音楽だけではなく70年代は
すべてのもが融合しクロスオーヴァーして流れていた
エクレクティック(折衷主義)な時代だった
MICHAEL GIBBS
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 42
MICHAEL GIBBS/TANGLEWOOD 63(Deram SML 1087)
マイケル・ギブス(Michael Clement Irving Gibbs)は、'37年南ローデシアのジンバブエ(現ハラーレ)生まれのジャズ・コンポーザー、アレンジャー、プロデューサー、トランボーン奏者、キーボーダーで、'59年にボストンに移住し、62-'63年にバークリー音楽院とボストンで学び、'63年にはボストン音楽学校を卒業して、次にタングルウッド・サマー学校で全額給与の奨学金を受けながらアーロン・コープランド、ヤニス・クセナキス、ガンサー・シューラーなどに師事し学ぶ。'65年に南ローデシアに戻り、ロンドンに移住した'70年にGraham Collier, John Dankworth, Kenny Wheeler and Mike Westbrookのサポートでファーストアルバム「 Michael Gibbs」を発表している。ジャズの専門的キャリアを持つ種々様々なミュージシャンと、ジャズを初め様々なジャンルを横断して構築する彼の人並みはずれの独特の感性はオーケストラ・ジャズとして結晶し、代表作であるGary Burtonとの'73年の作品「in the public interest」(polydor 6503)、「Seven Songs For Quartet And Chamber Orchestra (1974, ECM)」などで顕著にみられる。当時流行のクロスオーヴァー・ミュージックの波をダイレクトに受けた彼の音楽とスタイルの基礎には、ギル・エヴァンス、チャールズ・アイブス、オリヴィエ・メシアンからの影響が大だという。「タングルウッド63」は、'71年にUKデラムからリリ
ースされた総勢30名を超すビッグ・バンド編成で制作されたセカンド・アルバム。ここではマイケル・ギブスは演奏には参加しておらず作曲と音楽監督・指揮を務めている。14管のブラスと6名のヴァイオリン、2名のチェロが全体のアンサンブルをコントロール/構築していて、ギター、キーボード、ベース、ドラム、ヴィブラフォン等々のリズム・セクションがドラマチックでスリリングなグルーヴをキープしている。アルバム・ラストは「Five For England」は、ボブ・ダウンズ・オープン・ミュージックの「エレクトリック・シティ」、マイルス・デイヴィスの「Water Babies」、「On The Corner」あたりと共振するジャズファンクで終わり、まさにハイブリッドなクロスオーヴァー・ジャズ/ポストモダン・ジャズだ。ギブスは'75年にイアン・カーがプロデュースしたNEIL ARDLEY, IAN CARR, STAN TRACEYらによるサザーク大聖堂におけるライブ「WILL POWER (ZDA164/165)」にも参加している。リーダー・アルバムには「Michael Gibbs (1970, Deram)」「Tanglewood 63 (1971, Deram)」「Just Ahead (1972, Polydor)」「In The Public Interest (1974, Polydor)」「Seven Songs For Quartet And Chamber Orchestra (1974, ECM)」「The Only Chrome Waterfall Orchestra (1975, Bronze)」「Big Music (1988, Virgin/Venture)」などの作品がある。70年代のブリティッシュ・ジャズを聴いていると、最近HipHopのTribe Called Questなどのサンプルの元ネタの宝庫ともいえる、'67年にプロデューサーのクリード・テイラーによってA&Mとの提携の元に立ち上げ創設されたCTIレコード(CTI Records)での音楽とも繋がっているように思える。ジャズ・レコードレーベルCTIは、ジャズの大衆化を図るために設立されたクロスオーバー(フュージョンの前身)のブームを作ったが、Wes Montgomery「A Day In The Life」、Antonio Carlos Jobim「Wave」、Tamiko Jones「I’ll Be Anything For You」、Bob James「Two」(ボクの編集/発行の「infra vol.06/Blackstone Legacy」を参照)などの作品からは、まさに70年代クロスオーヴァーの時代のサウンドスケープが聴こえてきて、そのストリングス・アレンジ、イージーリスニング、ブラジリアン、ボッサノヴァ、ジャズファンク、ソウルジャズなどを横断する多彩なグルーヴと同じモノが、マイケル・ギブスなどのイギリスの70年代ジャズからも聴こえてくる。
http://www.dougpayne.com/cti.htm
それと先日レコード倉庫のプログレのレコードの山に混じって隅っこから出て来たフィンランドのLOVE RECORDSの数枚のクロスオーヴァー・ジャズなどもね。このあたりの音源もリッキー・チックのアンチ・エーリカイネンがコンパイルした「LOVE JAZZ 1966-77 COMPILED BY ANTTI EERIKÄINEN」というタイトルで近々発売される。
http://www.lovemusic.fi/julkaisut/930
