VINI REILLY - THE DURUTTI COLUMN

VINI REILLY
THE DURUTTI COLUMN
FACTORY RECORDS
FACTORY BENELUX
「ジャズ的なるもの」からブリティッシュ・ロックへの回顧
CASCADES 74

ヴィニ・ライリーの一人二重奏ともいえる深いディレイのかかった"Sketch For Summer"のサウンドを初めて聴いたとき、怪我をした少年の白い包帯が巻かれた細い指先を思った。それも母にかまってもらいたいがゆえの故意に自分の指先を傷つける少年の、危ういガーゼ質のような感性にも似たメランコリックな痛みと感情をともなってだった。
THE DURUTTI COLUMN/THE RETURN OF THE DURUTTI COLUMN(FACT 14)
80年代の中頃にロックを総括したあといまでも、ギターの音、それはギター・オーケストレーションのソニックユースであっても、パンクであっても、ジャズフージョンであっても、ギターノイズにはなぜか拒否反応が起こる。しかしこのヴィニ・ライリーのサウンドだけには、不思議と心が開かれるのだ。それはやはり彼の音楽には、原体験としてのポテンシャルなジャズが明らかに刷り込まれているからだろう。シンプルなメロディーとディレイのかかったミニマルなギターフレーズと、リズムボックスのキックするリズムだけの、サンドペーパーをジャケットに使用したファースト・アルバム「The Return of the Durutti Column」には、"存在そのものがなにかを傷つける"という彼のプロパガンダが仕組まれていて、静謐で優しさのなかにこそ、ほんとうは暴力的でラジカルな屈することのない強い意志が潜んでいるものなのだと思ったものである。そう、存在し続けるということは、ひとを傷つけてしまうことの連続なのだ。ちなみにドゥルッティ・コラムというのは、30年代のスペイン市民戦争のときの、共和国軍に参加して闘ったアナキスト"Buenaventura Durruti"や彼の率いた小隊の名前に由来しているそうだが。'77年にマンチェスターでノースブリーズというパンクバンドでギターを弾いていたヴィニ・ライリーは、パンクにある暴力的/破壊的意味に欺瞞を感じていた78年に、Factory Records創設者トニー・ウィルソンと巡り会い、マーティン・ハネットのアイデアによるリズムボックスとシンセの音にあわせてギターを爪弾き"Sketch for Summer"という曲が生まれた。ここにも"ジャズ的なるもの"が聴こえてくる。これこそが時代を超える"ジャズ的なるもの"と言える音楽なのだ。
ヴィニ・ライリーの、音楽創造のアイデアの背景には、"音楽の形式主義を支えながら、それらを発展させていき、聴く人々のためになる音楽を作る"ことにある。このことは音楽ジャンルを問わず21世紀音楽を創造するうえでは最も欠かせない最重要課題だろう。'53年マンチェスターで生まれたヴィニ・ライリーは、オハイオ州トレド出身の子供の頃には片眼は完全に失明し、左手は2台のベースとドラムのスライド奏法、超剛速球ソロの自由奔放な演奏でホロビッツをも恐れさせたという凄まじいテクニックを持つジャズピアニストのArt Tatum(1910-1956)や、1904年ニューヨーク生まれのピアニストで、"でぶっちょのウォーラー"と呼ばれた1900年代前半に活躍したFats Waller(本名はトーマス・ライト・ウォーラー)の音楽からインスピレーションを得て幼少の頃からピアノに興味を持ち、 10歳でギターを弾き始める。この話からも彼の音楽の原点はジャズピアノとフォークギターにあると言えるだろう。'79年にファーストアルバムを発表した後、ドラマー/パーカッションのBruce Mitchell(ブルース・ミッチェル)との共同作業でアルバム「LC」や室内楽的作品「Without Maecy」など多くの作品をリリースしていた。90年代に入るとボクは本格的にクラブミュージックに興味の対象が移り90年を最後に数枚の作品しか聴いていないが、当時は作品を作る度にゲスト・ミュージシャンやヴォーカリストを迎え、ハウスミュージックやカリプソ的なクラブ系の文脈にも侵入していた。こうしたことはすでに85年の「Without Mercy」でのエレクトロニック・リズムを導入した作品や「Guitar and Other Machine」、88年のオーティス・レディング、アニーレノックス、トレーシー・チャップマン、およびオペラスタージョーン・サザーランドからの声のサンプルを組み込んだアルバム「Vini Reilly」にも既にみられるが、なによりも"ギターでスケッチする男"と言われていたように、効果的ディレイによる空間的なサウンドスケープと、遠雷、小鳥の囀り民族音楽などの効果音、サンプリングによるソニックデザイン、素描こそがヴィニ・ライリーの音楽の魅力だったと思う。

