HENRY COW

カンタベリー・ジャズロックの即興性と室内楽的アンサンブル、現代音楽的構造を持ったポストモダン・ジャズ
HENRY COW
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 4

もはやHENRY COWの音楽をアヴァンギャルドと呼ぶのはよそう。 クラシックやジャズの音楽理論を習得したフレッド・フリスやティム・ホジキンソンを核にしたカンタベリー・ジャズロックの即興性と室内楽的アンサンブル、現代音楽的構造を持ったポストモダン・ジャズでいいだろう。そのことはRay Smithの「靴下」を描いたカヴァー・ペインティングに象徴されている。ライヴでは即興性を重んじるアクトを展開してはいたが、彼らのアルバムでの音楽はフリージャズにある無作為性とはほど遠い明確な構造を持っている。スリリングで予期出来ない楽曲を意識的に創造し、その突然変異的な構造美こそが彼らの音楽にみられる特質だ。'68 年結成されたヘンリーカウはSLAPP HAPPYとの融合/分裂を経て78 年に解散してしまい、 この期間に残された作品は僅か5枚だが、ここには30数年という時間を経たいまでも色褪せることが無い斬新なポストモダン・ジャズが凝縮されている。

HENRY COW/LEG END(RED RECORDS RED 001)
73 年に発表された第一作「Leg end」。ヴァージンからではなくフィラデルフィアのRED RECORDSからリリースされたもの。Aサイド1曲目の「Nirvana For Mice」はスピード感あるリズムのうえを管楽器のフレーズが踊る。まさにハードバップだ。 彼らの音楽はクラシック、スピリチュアル、フリー・ジャズ、ロックなど多様式主義的構造を持つ楽曲のなかに、タイミングよくフレッド・フリスのリリカルなメロディが挿入されることによって、カンタベリー・ジャズの特徴が浮かび上がる。当時コンテンポラリー・ロック(プログレッシヴ・ロック)台頭のなか、ヘンリーカウだけが現在のポストモダンの時代を先駆けていたと言えるだろう。

HENRY COW/UNREST(VIRGIN V2001)
当時ヘンリーカウの音楽とサードイヤーバンドなどのいわゆるチェンバーロックは同等に語られていて暗く陰湿で難解な音楽だととらえられていた。74年に発表されたセカンド「UNREST」は、サックス、フルートのジェフ・ライが脱退し管楽器バスーン、オーボエ奏者のリンゼイ・クーパーが新らしく加入している。 そのことによってこのアルバム全体を包むサウンドスケープはチェンバーロックという形容に相応しくファーストでのスピード感あるジャズ的なるものから、よりアブストラクトでロック的なるものに接近している。こうした音楽をインプロビゼーション、フリーなどと形容するのは間違っている。あらかじめ綿密に計算された構造のなかで、緊張感を生むためにギターなどはそのような手法をとって録音されるだろうが、スコアに起こされた明確な構造のなかで、即興、フリー、サウンドコラージュという遊びを持ったものだ。暴力的、ノイズ、気違いじみたなどの形容ももはや彼らの音楽にはあてはまらない。美しいバロキスム・ミュージックだ。

HENRY COW+SLAPP HAPPY/IN PRAISE OF LEARNING(VIRGIN V2027)
75年に発表されたサードアルバム。SLAPP HAPPYとの74年の共作アルバム「Desperate Straights」で共演した後、SLAPP HAPPY のメンバーが HENRY COW に合流し制作された作品。ジャケット裏の最後のコメントにはイギリスのドキュメンタリー作家を育て自身も記録映画作家だったJohn Griersonの"Art Is Not A Mirror-It Is A Hammer"という言葉が添えられているが、このアルバム録音後、ダグマー・クラウズだけを引き抜きヘンリ−カウはスラップハピーと決別するのだが、芸術や音楽が、すべての既成概念を破壊し新たな世界の扉をあけていたあの時代は様々なイデオロギーが交錯するなかで、特にロックにそのような観念、空論を見いだそうとする若者が多かったのは事実だ。80年代の頭だったか(手元に雑誌「ロックマガジン」がないから正確な年を忘れたが)、ロンドン郊外の一軒家に住むそのクラウゼに一度だけインタヴューしたことがある。「あなたの音楽はネガティヴですね」というボクの質問に突然憮然として怒りだしたことがある。あれもいまやいい笑い話で楽しい思い出だ。スラップハピーの音楽やダグマー・クラウゼのファルセット気味のヴォーカルを聴くとボクはなぜかハッピーエンドで終わる通俗劇に対する痛烈なパロディを描いていたベルトルト・ブレヒトの「三文オペラ」を思い出す。(ヘンリーカウの音楽に歌による物語性はいらないと当時そう思ったが)
アルバム全体を1つの作品として聴くコンセプチュアル・アルバムとしてのこうした音楽に感情移入し、幻想そのものをコンセプチュアライズすることは当時としては当たり前の行為だった。だけどそこからは誰も答えを見つけることが出来なかったことだけ、付け加えておこう。

