IAN CARR with NUCLEUS

イアン・カー+ニュークリアスの
スパイラル・ヴァーティゴ "渦巻き"・ジャズと
21世紀クラブジャズとの接点
IAN CARR with NUCLEUS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 32

英フォノグラムが'69年に設立したレーベル、スパイラル・ヴァーティゴ(渦巻き)・マークのVERTIGOも、'70年代初期のブリティッシュ・ロックを語るうえでは避けて通れないレーベルで、コロシアム、ロッド・スチュアート、ブラックサバス、ユーライア・ヒープ、ステイタス・クォーなど、どちらかというとハードロック系のレーベルでメジャー志向ではあったが、マグナ・カルタなどのトラッド・ロックや、ジェントル・ジャイアントなどのジャズフュージョン、ニュークリアスやジョン・スティーヴンスのジャズ、クラフトワークのテクノ・ポップまで広範囲の音楽ジャンルを網羅していた。
そのアルバムのロジャー・ディーンやキース・デイヴィス、ヒプノシスなどによるジャケット・デザインは、どれもが手の込んだドラマチックな物語性あるヴァーティゴ・ワールドを象徴した独特のもので、'73年以降のロジャー・ディーンによるデザインの "スペースシップ・ヴァーティゴ"に変更された頃までは、音楽よりもそのジャケット・デザインに惹かれてレコードを買っていた時期があった。下記のサイト「音式」で当時のヴァーティゴ・レーベルに関して詳細に記録されているので参照を。
http://www.sunny-bug.com/oto-ziki/index.html

NUCLEUS/ELASTIC ROCK(VERTIGO 6360 008)
'70年にヴァーティゴからリリースされたファーストは、ロジャー・ディーンによる見開き&穴開き仕様のジャケット・デザインだが、その神秘的な火口の燃え盛る溶岩、それはイアン・カー率いるニュークリアスの、アルバムを通して聴こえてくるスピリチュアルな世界が象徴されている。短かい13の曲が組曲として構成されていて、現在のFINN JAZZにみられるロマンチックなグルーヴへの接点も感じられ、サイド1ラストの「1916-The Battle of Boogaloo 」では、コルトレーンの「ネイマ」のフレーズが聴こえてくるあたり、ユッカ・エスコラのトランペットの甘い響きさえもボクの頭で交錯する。このアルバムやニュークリアスがもしいまFinn Jazzやnu jazzの新しいユニットとして表出してきたなら、クラブジャズ・ファンに間違いなく100%支持されるだろう。
レコーディング・メンバーはイアン・カー(tp)、カール・ジェンキンス(bs,ob,p)、ブライアン・スミス(s,fl)、クリス・スペディング(g)、ジェフ・クライン(b)、ジョン・マーシャル(ds)で、後に多くのメンバーがソフトマシーンやギルガメッシュに散けることになるのだが、いまにして思えばイギリスのジャズシーンの一時代を築いたそうそうたるメンバーが集っていたことを改めて思う。ニュークリアスやそのメンバーは多くの名盤を残しているが、半分以上はドイツのレーベルからの発売されたものでイギリス盤は半数以下だというから、このことでもイギリスのリスナーはいまだにロックに呪縛され、いかにジャズに対しての耳を持っていないかが分かるだろう。それはニッポンのすべての音楽リスナーにも言えることかも知れない。

side one: 1.1916 2.Elastic Rock 3.Striation 4.Taranaki 5.Twisted Track 6.Crude Blues Pt.1 7.Crude Blues Pt.2 8.1916 (The Battle Of Boogaloo)
side two:1.Torrid Zone 2.Stonescape 3.Earth Mother 4.Speaking for Myself, Personally, In My Own Opinion, I Think... 5.Persephones Jiv
Ian Carr(tp,f-horn) Karl Jenkins(kbd,sax,oboe) Brian Smith(sax,fl) Chris Spedding(g) Jeff Clyne(b) John Marshall(ds,per)
Produced by Pete King for ronnie scott directions
recorded Trident studios 12/13/16/21st January 1970
VERTIGO 1970

