ジャズダンスを踊るための南アフリカの黒い伝統的な音楽
ケープタウン・ジャズと
そして洗練されたアメリカのブラック・ジャズの統合
CHRIS McGREGOR
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 43
CHRIS McGREGOR'S BROTHERHOOD OF BREATH/CHRIS McGREGOR'S BROTHERHOOD OF BREATH(RCA NEON NE 2)
クリストファー・マクレガーはサマセットウェスト(南アフリカ)生まれ、トランスカイ育ちのジャズピアニスト、バンドリーダーで、父親がミッション・スクールの教師をしていた関係から教会音楽に触れ、ケープタウン・カレッジではクラシックを学んだという。当時彼に大きな影響を与えたのは、ハンガリーやルーマニア地域の民族音楽に深く系統し、後の世に残る貴重な収集活動を行っていたハンガリーの作曲家、ピアニストのベーラ・バルトーク(Bela Bartok)や、調性を脱し無調音楽に入り12音技法を創始したことで知られるオーストリアの作曲家、アルノルト・シェーンベルク (Arnold Schoenberg)で、ラジオから流れてきた50年代ジャズのDuke EllingtonやThelonious Monk、そしてCape Town Jazzの Dollar Brand (Abdullah Ibrahim), Cecil Barnard (Hotep Idris Galeta), Christopher Columbus Ngcukana, Vincent Kolbe, "Cup-and-Saucers" Nkanuka, Monty Weber, the Schilder brothers, Vincent Kolbeなどに影響され自身の音楽へと発展させて行った。
特に50年代にケープタウン周辺で演奏されていた"ケープタウン・ジャズ"と呼ばれるアフリカン・ヴィレッジ・ミュージック、その中枢にある音楽のヴァイブレンシー(音や声の反響)とパワー、豊かなイマジネイティヴとジャズダンスが彼の音楽を大きく支配している。こうしたところが現在のクラブジャズ・シーンでもマクレガーのアフリカン・テイストのジャズが支持される要因だろう。彼の死後、友人はマクレガーの音楽について「私は、音楽学者ではありませんが、クリスがジャズダンスを踊るための南アフリカの黒い伝統的な音楽と、それらが発展したアメリカのブラック・ジャズの統合に向かって取り組んでいたと信じています」と語っている。'62年に結成したブルーノーツを皮切りに、'63年のCastle Lager Big Bandには、サウス・アフリカン・セクステットのメンバー、Dudu Pukwana, Nick Moyake, Louis Moholo, Johnny Dyani、Mongezi Fezaなどの名前がみられるが、彼らとのセッション/コラボレーションのなかからクリス・マクレガーズ・ブラザーフッド・オブ・ブレスのような作品が必然的に生まれたのだろう。アルバム「BROTHERHOOD OF BREATH」は'70年に南アからロンドンに亡命した直後のアルバムだが、ここでのリアル・ジャズ、アフロ、スピリチュアル、カリビアン、ダンスミュージックなどの現在のクラブジャズ・シーンでの記号が鮮やかに浮かび上がる音楽を聴いていて、ブリティッシュ・ジャズに関わっていたミュージシャンたち、このクリス・マクレガー、キース・ティペット、エルトン・ディーンなどがなぜ揃いも揃って最終的にはフリージャズの道を歩んだのだろうかという疑問がわいてきた。60年代後半から70年代初頭までの音楽と違い、70年代も中期になると音楽はますます没意味、脱意味の様相を呈し始めるのだが、それぞれ、その時代に生きる人々に無意識的に影響を与える思想や文化的風潮、空気感のようなものがある。例え反動的にそのような風潮、空気に背を向けたとしても、それも時代に翻弄され巻き込まれていることなんだ。誰もが避けて通れない、人々を飲み込み巻き込んでゆくその時代が醸し出す空気というのはかくも恐ろしいことなんだと、キミにも忠告しておこう。ところで昨今の時代の空気とは?