THE DURUTTI COLUMN/THE RETURN OF THE DURUTTI COLUMN(FACT 14)
A:1.Skech for Summer 2.Requiem for a father 3.Katharine 4.Conduct
B:1.Beginning 2.Jazz 3.Sketch for winter 4.Collette 5.In 'D'
all tracks written by Vini Reilly
and produced by Martin Hannet
recorded at Cargo,Rochdale.
mixed at Strawbery,Stockport.
engineers,Chris Nagle and John Brierley.
thanks are also due to Pete Crooks,bass and toby,drums.Gammer for his melody and Rowbotham,Reid and Debord for the maketing concept.
published by Movement of 24th,January Music
FACTORY 1979
2000部限定でのサンド・ペーパーのジャケットのものと、色彩の魔術師と言われた20世紀フランスのパリを象徴する画家ラウル・デュフィの水彩画が配されたものを2枚持っているのは、当時よほどドゥルッティ・コラムが好きだった証だろう。サンド・ペーパーをジャケットに使ったもともとの発想は、勿論パリのダダイストでのマン・レイやマルセル・デュシャンの思想をお遊びで引用したものだろうが、深読みするなら資本主義社会における大量消費をスペクタクル(見せ物的)とみなし、サンドペーパーを使った本を出そうとし徹底的に批判する立場を表明したシチュエーショニズムのように"シチュエーショニスト(Situationist=シチュアショニスト)、トニー・ウィルスン"がファクトリーのオフィスで一枚一枚丁寧にノリでサンドペーパーを貼っていったのだとも考えられる。このシチュエーショニスト(状況主義)、ポストモダン的アイデア、"臨機応変(flex・i・bil・i・ty /flksbli)"こそが80年代当時も今もボクの変わらない創造の原点でもある。

Durutti Column - Sketch For Summer
http://www.youtube.com/watch?v=5bLlzGLH7wM

THE DURUTTI COLUMN/LC(FACT 44)
A:1.Sketch for Dawn I 2.Portrait for Frazer 3.Jaqueline 4.Messidor 5.Sketch for Dawn II
B:1.Never Known 2.Act Committed 3.Detail for Paul 4.Missing Boy 5.Sweet Cheat Gone
music written by Vini Reily
intrumentals & vocals Vini Reilly
parcussion Bruce Mitchell
paintings Jackie Williams
produced by Vini Reilly & Stew Pickering at Graveyard Studios.
FACTORY 1980
ドゥルティ・コラムの'81年のセカンド・アルバム。このアルバムからドラムスのブルース・ミッチェルが参加する。イアン・カーティスに捧げた"The Missing Boy"などが収録され、アルバムタイトルのLCは、"時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)"の原作者で有名なイギリスの小説家、評論家アンソニー・バージェス(Anthony Burgess)のローマに関するドキュメントの中の壁の落書き"Lotta Continua" から採用されたという。

THE DURUTTI COLUMN/DEUX TRIANGLES EP(FBN 10)
side one:1.Favourite Painting 2.Zinni
side two:1.Piece For 2.Out Of Tune Grand Piano
FACTORY BENELUX 1982

THE DURUTTI COLUMN/LIPS THAT WOULD KISS"FROM PRAYERS TO BROKEN STONE"(FAC BN2-005)
A:Lips That Would Kiss
B:Madeleine
ces deux chansons o nt ete enregistrees durant l'ete 1980 au studio cargo a rochdale et mixees a la meme epoque au strawberry studio a stockport(angleterre) /auter;vini reilly/producteur:martin hannett ingenteurs:john brierley et chris nagle/
FACTORY BENELUX 1980

THE DURUTTI COLUMN/I GET ALONG WITHOUT YOU VERY WELL(FAC 64)
A:I get Along Without You Very Well
written by Hoagy Carmichael, arrangement by Vini Rielly and Linsay Wilson.
AA:Prayer
written by Vini Rielly, Cor Anglais, Maunagh Fleming. produced by B-Music at Revolution Studios,Manchester. sleeve design Mark Farrow. printed by Garrod & Lofthouse,

