IAN CARR

エレクトリック・マイルスと相関関係があることは明らかな作品
ユーロジャズのテイストも感じられ
現在のnu jazzやFinn Jazzに最も近いジャズが展開されている
IAN CARR
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 31

IAN CARR / BELLADONNA(VERTIGO 6360 076)
'60年代後半のイアン・カーといえばフリー・ジャズのSME(スポンティニアス・ミュージック・アンサンブル)の3人であるジョン・スティーヴンス、トレヴァー・ワッツ、ジェフ・クラインらの'69年にリリースされたアルバム「SPRING BOARD」に参加していたり、ドン・レンデルと双頭のクインテットを組んで'66年には「ダスク・ファイアー」を発表していた。当時のジャズミュージシャンの交流によるエクスペリメンタル・ジャズは後のアマルガムやニュークリアスの試金石になっている。'70年にNUCLEUSはLeon ThomasのバックバンドとしてMontreux Jazz Festivalにも出演しスピリチュアル・ジャズの領域にも侵入していた。イアン・カーはマイルス・デイヴィスに関しての「Miles Davis/The Definitive Biography」、「The Rough Guide to Jazz (Rough Guide Reference Series)」など数冊の著作物を出版するなどマイルス研究家としても有名だ。
イアン・カーの'72年のソロ・アルバム「BELLADONNA」は実質上のニュークリアスの4作目と言われていて、アラン・ホールスワース、ゴードン・ベック、ロイ・バビントンらが参加し、ハードバビッシュなグルーヴが全編流れている。このアルバムをフュージョンやジャズロックと捉えている人の耳を疑う。当時のエレクトリック・マイルスと相関関係があることは明らかな作品で、ストレートに"ジャズ"だ。ユーロジャズのテイストも感じられ、現在のnu jazzやFinn Jazzに最も近いジャズが展開されていて、ジャケット・デザインを含めてイアン・カーの作品のなかでは、最も気に入っている(このままクラブジャズとしてDJイングも可能)。イアン・カーはイギリス・ジャズ界を代表する革新的トランペッターだが、楽器の中でボクの最も好きなものがトランペットである。唇の動きや息の速さを変えると音がいろいろ出せ、ブロウするにも金管楽器中もっとも高音域がでる特性を持つトランペットは、形態そのものからしても原始的で自然で、人間の声や息、情感をそのまま再現でき、ジャズというアーバン・ブルースに最も相応しい楽器だと思っている。"熱く、高く、大きく、速く、そして優しく……。そのさまざまな表情は3本のピストンのみで繰り出され、そのため表現に関する多くの部分がプレイヤーのテクニックにかかっている"と言われるトランペットは、ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、クリフォード・ブラウン、マイルス・デイヴィス、リー・モーガンなどなどその系譜を追えば、ジャズの歴史がすべて見えてくるといわれるほど、ジャズの"華"なのだ。ラッパは、原始からの息といわれ、男性を熱狂させる比類なき力を持ち、大きな喜びや戦争のような激しい感情と結びついており、ローマ時代(紀元前476年頃)は、しばしば政治、宗教的行事や集会、そして兵士の士気を盛り立てるために軍隊には欠かせないものだった。トランペットの語源は、アステカ神話における冥府神ミクトランテクトリ(Mictlantecuhtli)が、自分の愛玩動物の肛門から息を吹き込み断末魔の悲鳴を上げさせて楽しんだという伝説から、ミクトランテクトリのペット、略してトランペットと称されるようになったという説もあるが、ホモ・セクシャリティな発想で愉快だけれど、これはにわかに信じ難い。

SIDE A:1.Belladonna, 2.Summer Rain
SIDE B:1.Remadione, 2.Mayday, 3.Suspension, 4.Hector's House
Recorded at Phonogram Studios, London, Jul. 1972
Produced by Jon Hiseman
Ian Carr(Trumpet, Flugelhorn) Brian Smith(Tenor Sax, Soprano sax, Alto & Bamboo Flute) Dave MaCrae(Fender Electric piano) Alan Holdsworth(Guitars)Roy Babington(Bass Guitar) Clive Thacker(Drums) Gordon Beck(Hohner Electric
Piano) Trevor Tomkins(Percussions)
VERTIGO 1972

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