HENRY COW/LEG END(RED001)
side one:Nirvana For Mice(Frith) Amygdala(Hodgkinson) Teenbeat Introduction(H.Cow) Teen beat(Frith/Greaves)
side two:Extracr From'With The Yellow Half-Moon and Blue Star'(Frith) Teenbeat Reprise(Frith) The Tenth Chaffinch(H.Cow) Nine Funerds Of The Citizen King(Hodgkinson)
Fred Frith guitars, violin, viola, piano, voice
Tim Hodgkinson organ, piano, alto sax, clarinet, voice
John Greaves bass, piano, whitsle, voice
Chris Cutler drums, toys, piano, whitsle, voice
Geoff Leigh saxes, flute, clarinet, recorder, voice
recorded at Manor Studio,May/June '73
sound by Tom 'greasy Patches' Newman and Henry Cow,(First bit of 'Nirvana for Mice' engineered bu Mike Oldfield). for Teenbeat Chorade we were anymented by Sarah Greaves,Maggie Thomas and Cathy Williams.
front cover by Ray Smith
1973 RED RECORDS

HENRY COW/Unrest(VIRGIN V2011)
I:Bittern Storm over Ulm Half asleep;Half awake Ruins
II:Solemn Music Linguaphonic Upon entering the Hotel Adlon Arcades Deluge
Fred Frith stereo guitar, violin, xylophon, piano
Tim Hodgkinson organ, alto sax, clarinet, piano
John Greaves bass, piano, voice
Chris Cutler drums
Lindsay Cooper bassoon, oboe, recorder, voice
recording engineeres:Phil Becque with Andy Morris:parts of Ruins by Mike Oldfield.
Mixing engineers:side I,Phill Becque:side II,Henry Cow. certain vocals and engineering assistance by Charles Fletcher.
cover paintings and inside photograph by Ray Smith.
recorded at the Manor Feb./Mar.1974
produced by Henry Cow and dedicated to Robert Wyatt and Uli Trepte.
1974 VIRGIN RECORDS

HENRY COW+SLAPP HAPPY/IN PRAISE OF LEARNING(VIRGIN V2027)
I.War(Moore/Blegvad) II.Living In The Heart Of The Beast(Hodgkinson) III.Beginning:The Long March(H.Cow/S/Happy) IV.Beautiful As The Monn-Terrible As An Army With Banners(Frith/Cutler) V.Morning Star(H.Cow/S.Happy)
I.War(Moore/Blegvad)
Tim Hodgkinson organ, clarinet, piano on 2
Fred Frith guitar, violin, xylophon, piano on 4
John Greaves bass, piano
Chris Cutler drums, radio
Dagmar Krause voice
Peter Blegvad guitar on 2,3, voice on 1, clarinet on 1
Anthony Moore piano on 1,2, electronics, tapework
Lindsay Cooper bassoon, oboe, recorder, voice
guest:Geoff Leigh soprano sax on 1
Mongezi Feza trumpet on 1
Phil Becque oscillator on 4
produced by H.Cow/S.Happy/P.Becque
recording and mixing engineered by Pjil Bacque.
recorded at Monor February-March 1975
1975 VIRGIN RECORDS

レコードでのヘンリーカウの音楽はライヴでは聴けない念のため。
http://www.youtube.com/watch?v=iDFxcBsDNI0

« HATFIELD AND THE NORTH | メイン | SLAPP HAPPY »