IAN CARR WITH NUCLEUS/SOLAR PLEXUS(VERTIGO 6360 039)
イアン・カー、ケニー・ウィーラー、ハリー・ベケットのトランペット3管、ブライアン・スミス、トニー・ロバーツ、カール・ジェンキンスのサックス3管、計6管編成で構成されたこのアルバムは、呪術的でスピリチュアル、ファンキーなジャズが自由奔放に展開されている。やはりマイルスの影響があちこちにみられるが、ジョン・マーシャルとクリス・カーンによるパーカッシヴなグルーヴもまた現在のクラブジャズ、nu jazzの先端にあるものとして新たに定義できるだろう。
ニュークリアスの「Solar Plexus」を最後にカール・ジェンキンスの名前は見られないが、初期のこのバンドには彼の存在は大きかった。'44年にイギリス、ウェールズ生まれのサクソフォーン奏者、作曲家である彼は、幼少期に教会の聖歌隊長を務めていた父親の影響でピアノやオーボエを習い始め、その後、ウェールズ国立ユース・オーケストラの首席奏者となり、カーディフ大学、ロンドン王立音楽院を卒業している。卒業後は'69年にニュークリアス、'72年にソフト・マシーンに参加し、'80年代にはソフト・マシーンのメンバーのマイク・ラトリッジと共にCM等の作曲や製作活動を行い、D&ADの賞「ベスト・ミュージック」を受賞している。'90年代には彼がプロデュースするアディエマスのデビューアルバム「ソング・オブ・サンクチュアリ」が世界的にヒットし、また最近の話題では日本のフィギュアスケート選手である村主章枝のために書き下ろした「ファンタジア」が'06年 - '07年シーズンのフリースケーティングで使用されている。

side one:1.Elements I & II 2.Changing times 3.Bedrock deadlock 4.Spirit level
side two:1.Torso 2.Snakehips' dream
trumpet & flugelhorn IAN CARR,KENNY WHEELER,HARRY BECKETT
BRIAN SMITH(tenor & soprano sax,flute) TONY ROBERTS(tenor sax,bass clarinet) KARL JENKINS(electri piano,baritone sax,oboe) CHRIS SPEDDING(guitar) JEFF CLYNE(bass guitar,double bass) RON MATTHEWSON(bass guitar) JOHN MARSHALL(drums,percussion) CHRIS KARAN(percussion) KEITH WINTER(VCS3 electronic synthesizer)
produced by Pete King
recorded FFouteenth and fifteenth of December 1970
VERTIGO 1970

