obscure no.9
TOM PHILLIPS
GAVIN BRYARS
FRED ORTON
BRIAN ENO
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧 CASCADES 52
IRMA AN OPERA BY TOM PHILLIPS
MUSIC BY GAVIN BRYARS LIBRETTO BY FRED ORTON(OBSCURE OBS 9)
オブスキュア9作目の“IRMA”は、W・H・マロックによるヴィクトリア時代の小説に基づくオペラである。作曲はトム・フィリップス、ギャヴィン・ブライアーズ、台本はフレツド・オートンによるもの。指揮はブライアーズで、サイド1ではGrenville役のハワード・スケムプトン、サイド2ではIrma役のルーシー・スケーピングの声がフィーチュアーされている。このオペラは最初、'70年にボルドー・フェスティヴァルのコンサートのためにプロデュースされ、'72年にニューカースル大学でCeolfrith Arts Associationによって上演された。
その後、'73年ヨーク大学、'83年ロンドンのICAで上演されるまでは古い演劇イルマの新しい解釈に多くの問題を引き起こし、それを解決するためにRichard Ortonの指導のもとに2つのヴァージョンを制作していた。トム・フィリップスは「THE HEART OF A HUMUMENT」というアーティストブックも発表していて、このオペラの下敷きになっている1892年に出版されたW.H.Mallockによる著書「A Human Document」のテキスト上に、オリジナルテキストの一部分を残したペイントを施したシリーズをまとめたもの。テキストとペイントからなるアートワークが楽しめる。ヴィクトリア朝時代といえば、1858年に建てられたヴィクトリア朝時代の建築である赤と金を基調にした優雅な4層の、ロンドンの劇場街のまっただ中にコヴェント・ガーデン王立歌劇場 (Royal Opera Covent Garden)というオペラ・ハウスがあるが、確かクラフトワークのステージをそこで観た覚えがある。マロックの「A Human Document」が出版されたヴィクトリア朝は、ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた1837年から1901年の期間を指し、この時代はイギリス史において産業革命による経済の発展が成熟に達し、イギリス帝国の絶頂期であるといわれている。1863年には、ロンドン地下鉄も開通したが、産業革命の成功により世界の工場と言われたイギリスも、1890年代以降は、ちょうど日本のバブル経済が崩壊していったかのように"ヴィクトリアニズム"が急速に衰退してその時代は終焉を迎えた。1870年代-1901年までのヴィクトリア後期には、アメリカ合衆国やドイツなどの資本主義が発展し工業力も向上し、ヨーロッパの意思決定の中心的存在であったイギリスの地位が揺らぎ始めた。ヴィクトリア時代の風俗といえば"フラッパーズ"と呼ばれる女性達を生み出す、解放的、享楽的な時代で、フェミニズムや、いまニッポンでオタクの間で大流行りのメイド、ルイス・キャロルなどを思い浮かぶが、"当時の英国国民は物質的には恵まれた状況に達していたが、心はなぜか満たされることなく、行き着くところまできてしまったような不安を感じていた"時代でもあったという。オブスキュアで発表されたIRMAが気にそぐわなかったのか、トム・フィリップスは新しいヴァージョンで'88年に、AMSとLol Coxhill(voice, soprano saxophone)、Elise Lorraine(voice)、Phil Minton(voice)、Ian Mitchell(clarinets)、Birte Pederson(voice)、Tom Phillips(voice)、Eddie Prévost(percussion)、Keith Rowe(guitar, radio, tapes, cello)、John Tilbury(piano, radio)のソリストたちによって、新たに作り直して発表している。
イルマのスコアはマロックの小説からの断片で成っていて、これがまた変わったスコアで、サウンド・ボキャブラリーの断片、連帯する指示、パフォーマンスの提案、メロディーの寄せ集めの、小説の断片でできた散文指示のある大きなシートの台本で、オペラ全体のなかの最小限必要な要素だけで出来上がっている。このレコードでの音楽を聴く限りオペラといっても古典的なものではなく、大衆音楽、芸能の要素が取り入れられたもので、社会主義リアリズム的傾向をもったものではないだろうか。シュトックハウゼンの作ったオペラのように、作品全体を上演するのではなく常に部分上演といった形で演奏される未完の作品を提示するものに似たものだろう。
詳しくは「IRMA:An Opera Performance History」参照
http://tomphillips.co.uk/essaysan/irpo/index.html
TOM PHILLIPS WEB
http://tomphillips.co.uk/index.html
IRMA/An Opera by Tom Phillips
music by Gavin Bryars libretto by Fred Orton
conducted by Gavin Bryars
Side1:Introduction/ Overture and Aria(“I tell you that's Irma herself”)/ First Interlude
Howard Skempton:Grenville
Tom Phillips:chorus voice Angela Bryars:chorus voice Rory Allam:clarinet and bass clarinet Dave Smith:tenor horn,vibes John White:tuba,marimba Jo Julian:vibraphone,marimba Michael Nyman:piano,marimba,glockenspiel
Side2:Aria(“Irma you will be mine ”)/Second Interlude/Chorus(“Love is help mate”)/
Postlude
Lucy Skeaping:Irma
Roddy Skeaping:sopranino violin Stuart Deeks:descant violin Gavin Wright:treble violin Adam Skeaping:alto violin Mark Caudle:tenor violin Tim Kraemer:baritone violin Roy Babbington:bass violin Rodney Slatford:contrabass violin
Produced by Brian Eno
OBSCURE 1978
※付加
Alicia en el País de las Maravillas (1903)
http://www.youtube.com/watch?v=6ihHWXef1RM
ヴィクトリア朝時代/世紀末英国風俗の紹介。黄金の夜明け団と自転車とブルーマー
http://www7.ocn.ne.jp/~elfindog/newgirl.htm