THE DURUTTI COLUMN/WITHOUT MERCY(FACT 84)
face 1:Without Mercy
face 2:Without Mercy
Vini Reiilly(guitar,bass guitar,piano and dmx) Tim Kellett(trumpet) Caroline Lavelle(cello) Mervyn Fletcher(saxophone) Blaine Reininger(violin,viola) Maunagh Fleming(cor anglais,oboe) Bruce Mitchell(percussion,congas and dmx) Richard Henry(trombone)
arrangements by Vini Reilly,Anthony Wilson & The Durutti Column
written by Vini Reilly
produced by Anthony Wilson & Michael Johnson
recorded at Strawbery Studios,Stockport
mixed at Britannia Row,London
assisted by Tim Dewey & Nigel Beverley
cover;Trivaux Pond,1916/17 Henri Matisse(1869-1954)
reproduced by courtesy of the Trustees,the Tate Gallery,London
FACTORY 1984
ドゥルッティ・コラムの作品では、ファーストと「Without Mercy」がベストアルバムだと思っている。フランスの画家で野獣派(フォーヴィスム)のリーダ-的存在であったアンリ・マティス(Henri Matisse)の1917年の油彩画"Trivaux Pond"がジャケットに貼られたこのアルバムから、マチスが線の単純化、色彩の純化を追求したのと同じような音響の無駄な部分を削ぎ落とした静謐な室内楽とジャズ的なるものが聴こえてくる。マティスの絵画は最終的に切り絵に到達したというが、このアルバムでの音楽はそのマティスの"ジャズ"シリーズという切り絵の作品のなかのポリネシアのような音楽を想起させる。

THE DURUTTI COLUMN/SAY WHAT YOU MEAN MEAN WHAT YOU SAY(FAC 114)
side 1:1.Goddbye 2.The Room 3.A Little Mercy
side 2:1.Silence 2.E.E. 3.Hello
Published by the Movement of 24th January Publishing
Design by 8vo
FACTORY 1985

THE DURUTTI COLUMN/TOMORROW(FBN 51)
side 1:Tomorrow
side 2:1.Tomorrow(live in japan) 2.All That Love and Maths Can Do
FACTORY BENELUX 1985

THE DURUTTI COLUMN/CIRCUSES AND BREAD(FBN 36)
side 1:Pauline 2.Tomorrow 3.Dance II 4.Hilary 5.Street Fight 6.Royal Infirmary
side 2:1.Black Horses 2.Dance I 3.Blind Elevator 4.Girl-Osaka
all songs written arranged and produced by Vini Reilly.
design:8vo
FACTORY BENELUX 1986
60年代のザ・ビートルズ、ローリング・ストーンズに始まり20数年も続いたイギリスにおけるブリティッシュ・インヴェイジョンという大きな物語り、ロックの最終的な決着は、個人的にはYレコードやファクトリー・レコードのニューウェイヴ・ダンス・ミュージックと、そしてドゥルティー・コラムやelレーベルのグリッターロックともいえるバロキスムがエピローグを飾ったと考えている。86年のこのアルバムからはelレーベルにも似た室内楽と植物的バロキスム世界、ジャズ的なるものが聴こえてくる。

THE DURUTTI COLUMN WITH DEBI DIAMOND/THE CITY OF OUR LADY(FAC 184)
A:Our Lady Of The Angels
B:1.White Rabbit 2.Catos Con Guantes
Vini Reilly(guitars and keyboards) Debi Diamond(vocals) John Metcalfe(viola) Bruce Mitchell(percussion)
special thanks to Simply Red for Tim Kellett's trumpet on White Rabbit
Our Lady of The Angels recorded by Stuart James at Amigos Studio,North Hollywood and mixed by Steve Street at Strawbery Studios,Stockport.
White Rabbit recorded by Stuart James at Amigo Studio,North Hollywood and mixed by Stuart James at Yellow 2,Stockport.
Catos Con Guantes recorded and mixed by Steve Street at Strawbery Studios,Stockport.
all songs written by Vini Reilly
except White Rabbit written by Grace Slick and originally published by Rondor Music.
photograph by Bob Sebree design:8vo
FACTORY 1986
Jefferson Airplaneの"White Rabbit"のカヴァーと、ヴォーカルでフィーチャーされているDebi Diamondが正体不明でググッたらポルノ女優で有名な同姓同名の女性が検索された。同一人物? ヴィニ・ライリーとポルノ女優とのコラボレーションというのもアリかも、でも、どういう経緯だろう? 間違っているかも知れないが。

