「ブライアン・イーノ・ソロ」
シュルレアリズムからアンディ・ウオーホル、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのニューヨークへのオマージュ、
クルト・シュヴィッタースの音声詩ににみられるダダイスト、
ジャーマン・エクスペリメンタルへの憧憬、
ピーター・シュミッツとの精神的フレンドシップ
BRIAN ENO
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 54
'73年から'77年の4年間にブライアン・イーノのソロ活動での電子音楽を活用したアヴァン・ポップの作品「Here Come The Warm Jets」、「Taking Tiger Mountain (By Strategy)」、「Another Green World」、「Before and after Science」の4枚のうちセカンドまでは、なによりも彼のニューヨークへの思いとアンディ・ウォーホルやヴェルベット・アンダーグラウンドへのリスペクト、オマージュじゃないかと思っている。当時、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928年8月6日 - 1987年2月22日)はアメリカのポップアートのカリスマ的存在で、銀髪のカツラをつけた彼は、'61年に身近にあったキャンベル・スープの缶やドル紙幣をモチーフにした作品を描き"ポップアート"という美術での新しいジャンルを確立し、コカ・コーラに象徴されるアメリカ文化とアメリカなるものの概念をテーマにした多くの作品を量産している。'64年にニューヨークにファクトリーと呼ばれるスタジオを構え、そこはミック・ジャガー(ローリング・ストーンズ)、ルー・リード(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、トルーマン・カポーティ(作家)、イーディー・セジウィック(モデル)などのアーティストの集まる場となり、'67年にあのシルクスクリーンによるバナナを描いたジャケットで有名な「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・ニコ・アンド」 のアルバム・プロデュースとジャケット・デザインを手掛けている。そのアンディー・ウォーホルのオマージュは、彼の作品を思わせる「Taking Tiger Mountain By Strategy」の、ピーター・シュミッツの"1500 Unique Lithographs"という作品から採用されたジャケット・デザインに如実に表われているし、まるでウォーホルが言ったかのようなイーノの発言"あることを繰り返すことは、それを変えることになる"にも表われている。イーノのファースト、セカンドでの音楽は、その言葉を実行しているかのように、単純なリズムが延々と反復する手法を使っていてヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようでもある。当時イーノは音よりも、むしろ絵画や美術から音楽を発想するとも語っていた。
ANOTHER GREEN WORLD/BRIAN ENO(ISLAND ILPS 9351)
'75年11月に発表されたサード・ソロ・アルバム。過去のイーノの作品にみられる音楽表現での基本的シフトを打ち破ったこのアルバムは、彼の作品のなかでも最高傑作だと評価する人が多く、事実上のファースト・アルバムと言えるものだろう。個人的にもボクが音楽評論家としてライナーノーツを書いた最初の作品でもあり、思い入れも深い。なによりもこの作品によってイーノはオブスキュア、アンビエントという未来に続く創造へのヴィジョンを手に入れる契機になったものだ。この作品は、デヴィッド・ボウイとの'77-'79年の'Berlin Trilogy' と呼ばれている一連の"Low" 、"Heroes" 、"Lodger"のコラボレーション作品にまで影響を与えている。ロバート・フリップが自ら形容した"Wimshurst guitar"の、ノコギリで穴を開けるかのようなマシーン・ジェネレーターの、まるで新しい弦楽器が奏でるかのような渋い音色と、アルバムジ
ャケットに使われた、オブスキュアno.9でも紹介したトム・フィリップスの"After Raphael"の絵が、このアルバム全体を支配するポップでいて静謐なイメージを決定づけている。
side one:1.Sky Saw 2.Over Fire Island 3.St. Elmo's Fire 4.In Dark Trees 5.The Big Ship 6.I'll Come Running 7.Another Green World
side two:8.Sombre Reptiles 9.Little Fishes 10.Golden Hours 11.Becalmed 12.Zawinul/Lava 13.Everything Merges With The Night 14.Spirits Drifting
Phil Collins(drums) Percy Jones(fretless bass) Paul Rudelph(anchor bass,snare drums...) Red Malvin(rhodes piano) John Cale(viola section) Brian Eno(snake guitar,digital guitar,synth,organ,tape...) Robert Fripp(wimshurst guitar) Brian Turrington(bass,pianos)
cover is a detail from "after raphael" by Tom Phillips
all vompositions written by Brian Eno
produced by Brian Eno and Rhett Davies
recorded at Island Studios,during July and August 1975
ISLAND 1975
BEFORE AND AFTER SCIENCE/BRIAN ENO(POLYDOR DELUXE 2302 071)
