JAN STEELE / JOHN CAGE / BRIAN ENO - OBSCURE RECORDS

obscure no.5
JAN STEELE
JOHN CAGE
BRIAN ENO
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 48

JAN STEELE/JOHN CAGE"VOICES AND INSTRUMENTS"(OBSCURE no.5)

JOHN CAGE
ジョン・ケージには「プリペアド・ピアノ」や「4分33秒」のような有名な曲があるが、それはピアノの弦の間に様々な異物を挟んだりして予想もしない音をピアノが出すことを試みたり、指定された時間内に観客を含めその場で生じるあらゆる音を音楽とするハプニングの、偶然に発生する出来事を利用する「沈黙」を意識的に作曲したものだが、こうしたパラドキシカルな創造はいまのボクにとっては最も観念的なもので忌み嫌っているもののひとつだ。このような古い音楽の文脈の転覆を図るミュージック・オブ・コンセプションは、当時のような単一な価値観のなかで世界が流れていた時代だからこそ意義があり、一度きりのパフォーマンスであって、結果や答えの解っている音楽を、もはや2度も3度も、頭や観念的にとらえるエッグヘッドで理解して喜んでいるなんて聴くまえに白けてしまう。現在のようななんでもありの時代には、より明確で構造的な記号が羅列した目的がはっきりしたメソディカルな音楽こそが求められているのではないだろうか。音楽は所詮音楽なのだ。
この「Voices And Instruments」に掲載されているライナーノーツには、"ケージの現在までの活動がべートーベンのように3つの時期に分けることができ、そのなかで'50年から'69年までの中期での音楽と美学が最もよく知られていて、「偶然に支配される進行」、「あいまいさ:音と作曲家と演奏家と聴き手とを伝統的なステロタイプと制限から解放すること」、「雑音の承認、周囲の音を音楽の中に取り入れること」の3つが当時のケージの曲に流れるコンセプトの主なものだ"と書かれている。そして、このアルバムのジョン・ケージの5つの曲をイーノのアイデアによって再構築された音楽は絶品だ。アルバムサイド2に収録されている“Experiences№1”は、'48年8月にノースカロライナ・ブラックマウンテン大学での夏期講座で“Landscape”のカプリングで初演されたもの。この講座でケージはサティの数点の作品を紹介し、その中には彼自身がその初期の音楽の中で発展させてきた、サティの作曲における構成の手法の「構成という分野、即ち各々のパートと全体との開係という分野では、べートーベン以来、新しい考え方はひとつしかない。べートーベンに於ては、ある作品のひとつの部分はハーモニーという事によって限定され、SatieやWebernに於て、それは時間的な長さという事によって決められるのだ。べートーベンは、作曲にとりかかる前に、あるキィから別のキィヘの移動という事をまず頭におき、和声的な構成という事を考えるが、Satieはそのフレーズの長さという事を考えるのだ」というふうに説明している。“Experiences №1”は、3台のピアノでAマイナー風の5音階、ACDEGを使っており、e・e・カミングスの“Sonnets-unrealities of Tulips and Chimneys”のⅢをテキストにした最後の2行は省略されたもの。“Experiences №2”もそのACDEGに従い、メロディをロバート・ワイアットのヴォイスのみで淡々と歌われている。他の行や詞はくり返されたり原詩とは違う順序で使われたりしている。1942年に書かれた声とピアノのための曲“The Wonderful Windw of Eighteen Spring”(この歌の詞はジェイムス・ジョイスの"フィニガンのめざめ"556ぺージの改作)は、メロディラインと打楽器的な伴奏だけで構成されたもので、ロバート・ワイアットのヴォイスとリチャード・バーナスのパーカッションだけで録音されている。この曲でケージはどんなリズム構成も手法も意識的には使っていないと語り、全てテキスト(詩)の印象に基いて作曲され、原曲でのピアノは打楽器のように扱われているという。1942年に書かれたe・e・カミングスの詩に曲がつけられた"Forever And Sunsmell"も、カーラ・ブレイのヴォイスとリチャード・バーナスの2種のパーカッション、トムトム(最初はティンパニのスティックで、のちには指で打つ)と、中国のドラが使われ、幻想的でシャーマニックな世界が構築されていて素晴らしい。アルバムラストの“In A Landscape”は5曲中最も長い曲で、ケージが30年代から40年代にかけて発展させてきたリズム構成の最も典型的な形15×15(5・7・3)という構造をもっていて、ここではリチャード・バーナスのソロ・ピアノだけをフィーチャーしたもの。ピアノのシンプルでミニマルな音色が聴こえる。この作品は15小節から成るセクションを15個持ち、全体は5セクション、7セクション、3セクションという3つの群に分かれている。同時により小さなスケールでも、各々のセクション中の15小節は、やはり、5・7・3という3つの群に分かれている。このリズム構成の原理はケージの初期の音楽的な業積の一例であり、メロディ的には5つの作品は全て制限され(限定され)た音階を使っている。

http://homepage1.nifty.com/ERuKa/acJohnCageCD.html
http://epc.buffalo.edu/authors/cage/

