トラッド特有の変拍子 アーリージャズの影響
ハイブリッドなモダン・インストゥルメンタル・アンド・リズム
そして物語性ある歴史上の出来事などを歌ったユニークな歌詞
FAIRPORT CONVENTION
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 37
フェアポート・コンヴェンションは、'67年にロンドン郊外の北にある教会のホールで行われたコンサートが最初のギグで、ベーシストAshley 'Tyger' Hutchingsを中心に結成されたユニット。すでにその活動は40年以上も続いている。アイランドレコードと契約を交わしアルバム「Fairport Convention」を発表したのが’67年の終わりのことで、当初からメンバーのラインアップは目まぐるしく変わり、ヴォーカルにサンディ・デニーを迎え'69年セカンドアルバム「What We Did On Our Holidays」、バーミンガムのヴァイオリニストDave Swarbrickをフィーチャーし、ジョニー・ミッチェルやボブ・ディランの曲のカヴァーが収録された'69年サードアルバム「Unhalfbricking」を発表。彼らを有名にしたのはジョン・ピールのBBCセッションで、人気TV番組トップ・オブ・ポップスにも顔をだすようになっていて、ギターのリチャード・トンプソンがバンドの音楽を引率していた。この頃のフェアポート・コンヴェンションは前途洋々たるものだったが、バーミンガムのギグからの帰途での高速道路上の事故でMartin Lamble、 Jeannie Franklynを失なった頃からバンドに陰りのようなものが見え始めた。その後、'69年12月にクラシックでトラディショナルなアルバム「Liege And Lief」を発表。'70年Sandy DennyとAshley HutchingsはSTEELEYE SPANへの活動のためにバンドを脱退、入れ変わるようにフィドル、マンドリンなどを担当するDave Swarbrick、ベーシストのDave Pegg、ギタリストのSimon Nicolなどがバンドに加入し、'70年にはリチャード・トンプソンとデイヴ・スウォーブリックのオリジナル曲を中心したアルバム「Full House」を発表。アルバム・リリース直後今度はリチャード・トンプソンがバンドを脱退、'74年にサンディ・デニーは再びバンドに加わるが、'76年に脱退するなど、目まぐるしいメンバー交代劇が再び続きバンドの存続すら危うくなっていく。
FAIRPORT CONVENTION/TIPPLERS TALES
(VERTIGO 9102 022)
このアルバムはフェアポート・コンヴェンション消滅寸前の12作目にあたる'78年にヴァーティゴ・レーベルからリリースされた唯一の記念すべき作品である。このアルバム発表後から80年代を通して彼らはたいした活動もなく、事実上休息状態だった。これはスタジオ録音アルバムでは最後の作品らしいが、'78年といえば音楽業界はパンク・ムーヴメントのピーク時で、あの燃え盛るロンドン・バーニングの空気とのギャップを感じKYのごとく苦悩していたというが、結局ヴァーティゴとはこの1枚で契約解除されてしまった。しかしもはやロンドン・パンクは聴けないが、フェアポート・コンヴェンションは聴けるというのは何なんだ? 現在でも色褪せないフェアポート・コンヴェンションの60年代の作品「What We Did On Our Holidays」、「Unhalfbricking」、「 Full House」などの名盤が数多くあって、'67年デビューした時代はフォーク・サイケデリックな世界を歌い上げイギリス版ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールドと呼ばれていた。ボクは当時プログレッシヴ・ロックの一端として彼らの音楽を聴いていたが、コミューン志向を持ったピッピー・カルチャーに影響された彼らならではの、メンバーたちが共同生活のなかで音楽活動を繰り広げていたことも懐かしい逸話である。そうした姿勢は現在のフェアポート・コンヴェションの音楽に確実に受け継がれている。不幸な事故に数多く見舞われたり、目まぐるしいほどのメンバー・チェンジを繰り返すバンドではあったが、サンディ・デニー、グラム・パーソンズ、デイヴ・ペグなど多くの有能なアーティストを生んでいることにも、トラッド、クラシックとひとことでは片付けられない彼らの音楽の特異性が表れている。フェアポート・コンヴェンションは、トラッド特有の変拍子、アーリージャズの影響、ハイブリッドなモダン・インストゥルメンタル・アンド・リズムと、物語性ある歴史上の出来事などを歌ったユニークな歌詞がその音楽の正体だ。彼らのホームページのバイオグラフィーの最後には、"Fairport did for real ale what the Grateful Deadid for LSD"と書かれている。
side one:1.Ye Mariners All 2.There Drunken Maidens 3.Jack O'Rion
side two:1.Reynard The Fox 2.Lady Of Pleasure 3.Bankruptured 4.The Hair Of The Dogma 6.As Bitme 7.John Barleycorn
DAVE SWARBRICK(fiddle,mandolin,mandocello,vocals)
SIMON NICOL(electric and acoustic guitars,dulcimer,piano,vocals)
DAVE PEGG(bass,mandolin,guitar,vocals)
BRUCE ROWLAND(drums,percussion,electric piano)
produced by Fairport Covention
engineered by Barry Hammond
recorded February 1978 at Chipping Norton Studios
VERTIGO 1978