PIANO RECORDS
DAVID CUNNINGHAM
TONY SINDEN
THIS HEAT
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧 CASCADES 58
DEVID CUNNINGHAM/GREY SCALE(PIANO 001)
'77年にリリースされたデヴィッド・カ二ンガムのアルバム「Grey Scale」は彼が設立したインディ・レーベル"ピアノ・レーベル"からの1枚目にあたる作品。ここでのエラーシステムとは"プレイヤーは繰り返しフェーズを演奏する。ひとりのプレイヤーが誤りをおかすと、それはさらなる誤りによって変化してゆく反復の基礎となる。その結果、制御不可能なプレイヤーの速度によってサウンドが変化してゆく。パフォーマンスのために変化を取り入れようと故意に誤りを決して作ってはいけない。要するに誤りを持続させてください"というものであり、「water systemised」に見られるシステムは、"水の断片、ギターの断片はこのプロセスに類似しているもので、しかしここでのプロセスは使用される機械につきものの特性である自動である"というようなことが書かれている。簡単に言ってしまえば、人間の手によりミニマルな反復でのエラーシステムでのミス=エラーと、機械によるミニマルな反復のオートマティック・システムでのミス=エラーによる音響が展開されているということだ。デヴィッド・カニンガムは、'54年アイルランド生まれの作曲家、音楽プロデューサー、ミュージシャン、"Piano"レーベルの設立者で、またマイケル・ナイマンのピーター・グリーナウェイのための映画音楽のアルバム・プロデュースを10数作手掛けている。彼自身も映画音楽や舞踊音楽のアルバム、83年「ゴースト・ダンス」、88年「カフカ」などを発表している。'93-2003年にかけてはMichael GilesとJamie Muirとのコラボレーション「Ghost Dance」、 John Latham、David Hall、Stephen Partridge、Bruce McLeanなどのヴィジュアル・アーティストとのテレヴィジョン・シリーズ、"The Listening Room"や"Contemporary British Art"などの音響インスタレーションの活動や、ニューキャッスル大学造形芸術学科(Fine Art at the University of Newcastle)主任研究員としての顔もある。彼には'81年にロンドンの自宅でインタヴューしているが、当時、'79年に結成したフライング・リザース(The Flying Lizards)での"Money"が(オリジナルは'59年のバレット・ストロングの曲でビートルズも'63年に「ウィズ・ザ・ビートルズ」でカヴァーしている)ヒットし、ディス・ヒートや"ノイエ・ドイチェ・ヴィレ"のパレ・シャンブルクのアルバム・プロデュースも手がけていた頃で、日本からインタヴューに来たボクに彼のほうが緊張していて、知的で繊細で無欲な彼の人柄が印象的だった。
side one:1.Error System(Bagfgab) 2.Error System(C pulse solo recording) 3.Error System(C pulae group recording) 4.Error System(E based group recording) 5.Error System(EFGA)
side two:6.Ecuador 7.Water Systemised 8.Venezuela 1 9.Guitar Systemised 10.Venezuela 2 11.Bolivia
instrumentation and musicians:David Cunningham(piano,glockenspiel,sybthsiser,percussion,violin piano,bass,recorder,tape,water) Stephan Reynold(glockenspiel,piano,synthesiser) Alan Hudson(bass guitar) Derek Roberts(piano,glockenspiel) Alan Hudson and Michael Doherty(percussion)
mixed and produced by David Cunningham
cover photograph from the videotape 'Show Scale'(1975) by Steve Partridge.
PIANO 1977
TONY SINDEN/FUNCTIONAL ACTION PARTS2 & 3(PIANO 002)
Tony Sindenはピアノ・レーベルからはこの作品以外にも'80年に「magnificent cactus trees...」というアルバムをリリースしている。彼はおそらく現在ロンドンで精力的にヴィデオ、映像インスタレーションの分野で活動しているアーティストだと思うのだが、"Functional Action"は、ミックスメディア・アーティストのトニー・シンデンの'78-'79年にロンドンの"The Acme"、"Serpentine"、”Hayward"ギャラリーでの作品の断片でコンパイルされている。"このアルバムの重要な要素は、フィルムとヴィデオにあり、サウンドの"Swing Guitars"と"Drift Guitars"によってその作品は発展する。この音楽の持続時間は実際のパフォーマンス・イヴェントで決定した。アルバムでの欠点と誤りはそのイヴェントに関連していて、私のアイデアを暗示している"と自身がレコードで説明しているが、'79年のロンドンの"The Hayward Gallery"におけるフィルム・インスタレーションからの、Tony Sinden とGilbert Patrickによるギターのシンプルなリフによるミニマル・ミュージックが収録されている。
side A:Swing Guitarsside B:Drift Guitars
oerformed by Tony Sinden & Gilbert Patrick,June 1977
Functional Action Series Tony Sinden
recorded by David Cunningham without overdubbing for Piano Records,June 1977.