音楽だけではなく70年代はすべてのもが融合しクロスオーヴァーして流れていたエクレクティック(折衷主義)な時代だった。世界の至る所で、音楽ジャンルの壁を取り払うかのようにクロスオーヴァーしただけではなく、ミュージシャンの国籍さえも入り乱れ、無国籍でセッショナリーな展開が日々繰り広げられていた。それは現在の近代化、グローバル化の時代の始まりを意味していて、音楽的には興味深い作品を多く産出したが、心の底では極度の原理主義や民族アイデンティティーを求めようとする動きも強くなっている今日、はたしてクロスオーヴァー・ジャズは21世紀に対応できる音楽だろうか。
SIDE ONE:1.Tanglewood 63 (9:57)
written originally for a concert with the Gary Burton Quartet at the Belfast Arts Festival 1969, fondly recalls two glorious months spent at the Berkshire Summer School. Features Frank Ricotti(vibes), Henry Lowther(trumpet), Chris Pyne(trombone), and Tony Roberts(tenor sax).
2.Fanfare (1:53)
a dhort functional piece that's good to play; a piece for functions - Stan Sulzmann on soprano sax.
3.Sojourn (7:10)
a period spent away from the centre of things; Fred Alexander(cello), John Surman(soprano sax), Alan Skidmore(tenor sax).
SIDE TWO:1.Canticle (13:06)
commissioned by the Dean & Chapter of the Canterbury Cathedral for a concert there in July 1970 - and written with the Cathedral echo in mind. Improvised parts are by Tony Roberts(alto flute), Alan Skidmore(alto flute and soprano sax), John Surman(soprano sax), Gordon Beck(electric piano).
2.Five For England (11:57)
has gone through a few phases since first performed last year, and here is a free-wheeling vehicle for Chris Spedding and rhythm section, with written interjections from the horn.
trumpet, flugelhorn: Kenny Wheeler, Henry Lowther, Harry Becket,
Nigel Carter
trombone:Chris Pyne, David Horler, Malcolm Griffiths
tuba :Dick Hart, Alfie Reece
saxophone, woodwind: Tony Roberts, John Surman, Alan Skidmore,
Stan Sulzmann, Brian Smith
drums, percussion:John Marshall, Clive Thacker
vibes, percussion:Frank Ricotti
guitar:Chris Spedding
bass guitar, acoustic bass:Roy Babbington
acoustic bass:Jeff Clyne
keyboards:Mick Payne, John Taylor, Gordon Beck
violin:Tony Gilbert, Michael Rennie, Hugh Bean,
George French, Bill Armon, Raymond Moseley
cello :Fred Alexander, Alan Ford
conductor, arranger:Michael Gibbs
Production: Peter Eden / Executive Producer:Dorian Wathen
Recorded at Morgan Studios, Nov. 10th & 12th and Dec. 2nd & 23rd, 1970
Engineers:Mike Bobak, Roger Quested / Remix Engineer: Terry Evennett
Remastered by the Audio Archiving Co. Ltd.
Cover Photo and Cover Picture and Design:Jake / Repackaged: in the Playground
DERAM1971
http://en.wikipedia.org/wiki/Michael_Gibbs_(jazz_composer)
http://www.gaibryantspareparts.com/mike_gibbs.htm
70年代前後のブリティッシュ・ジャズに関しては「BFJ」というサイトに詳しく掲載されているので、参照されるといいでしょう。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~bfj/index.html