不気味でキモかわいい そしてナンセンスなエドワード・ゴーリーの絵本世界の音楽化とロンドンの劇作家ハロルド・ピンターが書き下ろしたシアトリカルなポストモダン・オペラ
MICHAEL MANTLER
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 7
MICHAEL MANTLER+EDWARD GOREY/THE HAPLESS CHILD
(WATT/4)
ロバート・ワイアット関係で注目すべき2作品がある。その1枚は76年にニューヨークのWATT WORKSからリリースされた物語性を重視したポストモダン・オペラとしての様式を持つ「The Hapless Child and other incrutable stories」で、大人のための絵本作家として世界的なカルト・アーティストであるエドワード・ゴーリーの散文詩が使われたもの。ゴーリーといえば11歳の時から2000年に亡くなるまで猫とだけ暮らしていたという逸話を持つひとで、単行本「The Unstrung Harp」、1972年「Amphigorey」などの著作、 他に1977年にはブロードウェイの舞台「Dracula」のセットと衣裳デザインによりトニー賞を受賞、 後に自身の作品をベースにしたミュージカル「Gorey Stories」の上演、PBS( Public Broadcasting System)の番組「Mystery!」のオープニング・アニメーションを作成など多岐にわたり活動していた。彼の「Amphigorey」、「The Doubtful Guest」などの絵本にみられる不気味でかわいいい独特な線画のナンセンスなゴーリー世界がマイケル・マントラーの音楽とワイアットのヴォーカル、カーラ・ブレイのピアノ、クラヴィネット、ストリング・シンセサイザーなどのオーディオ・インスタレーションによって再生され動きだす。そしてこのアルバムの主役マイケル・マントラーは、1943年ウィーン生まれのトランペット奏者・作曲家で、JCOAやWATTレーベルの創設者だが、それ以上にECMレコードの創始者として有名。彼はその後1987年にサミュエル・ベケットやエルンスト・マイスター、フィリップ・スーポーの詩を基にしたアルバム「メニー・ハヴ・ノー・スピーチ」を発表、2001年3月にロルフ・ハイムの企画による劇場版「ハイド・アンド・シーク」なども発表している。彼のジャズ、クラシック、ロックのミュージシャンを起用した前衛文学をテキストに使った数多くの作品が制作されているが、タイミングよくアンソロジー・アルバムがECMから発表されている。
http://www.edwardgoreyhouse.org/
http://www.mantlermusic.com/
A:The Sinking Spell/The Object-Lesson/The Insect God
B:The Doubtful Guest/The Remembered Visit/The Hapless Child
ROBERT WYATT-vocals/CARLA BLEY-piano,clavinet,string synthesizer/STEVE SWALLOW-bass guitar/JACK DEJOHNETTE-drums,percussion/TERJE RYPDEL-guitar/ALFREDA BENGE-speaker/ALBERT CAULDER,NICK MASON,-additional speakers
recorded july 1975 through january 1976 at Grog Kill Studio on Willow,New York,with the Manor Mobile at Robert Wyatt7s house and Delfina's farm in England,and at Britannia Row in London
engineers:Michael Mantler,Dennis Weinreich,Alan Perkins,Nick Mason/mixed January 1976 at Britannia Row by Nick Mason
produced by CARLA BLEY
1975 WATT WORKS INC.
MICHAEL MANTLER/SILENCE an adaptation of the play by HAROLD PINTER(WATT/5)
先のアルバムの直後にヴァージン/WATTから発表されたもの。このアルバムでの歌詞(台詞?シナリオ?)は英ロンドン劇作家ハロルド・ピンターが書いたもので、彼の作品は「劇中で日常の対話の中に隠されている危機をあらわにし、抑圧の閉ざされた空間への通路を押し開いた」と批評されるイギリスの演劇界では高く評価されている人物で、ノーベル文学賞を受賞してもいる。現代社会の現実に対して理想や夢を捨て去ることはできないが、我々はそうした深い苦悩がよりリアルに反映されたデスコミュニケーションの時代を生きているが、彼の書くシナリオはそうした社会を辛辣に風刺、批判したものが多い。この「SILENCE」ではケヴィン・コイン演じるRUMSEYと、カーラ・ブレイ演じるELLEN、ロバート・ワイアット演じるBETESの3人の主人公を設定し、その歌はまるでセリフのように歌われ、シアトリカルなポストモダン・オペラ仕立てのコンセプトアルバムとして構成されている。このアルバムをプロデュースしているカーラ・ブレイのアイデアを主軸としたWATTレーベルは、もともとは夫のマイケルとの共作の発表の場として考えて設立されたものだろう。現在マイケル・マントラーとカーラ・ブレイは離婚しているが、最近の彼女の活動が知りたくてググって調べるとイキなウェブを見つけた。そこには、現在活動をともにしている Steve Swallow (bass)、娘の Karen Mantlerが離れ小島に造られた刑務所に収容されているという架空の設定で作られた、ブラックユーモアあふれる楽しいウェブサイトである。彼女たちのオリジナル曲の試聴可能。
http://www.wattxtrawatt.com/
side one:1.IWalk With My Girl 2.I Watch The Clouds 3.It Is Curiously Hot 4.When I Run
side two:1.Sometimes I See People 2.Around Me Sits The Night 3.She Was Looking Down 4.For Instance 5.A Long Way 6.After My Work Each Day 7.On Good Evenings
all tracks:Michael Mantler words by Harold Pinter
CARLA BLEY-voice,piano,organ/ROBERT WYATT-voice,percussion/KEVIN COYNE-voice/CHIRIS SPEDDING-guitar/RON McCLURE-bass guitar,acoustic guitar/CLARE MATHER-cello
Carla Bley and Ron McClure recorded during january 1976 at Grog Kill Studio,Willow,New York,engineer:Michael Mantler/Robert Wyatt and Chris Spedding recorded during February with the Manor Mobile at Delfina's farm,Little Bedwin,Wiltshire,England engineer:Alan Perkins/Kevin Coyne recorded during April with the Virgin Mobile at the Gong farm,Whitney,Oxfordshire,England,engineer:Steve Cox/additional strings recorded during June and mixed during November at Grog Kill Studio,engineer:Michael Mantler
1976WATT WORKS,INC/VERGIN RECORDS