マイク・ウェストブルックの「Love Songs」はモードジャズ
「Goose Sause」はスウィング黄金時代のビッグ・バンド・ジャズに影響されたであろうクルト・ヴァイルの歌劇のようだ
MIKE WESTBROOK
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 40
MIKE WESTBROOK'S/LOVE SONGS(DERAM M00001712)
マイク・ウェストブルックの4枚目にあたる'70年にリリースされた「Love Songs」での音楽は、モードジャズと断言してもいいだろう。彼らの作品は2枚しか聴いていないので、これ以前と以後の音楽がどうなのか知らないが、これは現在のクラブジャズとしてDJイングしても、クラブシーンで充分そのまま通用する。それはこのジャケット・デザインにも的確に表れているが、これもカンタベリー系のジャズロックのように語られているが、当時のブリティッシュ・ジャズの精鋭たちが結集した5管編成のモードジャズ、バップ・ジャズだ。ブリティッシュ・ジャズの頂点は60年代末から70年代初頭にあったと言
われ、この時期はまだブリティッシュ・ロックは勢いを持っていて、ジャズとロックが人脈的にも深く結びついていた特別な時代だった。だからそうした誤解が多く生まれたのだろう。マイク・ウェストブルック・コンサート・バンドはこのアルバム以前には'67に「CELEBRATION (DML/SML 1013)」、'68年に「RELEASE (DML/SML 1031) 」、'69年に「MARCHING SONG VOL.1 (SML 1047)、「 MARCHING SONG VOL.2 (SML 1048) 」を発表している。当時のブリティッシュ・ジャズには、アフリカンミュージックを基調にしたビッグバンドによるフリーアンサンブルCHRIS McGREGOR’S BROTHERHOOD OF BREATHなど、現在のクラブジャズにリンクするミュージシャンたちが多く存在していた。'70年以後マイク・ウェストブルックは「METROPOLIS (NEON NE 10)」('71)、「CITADEL/ROOM 315 (SF 8433)」 ('75)を発表し、SOLID GOLD CADILLACの「SOLID GOLD CADILLAC (SF 8311)」 ('72)、「BRAIN DAMAGE (SF 8365) 」('73)の2枚のアルバムにもピアノなどで参加している。
http://www.youtube.com/watch?v=WbVH6U1WJa0
MIKE WESTBROOK BRASS BAND/GOOSE SAUSE(ORA001)
さて、今回の本題、マイク・ウェストブルック・ブラス・バンドの11枚目の'78年のアルバム「グース・ソース」だが、ここに収録されている「Alabamasong」はクルト・ヴァイルのオペラ「マハゴニーの興亡」のなかで歌われる有名な曲だが、この曲を初めて聴いたのは、'67年のドアーズ「ハートに火をつけて(The Doors)」のなかに収録されていた「アラバマ・ソング」でだった。"Oh, show us the way to the next whisky-bar! Oh, don't ask why, oh, don't ask why.....Oh, moon of Alabama, We now must say good-bye, We've lost our good old mamma And must have whisky, Oh, you know why."と歌うジム・モリスンのヴォーカルが、ガールフレンドのパメラ・カースンがモリスンに致死量のヘロインを注射し、'71年7月3日にパリのアパートで不可解な状況で死亡した事件と重なって、いまでも暗いイメージをともなって残響している。この「アラバマ・ソング」を作曲したクルト・ヴァイル(Kurt Julian Weill 1900年3月2日-1950年4月3日)は、ドイツ生まれのベルリンで音楽を学んだ作曲家で、ユダヤ人だったヴァイルはナチス政権の成立から'33年パリに移住、その後アメリカに渡りオペレッタ、オペラそしてミュージカルを作曲した亡命作曲家としての人生を生きたひとりだが、28年にブレヒトと組んで「三文オペラ」を発表し一躍有名となった。三文オペラ」はジョン・ゲイ、ゲオルク・ペープシュの「乞食オペラ」(1727年)のリメイクを、ベルトルト・ブレヒトと共作したものだが、その「三文オペラ」のなかの「マック・ザ・ナイフ(あいくちマック)」は、ジャズにおいては'59年にボビー・ダーリンによるカヴァーがヒットし有名になったが、'56年のソニー・ロリンズの最高峰の作品「サキソフォン・コロッサス (Saxophone Colossus)]の「Moritat」でも演奏している。また'85年のコンパイル・アルバム「LOST IN THE STARS:The Music of Kurt Weill」で、ヴァイルの曲を、ルー・リードが「セプテンバー・ソング」、ニック・ケイヴが「マック・ザ・ナイフ」をカヴァーしていた。