THE DURUTTI COLUMN/THE GUITAR AND OTHER MACHINE(FACT 204)
side 1:1.Arpeggiator 2.What Is It to Me(Woman) 3.Red Shoes 4.Jongleur Grey 5.When the World 6.U.S.P.
side 2:1.Bordeaux Sequence 2.Po; in B 3.English Landscape Tradition 4.Miss Haymes 5.Don't Think You're Funny
Vini Reilly(guitar,keyboards,machine programs and vocals) Bruce Mitchell(drum kit, xylophone and DX machine) John Metcalfe(viola and percussion on 'When the World') Stephen Street(bass guitar on 'English Landscape Tradition') Rob Grey(mouth organ on 'What Is It to Me' and 'Jongleur Grey') Stanton Miranda(vocals) Pol(vocals)
special thanks to Simply Red/Elektra for Tim Kellet(s trumpet on 'When the World')
written and arranged by Vini Reilly/Mitchell/Matcalfe
recorded at Suite Sixteen,Rochdale;Strawbery Studios,Stockport;and Island Studios,Hammersmith. mixed at Island Studios.
produced by Stephen Street. engineeres:Chris Nagle,Lee Hamblin and CJ
FACTORY 1987
サンプリングやプログラミングされたリズムマシーンを駆使してのこの作品は、まるで70年代カンタベリー系のプログレッシヴ・ロックのようで完成度の高い作品だが、ドゥルッティー・コラムの魅力は半減している。これもクラブカルチャーを前にした多くの80年代ロックの文脈での特徴だが、新しい器材や機械の発明がロックミュージックを進化させ、それに適応したかどうかはいまとなっては疑わしい。ヴィニ・ライリーの"音楽の形式主義を支えながら、それらを発展させていき、聴く人々のためになる音楽を作る"ことにあるという言葉と姿勢が当時のEカルチャーに融合していないように思えるが。ギターはロックの時代では有効ではあったが、クラブ系や、"ジャズ的なるもの"の時代には、もはや前時代的な楽器だと言わざるを得ない。

THE DURUTTI COLUMN/OBEY THE TIME(FACT 274)
side one:1.Vino Della Casa Bianco 2.Hotel of The Lake,1990 3.Fridays 4.Home 5.Art And Freight
side two:1.Spanish Reggae 2.Neon 3.The Warmest Rain 4.Contra-Indications 5.Vino Della Casa Rossa
written,performed,produced by Vini Reilly
FACTORY 1990
90年代のドゥルッティー・コラムもまたEカルチャーの波を受け、このアルバムではクラブミュージック的アプローチが見られる。ダブやアシッドハウスの趣きも感じられる作品ではあるが、ヴィニ・ライリーのあのメランコリックなディレイサウンドがプログラミングされたマシーンリズムのハウスミュージックにマッチするはずがない。このアルバムにも聴こえるカリブ海の音楽のスタイルのひとつトリニダード・トバゴのカーニバルでのカリプソニアンや、ダブ/レゲエ、そしてジャズのようなサウンドならまだしも。彼もまたクラブカルチャーに侵入したことを当時喜ばしく思ったが、なぜかこのアルバムを最後に彼の音楽を聴かなくなってしまった。

THE DURUTTI COLUMN/THE TOGETHER MIX(FAC 284)
A:Tigether Mix
B:1.Contra-Indications(album version) 2.Fridays(up-personmix)
Written and performed by Vini Reilly
Published by The Movement of 24th January
The Together Mix mixed by Together
Contra-indications computed and engineered by Andy Robinson
Fridays recorded and mixed by Vini Reilly and Paul Miller
Design: 8vo
FACTORY 1991
カリビアン/ハウス・ミュージックに侵入したアルバム"Obey The Time"に収録されていた"Contra-Indications"をTogetherがリミックスしている(レイヴ・クラシック"Hardcore Uproar"で有名)12インチシングル。この12インチにはそのメンバーのJohnとガールフレンドのEmmaがイビサ島で起きたバイク事故で亡くなり、彼らに捧げたヴィニ・ライリーのゴッホ絵に似た"For John and Emma"が付録につけられている。90年代にはKLFのアルバム"The White Room"でもドゥルッティー・コラムの曲がリミックスされ再生されていた。

THE DURUTTI COLUMN/LIVE AT THE VENUE LONDON(VINI 1)
side one:1.Party 2.Mother From Spain 3.Jacqueline 4.Conduct 5.Sketch For Summer 6.The Beggar
side two:1.Never Known 2.The Missing Boy 3.Sigh Becomes A Scream 4.Self Portrait 5.Friends In Belgium
Bruce Mitchell(percussion) Vini Reilly(guitar/piano/vocals)
all titles written by Vini Reilly
this album released by Kind Permissions of Factory Records Manchester
a limited edition of 4000 copies
front cover photograph;Mark Warner
VU RECORDS 1983

THE DURUTTI COLUMN
http://www.youtube.com/results?search_query=THE+DURUTTI+COLUMN&search_type=
Official Site
http://www.column.freeuk.com/

Comment ( 1 )

東山 聡 :

今回のCASCADESを読み、たまたま持っていた“THE RETURN OF THE DURUTTI COLUMN“を久しぶりに聴いてみました。
当時とはまた印象が違って、新鮮な感じでした。

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