JAN STEELE
このアルバムに収録された「All Day」「Distant Saxophones」「Rhapsody」の3作の様式は即興演奏のグループ、"F&W Hatt"との共演を通じて生み出されたもの。"F&W HATT"は'72年ヨーク大学でジャン・スティールと、ピアニストのデイヴ・ジョーンズ、フルート奏考のマイク・ディーンによって形成されたユニット。このグループはインプロヴィゼーションと、ロツクをもとにした音楽を、とても静かに反複して演奏するということを目的としていて、低くダウンなヴィブラフォンの金属音によって発生するリズムがミニマルに続く“ALL DAY”('07年、ジェイムス・ジョイス“Chamber Music”より)は、ドビュッシーのオペラ、“Pelleas et Meltsande”の研究の結果生まれてきたもので、ジェイムス・ジョイスによる詞の使い方もその直接的な結果である。ハーモニーと全体的なスタイルは、F&W Hattのプレイから生まれ、全体の構成としてはギター・ソロの間奏曲を含む12小節のブリーズである。これは教訓的な作品として作曲され、危機に直面した即興音楽のようなものを描こうという企てであった。'72年に"F&W Hatt"により初演され、ヴィオラ奏者のドミニク・マルドーニイに撲げられている。"DISTANT SAXOPHONES"は、ヴィオラ奏者のdominic muldowneyを心に描き即興演奏することを試みた作品で、'72年にダイヴ・ジョーンズのハーモニック・スタイルを発展させた即興演奏の模倣をF&W HATが演奏したもの。“RHAPSODY SPANIEL”
は、'75年にワン・ピアノ、ツウ・プレイヤーズの連弾曲として完成されたもの。オブスキュアのなかで1枚を選ぶとするなら、ボクはこの1枚を選ぶだろう。先に4枚が発表された翌年の76年に発表された5枚目にあたるこの作品には、古い曲を手術するかのように新たに再構築された、いまなお、時間に色褪せることのない"ジャズ的なるもの"、"新しい感覚"が聴こえてくるからだ。 

"VOICES AND INSTRUMENTS"
side one:JAN STEELE
All Day
Janet Sherbourne:voice. Stuart Jones:solo guitar. Fred Frith:Guitar. Kevin Edwards:vibraphone. Steve Edwards:bass guitar. Phill Buckle:percussion
Distant Saxophones
Jan Steele:flute. Utako Ikeda:flute. Dominic Muldowney:viola. Steve Beresford:bass guitar. Martin Mayes:piano. Arthur Rutherford:percussion. (loaned by Dept.of music,university of york)
Rhapsody Spaniel
Jan Steele & Janet Sherbourne:piano
side two:JOHN CAGE
Experience No.1
Richard Bernas:piano duet.
Experience No.2
Robert Wyatt:voice.
The Wonderful Widow Of Eighteen Springs
Robert Wyatt:voice.
Richard Bernas:percussion.
Forever And Sunsmell
Carla Bley:voice.
Richard Bernas:percussion.
In A Landscape
Richard Bernas:solo piano
recorded at Basing St.Studios,London.
engineered by Rhett Davies & Guy Bidmead.
produced by Brian Eno
OBSCURE 1976

(ジャケット裏に掲載されたバイオ・グラフィーから)
JAN STEELE/1950年11月8日、バーミングム生まれ。ギルドハム音楽学校でホール・グリフィスに、後にはエイヴリル・ウィリアムにフルートを学んだ。1969~70年、ロンドン大学キングス・カレッジで、1971~74年、ヨーク大学で音楽を学んだ。現在、ベルファーストのクイーンズ大学社会人類学部にて、ジョン・ブラッキング教授の下で民族音楽学を研究中。

RICHARD BERNAS/'48年、マツハッタン生まれ。'66年から新しい音楽の演奏に手を染めGentle Fireのメンバーでもあった。ピアニストとしてジョン・ケージとレジャーレン・ヒラーのHPSCHDの初演に参加し、カニンガム・ダンス・カンパニ一と共演。'73年、ワルシャワ・フィルハーもニックにてヴィトールド・ロウヴィックの助手をつとめた。'76年3月10日、指揮者としてロンドンでのデビュー。Saltarelo聖歌隊を指揮してバッハ、ブルックナー、シェーンベルグ、シュトックハウゼンの曲を演奏した。EMI、DGG Electrolaでレコーディング。ダーティンガム・サマー・スクールで、ゼミナールを持った。

ROBERT WYATT/いわゆる第二次世界大戦終結の年に生まれた。母親はジャーナリスト、父親は産業心理学者。音楽に手を染める前の活動は、フォークストン付近Lyminge Forest の伐.採と焼却や、カンタベリー芸術大学でのモデル業や、カンタベリー・イースト駅での郵便袋のつみこみ作業や、ロンドン経済大学での清掃業などなど。

CARLY BLEY/ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラの共同創立者であり、チャーリー・ハイドン、トニイ・ウィリアムズ、イーヴァン・パー力ー、ロバート・ワイアツト等への作品提供者である。彼女のアルバム、“Tropic Appetites”、“Escalator over the Hill”、“13 and 3/4”は、その作品の多様性をよく表し、またジャズ・クラブでのタバコ売りからGuggeheim将学金を受けるまでの広範囲かつ多様な経歴にもよくマッチする。

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