'97年発表の4枚目のソロ・アルバム。このアルバムでサイド1の3曲目に収録されている「Kert's Rejoinder」では、クルト・シュヴィッタースの"US Sonata"から引用されたヴォイスが効果的に使われていることに、誰もあまり触れていないが、イーノの歌声のバックから彼の音声詩が微かに聴こえてくる。クルトはダダの運動に参加した作家の一人で、他のグループからは孤立してハノーヴァーで活動し独自のコラージュによる作品すらも芸術たらしめんとしたアーティストで、反芸術的な姿勢を持つ他のダダイストたちとは異質な存在だった。彼は1887年ドイツのハノーヴァーの生まれで、初期の絵画は表現主義やキュビスムに影響されたものだったが,1918年以降,"メルツ"での紙屑,木片,布切れなどの廃品を貼合わせたコラージュ、絵画から建築、彫刻,音声詩、雑誌での作品は、第二次大戦後のアッサンブラージュやオブジェを先駆けたものと言われている。そのなかでもメルツ詩と言われる一連の音声詩、朗読パフォーマンスでの、イーノの使っている「Ur Sonata(原ソナタ)」は、"ボヘボヘビーブー、ブビブビッテ、ボヘボヘビーブー"というような赤ちゃん(ダーダー)言語の無意味な言葉の羅列をソナタ形式にあてはめたダダイズムの祖ともいえる作品で、古典的ソナタ形式の、Raoul Hausmannの視覚音声詩"Rfmsbwe"のパロディであるとも言われ、言葉の持つリズムを強調したものである。追記しておくと、2004年にマイケル・ナイマンが「Man and Boy DADA」というタイトルで、クルト・シュヴィッタースを素材にした架空の、マイケル・ヘイスティングス作の2幕仕立ての物語に音楽をつけたオペラのCDをリリースしている(ボクの編集していたロックマガジンも彼の音声詩のフィルム・シートを付録につけたことがある)。
この「BEFORE AND AFTER SCIENCE」のアルバムのサブ・タイトルは"14PICTURES"となっているが、これはアルバムの10曲に付録でインクルードされた「見たものしか描けない画家」と自称していたピーター・シュミッツの4枚の水彩画の絵を足して一つの作品としたイーノの意図である。
side one:1.No One Receiving 2.Backwater 3.Kurt's Rejoinder 4.Energy Fools The Magician 5.King's Lead Hat
side two:1..Here He Comes 2.Julie With... 3.By This River 4.Through Hollow Lands(For Harold Budd) 5.Spider And I
Paul Rudolph(bass,rhythm guitar) Phill Collins(drums) Percy Jones(fretless bass,analogue delay bass) Rhatt Davis(agong-dong,stick) Brian Eno(voices,synthesizer,guitar,synthsized percussion,piano,CS80) Jaki Liebezeit(drums) Dave Mattacks(drums) Shirley Willams(brush timbales,time) Kurt Schwitters(voice"from The Ur Sonata) Fred Frith(modified/cascade guitar) Andy Fraser(drums) Phil Manzanera(rhythm guitar) Robert Fripp(guitar solo) Achm Roadelius(grand and electric pianos) Mobi Moebius(bass fender piano) Bill McCormick(bass) Brian Turrington(bass)
The Pictures by Peter Schmidt 4 offsets from water colours
Produced by Brian Eno and Rhett Davis
POLYDOR 1977
HERE COME THE WARM JETS/BRIAN ENO(ISLAND ILPS 9268 )
'73年の夏に突然ロキシー・ミュージックを脱退した後、アイランド・レーベルからリリースされたファースト・ソロ・アルバム。性器から射精される生暖かい精液をタイトルにしたアルバム。当時メロディー・メーカー紙などの音楽ジャーナリズムはイーノのことを"少女のようなエレクトロニクスの導師"、"宇宙時代のロック・アイドル"などと形容していた。"尻の穴に空気銃の弾をぶち込まれたウサギのような声"といわれた、彼独特の声は首輪のような"Electric Larynx"という装置をシンセサイザーを直結して作った合成音だと言われていたが、さだかではない。この頃のイーノは曲の"ラクダの眼のなかの針"や、ミシガンに住む口から火を吹く黒人を歌った"The Pow Paw negro Blowtorch"、火に包まれた恋人"Baby On Fire"などのタイトルからしてもシュルレアリスム世界が好きだったのが解る。アルバム発表後、ジョン・ケイル、ニコ、ケヴィン・アイアーズとのライヴ・アルバム「JUNE 1.1974」をリリースしている。
TAKING TIGER MOUNTAIN (BY STRATEGY) /BRIAN ENO(ISLAND ILPS 9309)
'74年のセカンド・ソロ・アルバム。サンフランシスコのチャイナタウンの街角で、小さな店のウィンドウに飾ってあった絵葉書大の写真"Taking Tiger Mt.By Strategy"は、中国の舞踏団の映画のスチール写真で、それを買ったイーノは、どこへ行くにも持ち歩いくほどに魅了され、ある夜、メスカリンを飲んで眠ったときに、夢の中でその写真の舞踏団の少女のシュールな夢の出来事に示唆されて出来上がった作品が「Taking Tiger Mountain By Strategy」で、それはサイド2の3曲目"The True Wheel"のイントロ部分の女性コーラスによって再現されている。このアルバムはロバート・フリップ、フィル・マンザネラなど以上にクラシック畑の素人集団、ポーツマス・シンフォニックを起用しているところがイーノらしい。このアルバム・タイトルに既にみられる"Strategy"という20世紀のシステムに関する相互作用上の精神的コンセプトは、ピーター・シュミットの絵画と同じように70-80年代を通してブライアン・イーノの創造の大きな支柱だったようだ。
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