IAN CARR WITH NUCLEUS/LABYRINTH(VERTIGO 6360 091)
インカスなどのレーベルから聴こえるフリードな気配を持つイントロから、一転してラテン・グルーヴへ転調し、そこに侵入してくるNorma Winstoneのスキャットとトランペットのユニゾンが独特の空間を生みだしオシャレなダンスミュージックに変容する。ヨーロッパの古城や教会の庭には、今でも数多くのラビリンス(迷宮)が残っていて、ラビリンスとは死と再生を象徴するものとも言われているが、ニュークリアスにとっては通過儀礼の意味が大きく、このアルバムを境にみられる音楽的な変化をあらわしたに過ぎない。ひとは前に前にとグルグルと迷宮の出口を探して歩いているのだが、結局はまた同じ道を辿って、元来た道に戻ってくるものなのかも知れないね。
アルバム全体は、ハードバップ、ラテン、ファンクなどのグルーヴに、時折フリージャズのスパイスを効かせながら、ひとつの物語りを形成している。ニュークリアスというと、いかにもシリアスな音楽をやっているような先入観を持つ人が多いが、この遊び心は、ジャズミュージシャンの高い音楽スキルあってこそ可能なことである。さて、イアン・カーは'33年スコットランドのダンフリーズ生まれで、'70年にヴァーティゴから「Elastic Rock」でアルバム・デビューを果たした。その後の動きをアトランダムに書くと、同年早くも2作目「We'll Talk About It Later」をリリース、'71年、3作目「Solar Plexus」を発表。その後一時ニュークリアスを解散させ、'72年ソロアルバム「Belladonna」を発表。'73年、Labyrinth」、'73年「Roots」、74年「Under The Sun」、75年「Snake Hips Etcetera」と「Alley Cat」、77年「In Flagrante Delicto」、79年「Out Of The Long Dark」、80年「Awakening」を発表し、'85年に「Live At The Theaterhaus」、'88年にソロアルバム「Old Heartland」を発表している。80年代に入ってからのイアン・カーは音楽評論家として執筆や講師などで多忙な生活をしていたらしく本格的な音楽活動はしていなかった。ボクはこの「Labyrinth」を最後に彼の音楽を聴いていないが、今一度、当時手にしていなかった彼の過去の作品、例えば70年にリリースされた英国ジャズ・メンによるギリシャをテーマにした競作アルバム、NEIL ARDLEY, IAN CARR AND DON RENDELLの「GREEK VARIATIONS 」など、すべて取り寄せて聴いてみようと思っている。イアン・カーのジャズを再び聴き直し最考察していたら、そう思わせるほど現在のFinn Jazzやクラブジャズに最も近いグルーヴが展開されていたことに驚かされたからだ。

side one:1.Origins 2.Bull - Dance 3.Ariadne 4.Arena,
side two:1.Arena ( Continued from SIDE A ) 2.Exultation 3.Naxos
Ian Carr(Trumpet, Flugelhorn) Kenny Wheeler(Trumpet, Flugelhorn) Norma Winstone(Vocals) Tony Coe(Bass Clarinet, Clarinet, Tenor Sax) Brian Smith(Tenor & Soprano Sax, Flute ) Dave MacRae(Fender Electric Piano) Gordon Beck(Hohner Electric piano) Roy Babington(Bass Guitar) Clive Thacker(Drums) Tony Levin(Drums) Trevor Tomkins(Percussions) Paddy Kingsland(VCS3 Synthesizer)
Recorded at Phonogram Studios, Mar. 1973
Produced by Ian Carr & Roger Wake
VERTIGO 1973

※新しいNUCLEUSの映像で'70年代のイアン・カーの世界ではないが参考に
http://www.youtube.com/watch?v=j7yHVBZN3S0

Comment ( 2 )

東山 聡 :

イアン・カーで今まで聴いたのは、BelladonnaとSolar Plexasぐらいです。まだまだ聴けてないものが沢山あります。イアン・カーと同じくらい気になっているのは、TONY COEの存在です。
でも、毎日これだけの内容を更新されてる阿木さんのエネルギーを考えると、本当に頭が下がります。本当にありがとうございます。 毎回わくわくしながら、読んでます。

阿木 譲 :

昨夜もレコード資料室に行って、遅くまで色々チェックしていたのだが、まだ始めて一ヶ月で30項目ちょっとだというと、これではきっと毎日更新していても、3年以上はかかるでしょう。まあすべて回顧/最考察が終わったら、アーカイヴ・データ構築か、いい出版社が見つかれば分厚い書物で出版しようと思っている。いずれブログでもはっきり書こうと思っているけど、70年代のパンク表出までのレコードと、80年代に入ってからのレコードには大きな断層があって、それは当時の時代背景やレコードリスナーにもあてはまり、短い過渡に表出した集団ヒステリーのロンドンパンクや、クラブミュージックの先駆け、没意味のニューウェイヴのあの時代は、かなり特別な時代であって、音楽的にも、あの時代だからこそ聴けたのだというのが多過ぎる。このCASCADESを始めてから急にカウント数が上昇してるけど、つまらないコメントはいらないけど、なにか反論/異論や感想があれば、足跡でも残しておいてください。

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