cover images from a film-installation by Tony Sinden at The Hayward Gallery,London 1979.
produced by David Cunningham
PIANO 1980
http://www.rewind.ac.uk/behold.html
http://www.artschaplaincy.org.uk/commissions/sinden.html
THIS HEAT//DECEIT(ROUGH TRADE/ ROUGH26)
'81年6月29日、ロンドン郊外のブリクストンのコールド・ストレイジのスタジオの屋上で、初夏のひんやりした乾いた風を頬に感じながら、シリアスな眼差しを持った彼らと半日もの長時間、張りつめた空気のなかでディスヒートのインタヴューを持ったあの日のことはいまでも忘れるわけにはいかない。なぜなら当時ボクはイギリスでのこの取材を最後にして音楽ジャーナリズムの世界から足を洗おうと考えていて、ロック・イディオムに関わるすべてのことに絶望していた時期だったからだ。カンタベリー系のクワイエット・サンのドラムスだったチャールズ・ヘイワードが、レイダー・フェイヴァリッツのギタリスト、チャールズ・ブレンと、ギャレス・ウィリアムズ(ベース)の3人で結成したディス・ヒート。彼らの音楽との出会いからかなりの時間を要したがボクのロック・イディオムへの決別を決心させた大きな出来事だった。
THIS HEAT/THIS HEAT(PIANO THIS-1)
'79年の「This Heat」と、'80年の45回転の12インチシングル「Health and Effeciency」はピアノ/ラフトレードから発表されたもの。録音された即興演奏の出来上がりを再度緻密な分析をして、その上にオーヴァーダヴィングし、更に即興を繰り返すというレコーディング・テクニックの極みを駆使した音響の構築は、「Health and Effeciency」のサイドBの「Graphic/Varispeed」という曲ではファースト・アルバム「This Heat/Live」での"24Track Loop"の音源をグラフィック・イコライザーやヴァリスピード(速度調節)を駆使し加工、拡張することで出来上がっている。個人的にはそうしたリズムレスの曲も悪くないが、チャールズ・ヘイワードとギャレス・ウィリアムスのテンションの高い重厚な肉体的グルーヴを持つ曲も捨てたものじゃなかった。'82年にギャレス・ウィリアムズ(2002年に他界している)脱退に伴って崩壊するまでの、ロックの終焉を暗示しているかのように、短命なディス・ヒートだった。'79年の「This Heat 」、80年の「Health and Effeciency」、'81年の「Deceit」がディス・ヒートが事実上残した作品だ。当時はロックマガジンの読者以外に彼らの音楽などに興味を持つロックファンも少なく、無名に等しかったのだが、現在の若いロックファンにはかなりの知名度で知れ渡っていることに驚いている。
THIS HEAT//DECEIT(ROUGH TRADE/ ROUGH26)
A:1.Sleep 2.Paper Hats 3.Triumph 4.S.P.Q.R. 5.Cenotaph
B:1.Shrink Wrap 2.Radio Prague 3.Makeshift Swahili 4.Independence 5.A New Kind Of Water
all composition This Heat
Charles Hayward (voice,drums,keyboards,guitars,bass,tapes)
Charles Bullen (voice,guitars,clarinet,drums,tapes)
Gareth Williams (voice,bass,keyboards,tapes,mask)
THIS HEAT/THIS HEAT(PIANO THIS-1)
1. Testcard 2. Horizontal Hold 3. Not Waving 4. Water 5. Twilight Furniture 6. 24 Track Loop 7. Diet of Worms 8. Music Like Escaping Gas
9. Rainforest 10. Fall of Saigon 11. Testcard
Charles Bullen(Clarinet, Guitar,Vocals,Viola,Tapes ) Charles Hayward ( Keyboards,Percussion,Vocals,Tapes ) Gareth Williams (Bass,Guitar ,Keyboards,Vocals )
mono(stereo cassette,2 and 24 track recordings,feb.1976-sept.1978
the workhouse,cold storage,camberwell,live and in performance.
