて気付かされたことだ。そういえばファーストでのカンタベリーの空に暗雲が立ちこめるように浮かび上がる地獄絵、ゴチック的絵画、セカンドの裏ジャケットのペガサスに股がり飛翔する少女と空から墜落する悪魔と天使などがコラージュされ暗喩されている。レコードに残された音楽に限定して言えば、ゲイリー・バートン、チャーリー・ミンガス、キース・ジャレットなどのジャズプレイヤーに影響された彼らならではの、ジャズのフリーフォーム・スタイルによって構築され、恐らくレコーディングする際にアイデアに添ったあらかじめ20を超えるセッションによって録音された曲の断片、素材をもとにスタジオで編集、切り貼りして構築されたものじゃないだろうかと思う。

HATFIELD AND THE NORTH/THE ROTTER'S CLUB(VIRGIN V2030)
彼らの2枚のレコードに収録されている楽曲には、まず前奏、序曲があり、それに続く間奏というように、曲間もなく次から次にたたみこむように連続して楽曲が再生される。アルバムに収録されたすべての曲によってひとつのコンセプチュアライズされた世界が完成される。それはまるでバロック時代の組曲の手法に似てデコレイティヴな美しさを持っている。当時多くのミュージシャンたちが「頑なに自己の音楽形態を極めようとするなら、純粋なジャズのアプローチになってしまう」という発言をしていたが、30年ぶりにジャズをイニシエーションした後に、「ジャズ的なる耳」で聴くハットフィールド・アンド・ザ・ノースの音楽からは当時聴こえなかったものが聴こえてくる。音楽って同じレコードを聴いていても、ひとによって聴いているものは違うんだから不思議だ。耳が音楽を聴いているんじゃなく、意識が、頭脳がその音楽をとらえていることがこのことでも立証される。当時63年のワイルド・フラワーズから始まったカンタベリー・ツリーは、キャラバン、ハットフィールド・アンド・ザ・ノース、キャメル、ゴング、エッグ、マッチング・モールなどに波及し、77年にはリチャード・シンクレア以外のハットフィールド・アンド・ザ・ノースの残りのメンバーたちは、NATIONAL HEALTHへと発展していく。

HATFIELD AND THE NORTH( VIRGIN V2008)
side one:The Stubbs Effect(Pip Pyle)Big Jobs "Poo Poo Extract"(R.Sinclair) Going Up To People And Tinkling(D.Stewart) Calyx(P.Miller) Son Og "There's No Place Like Homerton"(D.Stewart) Algrette(P.Miller) Rifferama(R.Sinclair,arr.The North)
side two:Fol De Rol(R.Sinclair) Shaving Is Boring(R.Pyle) Licks For The Ladies(R.Sinclair) Bossa Nochance(R.Sinclair) Big Job No.2 "by Poo And The Wee Wees"(R.Sinclair) Lobsters In Cleavage Probe(D.Stewart) Gigantic Land-crabs In Earth Takeover Bid(D.Stewart) The Other Stubbs Effect(Pip Pyle)
RICHARD SINCLAIR(Bass,Singing) PHIL MILLER(Guitars) PIP PYLE(drums) DAVE STEWART(Organ,Pianos and Tone Generator) THE NORTHETTES(Singing) GEOFF LEIGHT c/o HENRY COW(Saxes and Flte) JEREMY BAINES(Pixiephone) ROBERT WYATT(Singing on "Calyx")
recorded at The Manor Studios in 1973. engineered and produced by Tom Newman and The Hatfields.coverdesign and photography by Laurie Lewis
1973 VIRGIN RECORDS

HATFIELD AND THE NORTH/THE ROTTER'S CLUB(V2030)
side one:1.Share It 2.Lounging There Trying 3.(Big) John Wayne Socks Psychology On The Jaw 4.Chaos At The Geasy Spoon 5.The Yes No Interlude 6.Fitter Stoke Has A Bath 7.Didn't Matter Anyway
side two:1.Underdub 2.Mumps a.Your Majesty Is Like A Cream Donut b.Lumps c.Prenut d.Your Majesty Is Like A Cream Donut
PIP PYLE(drums and percussive things) RICHARD SINCLAIR(bass and vocals/guitar on "Didn't Matter Anyway") DAVE STEWART(organ,electric piano and tone generators)
produced by The Hatfields engineering and production assistance Dave Ruffell recorded and mixed on Saturn,worthing recording studio january and february 1975
1975 VIRGIN RECORDS

youtubeでも当時のライヴ映像をみることができるが、レコードでの音楽とライヴでは格段の違いがある。音楽の第一印象はなによりも大事だから、みるならこの2枚のレコードを聴いてからにしたほうがいいだろう。

Comment ( 2 )

東山 聡 :

僕にとって、カンタベリ-周辺の音楽は未知の領域です。ジャズやロック、イギリスの音楽シーンの層の厚さ、奥深さには本当に驚かされますね。
ジャイルス ピーターソンがコンパイルした''impressed 2''のライナーノーツの中にも、60〜70年代のシーンの中でジャズとロックは密接な関係にあったと書かれているし、そのような環境でジャンルを越え切磋琢磨しあいながら、数々の名作が生まれてきたのでしょうね。

阿木 譲 :

キミたち若い音楽ファンにとっては新鮮でしょう? まだ最考察が始まったばかりでなんとも言えないし、判らないけれど、Finn Jazzなんてカンタベリー系のジャズとは実は隣り合わせの関係にあるものだったりして・・・。音楽だけはいいものだけをずっと聴き続けてください。

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