obscure no.8
JOHN WHITE
GAVIN BRYARS
BRIAN ENO
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 51
JOHN WHITE+GAVIN BRYARS/MACHINE MUSIC(OBSCURE OBS 8)
ドイツの芸術家村ダルムシュタットでの現代音楽夏期講習会でピエール・ブーレーズ、カールハインツ・シュトックハウゼンたちが互いに論戦を戦わせながらセリエリズム、電子音楽、アンガージュマンといった前衛的音楽思考を遂行していた第二次世界大戦後や、イタリアのルイジ・ノーノがレジスタンス運動に参加しながら視聴覚+コンセプチュアルな体験としての音楽劇などの実験的試みを展開していた50年代の、そのような遺産、実験音楽をいま聴く行為になにか意味をみつけられうるものだろうかと、いつも思う。
いつだったかデレク・ベイリーの"Derek Bailey In Japan"というヴィデオをYouTubeでみたことがあるが、ニッポンのノイズ・ミュージシャンが彼のギターに合わせてヒステリックなヴォイスと打楽器のノイズを無作為に発て、彼のギタープレイすらも壊している様は、それは違うだろうと腹立たしく思った。ニッポンでの音楽理論もテクニックも学んでいないロックミュージシャンあがりのノイズ・ミュージックや、エセ・フリー、インプロヴィゼーションなんて即刻やめろよ! さて、イギリスの実験音楽はそのダルムシュタットや、ニューヨークや、パリからも遠く、70年代にヴァージン・レコードやブライアン・イーノのオブスキュアでこうした音楽を展開するまでは、誰もがイギリスにも実験音楽の潮流が存在していたのかと思ったほどだ。イーノの影響でボク自身も75年を契機にいつの間にかイタリアのCRAMPSでの"nova musicha"シリーズでCornelius Cardew「Four Principles On Ireland and Other Pieces(1974)」(5206 106)や、John Cage 「Cheap Imitation」(CRSLP6117)、DIVersoシリーズでのDerek Bailey「improvisation」(CRSLP6202)、Steve Lacy「straws」(CRSLP6206)などの作品をわざわざ取り寄せるまでになっていた(この周辺も要望と機会があればいづれ紹介します)。
このアルバムのジョン・ホワイト「MACHINE MUSIC」は、彼の開発した無作為における反復の構造、"マシーンのプロセス"でのシステム・ミュージックという概念から発展したものだが、このアルバムのサイド1の4曲目に収録されているジョン・ホワイトの'68年の曲「Drinking and Hooting Machine」は、数人のプレイヤーがテーブルの上に置いた飲みもののボトルを無作為に飲み、ボトルのトーンを変更しながら、瓶の先端の口を吹いて音を発てるというものだが、まあよく言えばすべてを数値に置き換えた音楽遊びのようなものだ。「Autumn countdown machine」はメトロノームのリズムが発てるリズムを、6つのダブルベースなどのバスメロディーがそのリズム(同時性)を無視したものを、打楽器奏者が調整していくというもの。こうしたものもポストモダニズムとしてまかり通っていたゆるい時代が70年代なのだ。このアルバムにバスーンやピアノで参加しているChristopher Hobbsは、Ian Mitchellと「Edge of the World」というジャズテイストのアルバムを2000年暮れに発表している。すべては"ジャズ的なるもの"に向かっているのだ。
サイド2全面に収録されているギャヴィン・ブライヤーズのデレク・ベイリーのために書かれた曲"The Squirrel And The Ricketty-Racketty Bridge"は、'71年の「Solo Guitar Vol.1」にも収録されているものだが、"ひとりのギタリストが同時にふたつのギターを演奏するための作品。しかもそのギターは2本ともギタリスト自身の背中に水平に付けられているので、ギタリストはキーボードプレイヤーが一本の指で二つの音を弾くときのハンマー奏法を持ちいることになる"と説明されていて、ここではDerek Baileyと、Fred Frith、Gavin Bryars、Brian Enoの3人が加わり同時に8台のギターを演奏している。ギャヴィン・ブライヤーズはもともとは、Derek BaileyやTony Oxleyなどとフリー・インプロヴィゼーション・バンドを組んだりしていたフリーのミュージシャンで、ジャズ畑のアーティストといってもいいだろうし、ジャズ・ギタリスト、Bill Frisellやジャズベーシスト、Charlie Hadenなどに曲も提供している。この曲は無調ではあるのだが、ギターのピッキングやハンマー奏法によって発生するルーズに反復するリズムは心地よく、フリーであってもそこにリズムやグルーヴの感じられない作品は退屈でダサい。しかしその速度がちょっと時代遅れで遅く感じたので、試しにレコードのピッチを45回転で速めてかけてみると、これがジャジー・ヒップホップやアブストラクト・ジャズのDJイングに可能な曲に変容した。ちなみにサイド1を45回転でかけると90年代クラブシーンで流行したトランステクノだ(なにか文句でも?)。
このアルバムの音楽とは直接的に関係ないが、'97年にデレク・ベイリーがDJ/クラブカルチャーに侵入し、フリーやインプロヴィゼーションをクラブジャズに繋いだ記念すべき、ニュー・コンセプション・オブ・ジャズともいうべき、ジャズの新たな文脈を感じる貴重な映像を紹介しておこう。
TRAnsMuTAtioNs-Bill Laswell, Derek Bailey, Jack DeJohnette
http://www.youtube.com/watch?v=Rxrw1EOqGDY
MACHINE MUSIC
side one:John White
Autumn Countdown Machine
John White-tuba,metronome,percussion Christopher Hobbs-bassoon,percussion Sandra Hill-double bass Gavin Bryars-double bass,metronome
Son Of Gothic Chord
Christopher Hobbs-piano John White-piano
Jew's Harp Machine
John White-jew's harp Christopher Hobbs-jew's harp Gavin Bryars-jew's harp Michael Nyman-jew's harp
Drinking And Hooting Machine
Christopher Hobbs-bottle Susan Dorey-bottle Gavin Bryars-bottle John White-bottle Brian Eno-bottle
side two:Gavin Bryars
The Squirrel And The Ricketty Racketty Bridge
Derek Bailey-steel stringed acoustic guitars Fred Frith-double-headed electric guitars Brian Eno-electric guitars
recorded at Basing Street Studios 1976
engineered by Rhett Davies
produced by Brian Eno
OBSCURE 1978