Engineer:Chris Blake,Frank Bryan,Kevin Harrison,Rick Walton
Remastering:Charles Bullen,Charles Hayward,Denis Blackham
produced by This Heat with David Cunningham and Anthony Moore
PIANO 1979
THIS HEAT/HEALTH AND EFFECIENCY(PIANO THIS 1201)
A:Health and Efficiency
B:Graphic/Varispeed
engineeres:Geoffrey Zipper,Chris Blake,Chiris Gray,Peter Bullen,Jack Balchin,Phil Clarke,Laurie~Rae Chamberlain.
recorded;Cold Storage/Sorry Sound.
all compositions Bullen/Hayward/Williams
PIANO 1980
THIS HEAT/LIVE IN KREFELD(INDEPENDENT DANCEMC 8507)
sideA:Paperhats/The Fall Of Saigon/Testcard/S.P.Q.R/Make Shift Swahili
side B:Unreleased Totle/Music Like Escaping Gas/A New Kind Of Water/Twilight Furniture/Health And Efficiency
Charles Bullen (guitars,vila,voice,tapes)
Charles Hayward (percussion,voice,keyboards,tapes)
Gareth Williams (keyboards,guitars,voice,bass,tapes)
live at Krefeld,west-germ, 1980
rec.by Rudi Frings
c40 cgrom 1:1 stereo
1986 by INDEPENDANCE heilbronner weg10 2800 bremen w-germ.
'86年にドイツのIndependanceから発売されたカセットテープ。
※PIANOレーベルから'80年にリリースされたSTEVE BERESFORD「The Bath Of Surprise」(PIANO 003)は別の項目で取りあげます。
rock magazine vol.39 vol.40 vol.41
'81年の5月下旬から7月にかけてドイツ/デュッセルドルフから、フランス/ルーアン、ベルギー/ブリュッセル、ロンドンに取材に出かけた。ホルガー・シューカイ、コニー・プランク、クラウス&トーマス・ディンガー、ダフ、ダー・プラン、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、ジャン・ピエールターメル、ローレンス・デュプレ、ルル・ピカソ、レス・ディスク・デュ・クレプスキュール、BCギルバート&Gルイス、ジョアン・ラ・バーバラ、デヴィッド・トゥープ、ディス・ヒート、デヴィッド・カニンガム、ジェネシス・P・オーリッジ、ダニエル・ダックス&カール・ブレイクなどなどに会いインタヴューを敢行し、この3冊の「rock magazine」を編集して終わりにしょうと考えていた。それからかなりの時間を要したのは、編集室に集まってきていたスタッフの熱意を消すわけにもいかなかったのと、微かな望みもあったからだろうけれど、この3冊のエディトリアルでボクのロックへのすべての夢と熱いエナジーが閉ざされ消えてしまっていたのだろうと、いまにして思う。(ディス・ヒートの長時間にわたるインタヴューはvol.41に掲載されています)。
Comment ( 1 )
阿木さん
大変ご無沙汰しております。といっても、もうお忘れだと思います。25年ほども前のことですからね。パームスでDAFやTHIS HEATを回して踊っていたころですし、当時ロクマガに出入りしていたS君やM君などは今頃どうしてるのでしょうか。
この3冊のロックマガジンも実家を探せば出てくると思います。阿木さんはやっぱりこうこなくちゃというBlogですね,素敵です。今春からは沖縄在住なのでなかなか帰阪できませんが、機会があればまたnu thingsにもお伺いしたいです。
どこかで書いておられた40代の閉塞感は確かにありますね。80年代をリアルに経験してきたこの世代が今ブレイクスルーしないと面白くないかも知れません。ではまた、お元気で!
投稿者: Tatsuya.H | 2008年04月11日 08:37
日時: 2008年04月11日 08:37