CHRIS McGREGORS BROTHERHOOD OF BRETH/BROTHERHOOD (RCA SF 8260)
英RCAから発表された'72年の作品。このアルバムでの魅力はなんといっても10管編成のブラスによるバップイズムだ。それはサン・ラ・ヒズ・ミス・オーケストラの60年代のアルバム「We Travel The Space Ways」「Visits Planet Earth」にみられるバップイズムに通じるもので、太い旋律的ハードバップのフレーズがユニゾンでエネルギッシュにブローする。トランペットにHarry Beckett、Mongezi Feza、トロンボーンにMalcolm Griffiths、Nick Evans、サックスにDudu Pukana、Ronnie Beer、Alan Skidmore、Mike Osborne、Gary Wind、コルネットにMark Charigとなんと分厚い音塊編成だろうか。この5年間、ハードバップの洗礼をなみなみと受けたボクにとっては、イタリアのスケマからリイシューされたGIORGIO AZZOLINI「Crucial Moment」(RW111LP)、ERALD VOLONTE'「Free And Loose」(RW114LP)などや、日本でリイシューされたチェコ・ジャズ・オーケストラのKAREL KRAUTGARTNER ORCHESTRA「Jazz Kolem/Karla Krautgartnera」(CMYK 6223)などと同じように、現在最も注目しているジャズが聴こえてくる。フリージャズとハードバップを足したかのような即興演奏のバップ・コードのうえを、明確なジャズの文脈を持つジャズ・オーケストレーションのハーモニーとスピードを伴ったジャズと言えばいいのだろうか。簡単に言えばスピリチュアルとハードバップが融合したジャズかな。クリス・マクレガーの他の作品には「Jazz 1962 (African Heritage /Gallo Records)」 「Jazz the African Sound (African Heritage /Gallo Records)」「The Blue Notes Legacy - Live in South Afrika 1964 (Ogun Records)」「Brotherhood of Breath: Live at Willisau (Ogun Records)」「Brotherhood of Breath: Travelling Somewhere (1973; Cuneiform Records)」「Brotherhood of Breath: Bremen to Bridgwater (1971-75; Cuneiform Records)」「”In his good Time“ (Ogun; Solo)」「”Piano Song Vol. 1” (Musica; solo)」「”Piano Song Vol. 2” (Musica; solo)」「Chris McGregor and the South African Exiles’ Thunderbolt (Popular African Music)」「Harry Beckett: Bremen Concert (West Wind Records)」などがある。ニック・ドレイクの「Bryter Layter」の"Poor Boy"でも彼のピアノ・ソロが聴ける。
CHRIS McGREGOR'S BROTHERHOOD OF BREATH
/CHRIS McGREGOR'S BROTHERHOOD OF BREATH
1.MRA 2.Davashe's Dream 3.The Bride 4.Andromeda 5.Night Poem 6.Union Special
Chris McGregor (leader,piano, African xylophone) Malcolm Griffiths, Nick Evans (trombone) Mongezi Feza (pocket-tp, Indian flute) Mark Charig (cornet) Harry Beckett (trumpet) Dudu Pukwana (alto saxophone) Ronnie Beer (tenor saxphone, Indian flute) Alan Skidmore (tenor saxophone, soprano saxophone) Harry Miller (bass) Louis Moholo (drums) Mike Osborne (alto saxophone, clarinet) John Surman (baritone,soprano saxophone)
Produced by Chris McGregor
RCA NEON 1971
CHRIS McGREGORS BROTHERHOOD OF BREATH/BROTHERHOOD
Chris McGregor (pf,African xylophone)
Harry Beckett(trumpet) Marc Charig(cornet) Mongezi Feza (pocket trumpet,indian flute)
Malcolm Griffiths, Nick Evans (trombone) Dudu Pukwana (alto sax) Mike Osborne (alto sax,clarinet) Alan Skidmore (tenor sax,soprano sax) Gary Windo (sax) Harry Miller (bass)
Louis Moholo (drums)
1. Nick Tete (Dudu Pukwana) 2. Joyful Noises (Chris McGregor) 3. Think Of Something (Mike Osborne) 4. Do It (Chris McGregor) 5. Funky Boots March (Gary Windo/Nick Evans)
RCA 1972