このアルバムにインスパイアされ'95年にカナダのラリー・ワインスティーン監督が「SEPTEMBER songs THE MUSIC of KURT WEILL(9月のクルト・ヴァイル)」のタイトルで映画化し、エルヴィス・コステロ、ニック・ケイヴ、ウィリアム・バロウズなどが出演し、映画のラストシーンでルー・リードが「September Song」を歌っている。クルト・ヴァイルの歌劇には、20年代後半から30年代のシカゴ・サウス・サイド・ジャズ、スウィング黄金時代のビッグ・バンド・ジャズやクラシック・ブルースに影響されている痕跡が見受けられるが、マイク・ウェストブルック・ブラス・バンドの「Goose Sause」にも、そうしたヴァイルが影響されたものと同じジャズとブルースが色濃く感じられる。バンドリーダーのマイク・ウェストブルックがバンドを結成したのが'67年で、総勢12名で制作された'67年の「セレブレーション」でアルバムデヴューし、アルバム「ラヴソングス」のジャケット裏にみられるジャズとパフォーマンスとのコラボレーション、ヘンリー・カウのメンバーと編成したジ・オーケストラなどなど、時代に対応した独自の活動を精力的に展開しつつも、イギリスの伝統的なトラッドの香りとジャズやブルース、クルト・ヴァイルのオペラ、ナンセンス+ユーモアのマルクス・ブラザースのコメディ・スピリットなどを融合したシアトリカルな音楽が彼らの本領だろう。それに加えブラスバンドや吹奏楽には不可欠の楽器で、イギリス的なユーフォーニアム(euphonium)の、そのユーモラスで柔らかく丸みのある音色も、マイク・ウェストブロック・サウンドを特徴づけているもののひとつだ。マイク・ウェストブロックが夢見たのは、19世紀にエリック・サティやパブロ・ピカソなどモンマルトルに住む芸術家たちの溜まり場となった伝説的な隆盛を見せたシャ・ノワール(黒猫)パリの、モンマルトル界隈でのキャバレーで演じられた、レトロ感覚を持った三文オペラのようなジャズだったのだろうか。
※ボクの大好きだった女優でもあったヒルデガルド・ネフの歌うドイツ語でのオリジナル・ブレヒト/ヴァイルの世界は素晴らしい。
Hildegard Knef - Seeräuber Jenny - Pirate Jenny
http://www.youtube.com/watch?v=qvDWwm2MHlI
Marek Weber Orch - Alabama Song
http://www.youtube.com/watch?v=_mJbDwbNERU
Jim Morrison - The Doors - Whiskey Bar / Alabama Song
http://www.youtube.com/watch?v=Kz26ltBjZqs
Mack the Knife Armstrong 1962
http://www.youtube.com/watch?v=uCj4tv0bKCc&feature=related
Mike and Kate Westbrook's Village Band - 1
http://www.youtube.com/watch?v=COreNfjspjY&feature=related
MIKE WESTBROOK'S LOVE SONGS
side one:1.Love Song No.1 2.Love Song No.2 3.Autumn King
side two:1.Love Song No.3 2.Love Song No.4 3.original Peter
Mike Westbrook (p); Dave Holdsworth (tp, flh); Malcolm Griffiths, Paul Rutherford (tb); Mike Osborne (as); George Khan (ts); John Warren (bs); Chris Spedding (g); Harry Miller (b, el-b); Alan Jackson (ds); Norma Winstone (vo)
Deram 1970
MIKE WESTBROOK BRASS BAND/GOOSE SAUSE
SIDE ONE:1.a)Goosewing /b)Wheel Of Fortune 2.Gooseflesh 3.Wheel Go Round 4.Ten Cents A Dance
SIDE TWO:1.Overture: Mother Goose 2.Alabamasong 3.Out Of Sorrow
a)Mourn Not The Dead b)Anthem c)Jackie-ing
Mike Westbrook(euphonium,p) Kate Westbrook(vo,piccolo,t-horn) Phil Minton(vo,tp) Paul Rutherford(euphonium,tb,vo) Dave Chambers(sax,fl) Nisar Ahmad Khan(sax,fl) Trevor Tomkins(ds,per)
Producerd by Laurence Aston
Birdsong 1978
Comment ( 1 )
阿木さんのこのシリーズのコメントを見ていて、マイルスがデイブ.ホランドやジョン.マクラフリンをイギリスから自分のバンドに引き抜いたのはなんでだったのか、というのが非常に気になってきました。
投稿者: 辰巳哲也 | 2008年03月18日 08:20
日時: 2008年03月18日 08:20